学校におけるコンピュータや周辺機器の整備、インターネット接続、教育用ソフトウェアの整備等のICT環境整備に必要な経費は、地方交付税措置(普通交付税)されている。ここで、地方交付税について触れておく。
地方公共団体は、教育、土木、厚生労働、産業経済、警察・消防などの各分野にわたり国民生活に密接に関連した行政サービスを提供しているが、すべての地方公共団体がそれぞれ必要な財源のすべてを地方税のみによって賄うことは困難である。そこで、地方公共団体間の財源の不均衡を調整し、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供できるよう保障するのが地方交付税である。
図 普通交付税の仕組み(総務省ホームページより)
学校におけるICT環境整備に必要な経費が地方交付税に位置づけられているということは、それが、どの地域に住む国民にも一定の水準が維持されなければならない行政サービスの一つであると理解する必要がある。地方交付税はこうした標準的な行政サービスとは何かを考えたときの経費を積算根拠として算定されるが、その使途は地方公共団体の自主的な判断に任せられている。つまり、地方交付税の積算上は教育の情報化に必要な経費として算定され地方公共団体に交付されるが、教育の情報化以外の使途にも充てることができる財源として扱われる。(一般財源)
こうしたことから、教育の情報化を進めようとする場合、その整備等に必要な経費についてしっかり予算要求を行い確保していかなければならない。地方公共団体の財政事情は厳しい現状にあり、教育の情報化が一定の水準が維持されなければならない行政サービスと位置づけられているからといって、何もしなくても学校におけるICT環境整備等のための予算が確保される訳ではない。国の掲げる目標(IT新改革戦略や重点計画)をもって必要性を訴えるだけでなく、投資に対する効果を示していかなければ予算を確保することは極めて困難な時代である。
「教育の情報化」の必要性を説明するには、投資に対する効果を示していくことが重要であるが、まず、教育の情報化の意味を理解する必要がある。教育の情報化は、指導場面に着目した場合、従前より次のような観点があると整理されているとともに、
という観点の3つに大別され、これらを通じて教育の質の向上を図ることである。
学校におけるICT環境整備に当たっては、情報活用能力を身に付けさせるための授業を行う上でどのような整備が望ましいのか、子どもたちの学習の理解を深め、学力を向上させるためにどのような整備が望ましいのか、これらを教員によるICT活用、児童生徒によるICT活用の両面から検討すること、また、校務の軽減化等のため校務の情報化として(教員にとって)どのような整備が望ましいのかなどについて検討することが必要である。
即ち、教育委員会・学校において学校のICT環境整備のねらいや効果を明確にし、説明できるだけのビジョンをもって予算要求に臨むことが非常に重要である。そして、その際、教員のICT活用指導力の向上のための研修をはじめ、整備されたICT環境をどのように活用していくかまでの施策全体を関連付けし、教育委員会内・首長部局など関係部署との連携を図りながら、計画的に整備を行うことが必要である。地方交付税の使途が地方の自主的な判断に任されているからこそ、地方公共団体が、教育の質の向上に向けて、それぞれの教育の情報化ビジョンをしっかり構築することが極めて重要である。
※第8章と整合を図る意味で、教育CIO・学校CIOの役割についても触れる。
このほか、学校におけるICT環境整備に関する補助金等についても紹介しておく。
学校におけるハードウェアの整備については、コンピュータ教室、各普通教室及び特別教室等の教育用の整備としてのコンピュータ、学習用ソフトウェアや周辺機器等が必要なほか、教員が校務用に使用する校務用としてのコンピュータ、校務用ソフトウェアや周辺機器が必要である。
整備にあたっては当然予算が必要であり、計画的に整備していくことが重要である。また、情報共有等のするための校内LANやインターネット接続といったネットワーク環境の整備も必要となってくる。以下において、学校における具体的なICT環境の整備例について解説する。
