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資料3−(3)

社会教育主事,学芸員及び司書の養成,研修等の改善方策について[関係部分]

平成8年4月24日
生涯学習審議会社会教育分科審議会報告

1  審議経過
   生涯学習審議会社会教育分科審議会では,計画部会を中心に,平成5年3月から「社会教育主事,学芸員及び司書の養成,研修等の改善方策について」調査審議を行ってきた。
 検討に当たっては,地域における生涯学習の一層の推進と社会の様々な変化への対応という観点から,平成4年7月の生涯学習審議会答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」で提示されたリカレント教育の推進,ボランティア活動の支援・推進,青少年の学校外活動の充実,現代的課題に関する学習機会の充実という4つの当面の課題も踏まえ,生涯学習社会における社会教育を推進する上で重要な役割を担う社会教育主事,学芸員及び司書の一層の資質の向上と専門性の養成を図るという基本的考え方のもとに審議を進めた。
 計画部会での審議とともに,平成5年12月からは,部会の下に,社会教育主事,学芸員及び司書の3つの専門委員会を設置し,専門的な調査審議を行った。この間,審議の参考とするため,大学団体及び関係団体への意見照会も行った。
 本分科審議会は,こうした審議を経て,社会教育主事,学芸員及び司書養成,研修棟の改善方策をとりまとめた。なお,国庫補助を受ける場合の公立図書館の館長の司書の資格及び司書の配置基準等については,引き続き計画部会において検討する。

2  改善の必要性
   所得水準の向上や自由時間の増大など社会の成熟化に伴う学習ニーズの増大や,情報化,国際化,高齢化等の社会の急激な変化に伴う生涯を通じた学習の必要性の高まりを背景に,「人々が,生涯のいつでも,自由に学習機会を選択して学ぶことができ,その成果が適切に評価されるような生涯学習社会」(平成4年7月生涯学習審議会答申より)を構築することが,重要な課題となっている。
 このような生涯学習社会の構築のために,人々の学習活動を援助する社会教育主事,学芸員,司書等の社会教育指導者の果たす役割は極めて重要である。
 社会教育主事は,社会教育法に基づき都道府県・市町村教育委員会事務局に置かれる社会教育に関する専門的職員である。これからの社会教育主事は,地域における人々の自由で自主的な学習活動を側面から援助する行政サービスの提供者としての役割に加え,社会教育事業と他分野の関連事業等との適切な連携協力を図り,地域の生涯学習を推進するコーディネーターとしての役割を担うことが一層期待されており,その養成及び研修の改善・充実を図る必要がある。
 学芸員は,博物館法に基づき博物館に置かれる専門的職員である。これからの博物館は,地域における生涯学習推進の中核的な拠点としての機能や充実や,地域文化の創造・継承・発展を促進する機能や様々な情報を発信する機能の向上等により,社会の進展に的確に対応し,人々の知的関心にこたえる施設として一層発展することが期待されている。学芸員は,多様な博物館活動の推進のために重要な役割を担うものであり,その養成及び研修の改善・充実を図る必要がある。
 司書は,図書館法に基づき図書館に置かれる専門的職員である。これからの図書館は,地域における生涯学習推進の中核的な拠点として,現代的課題に関する学習の重要性や住民の学習ニーズの高まりにこたえて,広範な情報を提供し,自主的な学習を支援する開かれた施設として一層発展することが期待されている。司書は,幅広い図書活動の推進のために重要な役割を担うものであり,その養成及び研修の改善・充実を図る必要がある。
 また,生涯学習社会にふさわしい開かれた資格とする観点から,幅広い分野から多様な能力,経験を有する人材が得られるように,専門的資質の確保に留意しつつ,資格取得の途を弾力化する必要がある。
 社会教育主事,学芸員及び司書の養成,研修の改善・充実を図る一方で,教育委員会事務局および博物館,図書館における組織や運営体制を充実していくことが必要であり,教育委員会等の積極的な努力が期待される。併せて,これらの専門的職員の資質向上に対応する任用や処遇の改善等について,関係者の配慮が望まれる。
 なお,博物館・図書館以外の社会教育施設やその他の生涯学習関連施設においても,その事業や施設運営の充実のため,社会教育主事,学芸員,司書のような社会教育についての専門的知識経験を有する職員が置かれることが望ましい。特に,公民館は,地域における最も身近な社会教育施設であり,生涯学習推進のための地域の拠点として他の生涯学習関連施設等との連携の中心的な役割を担うことが期待されており,社会教育主事の資格を有する職員の配置など,専門的知識・技術を有する職員体制の整備が進むことがのぞまれる。

