戻る

食に関する指導の充実のための取組体制の整備について
(第一次報告)

 

I.食に関する指導の充実の必要性と検討経過

1.健康教育の推進と学校における一体的取組の必要性

   今日、健康教育の推進は、児童生徒の健やかな体と心を培い、国民一人一人の生涯にわたる心身の健康の保持増進を図る上で、極めて重要な課題であり、保健体育審議会をはじめとして様々な場においてその重要性が指摘され、また、その充実強化に向けて、これまでも種々の施策が講じられてきているところである。
   とりわけ、児童生徒に対する健康教育は、児童生徒期が、発育・発達の著しい時期であることなどから、重要な意義と役割を持っており、生涯を通じて心身ともに健康で安全な生活を送るための基礎を培うという観点から、学校において組織的・体系的な教育活動を行うことが求められている。

   平成9年9月22日の保健体育審議会答申(「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について)」(以下「平成9年保体審答申」という。)においては、近年における生活習慣病や心の健康問題など健康に関する現代的課題に適切に対応するためにも、「学校保健、学校安全及び学校給食のそれぞれの果たす機能を尊重しつつも、それらを総合的にとらえるとともに、とりわけ教育指導面においては、保健教育、安全教育及び給食指導などを統合した概念を健康教育として整理し、児童生徒の健康課題に学校が組織として一体的に取り組む必要がある。」と指摘されており、学校における健康教育の推進のための取組体制の充実強化が求められている。

 

2.健康教育推進のための食に関する指導の充実と学校栄養職員の役割

   平成9年保体審答申においては、健康教育における食に関する指導の問題について「個々人のライフスタイルの多様化や外食産業の拡大など、食生活を取り巻く社会環境等の変化に伴い、外食・加工食品の利用者の増加や朝食欠食率の増加など、個々人の食行動の多様化が進んでいる。このような食行動の多様化を背景に、カルシウム不足や脂肪の過剰摂取などの偏った栄養摂取、肥満症等の生活習慣病の増加及び若年化など、食に起因する新たな健康課題が増加している。」と指摘した上で、「学校における食に関する指導は、従来から関連教科などにおいて、食生活と心身の発育・発達、食生活と心身の健康の増進、食生活と疾病などに関して指導を行ってきているところであるが、こうした食に関する現代的課題に照らすと、生涯を通じた健康づくりの観点から、食生活の果たす重要な役割の理解の上に、栄養バランスのとれた食生活や適切な衛生管理が実践されるよう指導することが求められる。」と提言されている。
   そして、食に関する指導の取組体制について「学校における食に関する指導の充実を図るためにも、教育活動全体を通して行う健康教育の一環として、食に関する専門家である学校栄養職員の積極的な協力を得て、関連教科において発達段階に沿った指導を行うとともに、学校給食の今日的意義を踏まえて、適切な指導に取り組む必要がある。このため、教科等の特性に応じて、学校栄養職員とティームを組んだ教育活動を推進するとともに、学校栄養職員が学級担任等の行う給食指導に計画的に協力するなど、学校栄養職員の健康教育への一層の参画を図ることが必要である。」と提言されている。

 

