戻る

「多様なキャリアが社会を変える」第1次報告
(女性研究者への支援)

I   基本的な考え方

1. 背景

(1) 柔軟で活力に満ちた社会の創造と生涯学習の充実の必要性
  21世紀のわが国では、一人一人が個性や能力を十分発揮して様々な分野に参画し、夢や志を実現することができるような柔軟で活力に満ちた社会を創造することが求められている。
  そのためには、生涯学習の機会を充実し、個人の生涯を通じたキャリア設計やキャリア開発を行ったり、地域社会の様々な課題への主体的な取組みなどが可能になるような環境を作ることが必要である。

1   生涯学習による自己実現の機会の充実
  一人一人が個性や能力を十分発揮して社会に参画できるようにするためには、生涯のいつからでも学ぶ機会があり、その学習や活動の成果が適切に評価され、学習や活動の成果を生かして積極的に社会に参画できる仕組みを作り、個人が自らの責任に基づいて、本当に望むものを選択して自己実現できるようにすることが重要である。
  こうした社会が実現すれば、一度の選択だけでその後の生き方が決まってしまうのではなく、一人一人が転職したり、学習の場に参加したり、育児に専念したりといった様々な経験を積むことができる。
  しかしながら、現状では、一人一人は就業、学習、育児といった多様な役割を果たしながら社会に参画したいと思っていても、仕事と育児の両立、再就職などの面で様々な制約があり、必ずしもその実現は容易ではない。
  このため、人々がこうした多様な選択が可能で、いつからでも学び、力をつけ、その成果を生かして様々な分野で挑戦することができる、柔軟な社会の創造を目指して、生涯学習システムを構築することが求められている。

2   個人のキャリア開発と生涯を通じたキャリア設計
  これからの社会では、産業構造の変化、雇用の流動化が一層進展すると考えられる。そうした社会では、学歴や肩書きだけで一生安定した職業生活を送ることは困難になってきており、企業等の採用・処遇において個人の能力・実績が重視されるとともに、個人が組織の内外を問わず通用するような能力を育て、質的にも量的にも高い生産性と結びついた人的資本としての価値を高めることが求められる。
  また、科学技術の進歩や、情報化の進展、国際競争の激化に伴い、産業の高付加価値化、新しい分野の産業の創出が企業にとって大きな課題となってきており、技術水準の向上、創造的技術の創出、新分野への進出等を果たすため、個人の能力をより一層向上させることが重要な課題となっている。
  こうした状況の中で、OJT※1に加え、多様なOff-JT※2、外部の教育機関などへの教育訓練の委託を進めるとともに、個人による自主的な能力開発への期待が高まってきている。
  人生80年時代を迎え、価値観の変化も激しい社会において、自分の生涯設計を行うに当たっては、こうした変化に対応してキャリア開発の内容を常に見直すことが求められる。また、自分で設計した職業生活と求められる能力とのギャップという問題に直面することもある。
  このため、中・長期的視野に立って自分自身の将来像を描き、その実現に向けた生活プラン、学習プラン、職業プランを立てることが一層重要になってきている。さらに、適性と適職をマッチングさせる進路選択だけではなく、自分の得意分野や専門分野の将来を予測する先見性を身に付け、自分自身と環境の変化に柔軟に対応して自ら意思決定していく能力を早い段階から培うとともに、生涯にわたり学習し能力を開発できる環境の整備が必要である。

3   地域社会の課題への主体的な取組み
  社会全体の生涯学習への期待の高まりを受けて、行政、大学、民間団体などにより、従来の枠を超えて様々な学習機会が提供されるようになってきている。住民の学習や学習成果の活用は、地域社会の再生や地域の課題解決のために不可欠であるとともに、企業や大学にとっても、円滑な経済活動や社会貢献、研究成果の地域への還元などの契機として大きな意味を持つ。
  近年の地域社会は、都市化や過疎化の進行などにより、地縁的なコミュニティとしての機能が衰退し、地域の教育力の低下が憂慮されることなどから、特色ある地域社会の再生が重要な課題となっている。国および地方ともに財政問題を抱えた中で、地方分権の推進が叫ばれていることも、地域に対する人々の関心をこれまで以上に高めている。
  また、地域には環境保護や介護、福祉など、誰にとっても切実な課題も多く、住民自らが学習し主体的に参画していくことによって、行政やNPO等と連携して課題解決に取組むことが求められている。
  このため、学習内容についても、これまでの文化、教養中心のものだけでなく、社会参画型、問題解決型の学習や学習成果の活用を組み込んだものにしていくことにより、社会に参画するために必要な力を養うための生涯学習の機会をより充実させることが考えられる。