3  改善の基本的方向
 
1  養成内容の改善・充実と資格取得方法の弾力化
   大学(短大を含む。以下,同じ)及び資格取得講座における養成内容については,それぞれの業務を的確に遂行し得る基礎的な資質を養成する観点から,見直しを行う必要がある。特に,生涯学習及び社会教育の本質についての理解は,生涯学習時代における社会教育指導者に求められる基本的な内容であり,社会教育主事,学芸員及び司書の3資格に共通的な科目として,「生涯学習概論」を新たに設ける。学芸員及び司書については,情報化等の社会の変化や学習ニーズの多様化,博物館・図書館の機能の高度化に対応する観点から,科目構成を見直し,必要な修得単位数を増す。
 大学における社会教育主事の修得単位数は現行通り24単位以上,学芸員の修得単位数については現行の10単位以上から2単位増やし12単位以上とし,司書講習における修得単位数は現行の19単位以上から1単位増やし20単位以上とする。
 社会教育主事及び学芸員については,社会教育主事講習及び学芸員試験認定の科目代替の対象となる学習成果の認定範囲並びに資格取得及び講習受講等の要件としての実務経験の対象範囲を拡大する。司書については新たに,司書講習において実務経験等による科目代替措置を設ける。

2  研修内容の充実と研修体制の整備
   多様化,高度化する人々の学習ニーズ,社会の変化や新たな課題等に的確に対応していくためには,現職研修の内容を充実し,専門的な知識・技術等の一層の向上を図る必要がある。また,情報の活用や高齢化社会の進展などの現代的課題や,ボランティア活動との連携などの新たな課題への対応などを含め,常に研修内容の見直しを図りながら,効果的な研修の実施に努めることが必要である。
 研修方法については,従来から講義や実習・演習形式の研修に加え,国内外の大学,社会教育施設等への研修・研究派遣,大学院レベルのリカレント教育など,高度で実践的な研修機会を充実する必要がある。
 現職研修の抜本的な充実のためには,国,都道府県,市町村,関係機関,団体等が相互の連携と役割分担の下に,研修体制の整備を進め,体系的・計画的な研修機会を提供していく必要がある。
 教育委員会等においては,研修体制の整備に積極的に取り組むとともに,研修への参加の奨励・支援に努めることが望まれる。

3  高度な専門性の評価
   今度,社会教育主事,学芸員,司書等の社会教育指導者は,高度な専門的職業人として一層の資質向上を図ることが期待される。特に,学芸員及び司書については,社会教育施設の専門的職員としての資質・能力をより一層高めていくために,その業績,経験等が適切に評価され,それが任用や処遇の面にも反映されるシステムを作っていくことが重要である。このため,養成内容の充実や研修体制の体系的整備を図る中で,高度で実践的な能力を有する学芸員及び司書に対し,その専門性を評価する名称を付与する制度を設けることが有意義と考えられる。
 このような制度は,学芸員・司書の資格制度のみならず博物館・図書館制度全体の在り方とも関連するものであり,その具体化のために,国をはじめ関係機関や関係団体等が連携しながら研究を進めていくことを期待したい。
 また,社会教育主事についても,今後,職務内容の高度化等に伴い,その専門性の評価の在り方が課題となっていくことが考えられる。