3.学校栄養職員の指導力の向上と教育活動への活用

   学校栄養職員を教育活動に活用するに際しては、教育指導面の資質能力の向上を図る必要があり、平成9年保体審答申においても、「近年における食の問題とそれに伴う児童生徒の健康問題の深刻化に伴い、これら健康教育の一環としての食に関する指導の場面が従来以上に増加し、学校栄養職員には本来的職務に付加してその対応が求められている。このため、学校栄養職員について、栄養管理や衛生管理などの職務はもとより、担任教諭等の行う教科指導や給食指導に専門的立場から協力して、児童生徒に対して集団又は個別の指導を行うことのできるよう、これらの職務を実践できる資質の向上を図る必要がある。」と指摘されているところである。
   さらに、同答申では「学校栄養職員は、食に関する専門家として栄養士の免許を有し、栄養学等の専門に関する知識や技術は確保されてはいるものの、近年充実が求められている食に関する指導を児童生徒に行うために必要な専門性は、制度的に担保されていない。したがって、今後求められる学校栄養職員の資質としては、i)児童生徒の成長発達、特に日常生活の行動についての理解、ii)教育の意義や今日的な課題に関する理解、iii)児童生徒の心理を理解しつつ教育的配慮を持った接し方、などである。」とし、「このような学校栄養職員の役割の拡大に伴い、食に関する指導等を行うのに必要な資質を担保するため、新たな免許制度の導入を含め、学校栄養職員の資質向上策を検討する必要がある。」と提言されている。
   また、平成12年5月19日の教職員配置の在り方等に関する調査研究協力者会議報告(「今後の学級編制及び教職員配置について」)においても、「学校栄養職員については、(中略)近年、肥満傾向の増大、孤食など児童生徒の食生活の乱れや、食に起因する健康問題が深刻化していることから、健康教育の一環としての食に関する指導が重要となってきており、専門家である学校栄養職員が、児童生徒に対して具体的な指導を行う必要がある。」と指摘されているところである。
   さらに、平成12年3月24日には「食生活指針の推進について」が政府として決定され国民一人一人とりわけ成長過程にある子ども達が食生活の正しい理解と望ましい食習慣を身につけられるよう、教員、学校栄養職員等を中心に家庭とも連携し、学校の教育活動を通じて発達段階に応じた食生活に関する指導を推進することとされている。

 

4.国民的課題としての健全な食習慣の形成と学校における取組の必要性

   今日、地域社会や児童生徒及び保護者のニーズに応じて、学校がその持てる教育機能を最大限に発揮していくためには、各学校の教職員が、自己の従来の本来的業務の枠にとらわれず、より積極的に学校運営に参画していくことが大切である。
   平成10年9月21日の中央教育審議会答申(「今後の地方教育行政の在り方について」)においても、「地域や子どもの状況を踏まえた創意工夫を凝らした教育活動を展開していくには、校長、教頭のリーダーシップに加えて、教職員一人一人が、学校の教育方針やその目標を十分に理解して、それぞれの専門性を最大限に発揮するとともに一致協力して学校運営に積極的に参加していくことが求められている。」と指摘した上で、「養護教諭、学校栄養職員、学校事務職員などの職務上の経験や専門的な能力を本務以外の教育活動等に積極的に活用」すべきことが提言されているところであり、健康教育の一環としての食に関する指導の取組体制の整備を検討する場合においても、このような学校運営全体の見直しの観点から捉えていくことが重要である。

   健全な食生活は、子ども達が健やかに成長し、生涯にわたり健康で豊かな生活を送る上で欠くことのできない基本的な営みである。現在、がん、心疾患、脳卒中、糖尿病等の生活習慣病の増加が深刻な社会的問題となってきているが、これらの発症に栄養や食生活が関連している場合が少なくないとの指摘もなされており、さらに近年における食生活を取り巻く社会環境の変化に伴い、朝食欠食率の増加や加工食品への過度の依存、過度のダイエット志向などによる人々の健康への影響も指摘されており、健全な食習慣の形成は、今や国民的課題になっているとも言える。

   上記のように、これまでの各答申等において、健康教育の一環として食に関する指導の充実を図ることの重要性が累次にわたり指摘されていることを踏まえ、また、国民的課題としての健全な食習慣の形成の重要性にかんがみ、各学校において児童生徒に対する食に関する指導を行うことは、子ども達が将来にわたって健康な生活を送る上で必要なものである。
   しかしながら、各学校における取組は様々であり、今後、各教職員の一体的な取組体制を整備するとともに、学校栄養職員の専門的な能力を生かして食に関する教育指導を充実していくための方策の検討が、制度面の対応を含めて、今日、喫緊の課題として求められている。

