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3特別免許状の活用促進

1.社会人活用の必要性

  「教員免許状の総合化・弾力化」の1.(1)2で述べたように,教職の高度な専門性から,相当免許状主義が採られており,教員養成は大学での養成を原則としているところである。
  一方,今日,学校教育において,情報化,国際化等の社会の変化に対応し,児童・生徒の多様な興味・関心に積極的にこたえつつ,児童・生徒に生きた社会に触れる機会を与え,社会とのかかわり方を身に付けさせていくことは極めて重要な課題となっている。このような課題に的確に対応していくためには,優れた知識・技術を持つ学校外の社会人を学校教育に積極的に活用していくことが必要である。とりわけ総合的な学習の時間の導入など「生きる力」の育成を目指す新しい学習指導要領の実施に向け,その必要性は増しており,教職に関する専門性を有する教員に加え,学校外の優れた社会人の力を借りることが不可欠となってきている。また,このことは学校組織について,我が国の社会システムに共通の弱点を抱えるいわゆる同質社会を揺り動かし,その活性化に資するものと考える。

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2.社会人活用の現状等

(1)社会人活用のための制度

  現行の免許法上,社会人活用のための制度としては,以下の制度がある。

1特別免許状制度

  大学での養成教育を受けていない者に,都道府県教育委員会の行う教育職員検定により免許状を授与する制度であり,昭和63年の教育職員免許法の改正により制度化された。
  特別免許状は,1学士の学位,2担当する教科の専門的知識・技能,3社会的信望,熱意と識見を持つ者に対し,4その者を教員として任命又は雇用しようとする者(教育委員会,学校法人等)の推薦に基づき,学識経験者(認定課程を有する大学の学長又は認定課程を有する学部の学部長,小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,盲学校,聾学校又は養護学校の校長及びその他学校教育に関し学識経験を有する者)からの意見聴取を経て,教育職員検定により授与されることとなっている。
  特別免許状の効力については,5年以上10年以内で教育委員会規則で定める期間,授与した都道府県内のみで有効である。なお,平成12年の免許法改正により,特別免許状を有する教員が,3年以上の在職年数と所定の単位(中・高の専修免許状の場合25単位)の修得により普通免許状を取得できることとなった。
  しかし,特別免許状は,制度創設以来,平成12年度までで延べ44件しか授与されていない。

2特別非常勤講師制度

  社会的経験を有する人材を学校現場に招致することを目的として,英会話等の教科の領域の一部又は小学校のクラブ活動等を担任する非常勤講師について,都道府県教育委員会にあらかじめ届け出て,免許状を有しない者を充てることができる制度(免許法第3条の2)であるが,この特別非常勤講師は年々増加しており,平成12年度においては,前年と比べ約3,000件増の約11,600件となっている。

3教員資格認定試験による教員免許状取得

  教員の養成は大学において行うことを原則としているが,このような方式だけでは,1教員として適当な資質能力を有する者をすべての分野に十分確保するには困難な面もあること,2大学等に在学中に教員の免許状取得に必要な単位を修得しなかった者や大学等に進学しなかった者の中にも,職業生活や自己研修などにより教員として必要な専門的学力などを身に付け,教職を志すに至る者も少なくないと考えられることなどから,小学校,高等学校の教科の一部(看護,情報,福祉)又は教科の領域の一部(柔道,剣道,情報技術,建築,インテリア,デザイン,情報処理,計算実務),特殊教育に関する免許(盲・聾・養護学校の自立活動)について文部科学省が資格試験を実施し,それに合格することにより免許状を授与している(免許法第16条の2)。

(2)特別免許状を授与した社会人活用の具体的効果

  特別免許状を授与した社会人経験のある教員を活用する具体的効果の例は以下のとおりである(括弧内は前職)。

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3.特別免許状の活用が進まない理由

  特別免許状を活用した社会人活用が進まない理由としては,

 などが考えられる。
  一方,学校教育における社会人活用については,様々な分野において,特別非常勤講師制度が活用されており,年々増加している。特別非常勤講師制度の活用が進んでいる理由としては,身分が非常勤講師であり採用が容易であること,講師をする側としても本職を持ちながら教壇に立つことができることなどが考えられる。また,国においても,その活用を促進するため,平成6年度から特別非常勤講師配置調査研究事業,平成13年度からは特別非常勤講師配置補助事業を行い,都道府県教育委員会等に対する財政的支援を行ってきたところである。