4  幅広い人事交流の配慮と有資格者の積極的活用
   社会教育主事,学芸員,司書等の社会教育指導者の幅広い人事交流を進めることは,生涯学習の一層の推進の上で有意義である。異なる種類の施設・機関等や他部局も含めた交流により,業務運営の活性化とともに,それぞれの資格を持つ者が実務を通して幅広い経験と視野を得ることが可能となる。
 さらに,今後とも,公民館等の社会教育施設やその他の生涯学習関連施設に社会教育主事等の有資格者を積極的に配置し,その専門的な知識や能力を施設運営の充実のために活用することが必要と考えられる。このような人事交流や組織運営体制の充実という課題とも関連し,社会教育主事,学芸員,司書の任用や処遇などについて,教育委員会等の積極的な配慮が望まれる。
 また,大学等において資格を取得しても,実際はその職に就いていない人が相当数いる。一方,その資格取得を通して得られた知識や技術を生かして,社会教育施設等でボランティアとして活躍している人も増えつつある。こうした状況を踏まえ,社会教育主事等の有資格者のうち希望する者を登録し,その専門的知識・経験等の活用を図る「有資格者データベース(人材バンク)」制度等を設け,これら有資格者の専門的な知識・能力や幅広い経験等を,地域の生涯学習・社会教育の推進のために活用することは極めて有意義である。国と関係等の連携・協力により,その早急な整備が期待される。(以下略)

5  学芸員
 
1  改善の必要性
   博物館は,歴史,芸術,民族,産業,自然科学等に関する資料の収集,保管,調査研究,展示,教育普及活動等を通して,社会に対し様々な学習サービスを提供するとともに,我が国の教育,学術及び文化の発展に大きく寄与した。
 近年,所得水準の向上や自由時間の増大などの社会の成熟化に伴い,心の豊かさや生きがいなどを求めて人々の学習ニーズは増大し,かつ,多様化,高度化してきている。また,一方で,科学技術の高度化,情報・通信技術の進展や,教育,学術,文化などの各分野にわたる広域的・国際的な交流の活発化,さらには地域文化への関心の高まりなど,博物館を取り巻く状況には様々な変化が生じている。こうした中で,博物館は,社会の進展に的確に対応し,人々の知的関心にこたえる施設として一層発展することが期待されている。また,情報化の進展の中で,実物資料に身近に触れることができる博物館の意義が改めて認識されている。
 特に,今後は地域における生涯学習推進のための中核的な拠点としての機能を充実するとともに,地域文化の創造,継承・発展を促進する機能や,様々な情報を発信する機能を高めていく必要がある。また,博物館は,青少年にとって実物資料等による魅力ある体験学習ができる場であり,学校教育以外の活動あるいは学校教育と連携した学習のために,一層重要な役割を発揮することが期待されている。
 学芸員は,博物館法に基づき博物館に置かれる専門的職員であり,資料の収集,保管,調査研究,展示,教育普及活動などの多様な博物館活動の推進のために,重要な役割を担っている。また,国際博物館会議(イコム)の職業倫理規定にも示されているように,人類や地域にとって貴重な資料や文化遺産等を取り扱い,人々の新しい知識の創造と普及のために役立てるという業務の特性から,学芸員には極めて高い職業倫理が必要とされている。
 今後,人々の生涯学習への支援を含め博物館に期待されている諸機能の強化,さらに情報化,国際化等の時代の変化に的確に対応する博物館運営の観点から,学芸員の養成及び研修の一層の改善・充実を図ることが必要となっている。また,これに関連して,学芸員の資質向上に対応する処遇の改善等について,関係者の積極的な配慮が望まれる。なお,学芸員の資格を有しながら,博物館には勤務していない人が相当いる。博物館活動の充実や生涯学習推進の観点から,その専門的な知識・能力を博物館の諸活動への協力はもとより,地域の様々な学習活動や事業等への支援のために積極的に活用することは有意義であり,そのための方策を推進していくことも重要である。