 

 

II.食に関する指導のための取組体制の整備

   現在、食に関する指導は、給食時間において給食の献立を教材として実践的な指導が行われており、また、家庭科における食物領域や体育科や保健体育科における保健領域、あるいは社会科や理科などの授業においても行われている。しかし、このような取組の充実度は学校においてもまちまちであり、また、各学校におけるそれぞれの取組は必ずしも各教職員相互の連携が密に図られていなかったり、学校教育計画の中にきちんと位置付けられていない場合も少なくなく、国民的課題としての正しい食習慣を形成するにふさわしい取組がなされているとは言い難い状況にあると思われる。このような現状を踏まえながら、食に関する指導において学校栄養職員の専門性の積極的な活用を図ることのできる方策について検討していく必要がある。

1.学校栄養職員に求められる新たな役割

   学校栄養職員の職務内容としては、学校給食法上において「学校給食の栄養に関する専門的事項をつかさどる職員」(第5条の3)と規定されているものの、その具体的な内容は規定されていないが、昭和61年3月13日付け「学校栄養職員の職務内容について(通知)」(文体給第88号)において、具体的な職務内容が示されている。
   同通知においては学校給食に係る基本計画の策定や栄養管理、衛生管理、検食、物資管理などの業務のほか、学校給食指導に関して「望ましい食生活に関し、専門的立場から担任教諭等を補佐して、児童生徒に対して集団又は個別の指導を行うこと。」「学校給食を通じて、家庭及び地域との連携を推進するための各種事業の策定及び実施に参画すること。」が掲げられている。

   また、文部省においては平成9年保体審答申なども踏まえ、平成10年6月12日付けで「食に関する指導の充実について(通知)」(文体学第55号)を都道府県教育委員会等に発出し、「「食」に関する指導に当たっては、学校の教育活動全体を通して行う健康教育の一環として、児童生徒に「食」に関する知識を教えるだけではなく、知識を望ましい食習慣の形成に結び付けられるような実践的な態度を育成するよう努めること。」「教科、道徳及び特別活動を通じ、「食」に関連した指導を要する局面においては、発達段階に応じた指導に取り組むよう努めること。その際、各学校の自主的判断により、「食」に関する専門家である学校栄養職員の積極的な参画・協力を得て、学校栄養職員と担当教諭がティームを組んで教科指導や給食指導を行ったり、いわゆる特別非常勤講師として学校栄養職員が「食」に関する指導を行うなど創意工夫を加え、効果的な指導を行うこと」などについて要請しているところである。

   近年、文部省が実施した食に関する指導に関する状況調査によると、平成12年度においては、教諭と学校栄養職員とのティームティーチングを実施した学校は、小学校で32.8%(前年度25.6%)、中学校で15.7%(前年度12.2%)であり、学校栄養職員を特別非常勤講師として活用した学校は、小学校で5.7%(前年度2.3%)、中学校で3.9%(前年度1.8%)であった。
   また、その他、学校栄養職員と給食調理員による訪問指導や校内放送を利用した指導、親子料理教室の実施など、何らかの形で学校栄養職員を活用した食に関する指導を行った学校は、小学校で35.6%(前年度35.1%)、中学校で29.4%(前年度26.9%)であった。
   他方、特にこのような指導を行っていないと回答した学校は、小学校で37.2%(前年度42.0%)、中学校で41.6%(前年度62.7%)となっている(なお、これらの数値は全学校数を母数とする割合である。また、平成12年度の数値には実施予定のものも含まれている)。
   このように近年、徐々にではあるが食の専門家としての学校栄養職員の教育活動への参加が進められていると言えるが、今後、一層の取組の強化が必要と思われる。

 

