学校におけるICT環境整備のうちハードウェアの整備については、コンピュータ教室、各普通教室及び特別教室等に整備する教育用コンピュータ、学習用ソフトウェアや周辺機器が必要であるほか、教員が校務処理に使用する校務用コンピュータ、校務用ソフトウェアや周辺機器が必要である。また、校内LANやインターネット接続といったネットワーク環境の整備も必要となってくる。これらの整備のためには当然予算が必要であり、計画的に整備していくことが重要である。以下において、学校における具体的なICT環境の整備例について解説する。
普通教室におけるICT環境整備については、「IT新改革戦略」では、教育用コンピュータ2台に加え、クラス用コンピュータ(可動式のコンピュータ(ノート型))を40台(標準法に基づく目安の台数)配備することとしている。
普通教室2台の教育用コンピュータについては、1台を教員がプロジェクタ等を介して教材等を提示するために使用し、もう1台を子どもたちが発表したり疑問に感じたことを調べたりするために使用する方法がある。2台とも子どもたちの調べ学習のために使用することも考えられる。それぞれの授業のねらいによって活用方法は変わってくる。
また、クラス用コンピュータについては、普通教室で使用する場合、1人1台で使用すればコンピュータ教室と同様の活用が可能となるほか、各教室に数台ずつ持ち込んでグループ学習(グループに1台)で活用することなども可能になる。なお、空き教室等にクラス用コンピュータや周辺機器を集中的に配備することで、授業の際にコンピュータを移動させる手間が省けるほか、様々なICT機器の特性を指導の場面ごとに活かせる環境を作ることが可能となり、このような活用方法も考えられる。
このように、普通教室におけるICT環境整備にあたっては、日常的にICTを活用することを念頭に、それぞれの授業における学習のねらいに合わせて整備や活用の方法を工夫することが重要である。
ア プロジェクタ
可搬型と、天井などに固定する固定型に大別される。コンピュータや実物投影機(後述)などを接続してスクリーンや紙面に大きく映し出すことができ、教材(インターネットからのデジタルコンテンツを含む。)や発表用資料等の提示を簡単に行える機器である。解像度、消耗品交換(ランプ等)の簡便性、使用準備等の簡便性などを勘案して選定する。
なお、プロジェクタは投影するための機器であり、汎用的に使えるので積極的に導入することが望まれる。その際、インターネット上で入手した教材を投影するのか、デジタルカメラやソフトウェアの教材を投影するのか、実物をそのまま映し出すのかなど、それぞれの教員のICT操作スキルを把握し、勘案した上でプロジェクタに接続する機器を整備することに留意すること。
図プロジェクタのイメージ
イ 実物投影機(書画カメラ)
書類や立体物をそのまま画像でスクリーン等に映し出す装置である。映し出したいものをカメラの下に置けば、プロジェクタを介して大きく映し出すことができて操作が簡便であり立体物もそのまま立体的に映し出せる。プロジェクタとスクリーンがあれば使用できるほか、デジタルテレビや大型ディスプレイに直接接続して映し出すこともできる。
例えば、書写の指導でカメラの下で筆を動かしその動きを大きく映したり、家庭科の裁縫でカメラの下で縫い物をする手の動きを大きく映したりすることで、子どもたちの理解を早める。また、子どもたちが作った資料や作品などを大きく映しながらプレゼンテーションをすることができるため、子どもの学習の理解促進やコミュニケーション能力の育成という観点を持つ。
図実物投影機の活用イメージ
ウ 電子黒板
コンピュータの画面上の教材をスクリーン又はディスプレイに映し出し、その画面上で直接操作して、文字や絵の書き込みや移動、拡大・縮小、保存等ができる装置である。プロジェクタに接続してスクリーンに投影する「ユニット型」や「ボード型」、プロジェクタと一体となった大型ディスプレイ状の「一体型」に大別される。電子情報ボードともいう。
例えば、大型画面に映し出された図形や文字、絵、写真等をタッチパネルで動かしたり、大きく表示したりすることができる。このほか、専用のペンを使うことで黒板と同じように書き込むことができ、提示した画面も書き込んだ内容も簡単に保存することができるため、子どもの学習の理解促進や学習履歴の容易な蓄積という観点を持つ。
電子黒板については、準備の簡便性、スペースや移動性、画面の精細度や大きさ等を勘案して選定する。
図電子黒板の活用イメージ
エ デジタルカメラ
