教科指導におけるICT活用とは,教科の学習目標を達成するために教師や児童生徒がICTを活用することである。学習指導要領では,各教科において随所にICT活用が例示されている。これらは,1)学習指導の準備と評価のための教師によるICT活用,2)授業での教師によるICT活用,3)児童生徒によるICT活用の3つに分けられる。
1)学習指導の準備と評価のための教師によるICT活用とは,よりよい授業を実現するために教師がICTを活用して授業の準備を進めたり,教師が学習評価を充実させるためにICTを活用したりすることである。また,これらのICT活用は,教員のICT活用指導力チェックリスト大項目A「教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」に関係する。具体的なICT活用の例については,第2節の1で述べる。
2)授業での教師によるICT活用とは,教師が授業のねらいを示したり,学習課題への興味関心を高めたり,学習内容をわかりやすく説明したりするために,教師による指導方法の一つとしてICTを活用することである。その際のICT活用の目的は,情報の提示のためが最も多い。学習指導要領における教師によるICT活用の例示の多くは,映像や音声といった情報の提示である。また,教員のICT活用指導力チェックリスト大項目B「授業中にICTを活用して指導する能力」に関係するが,ここで示される4つの小項目は全て情報の提示に関することである。教師がICTを活用して情報を提示することは,教師による発問,指示や説明とも関係が深く,全ての教科指導の数多くの指導場面で実施可能であると考えられる。具体的なICT活用の例については,第2節の2で述べる。
3)児童生徒によるICT活用とは,児童生徒が,情報を収集や選択したり,文章,図や表にまとめたり,表現したりする際に,或いは,繰り返し学習によって知識の定着や技能の習熟を図る際に,ICTを活用することによって,教科内容のより深い理解を促すことである。また,教員のICT活用指導力チェックリスト大項目C「児童・生徒のICT活用を指導する能力」に関係する。具体的なICT活用の例については,第2節の3で述べる。一方で,学習指導要領の各教科における児童生徒のICT活用の例示は,教科の学習目標の達成と同時に,情報活用能力の育成を狙っているものもある。ここではあくまで教科指導の場面において児童生徒がICTを活用することによって教科の学習目標が効果的に達成される場合に絞って記述する。情報活用能力の育成については第4章を中心に述べる。
学習指導要領の総則において,教師がコンピュータや情報通信ネットワークなどの「これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」と記述されている。また,学習指導要領解説総則編では,「これらの教材・教具を有効,適切に活用するためには,教師はそれぞれの情報手段の操作に習熟するだけでなく,それぞれの情報手段の特性を理解し,指導の効果を高める方法について絶えず研究することが求められる」と記述されている。
これらの記述は,学習指導におけるICT活用の必要性の根拠であり,授業の中でICTを効果的に活用し,指導方法の改善を図りながら,児童生徒の学力向上につなげていくことが重要であると考えられる。また,ICTを「有効,適切に」活用することが示されていることから,ICTの教育効果や活用する上での配慮点を十分考慮することが重要であるといえる。
学習指導要領解説総則編第2章「教育課程の基準」によれば,学習指導要領は「目標,指導内容」等についての基準を示すものとされている。一方,目標や指導内容をどのように教えるかという「指導方法」は,学校および教師が工夫改善していくものであり,学習指導要領の総則において配慮する事項として示されている。その中でも,教科指導でのICT活用については,個別指導やグループ別指導,教師の協力的指導等の指導方法や指導体制の工夫改善とともに,教育効果が期待できる指導方法として取り上げられている。
また,教科指導でのICT活用に関する記述は,情報社会の進展などの社会の変化を踏まえた特色を示すものであると考えられ,各学校が常に工夫改善を図りながら,社会の変化に対応した教育活動を推進することの必要性を示している。
平成18年度に独立行政法人メディア教育開発センターが文部科学省の委託を受けて実施した「教育の情報化の推進に資する研究(ICTを活用した指導の効果の調査)」結果から。