2.学校栄養職員の教育活動への参画の推進

(1)学校栄養職員の教育活動への参画と課題

   上記にみたように、今日、学校栄養職員には、栄養に係る専門的知識技能を児童生徒に対する教育活動に生かしていくことが期待されているところであり、これまでも学校給食活動や関連教科等において、担当教諭とのティームティーチングや特別非常勤講師制度を活用するなどして種々の取組が行われてきた。
   このような実際の取組において、例えば、学校栄養職員は栄養に関する知識が豊富であるが、自己の持っている知識を何でも児童生徒に教えようとする傾向がややもすれば見受けられ、児童生徒の発達段階に応じて教えていくという資質能力を持つことや、学校教育の諸課題や児童生徒の最近の心理的特徴などについても理解しておくことが必要であるとの指摘がなされている。また、ティームティーチングで行う場合は学校栄養職員も比較的容易に授業に参加し易いが、特別非常勤講師として単独で一定の単元の授業を受け持つことについては現状では難しい面がある場合もあるとの指摘などもなされているところである。

   したがって、学校栄養職員が、児童生徒に対して食に関する指導を行うに際しては、一般の教諭に求められるものと同様の教育者としての資質能力や指導方法などを修得することが重要な課題になっている。
   また、食に関する指導については、健康教育の一環として各学校において全ての教職員の一体的な取組が求められるものであり、学校長をはじめ各教職員が食に関する指導の重要性を認識するとともに、学校栄養職員の有する専門性を正しく認識し、当該専門性を教育活動に生かしていこうとする姿勢を持つことも必要である。

(2)学校栄養職員の専門性を生かした多面的な教育活動の展開

   学校栄養職員の専門性を生かした教育活動は、大きく分けて次のような場面における取組が期待されている。

1   児童生徒への教科・特別活動等における教育指導

   食に関して児童生徒に対して集団的に又はグループ単位により教育指導を行う場面としては、まず、学校給食活動があげられる。学校給食時間における食に関する指導は、学習指導要領上は特別活動の学級活動として位置付けられており、学校栄養職員は学級担任との連携を図りながら、学校給食を生きた教材として利用して指導を行うことが期待されている。
   学校栄養職員の専門性が一番明瞭に現れるのは学校給食の献立作成にあり、学校給食の献立そのものが生きた教材、最も効果的な教材として、給食の時間や関連教科の学習の中で活用されることが重要である。また、学校給食を通して正しい食習慣や自己管理能力を児童生徒に身につけさせることが大切である。
   学校給食活動を通じた指導は極めて有効なものであり、年間の指導計画に基づき計画的に実施される必要があり、学校栄養職員は日常的に各学級に出向き、指導を行うことが期待される。しかし、他方では、学校栄養職員は各学校に一人だけの配置であったり、あるいは一人の学校栄養職員が複数の学校を担当している場合も多く、全ての学級の児童生徒に対して十分な時間をかけて指導を行うことは事実上不可能である。このため、学校給食活動における指導は、学級担任の理解を得ながら連携を図り、指導の継続性や持続性に配慮していくことが重要である。
   また、「家庭科」や「技術・家庭科」をはじめとして、「体育科」、「保健体育科」、「社会科」、「理科」等の各教科における食に関する領域や内容について、担当教諭とのティームティーチングにより、あるいは特別非常勤講師としての発令を受けて、指導に当たることも期待されている。
   さらに、平成14年度から本格実施される総合的な学習の時間において、各学校の創意工夫を生かして、食に関する指導を実施していくことも有効であり、担当教諭とのティームを組んで学校栄養職員の専門性を多様に発揮することが期待される。総合的な学習の時間は柔軟に教育内容を組み立てることが可能であるところから、例えば、食べ残しやゴミの問題について児童生徒に身近なものとして考えさせたり、日本の食料自給率や環境問題、あるいは国際的なつながりにまで発展させた学習を展開していくことも可能である。また、食材は気候や風土にも深く関係しており、学校給食で提供される郷土食などと関連づけることによって、地域の実情に応じた展開が可能となる。