2  改善方策
 
1  養成内容の改善・充実と資格取得方法の弾力化
   学芸員の養成は,博物館及び同法施行規則に基づき,基本的には大学で行われているが,昭和30年以降,大学における養成内容についての制度的な見直しは行われていない。これからの博物館は,社会の変化への的確な対応や生涯学習推進の拠点としての機能等の充実が強く求められており,学芸員がこうした時代の要請にこたえる博物館活動を担う専門的職員として必要な基礎的知識・技術を養うことができるように,養成内容の改善・充実を図る必要がある。
 また,生涯学習試合に対応した幅広い博物館化活動や特色ある博物館活動を推進していくために,様々な分野の人材が,その知識や経験を生かし学芸員として活躍できるようにすることが有意義である。このため,大学以外の学習成果や様々な実務経験で培われた職務遂行能力を積極的に評価することにより,学芸員の資格取得の途を弾力化する必要がある。
 
(1)  大学における養成内容の改善・充実
   社会の進展の中で高度化・専門化する学芸員の業務を的確に遂行できるように,博物館の目的と機能,博物館倫理,関係法規など博物館に関する基礎的知識に加え,博物館経営や博物館における教育普及活動,博物館資料の収集・整理保管・展示,博物館情報とその活用等に関する理解と必要な知識・技術の習得を図る必要がある。このため博物館学に関する内容を充実する。
 博物館実習は,体験を通して博物館業務を理解する有意義な学習であり,その一層効果的な実施のため,大学における事前・事後の指導を充実する必要がある。なお,実習内容の充実のため,学芸員を養成する大学側と実習を受け入れる博物館側又はこれらの関係団体等の協力により,博物館実習に関する適切なガイドラインを設定し,活用することを期待したい。現状では,博物館の組織運営体制の問題から博物館側の実習受入れが必ずしも円滑には行われていないとの指摘があり,関係者による協議組織の設置などにより,実習受入れのための大学と博物館の緊密な協力を図る必要がある。大学においては,その研究実績等に応じ大学博物館(ユニバーシティ・ミュージアム)を整備することにより,学芸員養成教育の場を自ら責任を持って確保する努力も求められる。
 また,学芸員には,生涯学習社会における社会教育指導者として,人々の多様な学習ニーズを把握し学習活動を効果的に援助する能力が求められる。このため,生涯学習の本質や学習情報提供及び学習相談についての理解を図ることができるように,大学における養成内容を充実する必要がある。
 以上から,大学における学芸員の養成内容を,次のように改善・充実することが適当である。
1  現行の「社会教育概論」(1単位)を「生涯学習概論」(1単位)に改め,生涯学習及び社会教育の本質について理解を深める内容とする。
2  現行の「博物館学」(4単位)を,博物館機能の高度化や情報化の進展等に対応する観点から拡充し,「博物館概論」(2単位),「博物館経営論」(1単位),「博物館資料論」(2単位)及び「博物館情報論」(1単位)の4科目(合計6単位)に編成する。なお,この4科目(合計6単位)は,「博物館学」(6単位)として統合して実施することができるものとする。また,「博物館経営論」,「博物館資料論」及び「博物館情報論」の3科目(合計4単位)は,「博物館学各論」(4単位)として統合して実施することができるものとする。
3  「博物館実習」は現行通り3単位とするが,実習の効果的実施を図るため,その中に大学における事前・事後の指導の1単位を含むものとする。
4  現行の「視聴覚教育」(1単位)を「視聴覚教育メディア論」(1単位)に,現行の「教育原理」(1単位)を「教育学概」(1単位)に,それぞれ名称変更するとともに,時代の変化に対応した幅広い内容とする。
5  総単位数は,現行の10単位以上から12単位以上に2単位増やす。
   各科目の単位数・内容等を一覧の形でまとめたのが,別紙2である。
 各大学においては,これに基づき,学芸員養成のための適切なカリキュラムを編成するとともに,学芸員の専門性を高めるための所要の科目の開設とその内容の充実により,専門分野についての必要な知識・技術を備えた学芸員を養成することを期待したい。
 なお,学芸員の試験認定における科目構成についても,大学における養成内容と同様の見直しを図る。