学習指導でのICT活用による効果については,これまでの調査研究などから明らかになっている。例えば,平成18,19年度に実施された文部科学省委託事業による調査研究において,全国で実施された752件の検証授業を分析評価した結果では,ICT活用して授業を行った教員の98.0%が,「関心・意欲・態度」の観点において効果を認めていた。それ以外の観点(知識・理解,思考・判断,表現・技能・処理)や,ICT活用によって児童生徒が集中して取り組めるようになることや児童生徒が楽しく学習出来るようになること等についても,多くの教師が効果を認めていた。また,児童生徒に対する調査によれば,学習に対する積極性や意欲,学習の達成感など全ての項目について,ICTを活用した授業の場合の方が評価が高かった。さらに,児童生徒に対する客観テストの結果によれば,各教科の得点や「知識・理解」や「技能・表現」の観点で高い効果が得られた。以上のように,ICTを活用して教科指導することは,教師のみならず,児童生徒に対しても学力向上に高い効果があることが明らかとなっている。
ここでは,教科の学習目標を達成するために教師がICTを効果的に活用することについて述べる。
学習指導の効果を高めるICT活用のためには,ICT活用と教師の授業技術との関連を意識することが重要となる。単に授業でICTを活用すれば,教育効果が期待できるものではなく,ICT活用の場面やタイミング,活用する上での創意工夫が教師の授業技術に大きく関わっていると考えられる。つまり,「ICTそのものが児童生徒の学力を向上させる」のではなく,「教師の授業技術としてICT活用を明確に位置づけることが児童生徒の学力向上につながる」といえる。
例えば,コンピュータや実物投影機等の映像をプロジェクタ等で大きく映すだけで,学力が向上すると単純には考えにくい。特に,児童生徒の興味関心を高めるためであるならば,単に映像を見せるだけではなく,指導のねらいや児童生徒の実態に応じた題材や素材を教師が十分吟味して選んでいくことが重要である。また,その映像をタイミングよく教師が大きく映して提示したり,提示した映像などを指し示しながら発問,指示や説明をしたりすることで,ICT活用による効果が期待できる。より高い教育効果に結びつけるためには,ICT活用に加えて,指導のねらいの把握,日頃からの児童生徒の実態把握,授業におけるタイミング,発問,指示や説明といった従来からの授業技術との融合も重要となる。この観点から考えれば,ICTによる情報の提示は,板書のそのまま代わりになるものではない。提示した情報について説明等をした上で,従来通り重要な点は板書をし,児童生徒にノートをとらせる指導も重要となる。
一方,児童生徒の立場で考えれば,ICTによって提示された情報を見て,教師の説明や指示等を聞き,対応する学習活動を行って学習が進むことになる。その際に提示される情報は,CD-ROMで入手された教科書準拠のコンテンツなのか,実物投影機で映した教科書であるのか,インターネットによって入手されたデジタルコンテンツなのか,或いは,プロジェクタなのかプラズマディスプレイなのかといった提示手段や機器の種類の違いよりも,教師の説明等がよりわかるための情報の提示となっているかが重要となる。また,より高次な情報の提示手段として,ICTの特徴の一つであるインタラクティブ性の活用がある。ICT機器を操作する教師とのインタラクティブ性が高ければより授業のしやすさは向上すると考えられるが,学力向上といった学習指導上の効果はむしろ教師と児童生徒とのインタラクティブ性を保障することの方が重要である。つまり,高価なICT機器であるかどうかや,技術的な難易度が高いといったこと,或いはICTの特徴を活かした機能といったことだけでは,学習効果を高めるために直接的な役割を果たさない可能性もある。このような点に配慮してICT活用を行う必要がある。指導の効果を高めるためのICT活用の具体的な研究や研修方法については,第3節の2で述べる。
ここでは,教科の学習目標を達成するために児童生徒がICTを効果的に活用することについて述べる。
基礎的・基本的な知識・技能を習得する際に欠かせない繰り返しの学習指導では,一人一人の習熟の度合いに応じた指導が必要となる。その際に,指導の記録や習熟の度合いの把握をしやすくしたり,個に応じた問題の作成の効率化を図ったりする上で,児童生徒がドリルソフト等のICTを活用すると効果的である。
