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1. | カビ対策ネットワークの構築に向けて![]() 人材育成に関しては、基本は大学等におけるカビをはじめとする微生物の基礎科学や保存科学に関する科目、講座等の充実であり、カビ対策としては、まずは博物館等に在籍している学芸員や司書等の専門的職員が大学等で現場に即した学習ができる機会を拡充することが必要であろう。その際、各大学等において微生物学や保存科学に関する科目、講座等の社会人枠を設けたり、通信教育を行ったりするようになれば、より有効であると思われる。また、「カビ対策研修会」の実施に際しては、修了証の発行等受講生の動機付けとなるような工夫が必要であり、微生物や保存科学に関する科目、講座等を設けている大学等の有効活用が重要である。 さらに、カビ対策に関する人材の裾野を広げるためには、幅広く社会に向けての啓発活動や情報提供を行うことも重要であり、一般向けの講演会や、博物館等におけるカビに関する特別展の開催、大学院生や企業研究員等を対象としたワークショップの開催等も効果的であろう。 いずれにせよ、コアとなる拠点がなければ長期的な視野に立った人材育成は進まないことから、カビ対策に関する相談窓口の早期開設や、安定的・長期的な研究の実施に向けた環境整備等が求められる。その上で、博物館等の関係者とカビをはじめとする微生物学や保存科学関係の専門家・専門団体との連携が図られ、両者の有機的な協力関係が構築されれば、カビ対策ネットワークは所期の目的を達成することができるものと思われる。 |
2. | カビ劣化の実態等に関する調査研究の促進 博物館、美術館、図書館等におけるカビ劣化の実態については、そもそもデータの蓄積が十分ではないため、まずは展示室や収蔵庫等の場所や区域ごと、あるいは収蔵されている作品の材質等の区分ごとにデータの蓄積を進め、長期的観点に立った調査研究により、問題点を整理・抽出していくことが必要であろう。 また、将来的にカビ対策に関する相談窓口等を通じて得られた情報を、定型の調査票によって蓄積し、写真等とともにデジタル・アーカイブ化して、ウェブサイト上で公開できるようにしていくことが望まれる。また、公開データをもとに「カビ対策マニュアル」の充実が図られ、ひいては施設管理対策の向上につながることが期待される。 |
3. | カビ制御技術・方法の確立に向けた取組の推進 対象物としての文化財や学術資料等には、特殊性と多様性がある。とりわけ、対象の物性が不均一であることから、カビ制御に際しては、多くの新技術について個々の部分における制御効果を評価するだけでなく、保管条件下での長期的な効果持続性の有無、素材や原料等の劣化を起こすネガティブな影響等を十分に考慮した上で、総合的な制御設計を行うことが重要であり、そのためには十分な試験研究を重ねることが必要である。また、有害微生物の制御は単に個々の技術を適用することだけで片付けられるものではなく、人体に対する安全性や地球環境の保全に関わる問題についても、これまで以上に考慮していかなければならない。特に、ガス殺菌剤(エチレンオキシド(EO)、ホルムアルデヒド等)、有機系抗菌剤等の化学的制御に用いる薬剤については、毒性や環境対応が大きな課題となっており、慎重な取り扱いが必要である。 さらに、最近発展してきた予測微生物学を用い、微生物の増殖や死滅を数学的なモデルで表す試みを予防措置として導入するためには、例えばバイオフィルムの形成のような文化財や学術資料等を対象に起こる基礎的な現象・問題の解決が前提となる。 医薬品・食品分野では、原材料から製品の流通までの各段階において、GMP(Good Manufacturing Practice;適正製造基準)やHACCP(Hazard Analysis Critical Control Point;危害分析・重点管理点(監視)方式)のような一般的な微生物管理プログラムに医薬品・食品の生産に関する安全性の確保への対応が含まれているが、文化財や学術資料等に関しても、新しい制御方法が確立された段階で、微生物管理に関するガイドラインを制度化するとともに、微生物とその危害についての知識をわかりやすく説明するための幅広い情報発信活動を行い、微生物的安全性についての社会的意義を高めていくことが望ましい。 なお、2007年4月1日より、東京文化財研究所はその母体である独立行政法人文化財研究所が独立行政法人国立博物館と統合し、「独立行政法人国立文化財機構」の一組織となるが、文化財等の保存・修復に関する研究の必要性は、今後とも減ずることはなく、ますます重要となってくることから、新しい組織においても文化財等の保存科学のさらなる充実を図るための機能強化が求められる。 |
4. | 各博物館等及びその設置者における「施設環境管理指針」の策定に向けた取組の推進 別紙に試案として示したように、今後、各博物館等の現場において、知見の蓄積に応じて「施設環境管理指針」を策定し、絶えず評価と見直しを行っていくことが必要であり、改善を積み重ねることによって、よりよい施設環境にしていく努力が求められる。 この「施設環境管理指針(試案)」は、一般的なガイドラインの試案を示しているものであり、各博物館等及びその関連団体等においては、保存科学関連の専門家・専門団体と連携することによって、館種のほか、周囲の環境や施設設備の状況、収蔵品の性格・特性等に応じた具体的な細目を検討し、試験検査機関による環境微生物調査と一体になった自主管理体制を確立していくことが求められる。さらに、環境微生物調査の検査技術の向上も不可欠であり、精度管理の導入も今後の課題の一つであろう。 そのためには、2.で述べたカビ劣化の実態等に関する調査研究の促進が不可欠であり、3.で述べたカビ制御技術・方法の確立に向けた取組と併せて、その結果を逐次反映していくことが重要であろう。 |
5. | 事故対策への取組 本研究会においては、文化財等に「カビを増殖させない」ことを基本とし、カビをはじめとする微生物の発生を予防するための施設環境の整備やカビ制御技術の適用を中心に検討を行ってきた。しかし、不幸にして汚染し、カビ増殖等の事故が発生した場合には、そのための対策が別途必要となってくる。今後、そうした事態に対する措置のあり方についても知見を集め、事例集やマニュアル等を作成するなどの取組が、早急に開始されることを強く期待する。 ![]() |
別紙 |
1. | 施設内の区画