(2)  養成を行っている大学の連携・協力の推進
   現在,学芸員の養成を行っている大学は230ほどあるが,今後,これらの大学の連携・協力により,学芸員養成に関する情報交換・交流が活発化し,養成内容の一層の充実が図られることが期待される。

(3)  試験認定科目免除措置の対象となる学習成果の認定範囲の拡大
   学芸員の試験科目の免除については,現在,大学又は文部大臣の指定する講習において,試験科目に相当する特定の科目を修得した場合や講習を修了した場合に認められている。生涯学習社会にふさわしい開かれた資格制度とする観点から,今後は,専門的資質の確保に留意しつつ,これら以外の学習成果についても,学芸員資格取得のための専門的知識・技術の習得として評価し得るものは,この試験科目免除措置を積極的に活用できるようにすることが適当である。
 新に試験科目に相当する科目として認定すべき学習成果として,次のようなものが考えられる。
 
  国立教育会館社会教育研修所における研修のうち相当と考えられる学習
国立科学博物館・文化庁施設等機関における研修のうち相当と考えられる学習
地方公共団体が実施する研修のうち相当と考えられる学習
専門学校での相当科目の修得
大学公開講座での相当と考えられる学習
   なお,試験科目免除に当たって,その学習の内容・程度等に基づいた適切な取扱いが図られるように,試験実施機関である国において一定の基準を示す必要がある。

(4)  資格取得及び試験認定受験資格の要件として実務経験の対象範囲の拡大
   学芸員の資格取得及び試験認定受験資格の要件として,一定の実務経験が必要とされる場合があるが,現在は,学芸員補の職や学校教育法第1条に規定する学校において博物館資料に相当する資料の収集,保管,展示及び調査研究に関する職務に従事する職員の職などに限定されている。
 生涯学習時代における広い視野に立った博物館活動の展開が求められていることに対応し,今後は,現在認められている実務経験以外にも,学芸員の職務遂行の上で意義があると考えられる実務経験を積極的に評価していくことが適当である。
 新に評価すべき実務経験として,次のようなものが考えられる。なお,その際必要とされる経験年数については,学芸員の養成科目を修得した短期大学卒業者が学芸員資格を取得するまでに3年以上の実務経験が必要とされていることを考慮し,原則として,3年以上とすることが適当である。
 
社会教育主事,司書その他の社会教育施設職員
教育委員会等において,生涯学習,社会教育,文化振興,文化財保護に関する職務に従事する職
博物館等において専門的事項を相当する非常勤職員又は,ボランティア(展示開設員など)なお,上記のウの実務経験の評価に関しては,適切な取扱いが図られるように,国において一定の基準を示す必要がある。

2  研修内容の充実と研修体制の整備
   学芸員が,多様化,高度化する人々の学習ニーズや社会の変化に的確に対応できるようにしていくために,現職研修を充実し,専門分野に関する知識・技術や学習活動を効果的に援助する能力等の一層の向上を図る必要がある。
 現在,国レベル(文部省及び国立教育会館社会教育研修所,国立の博物館等),都道府県レベル,博物館関係団体などにおいて研修が行われているが,全体として見た場合,必ずしも体系的なものとはなっていない。今後は,相互の連携の下に,体系的・計画的な研修機会を提供できるような研修体制を整備していくことが重要な課題となっている。
 また,各博物館やその設置者においては,学芸員の資質の向上に関する研修の意義を十分に理解し,学芸員が積極的に各種の研修に参加できるよう,奨励・支援することが期待される。
 