そして,発表,記録,要約,報告といったといった基礎的・基本的な知識・技能を活用した学習活動においても,ICTを活用することでより充実した学習が実現できる。このような学習活動は,学習指導要領の各教科において具体的な記述が数多くなされている。例えば,学習指導要領解説総則編では,小学校では,国語科における言語の学習,社会科における資料の収集・活用・整理,算数科における数量や図形の学習,理科の観察・実験などが示されている。また,中学校では,国語科,社会科,数学科,理科,外国語科等の各教科における資料の収集・処理,観察・実験と示されている。その他にも,各教科において多くの記述がなされており,児童生徒によるICT活用を含んだ学習活動が,普段の授業において適切に行われることが必要である。
その上で,これらの各教科での学習活動は,総合的な学習の時間における問題解決や探究活動の過程における,より発展的なICT活用を含んだ学習活動につながっていくことに配慮する必要がある。
また,各教科において,児童生徒が適切にICTを活用するためには,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作が身に付いていることが前提となる。小学校学習指導要領の総則に示されるように,小学校段階において基本的な操作能力を身に付けさせておくことが重要となる。これらのことについて詳しくは第4章で述べる。さらに,校内のICT環境の整備を推進し,児童生徒がいつでもICTが活用できる環境を整えておくことや,児童生徒が安心してICTを活用できるように,情報機器にフィルタリング機能の措置を講じたり,情報セキュリティの確保などに十分配慮したりすることが必要である。
教育環境や教育機器は多様化しており,ICT機器の種類も多く,教師がICT機器を適切に選定し,授業の中でICT機器を効果的に活用することが望まれる。ICT機器を選定するにあたって,児童生徒にとって教師の発問,指示や説明がよりわかりやすくなるかが重要な観点となるだろう。例えば,情報提示のためのICT機器は,出力系(プロジェクタ,プラズマディスプレイ,電子黒板等),入力系(教科書準拠デジタルコンテンツ,実物投影機,インターネット,地上デジタルテレビ放送,CD-ROM及びDVD等による教育コンテンツ等)の2種類に主に分けられる。その際,コンピュータ,インターネットや校内LANは,情報提示を支えるための基本インフラといえる。その他,児童生徒の知識の定着を図るために,各自がドリルソフトで学習する場合などには,児童生徒用のコンピュータを活用させることも想定できる。
さらに,それぞれの情報手段の特性を理解し,適切に活用していく必要がある。どのようなICT機器を用いた場合においても,最終的には教師と児童生徒との関係を重視し,そのためには従来から培われてきた教師の授業技術に,ICT活用が適切に組み合わされることで効果が得られると配慮する必要がある。
文部科学省委託研究の結果によれば,ICT活用に関する効果は,ほぼ毎日或いは週に2,3回といったICT活用の頻度の高い教師ほど,ICTが授業の質を高め授業の改善に役立つと強く感じていることが明らかとなっている。つまり,日常的に高頻度で活用できるICT環境を整備することで,より授業の質が高まると考えられる。また,このためのICT環境の構築や,授業の質を高めるためのICT活用事例などは,高頻度で活用する教師のノウハウを活かしていくことが重要であろう。
日常的にICTを活用した指導を行うための教室の準備については,第3節の1で述べる。
授業の計画段階において,教育効果をあげるには,どの場面でどのようにしてICTを活用するかの計画を検討することが重要である。その際には,指導のねらいを意識し,そのために必要なICT機器やコンテンツなどを準備し,教室でのICT環境を整える。また,授業が終わった後には,授業でICTを活用することで,どのような効果があったかを振り返り,次の授業の改善に活かすことも有益である。このようなことを繰り返すことで,授業におけるICT活用のイメージを把握することができる。
授業で使う教材や,指導事例といった資料を収集するためにインターネットやCD-ROMなどが活用できる。また,授業で活用するための映像等を記録するために,デジタルカメラやビデオカメラ等を用いることもできる。インターネット等から入手できる気象情報といった情報は,最新であり実際に社会で使われているものも多い。このような授業に役立つ情報が職員室や教室にいながら入手できることはICT活用の大きなメリットである。そして,教材や資料等が蓄積されているインターネット上の場所やその入手の方法といったことも,教師間で日頃から情報交換することも有益である。ICTを用い,効率的な収集方法で指導のねらいに沿った資料を,的確に収集できる能力を身につけていくことが重要である。
