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   4. 学習や活動の評価・活用

   生涯学習システムを形成する上で、個人の学習成果を適切に評価できるようにすることは極めて重要である。 近年、企業においても、学歴に偏らず、取得した資格や経験、実績等個人の様々な資質や能力を多面的に評価するようになってきている。
   「学習の成果を幅広く生かす(平成11年6月生涯学習審議会答申)」においても、いつでも、どこでも自由に行われる学習の成果が、企業や社会において適切に評価されることが必要であると指摘されており、それに基づいて提言がなされた。
   今後は、こうした背景や答申の趣旨も踏まえて、以下に示すような学習成果を評価するための取組みを進めていくことが重要である。

 
(1)    生涯学習の成果の評価・認証
1 生涯学習の成果の評価
   生涯学習の評価は、学習者がある学習のまとまりを終了したことを評価の対象とし、次のように様々な形態がある。目標を達成できていれば、単位、修了証、免状、資格、学位、称号等が付与されることが多い。
(a) 学習時間数だけによるもの(例:生涯学習機関や大学の生涯学習部門の講座の一部   等)
(b) 試験だけによるもの(例:技能審査・技能検定   等)
(c) 学習時間数と、試験、課題、発表等による知識・技術の習得の確認をあわせて行うもの(例:学校の単位   等)

   そのような学習成果の評価を互換・転換、累積加算したり、広く通用できるようにして、社会的に活用できる確認資料とする方法としては、以下のような方法が考えられる。
生涯学習単位
   一定の学習成果の評価を生涯学習単位に換算して認証を行う。
   (例えば、ある学習領域の1単位の学習量を15時間、学習レベルを初級、中級、上級というように基準を設けて換算。)
生涯学習時間
   上記(a)のように、学習時間だけで学習成果の評価が行われている場合には、一定の学習成果の評価を生涯学習時間に換算して認証を行う。
   (例えば、15時間の学習を1生涯学習時間に換算。)
称号
   領域によっては、累積した生涯学習単位が一定数に達したときに、それらをさらにまとめて生涯学習士等の称号を付与する。

2 生涯学習の成果の認証
   個人の学習・活動について第三者機関が事実確認をし、それを証明、公示すれば、一層評価がしやすくなり、成果の活用も促進される。認証可能の対象となりうる学習機会としては、次のようなものが考えられる。
学校の提供する学習機会
行政の提供する生涯学習関連事業
地域のグループ、クラブ、団体等の学習機会、学習活動
民間教育事業者の提供する学習機会、通信教育
企業教育関係の学習機会
個人学習の機会   等

   また、学習機会ではないが、以下も認証の対象となりうる。
各種の資格・免状
各種の試験・審査・検定(大検、技能審査、技能検定を含む)   等

3 今後の課題
   今後、都道府県、市町村、民間機関等が参加する生涯学習成果の評価の認証ネットワークをつくり、その拠点としてナショナル・センターをつくることが考えられる。
   同センターにおいては、
評価の互換・転換、累積加算の仕組みや基準の作成
学習成果の認証に関する情報の収集・提供、調査研究
学習成果の認証に関する相談
等を行い、実際の認証業務は都道府県、市町村、民間機関等で行うことが考えられる。

(2)    学校教育での学習成果の認証
   大学評価・学位授与機構は、近年の生涯学習活動への関心の高度化、多様化や、急激な社会の変化に対応した新たな知識、技術を修得できるような教育システムの形成が求められていることに対応して、様々な学習の成果の累積による学士の学位の授与ができるような制度の弾力化を図る必要があることから設立されたものであり、大学卒業者等と同水準の学力があると認められた者への学位授与を行っている*13

   現在、短期大学・高等専門学校卒業者、専門学校修了者等が、科目等履修生等として大学等の所定の単位を修得するとともに、レポート等の学修成果を作成し、大学評価・学位授与機構の行う審査に合格することによって「学士」の学位を取得できる。また、同機構が認定する大学以外の教育施設の課程を修了した者に対して審査を行い、合格者に学士、修士、博士の学位を授与している。