撮影した写真・動画をデジタル画像としてコンピュータに取り込むことができるため、教員が提示する教材に活用したり、子どもが観察等で撮影したものを資料や作品に活用したりする等、デジタルコンテンツを簡単に作ることができる。体験的な学習等と結び付けながら、子どもの情報活用能力の育成や学習の理解促進の観点を持つ。
例えば、野外観察等の際にデジタルカメラで撮影した写真をコンピュータに容易に取り込めてすぐに映し出すことができたり、調べ学習の際には撮影した写真をまとめの資料に貼り付けたりすることができるほか、動画での記録もできるため学習活動を大きく広げることができる。
デジタルカメラについては、操作性、耐久性、画質、フラッシュの有無、バッテリー容量、データ記憶容量などのほか、液晶画面の有無、動画機能、接写機能、ボイスメモ機能なども勘案して選定する。
図デジタルカメラのイメージ
コンピュータ教室におけるICT環境整備については、「IT新改革戦略」では、教育用コンピュータ42台を整備することとしており、このうち40台(標準法に基づく目安の台数)が児童生徒用、2台が教員用である。また、特別支援学校では、・・・。
コンピュータ教室の場合、子ども1人1台のコンピュータが使用できるという特性を活かした使い方ができる。例えば、キーボードによる文字入力などのコンピュータの基本的な操作を習得することや、一人一人課題のまとめをしたり、一斉にドリルを使って学習したりするなど、子どもの情報活用能力の育成のほか個々の学習進度に応じた学習に使うこともできる。
なお、コンピュータ教室の整備にあたっては、配線工事等の関係から後で配置を変更することが困難な場合があるため、想定する学習活動をよく整理し、配置等の計画をしっかり立てて整備することが重要である。このほか、一度に多数のコンピュータを使用するため部屋が高温になりやすいため、空調設備にも配慮する必要がある。
特別教室におけるICT環境整備については、「IT新改革戦略」では、各学校で教育用コンピュータ6台を整備することとしている。
学校に6台ある場合、特別教室(理科室、音楽室、図書室など)ごとに1~2台ずつ整備するほかにも、6台を一つの教室に集約して、グループ学習で使わせたりする等、学習のねらいを勘案した整備が求められる。コンピュータを移動させて使用する機会が多い場合にはノート型のコンピュータとするなど、それぞれの学校の事情に応じて適切なものを選定する。
○周辺機器の活用について
特別教室における周辺機器としては、現在、授業では主に、普通教室と同様にプロジェクタ、実物投影機、電子黒板、デジタルカメラなどのほか、理科の授業でデジタル顕微鏡、音楽の授業で電子楽器、図書室での図書管理のためのバーコードリーダーなどがある。
教育用ソフトウェアは、基本ソフトウェア等のほか、文書や図表作成等に汎用的に用いる基本的なアプリケーションソフトウェア、教科指導に用いるために特に工夫された学習用ソフトウェア、成績処理、時間割作成、保健管理などに用いる校務用ソフトウェアなどに大別できる。
特に、教科指導に用いる学習用ソフトウェアにはその用途により様々なものがあり、ドリル学習型、解説型、問題解決型、シミュレーション型、表現・コミュニケーション用のツール型、情報検索用のデータベース型などがあり、今日では、多くの企業等が様々なソフトウェア等を市販するようになり、その数、種類も豊富にある。
また、単体としてのソフトウェアではなく図書教材と連携したソフトウェアや、活用のための実践事例や指導用マニュアル、資料集、児童生徒用活動シート、ビデオ教材などを組み合わせた教材も増えてきており、これらを授業で効果的に活用することでより一層の学習の充実に努めたい。
○基本的なソフトウェア
基本ソフトウェア・オペレーティングシステム(OS)
言語処理ソフトウェア
基本的応用ソフトウェア
○学習用ソフトウェア
○校務用ソフトウェア・グループウェア(掲示板、施設予約等)
学習用ソフトウェア(教育用コンテンツ)については、現在様々なものが普及しており、動画から写真やイラストなどの素材型に加えドリル学習型やシミュレーション型などその種類は豊富になっている。有料のものや無料のもの、DVDやCDといったパッケージのもの、インターネットによりダウンロードするものなど様々である。
教育情報ナショナルセンター(NICER:National Information Center for Educational Resources:ナイサー)は、我が国における教育・学習に関する情報を扱う中核的 Webサイトとして、インターネットで提供されている教育用コンテンツなどの概要や所在情報を収集、整理して提供している。また、教育関係者等を情報化の面から支援する機能も有している。 この事業は、平成11年12月のバーチャルエージェンシー「教育の情報化」プロジェクトで提言され、e-Japan重点計画において、平成17年度までに整備すること、運用は国立教育政策研究所で行うこととされ、システムは平成17年度までに完成し、平成18年度から運用に入っており、このようなサイトを有効に活用し、授業のねらいに即した教育用コンテンツを探して大いに利用したい。 (特徴)
