ここからサイトの主なメニューです

第9章 教員のICT活用指導力

第1節 教員に必要となるICT活用指導力

 情報モラルの育成や「わかる授業」を実現するためには,一人一人の教員がICT活用指導力の向上の必要性を理解し,校内研修などを積極的に活用して自ら研修を進めることが必要である。本章では、教員に必要となるICT活用指導力とそれを身に付けるための研修の在り方について述べる。

1.教員のICT活用指導力チェックリスト

 社会全体のあらゆる分野での情報化が進展しており,携帯電話やブロードバンドなどの普及率が示すとおり情報化の主役は個人となっている。このような社会において,一人一人の児童生徒に情報活用能力を計画的・体系的に育成することは,ますます大切になってきている。学校は「生きる力」をはぐくむという学習指導要領の理念を実現するため,情報教育の一層の充実が求められており,児童がコンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作を身に付けたり,生徒が情報手段の特性などを科学的に理解したりするだけでなく,情報を主体的に活用したり,情報モラルを身に付けたりすることが一層重要となっている。そのため全ての教員は,ICTを効果的に活用して児童生徒の学習に対する興味や関心を高めて「わかる授業」を実現するとともに,児童生徒のICT活用を指導したり,情報モラル教育を推進したり,ICTを校務に効果的に活用したりすることが求められている。
 このような社会的要請を背景として,教員のICT活用指導力の向上は,政府の「e-Japan戦略」(平成13年1月IT戦略本部決定)の重要な政策課題として位置付けられ,各自治体では「概ね全ての教員がコンピュータ等を使って指導できるようにする」ための様々な取り組みがなされた。「IT新改革戦略」(平成18年1月IT戦略本部決定)では,「全ての教員のICT活用指導力の向上」が目標とされ,「コンピュータ等を使って指導できる」という基準の具体化・明確化が検討された。平成19年2月に「教員に必要となるICT活用指導力」は,5つの大項目と18のチェック項目から構成された「教員のICT活用指導力チェックリスト」として公表された。「教員のICT活用指導力チェックリスト」は,児童生徒のICT活用能力の進展や,小学校の学級担任制と中学校・高等学校の教科担任制の違いなどを考慮して,「小学校版」と「中学校・高等学校版」の2種類が作成された。大項目は各学校種での発達段階が違っても共通になる部分が多いため,「小学校版」では「児童」,「中学校・高等学校版」では「生徒」と記述されている以外は同一の記述となっている。チェック項目は「小学校版」と「中学校・高等学校版」の違いが明らかになるよう記述されている。
 次に,教員のICT活用指導力チェックリストの5つの大項目と18のチェック項目について説明する。
 「A 教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」は,授業の準備段階及び授業終了後の評価段階において,教員がICTを活用する能力についての大項目である。この大項目は,児童生徒を前にして「指導」している場面ではないことから,狭い意味での「指導力」には含まれないことになるが,各教科等において効果的にICTを活用して授業を行うためには,授業設計や教材研究,授業評価が極めて重要であることから,広い意味での「指導力」の一部と捉え、大項目の1つとしている。「A 教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」には、A−1〜A−4の4つのチェック項目がある。
 「A−1 教育効果をあげるには、どの場面にどのようにしてコンピュータやインターネットなどを利用すればよいかを計画する」は、教員が授業の計画段階において、どの場面にどのようにしてコンピュータやインターネットなどを利用すればよいのか、すなわち、教員が授業におけるICT活用のイメージを持つことができるかどうかの能力を評価するチェック項目である。
 「A−2 授業で使う教材や資料などを集めるために、インターネットやCD-ROMなどを活用する」は、教員が指導に必要な資料を収集する際に、インターネットなどの豊富な情報源を利用することが考えられる。それらの情報源を用いて、効率的な収集方法で指導目標に沿った資料を、的確に収集できる能力を評価するチェック項目である。
 「A−3 授業に必要なプリントや提示資料を作成するために、ワープロソフトやプレゼンテーションソフトなどを活用する」は、授業で活用する資料を作成する際に、ワープロソフトやプレゼンテーションソフトを活用することが考えられる。資料作成において、ICTを活用して、準備時間を短縮したり効率的に作成したりする能力を評価するチェック項目である。
 「A−4 評価を充実させるために、コンピュータやデジタルカメラなどを活用して児童(生徒)の作品・学習状況・成績などを管理し集計する」は、コンピュータやデジタルカメラなどを活用して児童生徒の作品や学習状況、成績などを管理し、表計算ソフトなどを用いて集計することで、より効率的な評価を充実させることが可能となることから、教員が学習評価に必要な能力を評価するチェック項目である。