授業に必要なプリントや提示資料を作成するために,ワープロソフトやプレゼンテーションソフトなどを活用することができる。作成した提示資料は,印刷して配布したり,プロジェクタ等で大きく映したりして提示できる。児童生徒の実態に応じて,教師の創意工夫にあふれた提示資料を作成することで,教育効果がより高まることが期待できる。また,ICTを用いて作成された提示資料は,再利用や共有がしやすく,それによって準備時間が短くてすむメリットがある。校内のサーバ等に保存し,教師間での共有することも有益である。著作権に配慮しつつ提示資料等を効率的に作成できる能力を身につけることが重要である。
児童生徒の学習評価を充実させるために,成績の集積,学習状況把握のために表計算ソフト等が活用できる。また,学習活動の過程や成果などの記録や作品を計画的に集積したポートフォリオによる評価のために,コンピュータやデジタルカメラ等を用いて児童生徒の作品を記録したり集積したりすることができる。
また,児童生徒が個別にドリル学習等を行うソフトウエアにおいて自動的に学習状況や成績などが自動的に集積されるものや,通知表などを作成するための専用のソフトウエアなどの活用も有益である。ICTを用いて,より効率的で充実した評価を実現することが重要である。
それぞれの教科の学習内容や学習対象に対して関心を持ち,進んでそれらを調べようとしたりするといった興味や関心を高めるためにICTが活用できる。児童生徒が各自で教科書にあるさし絵等を見るのではなく,大きく映してクラス全員で共有することで,これから読む物語のイメージをよりふくらませることができる。また,火山の噴火等の映像を大きく映して見せることは,よりリアリティをもたせることとなり,児童生徒に驚きや感動を与えることができる。
学習指導を円滑に進めるためには児童生徒一人一人が課題を明確につかむことが欠かせない。そのためにICTが活用できる。教科書の問題文や図表を拡大提示することで,教師が言葉だけで伝える以上に,児童生徒一人一人がこれから学習する課題を把握することができる。また,自分の演技とお手本を比較できる映像等を見せることで,他者から言われるのではなく自分自身で課題に気づくことができる。
児童生徒のつまずきを防ぎわかる授業を実現するために,またよりよく思考や理解を深めるためには,映像等を組み合わせながら説明をすることが大切である。そのためにICTが活用できる。操作手順やグラフの読み取りなどを指導する際は,映像やグラフの拡大提示,シミュレーションソフト等を活用することで,よりわかりやすい説明が実現できる。また,複雑な事象等について思考や理解を深めるために,アニメーション映像をみたり,それについて意見をまとめた児童生徒のノートを拡大提示しながら話し合ったりすることなどを通して,より児童生徒の思考や理解を深めることができる。
知識の定着を図る際に,教師が児童生徒一人一人の習熟の度合いに応じた指導をしたりするために,ICTが活用できる。繰り返しの学習は,知識の定着には重要であるが単調になりがちであるが,ICTを活用することで,変化に富んだ繰り返し学習が可能となる。例えば,ICTを用いたフラッシュ型教材等を活用することで,児童生徒が集中して取り組むことができ,効率的に知識を定着させることができる。
教科の学習内容をより深く理解したり,現実の社会との関連をより深く把握したりするために,児童生徒の手元にある教科書や教材のみならず,その他に最新或いは実際の資料やデータ等を,収集したり選択したりする学習活動が行われることが大切である。そのために,児童生徒やコンピュータやインターネットといったICTが活用できる。見学,観察や実験した結果をコンピュータやデジタルカメラ等で記録するといった情報の収集を行ったり,統計資料,文章資料,映像資料等を,コンピュータやインターネットを用いて収集したりできる。また,これらの各種の資料の情報を比較したり,必要な情報を選択したりすることも重要である。
これまで学んできたことや調査結果などを活かして自分の考えを文章にまとめたり,図書やインターネット等で調べたことを根拠に表や図にまとめたりする学習活動が行われることが大切である。この際に,ワープロソフトや表計算ソフトといったICTが活用できる。児童生徒が表計算ソフトを活用して,表やグラフに表したり,さらにそれらをワープロソフトに貼り付けたりしてまとめることで,わかりやすい資料を作成することができる。また,グループに分かれて調べたことをまとめる際に,電子掲示板や共有フォルダを活用してお互いの考えを共有化することもできる。