(2) 生涯学習の成果の評価・活用の促進
  生涯学習社会を実現するためには、様々な学習機会の充実に加え、個人の主体的な学習や活動の成果を社会で適切に評価し、様々な形で活用できるような仕組みが必要であり、そのことによって、生涯学習による一人一人の生きがいの追求が創造性豊かな社会の実現へと結びつく。
  近年、企業では学歴に偏らず、取得した資格や経験、実績など個人の様々な資質や能力を多面的に評価するようになってきていることから、今後は個人の学習・活動の成果を社会に積極的に提供できるようにするとともに、社会や企業にも個人の学習・活動の成果を活用しやすい環境づくりが求められる。
  また、行政が大学や企業と連携して、職業を持つ社会人や再就職を希望する人、中小企業のオーナー、自営業など様々な人々を対象としたキャリア開発に関する学習機会を提供し、その成果を仕事に活用していくということも、今後一層求められると考えられる。

(3) 多様な価値・発想による社会の活性化
  わが国経済の長期の低迷の中で、企業では経営の合理化や事業の再編が進められており、人々の就労に対する価値観も大きく変わってきている。このような経済社会や個人の価値観の変化により、従来型の日本的雇用慣行は十分に機能しなくなっており、一人一人が生涯を通じて社会の変化に柔軟に対応できる能力や職業生活等に必要な新たな知識・技術を身に付けることが求められている。
  このような状況の中で、経済の主要な担い手である企業や学術研究や文化の発信拠点となる大学・研究所などは、創造性のある人材を確保・育成するとともに、一人一人が個性や能力を十分に発揮できる環境を整備することが必要になっている。

1   多様な人々の社会への参画
  近年、わが国の産業、就業構造が急速な変貌を遂げる中で、年功賃金や終身雇用など従来型の日本的雇用慣行は揺らいでいる。また、高学歴化、高齢化、経済のサービス化に伴い、女性や高齢者の社会進出が進み、フルタイム・正規雇用以外の形態で働く人々が増加した。
  こうした変化は、企業における従来のような雇用管理のあり方を根本から変えて、企業における人材育成や、OJTによる企業内訓練を見直し、外部の教育機関に教育訓練を委託したり、経済社会の急激な変化に対応できる創造性のある人材を中途採用などで企業外部から求めるようになるとともに、多様な人々の積極的な参画も可能にする新たな仕組みが必要になってきた。
  このような状況において、一人一人が時代の変化や社会を取り巻く環境の変化に対応できる能力を育てるとともに、生涯にわたり職業生活等に必要な新たな知識、技術を身に付けたり、社会参画に必要な学習を行えるような生涯学習社会の実現に、社会全体として取組むことが強く求められている。

2   企業や大学・研究所の戦略としての多様性
  組織の宝は人材である。経済の主要な担い手である企業や、学術研究や文化の発信の拠点となる大学・研究所などは、経済の停滞、急速な技術革新、グローバル化といった動きの中で、これまでの日本的雇用慣行によるシステムを転換し、急激な社会の変化に柔軟に対応できる創造性のある人材を確保・育成し、一人一人が個性や能力を十分に発揮できるような環境を整備する必要がある。
  このような時代においては、個人が専門分野の狭い領域に閉じこもるのではなく、独創性、企画力、実行力など幅広い能力を身に付けたり、異なった専門分野同士を結びつけて複合的・学際的な新しい学問分野を開拓したり、難解な専門分野の知識を一般の人々にわかりやすく解説したりといった役割も重要になってきている。
  特に大学は、変化する社会の中で優れた人材の育成と独創的な学術研究の推進等の役割を持ち、今後、より機動的で柔軟な運営が求められる。また、地域社会や産業界との連携を促進したり、地域社会における知的活動の中心的拠点として研究成果を地域に還元するとともに、社会人を含む多様な人々を幅広く受け入れ、開かれた生涯学習機関としての役割を果たすことも期待されている。
  このため、大学や研究所等は、従来の基準にとらわれず多様な背景を持つ人々や多様な価値・発想を取り入れて、教育・研究活動を活性化・高度化し、社会のニーズへの柔軟な対応を図ることが不可欠である。