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校務の情報化によって、出欠管理、成績処理、保健管理などの校務を大幅に効率化することが可能になる。しかし、教員が個人用のパソコンを持ち込み校内LANに接続するなどによりコンピュータウィルスに感染させたり、外部記憶装置(USBメモリなど)を使うことで重要なデータを紛失することなどが問題となっている。
校務の効率化に加え、このような問題の解決のためにも、教員1人1台の校務用コンピュータの早急な整備を進めるとともに、第6章(校務の情報化)の情報セキュリティについての解説を参照頂きながら、次項で説明する校内LANを併せて整備し、より効率的で安全な環境の実現に努めたい。
校内LANを整備することで学習用ソフトウェアをサーバ等で一元管理することができ、校内で情報共有しながら使えるほか、校内のどの教室でもインターネット接続が可能になり、情報教育や教科指導でのICT活用において授業の質がより充実する。
また、学校ホームページにより学校情報を外部に公開していくことで保護者や地域とのコミュニケーションを生みだし開かれた学校づくりにも大きな効果がある。
図校内ネットワークの活用イメージ
図校内ネットワーク施設イメージ
校内LANの整備に当たって、一般的な留意点としては、以下のことが挙げられる。
【拡張性】
接続するコンピュータ数の増加や性能向上等に伴うコンテンツの増加に対応できる設計であること
【安全性】
情報セキュリティのほか物理的な安全確保が図られること。
落雷や雨による通信障害、周辺の電磁波対策、火災時に有毒ガスを発生しない材料、機器類の耐震対策、停電時のサーバ保護対策
また、校内LANの構成については、大きく有線と無線に大別される。有線にするか無線にするか、それらの組合せとするかは、それぞれの特徴を踏まえた上で、校舎等の実情や外部との接続環境(インターネット接続速度)を考慮して決定する必要がある。その際、有線の特徴や留意点を挙げると次のとおり。
○メタルケーブル
○光ファイバーケーブル
なお、校内LANの実際の整備において、教室間等を繋ぐ部分(基幹系)は有線によることが多いと考えられるが、これについては、新たに校舎内にケーブル(光あるいはメタル)の敷設を必要としない方法もあり、具体的には、PLC(電力線搬送通信;校舎内の電源ケーブルを利用した通信方式)や、テレビ共聴アンテナケーブルを利用するなど、校舎内の既存のケーブルを利用することも考えられることから、効率的な整備手法として検討に加えたい。
また、普通教室や特別教室等でクラス用コンピュータ(ノート型)を柔軟に使用したりするため、無線LANにより教室内の校内LANアクセス環境を効率的に整備していくことが望まれる。なお、無線LANにはいくつかの規格(2.4Ghz帯、5GHz帯等)があるため異なる規格間の互換性に注意するとともに、情報セキュリティについては暗号化に関する最新の状況などに十分配慮が必要である。
校内LANの整備については、これまで文部科学省及び総務省において整備の考え方や効果的な使い方について解説した報告書を作成し公開しているので活用してほしい。
「校内ネットワーク活用ガイドブック」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/kounai/index.html
「校内ネットワーク活用ガイドブック2005」(文部科学省)
http://www.japet.or.jp/handlers/getfile.cfm/4,158,116,32,pdf
「校内LAN導入の手引~校内LANモデルプラン集~」(総務省)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/pdf/index_01.pdf
学校におけるICT環境の保守管理にあたって、最も気を付けなければならないことは、情報セキュリティの確保や個人情報の保護、コンピュータウィルスへの対応である。校務用コンピュータに係る情報セキュリティ確保については、第6章「校務の情報化」を参照されたいが、子どもが使う教育用コンピュータや校内LANは、校務用とは取り扱うデータや使途が異なるので設定する環境も異なる。教育用コンピュータで配慮すべき点は、次のとおりである。