(1)  研修内容及び方法
   研修の企画・実施に当たっては,学芸員の業務に関する各専門分野の知識・技術の向上を目指すにとどまらず,生涯学習社会の進展,情報化,国際化等の社会の変化に対応して,広い視野から学芸員の業務に取り組めるような研修内容に設定する必要がある。
 生涯学習社会の進展や社会の変化に対応する観点から,生涯学習の理念と施策の動向,情報技術の動向,利用者のニーズの多様化への対応,青少年の科学技術離れなど様々な現代的課題,外国語による案内や資料説明などの国際化に対応した博物館活動の展開方法,博物館経営に関する研修などが考えられる。
 また,高度かつ専門的な知識・技術を習得する観点から,各専門分野の博物館資料の収集・整理・保存,企画展示の方法,教育普及活動,種々のメディアの操作と習熟に関する研修などが考えられる。
 研修の方法としては,従来から行われている講義や実習・講習形式の研修に加え,国内外の大学,博物館,研究機関等への留学又は研修・研究派遣や,海外から経験の深いキュレーター等を指導者として招致する制度の創設など,高度で実践的な研修機会を充実していく必要がある。また,大学院等関係機関による科目等履修生制度等も活用したリカレント教育も望まれる。

(2)  研修体制の整備
   国レベル,都道府県レベル,博物館関係団体など,各段階で実施されている研修の有機的連携を図り,体系的・計画的に学芸員の研修機会を提供していくため,それぞれの役割分担の下に,研修体制の整備を図っていく必要がある。
 国レベルでは,全国又はブロックの指導的立場の職員,博物館長等の管理職を対象に,課題別・専門分野別の研修のうち高度なものを行う。さらに,都道府県が行う研修を支援するため,都道府県レベルの研修を担当できる指導者の養成,学芸員の活動に関する情報の収集・提供などを行う必要がある。特に,国立教育会館社会教育研修所においては,社会教育に関する専門的・技術的研修を実施する中核機関として,都道府県レベルでの研修実施機関とのネットワーク形成や,地方公共団体における研修内容のデータベース化を進めるなど,そのナショナルセンター機能を一層強化することが望まれる。
 また,国立の博物館等においては,その高度な研究機能や博物館資料等を活用し,高度で専門的な研修機会を提供することが期待される。
 都道府県においては,各都道府県内の初任者,中堅職員を対象に,経験年数別の実務研修等を行うとともに,博物館を支援するため,関連する情報の収集・提供などを行う必要がある。
 また,博物館関係団体においても,博物館相互の情報交換とともに,専門分野別の課題に関する研修などを充実することが期待される。
 なお,博物館の設置者においては,学芸員の研修参加への奨励・支援とともに,科学研究費申請が可能となる学術研究機関の指定制度等を活用し,学芸員の自主的研究活動や共同研究活動等の促進や支援に努めることが期待される。
 学芸員の研修体系についての考えから整理したものが,別紙8である。

3  高度な専門性の評価
   博物館機能の充実と高度化を推進していくためには,学芸員の専門的な資質・能力をより一層高めていくことが必要であり,そのためには学芸員の専門的な業績・経験等が適切に評価され,それが任用や処遇の面でも反映されるシステムを作っていくことが重要である。そのことによって,学芸員の資質向上に向けての意欲も益々喚起されるという望ましい効果も生ずることと考えられる。
 このため,高度で実践的な専門的能力を有する学芸員に対し,その専門性を評価する名称を付与する制度を設けることが有意義と考えられる。こうした名称付与制度が定着することによって,当該名称を付与された学芸員の任用や処遇について,設置者等が適切な配慮を行うことも期待される。このような高度な専門性を評価する名称付与制度は,学芸員制度のみならず博物館制度全体の在り方とも関連を有するものであり,その具体化のために,実施機関,評価の対象,具体的名称,評価の方法等について,国をはじめ関係機関や博物館関係団体等連携しながら研究を進めていくことが必要である。
 この制度についての基本的考え方を整理したものが,別紙10である。
 なお,学芸員は,特定分野の専門性を備えた専門的職員という特性があり,学芸員の専門性を踏まえた任用等の促進を図るため,学芸員資格自体において,その専門分野を示すようにすることが考えられる。このことについては,今回の養成,研修等の改善の実施状況を踏まえ,上記の高度な専門性を評価する名称付与制度との関係も考慮しつつ,対応していく必要がある。大学における博物館に関する科目修得者に対する科目修得証明書に,その専門科目又は専門分野を記載する等の方法により,専門性を表示することも考えられ,各大学がこのような配慮や工夫を行うことを期待したい。