2   児童生徒への個別的な相談指導

   児童生徒の食生活に係る問題の中で、個別的な相談指導が必要とされるケースが増加している。
   例えば、偏食傾向のある児童生徒についての偏食が及ぼす健康への影響や無理なく苦手な物が食べられるようになる調理方法の工夫に係る指導、痩身願望の強い児童生徒についての安易なダイエットと健康への影響の問題を認識させることやバランスのとれた食事のとり方に係る指導、肥満傾向のある児童生徒についての適度の運動と栄養摂取のバランスについての助言や肥満解消に向けての指導、食物アレルギーのある児童生徒についての原因物質を除いた給食の提供や弁当づくりに係る指導などは、学校栄養職員がその栄養学等に係る専門性を生かしながら、個別に対応をしていくことが求められている。
   このような個別指導は、対象となる児童生徒の健康や身体の健全な発達に直結するものであり、学級担任や各家庭で行い得る一般的な指導の範囲での対応では適切な措置を適宜講じることが困難である場合もあり得るものと考えられ、栄養の専門家である学校栄養職員が中心となって取り組んでいかなければならない業務である。ただし、全ての場合において、学校栄養職員のみで対応するということではなく、学級担任や養護教諭とティームを組んで、あるいは必要に応じて学校医など適切な専門家と連携を図りながら対応していく必要がある。

   以上のように、今日、児童生徒が抱える食に起因する健康問題について、学校栄養職員は、その専門性を生かしたきめ細かな指導・助言を行うこと、いわば「食生活カウンセラー」としての役割が期待される。

3   食に関する教育指導の連携・調整

   食に関する指導は、学校給食活動をはじめとして各教科等の関連領域に幅広く関わるものであり、より効果的に指導するために、校長のリーダーシップの下に、関係する教職員と十分連携協力しながら取り組むことが必要であり、学校栄養職員はその中心的な役割を果たすことが期待される。
   また、食生活の改善充実は児童生徒の家庭における生活を視野に入れた上で行うことが不可欠であることにかんがみ、学校内における児童生徒への指導だけではなく広く家庭や地域社会との連携を図りながら指導を行う資質能力を有することが期待される。例えば、今日の児童生徒の食生活については、朝食の欠食などの問題を抱えているが、家庭においては必ずしも真剣に考えていないような傾向もうかがえ、また、現状では、学校栄養職員と保護者とが情報交換できる機会も限られており、今後、より連携を強化する必要がある。
   「給食だより」等による啓発の充実や、保護者からの食に関する相談への対応、親子料理教室等の開催、地域やPTA主催の食に関する行事への参画などについて、学校栄養職員が積極的に取組むことが期待される。

   このように、食に関する指導は、学校の内外を通じて、児童生徒への教育に携わる教職員や保護者等との連携調整を図りながら進めることが必要であり、学校栄養職員は、いわば「食生活教育コーディネーター」として役割を果たすことが期待されていると考えられる。

 

3.学校栄養職員の指導力向上のための取組体制の整備

(1)学校栄養職員の指導力向上に向けての制度的対応

   学校栄養職員による食に関する教育指導は、現行の制度の下においても行い得るものであるが、今後、栄養の専門家としてだけでなく、教育の専門家としての立場で、つまり児童生徒の成長発達やこの時期の心理の特性などについての正しい理解の上で、教育的配慮を持った指導を行うことができるように施策を講じていく必要がある。
   学校栄養職員の指導力の向上のため、これまでも国又は都道府県などにおいて様々な研修会が開催され、また、指導参考資料の作成配付等の事業も行われてきているところである。
   また、各学校においても、学校栄養職員が積極的に他の教員の授業を見学することにより学年ごとの児童生徒の発達段階に即応した指導方法を習得したり、校内研修会に学校栄養職員の参加を促すことなどの取組の重要性も指摘されているところである。

