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7.日本の文化力の源泉としての「デジタルミュージアム」

 博物館・美術館等に保存・展示されている文化財等の文化資源は、未来への活力であり、創造への出発点となり得るものである。そこに最先端の科学技術を導入することによって、博物館・美術館等の機能は大きく変貌するであろう。オリジナルな実物資料との出会いを基調としながら、その周辺の情報をバーチャルな面も含め様々な形で受容し、体感できる文化的な装置としてのメディアとなり、ネットワークの活用と流通によって距離的、物理的なバリアーをも克服し、ひいては人類の幸福に貢献することが期待される。
 1.で述べたように、文化資源の保存と公開には、物理的、制度的、意識的、地域格差等、様々な制約とジレンマがあり、国民の鑑賞したい、触れてみたい、楽しみたいという、いわば知的欲求を十分に満たしきれていない。次世代型のデジタル・アーカイブ技術を活用した新しいデジタル文化を創造するためには、我が国の文化の「内向きな進化」ではなく「外向きな進化」を目指す必要がある。
 例えば、数百年の時を経て、現存するものの色褪せてしまった仏像や七堂伽藍は、もとは黄金や朱色に輝いており、当時の人々はまさにそうした極彩色に輝く寺院や仏像を観ることによって、仏教に対する畏敬の念を生じさせた。また、かつてはそうした仏像に触れることによって人々は御利益を得ていたこともある。それらを再現することは、実物では文化財保護の観点から限界があるが、デジタル化や仮想現実技術によって可能となり、さらに従来の拝観では見られない角度から見たり、拡大縮小することよって、新たな発見と感動がもたらされる。そこには、再発見力が潜んでいるのである。
 新しい「デジタルミュージアム」とは、国民に貴重な文化資源ストックを公開し、空間や時間を越えてバーチャルあるいはリアルに、望む形態で自由に触れ合うことを可能にするものでなければならない。それは、一部の関係者だけが特権的に享受するものではなく、広く一般国民が世界中どこにいても自由にアクセスできるものである必要がある。もとより、文化芸術は国民一人一人に身近なものであって、誰もがいつでも、どこにいても、美を共有、実感できる環境を作らなければならない。すなわち、国民に「新しい知との出会い」の機会を確保し、日本人の「発想」の多様性、柔軟性を醸成することが重要なのである。
 その結果、文化芸術と科学技術が有機的につながり、異分野の知を融合していくことによって、新しい価値や使命をもった新しいデジタル文化の創造・発信が可能となり、ひいてはそれが日本の文化力の源泉となるのである。
 そのためには、それを実現するためのさらなる研究開発が必要であり、文化と科学技術の融合を進めていくことが求められる。文化芸術も科学技術も、かつてはともに“art”であったことを今一度再確認し、ミュージアムをデジタル技術によって文化と科学と教育を輪で結ぶメディアへと発展させ、文化を過去から現在、未来へと結ぶコミュニケーションの場としなければならない。
 止めようのない時間の流れの中で、過去から受け継がれてきた姿を刻々と変え、消滅に向かっていく文化資源を保存し、将来の世代に受け継いでいくことは、現代に生きる我々の責務である。人類の英知によって築かれてきた記憶に、デジタル技術によって永遠の生命と普遍性を与え、未来へと導いて行くもの、それがデジタル文化であり、我々はこれをさらに発展させ、将来につなげていく必要がある。

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