視点 | 対策 | 効果 |
安全 | フィルタリング | 1.違法・有害情報の遮断 |
管理 | ID・パスワード | 2.権限の制限 |
3.個人の認証 | ||
学習 | 4.情報セキュリティの実践学習 |
また、普段のシステム障害などへの対応として、外部専門家の雇用やICT支援員などによる管理体制を作り上げることが重要である。支援や管理体制については第6章「校務の情報化」及び第10章「教育委員会・学校における情報化の推進体制」で詳細に解説しているのでこちらを参照されたい。
整備にあたって初期経費はもちろん必要であるが、整備した後にもコンピュータや周辺機器、サーバ等のメンテナンスなど引き続き運用のための経費(ランニングコスト)が必要である。
日常のメンテナンスを充実することで、日常の授業でのシステムダウンや不具合などを回避できるのであり、必要な予算を充実させる必要がある。また、これから整備を進める学校においては、計画段階で整備後の運用も含めたランニングコストを十分念頭に置き、計画を立てる必要がある。
学校におけるコンピュータや周辺機器の整備、インターネット接続、教育用ソフトウェアの整備等のICT環境整備に必要な経費は、地方交付税措置(普通交付税)されている。ここでは、まず、地方交付税について触れておく。
地方公共団体は、教育、土木、厚生労働、産業経済、警察・消防などの各分野にわたり国民生活に密接に関連した行政サービスを提供しているが、すべての地方公共団体がそれぞれ必要な財源のすべてを地方税のみによって賄うことは困難である。そこで、地方公共団体間の財源の不均衡を調整し、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供できるよう保障するのが地方交付税である。
学校におけるICT環境整備に必要な経費が地方交付税に位置付けられているということは、それが、どの地域に住む国民にも一定の水準が維持されなければならない行政サービスの一つであると理解する必要がある。地方交付税は、こうした標準的な行政サービスとは何かを考えたときの経費を積算根拠として算定されるが、その使途については地方公共団体の自主的な判断に任せられている。
つまり、地方交付税の積算上は教育の情報化に必要な経費として算定されて地方公共団体に交付されるが、教育の情報化以外の使途にも充てることができる財源として扱われる。(一般財源)
図地方交付税措置のイメージ
教育の情報化を進めようとする場合、その整備等に必要な経費についてはしっかり予算要求を行い確保していかなければならない。地方公共団体の財政事情は厳しい現状にあり、教育の情報化が一定の水準が維持されなければならない行政サービスと位置付けられているからといって、予算が確保される訳ではない。また、国の掲げる目標(「IT新改革戦略」や各年度の「重点計画」)をもって必要性を訴えるだけでなく、投資に対する効果を示していかなければ予算を確保することが極めて困難な時代でもある。
「教育の情報化」の必要性、投資に対する効果を示していくためには、まず、教育の情報化の目的を理解する必要がある。教育の情報化の目的は、第1章でも述べたように、
の3つから構成され、これらを通じて教育の質の向上を図ることである。そこで、学校におけるICT環境整備に当たっては、情報活用能力を身に付けさせるための授業を行うにはどのような整備が望ましいのか、学習の関心・意欲を高め理解を深めるためにはどのような整備が望ましいのかを、教員によるICT活用、児童生徒によるICT活用の両面から検討すること、また、教員の事務負担軽減等のため校務の情報化としてどのような整備が望ましいのかなどについて検討することが必要である。
即ち、教育委員会・学校において学校のICT環境整備のねらいや期待する効果を明確にし、説明できるだけのビジョンをもって予算要求に臨むことが非常に重要である。そして、その際、教員のICT活用指導力の向上のためどのような研修を行うか、整備されたICT環境をどのように活用していくか、実際に活用して授業を行う教員をどのようにサポートしていくかまでの施策全体を関連付けし、教育委員会内・首長部局など関係部署との連携を図りながら、計画的に整備を行うことが必要である。
地方交付税の使途が地方の自主的な判断に任されているからこそ、地方公共団体が、教育の質の向上に向けて、それぞれの教育の情報化ビジョンをしっかり構築することが極めて重要である。
なお、こうした学校のICT環境整備等を着実に行う上で、第10章で解説する教育CIO・学校CIOのリーダーシップやマネジメントが大きく寄与する。
初等中等教育局