大学山岳部リーダー冬山研修会に係る既存の安全対策に対する各種提言等に対する各種提言等

1 北アルプス大日岳遭難事故調査報告書における提言

2 大日岳遭難事故訴訟第1審判決における指摘

【北アルプス大日岳遭難事故調査報告書『第5章 終わりに』(抄)】

(1)今後の安全対策

 今後の安全な研修を考える上では、この事故を教訓とし、また、この事故によって明らかになった新しい事実を踏まえ、従来の安全対策を再検討することが重要である。特に、今後、雪庇回避に関する既述の安全想定では、今回のような特異な雪庇崩落には対処できないことを前提として、安全確保のための判断基準を補強し、必要に応じて修正することが急務である。
 この判断基準には、無論、更なる自然現象への理解が基礎になければならない。今回の事故で、雪庇をはじめ冬山の自然現象に対する理解がまだまだ十分とは言えないことが明らかになったところであるが、今後は、大日岳及びその周辺に関する情報、事例をホームページを設けるなどして収集、整理、普及していくシステムを検討する必要がある。そうしたことにより、今後の研修会においては、新たな知見が導入され、経験の集積及び継承が期待される。
 また、講師陣に経験豊かで優れた登山家を選任することは改めて言うまでもないが、今後は、上述のように新たな知識及び経験の集積を行いながら、それを基に、専門家による講師研修会を充実させて、講師陣の一層の資質向上を図ることが重要である。この他、この事故を教訓として、研修会の全般にわたって、気象、氷雪、登山等に関する専門的な指導・助言の体制を一層充実させることが必要である。
 事前情報の収集方策については、可能な限りの事前登山に努めることとあわせて、状況によってヘリコプターによる直前偵察を導入することの是非を検討する必要がある。
 一般の登山においても、危険回避のための判断は登山者自身が現場で行うものとされ、本研修会でもその通例に従ってきた。今回の事故において、一行が大日岳山頂付近の主稜線の位置を誤って判断したことに鑑みれば、今後、一層の安全性を確保するため、山頂付近の主稜線を判断できる方策を検討し、実施する必要がある。さらに、万全とは言えないまでも、高度計の活用の他、汎地球測位システム(GPS)のような客観的な位置確認機器の活用も考えられる。同システムの精度が実用的レベルに達し、登山界での利用が可能となれば、本研修会でも導入を検討すべきである。

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