普通教室におけるICT環境整備については、IT新改革戦略では、教育用コンピュータ2台に加え、クラス用コンピュータ(可動式のノート型コンピュータ)を40台(標準法に基づく目安の台数)配備することとしている。各教科等の指導においては、子どもたちの学力の向上のためにICTを活用しつつ、子どもたちの情報活用能力の育成を念頭に置く必要がある。
普通教室2台の教育用コンピュータについては、1台を教員がプロジェクタ等を介して提示するために使用し、もう1台を子どもたちの発表や授業中に子どもたちが疑問に感じたことを調べるために使用する方法がある。2台とも子どもたちの調べ学習のために使用することも考えられ、それぞれの授業ねらいを達成するためにICTの特性をどう活かすかによって活用方法は大きく変わってくる。
また、クラス用コンピュータについては、1つの教室で全員で使用すればコンピュータ教室と同様の活用が可能となるほか、40台を各教室に数台ずつ割り振ることでグループ学習の際にグループに1台で活用することも可能になる。
このように普通教室におけるICT環境整備にあたっては、日常的にICTを活用することを念頭に、それぞれの授業における学習のねらいを明確にし、そのための整備や活用の方法を工夫することが重要である。
コンピュータ教室におけるICT環境整備については、IT新改革戦略では、教育用コンピュータ42台を整備することとしており、このうち40台(標準法に基づく目安の台数)が児童生徒用、2台が教員用である。また、特別支援学校では、・・・。
コンピュータ教室の場合、子ども1人1台のコンピュータが使用できるという特性を活かした使い方が求められる。例えば、(P)キーボードを使って文字入力の学習をすることや1人1人に課題をまとめさせるなど、子どもの情報活用能力の育成を図る目的もあれば一斉にドリルを使って子どもの個々の学習進度に応じた学習に使うこともできる。
※このほか、コンピュータ教室における整備の留意点、配列の例や施設環境などについて解説する。
特別教室におけるICT環境整備については、IT新改革戦略では、各学校で6台整備することとしている。
特別教室(理科室、音楽室、図書室など)で各学校ごとに6台ある場合は、6台を一つの教室に集約し、グループ学習で使わせたり、各1台づつ配備して使わせる等学習のねらいを勘案した整備が求められる。コンピュータを移動させて使用する機会が多い場合にはノート型のコンピュータとするなど、それぞれの学校の事情に応じて適切なものを選定する必要がある。
特別教室における周辺機器としては、現在、授業では主に、普通教室と同様にプロジェクタ、実物投影機、電子黒板、デジタルカメラなどのほか、理科の授業でデジタル顕微鏡、音楽の授業で電子楽器、図書室での図書管理のためのバーコードリーダーなどがある。
教育用ソフトウェアは、基本ソフトウェア等のほか、文書や図表作成等に汎用的に用いる基本的なアプリケーションソフトウェア、教科指導に用いるために特に工夫された学習用ソフトウェア、成績処理、時間割作成、保健管理などに用いる校務用ソフトウェアなどに大別できる。特に、教科指導に用いる学習用ソフトウェアにはその用途により様々なものがあり、ドリル学習型、解説型、問題解決型、シミュレーション型、表現・コミュニケーション用のツール型、情報検索用のデータベース型などがあり、今日では、多くの企業等が様々なソフトウェア等を市販するようになり、その数、種類も大変増加している。
また、単体としてのソフトウェアではなく図書教材と連携したソフトウェアや、活用のための実践事例や指導用マニュアル、資料集、児童生徒用活動シート、ビデオ教材などを組み合わせた教材も増えてきており、これらを授業で効果的に活用することでより一層の学習の充実に努めたい。
(教育の情報化に必要なソフトウェアの分類)
- 基本ソフトウェア - 言語処理ソフトウェア |
・オペレーティングシステム(OS) | |
- 基本的応用ソフトウェア | ・日本語ワードプロセッサ | |
・表計算 | ・データベース | |
・図形作成 | ・プレゼンテーション | |
・インターネット閲覧 | ||
・電子メール | ・ホームページ作成 | |
・ウィルス対策、情報セキュリティ、フィルタリング | ||
○学習用ソフトウェア | ・ドリル学習型 | ・解説指導型 |
・問題解決型 | ・シミュレーション型 | |
・教材作成 | ・資料、データ集 | |
・デジタル教科書 | ||
・プログラミング言語 | ||
・授業支援システム | ||
○校務用ソフトウェア | ・グループウェア機能(掲示板、施設予約等) | |