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4.特別免許状の活用促進のための具体的方策

  • (1) 制度上の改善
    • 1授与要件の緩和
        特別免許状の性格から,学歴よりその専門性を評価することが重要であるため,特別免許状の授与要件として,学士の学位を求めない。
    • 2授与手続の簡素化
        特別免許状を授与する場合,学識経験者から意見聴取を行うこととされている手続について,免許状の授与権者として教育職員検定を行う都道府県教育委員会の判断にゆだねることができるよう検討すべきである。
    • 3有効期限の撤廃
        特別免許状の授与を受ける者の身分の安定を図るため,特別免許状の有効期限を撤廃する。また,これに伴い,教員資格認定試験については,廃止することを含めその見直しを行うことが必要である。
    • 4臨時免許状の授与要件の改善
        特別免許状は普通免許状と同じ教諭の免許状であることから,臨時免許状の授与要件を,「普通免許状又は特別免許状を有する者を採用することができない場合に限り」とするよう検討すべきである。
  • (2) 運用面での改善
    • 1社会人特別選考の実施の促進
        都道府県教育委員会等においては,新卒者とは別の,例えばその者の民間企業等での勤務経験を適切に評価するような,社会人特別選考の実施を促進すべきであり,その中で教員免許状を持たない社会人に特別免許状の授与を前提とした特別選考の実施を検討すべきである。
    • 2分野を限定した活用の促進
        特別免許状は,社会人として培った知識・技能を活用するという性格から,社会での実務経験が強く生かされる,工業,商業,看護,情報,福祉,理科,公民等の教員について活用を検討すべきである。
    • 3特別免許状を授与した非常勤講師の活用の促進
        教員定数を使って非常勤講師を任用する場合など,非常勤講師についても,特別免許状の活用を促進することが望まれる。

(1)制度上の改善

  特別免許状の授与を促進し,特別免許状による社会人活用を増大していくためには,その授与要件,授与手続及び有効期限について次のような改善を行うことが必要である。

1授与要件の緩和

  現在特別免許状の授与要件として,学士の学位の要件が課されている。しかしながら,特別免許状の性格が社会人として培った知識・技能を活用するというものであることから,学歴にかかわらずその専門性を評価することが重要である。したがって,今後,特別免許状の授与要件として,学士の学位を求めないこととする。

2  授与手続の簡素化

  現在,特別免許状を授与する場合,通常の教育職員検定の手続に加え,学識経験者から意見聴取を行うこととされている。しかしながら,教育職員検定の中においてもそのような意見聴取を行うことが可能であり,また,一律に手続として求めるのではなく,免許状の授与権者として教育職員検定を行う都道府県教育委員会の判断にゆだねることができるよう検討すべきである。

3  有効期限の撤廃

 現在,特別免許状の有効期限は,5年以上10年以内で教育委員会規則で定める期間となっており,都道府県教育委員会等でその年数は異なるが,最長で10年となっている。
  このように特別免許状に有効期限が付されていることが,授与を受ける側にとって身分について不安感を与え,特別免許状の授与が進まない要因の一つと考える。今後,特別免許状の授与を受ける者の身分の安定を図るため,特別免許状の有効期限を撤廃する。
  特別免許状の有効期限の撤廃に伴い,教員不足や大学における養成になじまない教科等に係る教員を確保する目的で実施している教員資格認定試験の見直しの検討が必要となる。例えば,高等学校看護の教員については,現在大学においても養成を行っているが,養成人数が少なく教員不足となっているため,教員資格認定試験を実施し確保している。しかし,特別免許状の有効期限を撤廃することにより特別免許状の授与で制度上代替できることになる。このほか,高等学校教科領域一部免許状,小学校二種免許状等も含め,今後の教員資格認定試験の在り方については,廃止することを含めその見直しを行うことが必要である。