2. 多様なキャリアを考える視点

(1) 多様なキャリアとは何か
  職業、職歴ばかりでなく社会的な活動歴を含む多様なキャリアを考える場合、次の3つのことについて多様性が確保される必要がある。

1 キャリアパターンの多様性
  一生の中に仕事をどう位置付けるか、すなわちどういうパターンで働くかについて、同じ組織で働き続ける一貫就業型のほか、就職後に地域活動や学習に取組むため離職しその後再就職するパターンや、女性の場合は出産による中断を経て再就職するパターンなど多様であること。

2 働く形態の多様性
  就業形態について、正規雇用、パート・派遣・契約などのいわゆる非正規雇用、起業、コミュニティ・ビジネス、NPO、ワーク・シェアリングによる分担など多様であり、またそれらが自分のキャリア設計に沿って選択できること。

3 働く目的の多様性
  「自分にとって幸せとは何か、何のために働くのか」という、働く意味・目的に対する問いかけと答が多様であること。

(2) 今後の働き方の方向
1 いつでも、どのような形態でも、どのような目的でも働くことができ、個人の状況や希望に応じて参加することが可能で、しかも高い生産性を維持できるような働き方

2 豊かな気持ちで人生を過ごすことが実現できるような働き方が考えられる。

(3) 検討の視点
  個人が主体的に多様な選択を行いながら、柔軟に働いたり学んだりできるよう支援するためには、「個人の一生の間での多様な選択」という長期的視野に立って生活・職業プランを設計することが不可欠である。その場合、男性も女性も、共に家庭、地域社会、仕事に参画し、責任を分かち合うことが前提条件になり、これまで、「男女」という軸に沿って考えられていた発想は転換され、「多様なキャリア」という軸に沿った新しい視点が浮かび上がってくる。
  現状では、女性はキャリアの継続について、男性よりも出産・子育て・介護など生活面の影響を受けやすく、また、社会や組織に存在する男女の固定的役割分担意識の影響も受けやすいことを踏まえ、社会や職場で十分能力を発揮するための環境の在り方や、キャリアブランクを乗り越えるための学習の在り方などについて検討することが必要である。
  その際、企業の管理部門や先端的な研究領域など女性の参画が少ない分野、地域活動や小学校教員など女性の参画が多い分野、生活や生命に関わる研究領域や商品開発など女性がリードし将来大きな可能性を秘めた分野などがあり、それぞれにおいて、どのような課題があり、どのような環境の整備が必要なのか検討することが考えられる。
  また、多様な選択肢のどれを選んでもそれぞれが不安定でなく、国や企業等の側から見ても、質的にも量的にも生産性が高いことが重要であり、「生活」「教育・学習」「地域社会」「就労」といった活動領域が分断されることなく相互に自由な行き来ができるよう、教育・学習と地域社会、就労を結びつけるための機会の提供や、情報・人的ネットワークの形成についての検討が求められる。
  さらに、様々な背景を持つ人々が十分能力を発揮できるようにするため、例えば、企業や大学等における採用の際に、年齢を理由とした不利益を受けないようにすることなども視野に入れる必要がある。

(4) 女性の力を活かして多様なキャリアが定着する社会を形成するために
  本懇談会では、このような視点に立ち、個人が一生の間で多様な選択を行うこと、すなわち、働いたり、学んだり、子どもを育てたりといった多様な役割を果たすことを前提として、その継続性の中でどのような課題が生じ、それに対してどのような支援が可能であるかについて、生涯学習の観点から、できるだけ具体的なモデルを示しながら支援の実効性も含めた検討を行っていくこととする。
  検討に当たっては、仕事、地域活動、子育てなど、これまで男性に比べて多様な役割を果たしながら培ってきた女性の視点を十分活かして、多様なキャリアが定着する社会の形成を目指したいと考える。


※1   仕事に就きながら,その仕事に必要な知識・技能を習得させる教育訓練
※2   仕事を一時的に離れて,企業内又は企業外で行う教育訓練


ページの先頭へ