   また、現在、大学評価・学位授与機構は、大学外の機関等における様々な学習を評価・単位認定する方法について調査研究を進めている。将来的には、こうした調査研究の成果も踏まえ、学習成果を適切に評価するシステムの在り方について検討を進めていくことが重要である。

(3)    地域社会での評価・活用
   多様なキャリアに繋がる学習の成果は、学校教育のみで得られるものではなく、生涯学習や地域活動等を通じて、様々な形で獲得されるものである。
   このため、行政、企業、地域、NPO等の関係機関が連携することにより、地域のネットワークの中で、学習歴、活動歴、子育て・介護の経験等を総合的に評価する基準を策定し、認証を行うことと、企業等の社会の側においてそうした成果を評価して受け入れる体制を整えることを橋渡しする仕組みづくりが必要である*14

   この仕組みを32で述べた生涯学習システムづくりの一部として構築し、行政、大学、NPO、企業等によるネットワークの中で、学習や活動の成果を評価する基準を策定し、
1 情報等を体系的に提供し、
2 コーディネーターにより学習に関する情報提供や相談等を行い、
3 一人一人に必要な学習機会を提供し、
4 学習や活動の成果を次の活動に結びつける
という支援を一体的に行うことが考えられる。

   学習や活動の成果を社会的活動、進学、就職、転職、再就職等に広く生かすためには、個人が自らの学習や活動の成果を積極的にアピールできるようにするとともに、企業等の側としても採用や昇進の際に活用するため、そうした成果を確認する資料が必要である。
   そのためには、個人一人一人がそれぞれの学習活動歴、資格や技能、職歴、地域活動歴等を記載し、これまでに学習した講座の継続や単位の累積を可能にする「生涯学習パスポート」をつくり、活用することが有効である。

   「生涯学習パスポート」は、「学習の成果を幅広く生かす(平成11年6月生涯学習審議会答申)」で提言されたが、そうした取組みは、現状では、単なる学習への参加の事実の積算、個人の満足の域にとどまり、地域の企業、商工会議所、行政等においても十分に認知されているとは言えない。
   したがって、今後は、まず、地域における「生涯学習パスポート」を活用した学習や活動の成果の評価の仕組みづくりについて、具体的に検討していくことが必要である。将来的には、そうした地域での成果を踏まえ、全国的に通用する「生涯学習パスポート」をつくることも考えられる。

(4)    民間等による自主的な評価基準
   個人がキャリア形成を有効に行っていくには、様々な業種で共通的に用いることができる様々な評価システムの確立が必要である。現状においては、公的な仕組みとして、機械、建設等、職種ごとの技能検定制度や、営業、法務等、分野別のホワイトカラーの能力認定を行うビジネスキャリア制度があるほか、民間企業においても、それぞれに社内検定制度等を持ち、独自に評価を行っている。

   また、NPO等により、大学の教員等の様々な専門家の協力を得て、全国的な評価基準を定めている事例もある。
   このため、例えば、それぞれの分野ごとに、全国の各大学の教授等の協力を得て、全国規模でそれぞれの分野の基礎知識の習得程度や応用能力のレベルを判定する試験を実施することも求められる。

   今後、それぞれの民間の業種別の団体やNPO等により、様々な分野における知識や技能の成果を評価するための自主的な取組みが一層進められることは、学習成果の活用を進める上で有効と考えられる。

   なお、諸外国では、アカデミックな学位と職業的な資格を包含する全国的な統一資格システム形成に取り組んでいるところもある*15。我が国でも、こうした事例等を参考にして、将来的には、国全体で通用する学習成果の評価・認証のための仕組みづくりについての研究について考える必要がある。




※13    資料36   大学評価・学位授与機構における学位授与者数
※14 地域における学習成果の評価の事例として、栃木県鹿沼市の事例を参考資料で取り上げた。
(資料37   かぬま生涯学習大学について
※15 資料38   諸外国における学習成果の評価についての取組事例


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