4  幅広い人事交流等の配慮と有資格者の積極的活用
   今後の博物館活動の一層の充実・活発化のためには,学芸員がその専門性を一層高めるとともに,生涯学習を援助するために必要な幅広い知見や経験が得られるような機会を確保していくことが必要である。また,博物館の活力ある運営を確保するために,博物間相互や博物館と他の社会教育施設等との間の異動など,学芸員の任用や処遇について,教育委員会等の積極的な配慮が望まれる。
 また,大学等において学芸員となる資格を取得しても,実際には博物館に勤務していない人が相当いる。生涯学習を推進する観点から,こうした学芸員有資格者の持つ専門的な知識やその多様な経験等が,博物館活動の充実や館内の様々な事業の支援のために活用されることは極めて有意義である。
 このため,学芸員有資格者のうち博物館等で活躍することを希望する者を,都道府県,国立教育会館社会教育研修所又は博物館関係団体に登録し,高度な博物館ボランティア等として活用を図る「学芸員有資格者データベース(人材バンク)」制度等を創設することが考えられる。国と関係機関・団体等との連携・協力のもとに,その早急な整備が進められることを期待する。(以下略)

7  おわりに
   本文化審議会では,生涯学習社会における社会教育行政の推進,博物館及び図書館の機能の充実への対応等の観点から,これらの業務に携わる専門的職員である社会教育主事,学芸員及び司書の資質の向上を図るための養成,研修等の改善・充実方策を検討し,提言をとりまとめた。
 本報告の趣旨を踏まえ,国においては,関係規程等の改正など必要な措置を速やかに講ずるととともに,現職研修の充実のための方策や推進や,これらの資格を有する者の知識経験等を活用する仕組みの整備などになり,幅広い社会教育指導体制の充実に積極的に取り組む必要がある。
 また,これらの専門的職員の養成に当たる大学等においては,改善の趣旨を踏まえた教育内容や教育方法の充実,工夫を図るとともに,高度な再教育の機会の提供にも努力することが期待される。なお,今後の科学技術の進歩に伴い,コンピュータ,光ファイバー等の高度情報通信網,衛星通信,衛星放送等の情報手段が一層発展すると予想される。これらを活用した遠隔教育等による養成や研修の実施も有効と考えられ,大学関係者等により,その活用方策について検討されることも期待される。
 教育委員会等においては,現職研修会の確保により,関係職員の一層の資質向上に努めるとともに,公民館等の社会教育施設やその他の生涯学習関連施設等を含め,適切な人材の確保による地域全体の社会教育指導体制の充実に従来に増して努力することにより,生涯学習・社会教育の指導体制の一層の整備促進と関係施設の運営の充実を図ることを期待したい。
 社会教育主事,学芸員及び司書の養成は,生涯学習社会の進展や社会の様々な変化の中における社会行政の在り方や,博物館,図書館に期待される役割と密接に関連するものである。特に,今後の社会の進展に伴う社会教育主事,学芸員及び司書の職務の一層の高度化,多様化に対応するためには,高度な専門的職業人の養成という観点が,これまで以上に重要となると考えられる。このため,今回提言した改善方策の実施状況を踏まえながら,今後も適切な時期に見直しを行っていくことが必要である。


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