   今後ともこれらの取組の強化を図る必要があるが、他方では食に関する指導に対する理解の不足や指導力のある人材の不足などを背景として各地域や学校における取組が区々である実態があり、健康教育における食に関する教育の一層の改善充実が期待されている今日、従来の個々の取組方策だけでは必ずしも十分な対応が図られない状況にあると思われる。
   このような状況を踏まえ、これまでの研修等の事業の改善充実を図るための施策を講じるとともに、教育活動を担うにふさわしい指導力を持った学校栄養職員の養成を図ることのできる制度を創設し、このような制度的な担保に裏付けられた学校栄養職員を各地域や学校の実状に応じて教育活動に効果的に活用していくことが求められる。
   このため、いわゆる「栄養教諭(仮称)」制度など学校栄養職員に係る新たな制度の創設を検討し、学校栄養職員が栄養及び教育の専門家として児童生徒の食に関する教育指導を担うことができるよう食に関する指導体制の整備を行うことが必要である。
   今後、新たな制度の創設に向けて、その具体的な在り方について更に検討を進めることが必要である。

(2)新たな制度を検討するに当たっての留意点

   学校栄養職員に係る新たな制度の構築に当たっては、教育指導に関するどのような教科科目を学ぶことが必要かなど具体的な制度設計に係る問題や大学等養成機関に係る問題、あるいは服務の取り扱いや処遇上の問題など、多角的な視点からの検討が必要である。また、学校栄養職員の中には栄養士の資格の者や管理栄養士の資格を有する者、家庭科その他の教科の教員免許状を併せて所有している者など様々な実態にあり、このような現状をも踏まえた上で、制度上の諸課題について検討を進める必要がある。
   また、学校栄養職員は学校給食の管理・実施に係る職務を担いながら、教育活動への参画が求められるものであるところから、各学校の実態に応じて、学校長の責任の下に、学校給食などの特別活動、家庭科や保健体育などの各教科、総合的な学習の時間などにおいて、学校栄養職員の専門性がとりわけ必要な部分はどこであるのか、その担うべき指導の具体的な領域というものを整理して、円滑に教育活動への参画が図られるよう配慮することが求められる。
   次に、食に関する指導は学校栄養職員がその全てを行うものではなく、各教科の領域や特別活動等については、学習指導要領に基づく教育活動であるところから、その指導は教育をつかさどる担当教諭が担うことが現在の制度の基本原則であり、このような原則の上に、学校栄養職員と担当教諭とが効果的に連携協力を図ることができるよう取組体制の在り方について検討する必要がある。
   学校栄養職員が専任又は兼任としても配属されていない学校においても、健康教育の一環として食に関する指導を充実することが必要であり、実態に即した柔軟な対応についても配慮することが必要である。
   また、共同調理場に配属されている学校栄養職員が各学校に出向き教育活動へ参画する場合の学校との連携の在り方等の問題についても検討していく必要がある。
   最後に、以上のような点に留意しつつ、今後、学校栄養職員に係る新たな制度の検討を進めることが必要であるが、同時に、学校栄養職員の教育指導面の資質能力の向上に向けて、研修活動を一層充実させるとともに、ティームティーチングや特別非常勤講師制度による教育活動への積極的な参画、個別指導の充実、家庭や地域との連携の一層の推進など、現行制度下における取組を進めていくことが重要である。また、食に関する指導については、各教科における教科書のような定まった教材があるわけではなく、また具体の指導方法の実例についても必ずしも十分に蓄積されているとは言えない現状や、学校給食の管理や実施を担いながら教育指導に当たるという特性上、教材作成の時間に限りがあることなどにかんがみ、実際の教育指導を学校栄養職員が円滑に行い得るようにするためには、参考となる先進的取組に関する情報や指導事例等をとりまとめた手引書の作成等、教材開発について国及び都道府県又は市町村教育委員会は積極的に取り組む必要がある。

 

  次のページ

ページの先頭へ