4  臨時免許状の授与要件の改善

  現在,臨時免許状の授与要件については,普通免許状を有する者を採用することができない場合に限り,教育職員検定に合格した者に授与する(免許法第5条第5項)こととなっている。このため,普通免許状を有する者は採用できないが,特別免許状を有する者を採用できる場合であっても,臨時免許状を授与して助教諭として任用することが可能である。しかしながら,特別免許状は普通免許状と同じ教諭の免許状であり,特別免許状を授与し採用できる者が存在するにもかかわらず,臨時免許状を授与して助教諭として任用することは適当でないと考えられ,臨時免許状の授与要件を,「普通免許状又は特別免許状を有する者を採用することができない場合に限り」とするよう検討すべきである。この措置により,現在特別免許状を授与できるにもかかわらず臨時免許状を授与していたケースで,特別免許状の授与がまず検討されることとなり,特別免許状の授与の促進につながることになろう。

 (2)運用面での改善

  運用面において,特別免許状の授与を促進し社会人活用を増大していくためには,特別免許状を活用した教員採用の工夫が求められるとともに,非常勤講師に対する特別免許状の授与を促進することが必要である。

1社会人特別選考の実施の促進

  前述したとおり,各都道府県・指定都市の教員採用選考試験においては,現在,ほとんどの県市で教員免許状の所有を前提とした選考を実施しており,教員免許状を持たない社会人にとって教員採用の門戸はほとんど開かれていない。また,教員免許状を所有する社会人向けに,大学卒業後すぐに教職に就かず民間企業等に就職した者を対象とした社会人特別選考を実施している都県が存在するが,この場合,通常,教職の専門性を見るための学力試験が実施されている。仮に教員免許状を有する新卒者と同じ試験を社会人に対して実施した場合,社会人がたとえ教職に対する意欲,適性を有していたとしても,採用試験に合格することは非常に困難と考えられる。
  このため,都道府県教育委員会等においては,社会人活用を促進するため,新卒者とは別の,例えばその者の民間企業等での勤務経験を適切に評価するような,社会人特別選考の実施を促進すべきであり,また,その中で教員免許状を持たない社会人に特別免許状の授与を前提とした特別選考の実施を検討すべきである。

2分野を限定した活用の促進

  これまで,特別免許状の授与実績を教科別に見ると,英語8件,工業7件,商業6件,数学6件,理科4件,宗教3件,社会2件(公民を含む),看護2件,農業,水産,国語,書道,家庭,保健体育各1件となっている。
  特別免許状は,現在,その活用できる教科は限定されていないが,社会人として培った知識・技能を活用するという性格から,活用のニーズが大きいと考えられる分野がある。例えば,工業,商業,看護などのいわゆる専門教科,英語,理科,社会などの社会での実務経験が強く生かされる分野等であり,このことは,これまで授与された特別免許状の教科からもうかがえる。また,新たに創設された情報,福祉の分野でも活用が期待される。今後,都道府県教育委員会等において,例えば,工業,商業,看護,情報,福祉,理科,公民等の教員について活用を検討すべきである。

3特別免許状を授与した非常勤講師の活用の促進

  特別免許状は制度上,現在でも「教諭」のみならず「講師」に対しても授与が可能となっているが,現在までの授与例では,主として常勤の教員に対してのみ授与されており,非常勤講師には授与された例はほとんどない。平成13年3月に公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律が改正され,教員定数を使って非常勤講師が採用できることとなったが,今後,教員定数を使って非常勤講師を任用する場合に,特別免許状を授与して社会人を活用する方策が考えられる。
  特別免許状は,教科の一部領域しか教授できない特別非常勤講師とは異なり,教科の全領域を教授するものであることから,担当する教科全般について優れた知識や技能を有する非常勤講師については,全領域の教授を可能とするため,特別免許状の活用を促進することが望まれる。

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