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2. | 清浄度の計測と評価 各区域は防塵、清掃、殺菌、除菌等の措置により、室内環境を清潔に保ち、空気中の落下菌数、浮遊菌数及び壁面、棚、床面、器材等の表面付着菌数を極力少なくすること。(注1) 清浄度の計測(試験方法は末尾参照。)は毎月始業前に行うことが望ましく、その基準値を以下に示す。いずれの場合においても、基準値を上回る場合は清掃、空調フィルターの交換、殺菌等の措置を講じること。
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3. | 施設内の空調管理と調湿設計 各場所には十分な能力を有する次のような換気設備及びその付帯設備が設けられていること。
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4. | 資料の保管及び収納
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5. | 施設、設備の管理(注8)
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6. | 施設内の殺菌、除菌
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7. | 清潔区域への入室時等の注意点
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(注1) | 汚染度の目安 付着細菌数の結果による汚染度の目安(判定基準の一例)を以下に示す。
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(注2) | 落下細菌数 トリプトソイ寒天培地を直径90ミリメートルの滅菌ペトリ皿に注ぎ、固化させたものを試験平板とする。試験平板を測定場所の中央及び四隅に置き、ふたを開放した状態で5分間露出させ、再びふたを被せる。この試験平板を倒置した状態で30度、3日間培養後、生育した集落数を計測、平均し、落下細菌数とする。 |
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(注3) | 落下真菌数 ポテトデキストロース寒天培地(クロラムフェニコールを100mg/L(ミリグラム毎リットル)添加)を直径90ミリメートルの滅菌ペトリ皿に注ぎ、固化させたものを試験平板とする。試験平板を測定場所の中央及び四隅に置き、ふたを開放した状態で20分間露出させ、再びふたを被せる。この試験平板を倒置した状態で25度、7日間培養後、生育した集落数を計測、平均し、落下真菌数とする。
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(注4) | 浮遊細菌数 衝突型エアーサンプラー又はろ過型エアーサンプラーを用い、測定場所の中央及び四隅における空気を吸引する。吸引量は100リットル(清浄度が高いエリアなどは必要に応じ100リットル以上)とする。 衝突型エアーサンプラーの場合は設置したトリプトソイ寒天平板培地を、ろ過型エアーサンプラーの場合はろ過後のフィルターをトリプトソイ寒天平板培地に貼付し、30度、3日間培養後、生育した集落数を計測し、100リットル当たりの浮遊細菌数に換算する。 |
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(注5) | 浮遊真菌数 衝突型エアーサンプラー又はろ過型エアーサンプラーを用い、測定場所の中央及び四隅における空気を吸引する。吸引量は100リットル(清浄度が高いエリアなどは必要に応じ100リットル以上)とする。 衝突型エアーサンプラーの場合は設置したポテトデキストロース寒天平板培地(クロラムフェニコールを100mg/L(ミリグラム毎リットル)添加)を、ろ過型エアーサンプラーの場合はろ過後のフィルターをポテトデキストロース寒天平板培地(クロラムフェニコールを100mg/L(ミリグラム毎リットル)添加)に貼付し、25度、7日間培養後、生育した集落数を計測し、100リットル当たりの浮遊真菌数に換算する。 |
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(注6) | 付着細菌数 スワブ(滅菌綿棒又は滅菌ガーゼ等を回収液で湿らせたもの)を用い、測定場所の一定面積をふきとり、滅菌リン酸緩衝生理食塩水等に付着菌を分散させる。この分散液(回収液)についてトリプトソイ寒天培地を用いた混釈平板培養法(30度、3日間培養)により1ミリリットル当たりの生菌数を測定し、25平方センチメートル当たりの付着細菌数に換算する。必要に応じスワブではなくコンタクトプレート(トリプトソイ寒天培地)を用いてもよい。 |
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(注7) | 付着真菌数 スワブ(滅菌綿棒又は滅菌ガーゼ等を回収液で湿らせたもの)を用い、測定場所の一定面積をふきとり、滅菌リン酸緩衝生理食塩水等に付着菌を分散させる。この分散液(回収液)についてポテトデキストロース寒天培地(クロラムフェニコールを100mg/L(ミリグラム毎リットル)添加)を用いた平板塗抹培養法(25度、7日間培養)により1ミリリットル当たりの生菌数を測定し、25平方センチメートル当たりの付着真菌数に換算する。必要に応じスワブではなくコンタクトプレート[ポテトデキストロース寒天培地(クロラムフェニコールを100mg/L(ミリグラム毎リットル)添加)]を用いてもよい。 |
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(注8) | 消毒剤の対象別使用濃度
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※ | 上記(注1〜7)の環境微生物評価試験法等は、「第15改正日本薬局方解説書(2006)」、食品の衛生規範、「衛生試験法・注解2005」等に準拠し、(注8)の消毒剤については、「第15改正日本薬局方解説書(2006)」に準拠してまとめたもので、施設の環境微生物調査の実施及び清浄化の参考に供するため示すものである。 |
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