・教務機能(成績管理、時数管理等) | ||
・保健管理機能 | ||
・学務処理機能(図書管理、文書管理) |
学習用ソフトウェア(教育用コンテンツ)については、現在様々なものが普及しており、動画から写真やイラストなどの素材型に加えドリル学習型やシミュレーション型などその種類は豊富になっている。有料のものや無料のもの、DVDやCDといったパッケージのもの、インターネットによりダウンロードするものなど様々である。
コラム
教育情報ナショナルセンター(NICER)
校務の情報化によって、出欠管理、成績処理、保健管理などの校務を大幅に効率化することが可能になる。しかし、教員の個人用のパソコンを持ち込み校内LANに接続するなどによりコンピュータウィルスに感染したり、外部記憶装置を使うことで重要なデータを紛失することなどが問題となっている。
校務の効率化に加え、このような問題解決のためにも、教員1人1台の校務用コンピュータの早急な整備を進めるとともに、次項で説明する校内LANを併せて整備することでより効果的な環境の実現に努めたい。
校内LANを整備することで学習用ソフトウェアをサーバ等で一元管理することができ、校内で情報共有しながら効果的に使えるほか、校内のどの教室でもインターネット接続が可能になり、情報教育や教科指導でのICT活用において授業の質がより充実する。
また、学校ホームページにより学校情報を外部に公開していくことで保護者や地域とのコミュニケーションを生みだし開かれた学校づくりにも大きな効果がある。
(校内LANメリットのイラスト)
学校におけるコンピュータ利用の様子を考えてみると、企業等における利用と比較して以下のような相違点がある。
このため、学校及び教育委員会が中心となって標準的な方針を示し、それに基づいて各学校が具体的な利用の場面を想定し、それらを踏まえて設計・施工業者等が設計を行うなど、関係者は十分に連絡を取りつつ協力して実施することが大切である。
単に校内LANを整備するのではなく、設計の前にインターネットを使った学習活動、教育用コンテンツなどの一元管理、校務情報化に関してやってみたいことを考え具体的なビジョンを作成し、校内LAN整備後の簡便性を考え、その上で校舎の特徴や環境などを勘案し、セキュリティも含め、設計・施工業者等に設計を依頼することが重要である。
特に、教育用コンテンツの大容量化や、授業で一斉にインターネットを利用することへの対応などのため、超高速インターネットの導入を積極的に進めることが必要である。
(校内LAN設置における主な留意点の図)
(ネットワークにおける有線と無線の比較の図)
※校内LANの詳細な構成について、以下の資料を参考にしながら概説する。
学校におけるICT環境の保守管理にあたって、最も気をつけなければならないことは、セキュリティの確保や個人情報の保護、コンピュータウィルスへの対応である。特に、校務で使用するコンピュータ上では子どもの個人情報など重要な情報も多く扱われており、最大限の注意を払わなければならない。
保守管理上重要なことや体制については以下のとおりである。
また、普段のシステム障害などへの対応として、外部専門家の雇用やICT支援員などによる管理体制を作り上げることが重要である。
整備にあたっての初期経費はもちろん必要であるが、整備した後にもインターネット回線使用料やICT機器のメンテナンスなど引き続き運用のための経費(ランニングコスト)が必要である。
日常のメンテナンスを充実することで、日常の授業でのシステムダウンや不具合などを回避できるのであり、必要な予算を充実させる必要がある。また、これから整備を進める学校においては、計画段階で整備後の運用も含めたランニングコストを十分念頭に置き、計画を立てる必要がある。
各学校の校内LANや教育委員会、教育センターを結ぶ教育用イントラネット(教育用広域LAN)を構築し、各地域センター(教育センター等)に情報機器等を設置して地域で共有することでより安全で快適な学校のICT環境を整備することができる。地域内の学校間、教育委員会との情報交換や情報共有がスムーズになり、より効率的な校務処理や効果的な学習活動が期待できる。整備に必要な経費については、第1節で説明した総務省「地域イントラネット基盤施設整備事業」の補助対象となっており、活用しながら教育用イントラネットの構築を進めたい。
初等中等教育局参事官付課