単元の後半では,これまでに学んだこと,調べたことや意見を,わかりやすく発表したり表現したりする学習活動が重要である。この際に,コンピュータやプレゼンテーションソフトといったICTが活用できる。スライドの構成や提示順序の工夫に配慮して,プレゼンテーションを作成することで,相手にわかりやすく伝えることができる。また,簡単な音楽づくりや絵を描く道具としてもコンピュータを用いることができる。
知識の定着や技能の習熟のために,児童生徒が繰り返し学習をしたり練習したりするためにICTが活用できる。児童生徒が個々にドリル等に取り組むためのソフトウエアを活用すると,教師は一人一人の達成度や正答率等を把握することができ,より充実した学習指導が行えるようになる。
日常的にICTを活用して指導を行うことが,指導の改善,学力向上のためには欠かせない。そのためには,ICTに合わせて教師の授業技術を変更するのではなく,それぞれの教師が長年にわたって培ってきた授業技術をさらに伸長させるためにICTが活用できるように,教室でのICT環境を整えることが重要となる。
従来から多くの授業が,長く広い黒板全体を使って板書が行われ,それらを指し示したりしながら話をして進行すると考えれば,特にICT活用と板書との連携に配慮する必要がある。ICTを用いてスクリーン等に提示される情報は,黒板と比較すれば面積は小さく,板書と比較すれば短時間で切り替わってしまう傾向にある。一方で,従来通り,授業において板書をし,児童生徒にノートをとらせることは欠かせない。したがって,日常的にICTを活用する多くの教師は,スクリーン等に提示された情報を用いて説明をするものの,押さえるべきことは黒板に板書する,という組み合わせた活用を行っている。そこで,情報を提示するためのスクリーン等は,黒板上にあるか,或いは,近くにある方が両者の連携がしやすいといえる。ただし,それぞれの教師の指導方法に合わせることを考えれば,黒板の左右中央や,教室の左右中央のどこにスクリーン等を設置するかは,それぞれの教師が決められる方が望ましいともいえる。
日常的にICTを活用するためには,準備時間を出来る限り短くすることが欠かせないが,そのためには2つの点に配慮する必要がある。一つは,ICT機器が普通教室や特別教室など全ての教室に常置されていることが望ましい。ICTが必要な授業場面でいつでも使えるように教室にICT機器が置いてあることが重要である。次に,準備に時間がかからないICT活用を行うことである。機器が設置や調整等が簡単で,すぐに使えるICT機器であること,そして,コンテンツなどの提示する情報の準備が短くて済むことが大切である。教科書がそのまま映る教科書準拠コンテンツの活用や,実物投影機を用いた児童生徒のノートの投影など,授業の流れに応じて,臨機応変に情報が提示できることで日常的な活用が促される。忙しい教師が,優れたコンテンツ等を必要に感じたときに,機器の設置やコンテンツの入手等の準備時間も少なく,すぐに提示できるように環境を整える必要がある。
教室に機器を常置する場合には,清掃,班活動や給食の時間など,教室は多様な目的で使われており,その度に児童生徒や机の移動があることに留意する必要がある。機器同士をつなぐケーブル,スタンド等が教室にあると,掃除等の度に移動させる必要がある。また,ケーブル等につまずくといった危険にもつながる。これらに配慮した機器の設置が行われる必要がある。また,設置場所について調査結果によれば,日常的にICTを活用している教師と,そうでない教師で,それらの設置場所の回答が異なっていた。日常的に活用している教師のノウハウを活かした設置方法を検討する必要がある。
学習指導要領解説総則編では「それぞれの情報手段の特性を理解し,指導の効果を高める方法について絶えず研究することが求められる」と記述されている。指導の効果を高めるためのICT活用の研究や研修を行う場合には,学習指導とICT活用を密接に関連づけながら行うことに留意する必要がある。例えば,コンピュータやインターネットを用いてデジタルコンテンツのダウンロードの仕方を研修しただけでは,授業でそのまま活用できるようにはならない。それらを,どのように授業で活用するかという視点が欠けているからである。そこで,具体的には,児童生徒がつまずきやすい学習場面や,指導に困難を感じる場面を取り上げ,ICTを用いて,どのように指導するとわかりやすくなるかといったことを明らかにしたり,ディスカッションしたりする授業研究や研修が考えられる。また,ICTを活用した指導場面を取り上げ,模擬的な授業をお互いに行う研修も考えられる。ICT活用は授業技術の向上や改善のためであり,ICT機器の操作の習熟のみならず,それを実際に授業で使うための研究・研修を同時に行うことが重要である。
初等中等教育局