教員がコンピュータやプリンタを使って授業で使う資料やプリントを作成しているイラスト

 「B 授業中にICTを活用して指導する能力」は,授業の中で教員が資料を利用して説明したり課題を提示したりする場面や児童生徒の知識定着や技能習熟を図る場面において,教員がICTを活用する能力についての大項目である。この大項目は,教員が授業の中でICTを活用して,児童生徒の興味や関心を高めたり,課題を明確に把握させたり,基礎的・基本的な内容を定着させたりする内容を示しており,「わかる授業」を実現するためには極めて重要である。また、基礎的・基本的な内容を定着させるためのICT活用に関する能力基準も含まれる。そこで、教員が授業の中でICTを効果的に活用して授業を展開できる能力を大項目の1つとしている。「B 授業中にICTを活用して指導する能力」には、B−1〜B−4の4つのチェック項目がある。
 「B−1 学習に対する児童(生徒)の興味・関心を高めるために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する」は、教員がコンピュータや提示装置などを活用して、資料などを拡大して提示することで、学習内容に対する児童生徒の興味や関心を高めて、主体的な学習が展開できるようにする能力を評価するチェック項目である。
 「B−2 児童(生徒)一人一人に課題を明確につかませるために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する」は、教員がコンピュータや提示装置などを活用して、児童生徒に課題解決のイメージを持たせ、課題を明確につかませて、自ら学び自ら考える主体的な学習が展開できるようにする能力を示すチェック項目である。
 「B−3 わかりやすく説明したり、児童(生徒)の思考や理解を深めたりするために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する」は、教員がコンピュータや提示装置などを活用することにより児童生徒に課題解決の糸口を与えることが可能であると考えられることから、課題解決の場面において教員がICTを活用して児童生徒の思考を深めたり理解を深めたりする能力を評価するチェック項目である。
 「B−4 学習内容をまとめる際に児童(生徒)の知識の定着を図るために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などをわかりやすく提示する」は、教員がコンピュータや提示装置などを活用して資料や教材をわかりやすく提示することで児童生徒の知識の定着や技能の習熟を図ることが可能となることから、学習をまとめる場面において教員に必要な能力を評価するチェック項目である。

教員がコンピュータやプロジェクタを使って中学生に天気図の説明をしているイラスト

 「C 児童(生徒)のICT活用を指導する能力」は,学習の主体である児童生徒がICTを活用して効果的に学習を進めることができるよう教員が指導する能力についての大項目である。児童生徒がICTを学習のツールのひとつとして使いこなし,学習に必要とする情報を収集・選択したり,正しく理解したり,創造したり,わかりやすく表現・伝達したりすることなどは,児童生徒にとって必要な能力である。そこで、児童(生徒)がICTを活用して効果的に学習を進めることができるよう教員が指導する能力を大項目の1つとしている。「C 児童(生徒)のICT活用を指導する能力」には、C−1〜C−4の4つのチェック項目がある。
 「C−1 児童(生徒)がコンピュータやインターネットなどを活用して、情報を収集したり選択したりできるように指導する」は、児童生徒がコンピュータやインターネットなどを活用して、学習に必要な情報を収集したり、収集した多くの情報から課題の解決に必要な情報を選択したりできるように、教員が指導する能力を評価するチェック項目である。
 「C−2 児童が自分の考えをワープロソフトで文章にまとめたり、調べたことを表計算ソフトで表や図などにまとめたりすることを指導する(小学校版),生徒が自分の考えをワープロソフトで文章にまとめたり、調べた結果を表計算ソフトで表やグラフなどにまとめたりすることを指導する(中学校・高等学校版)」は、小学校の低学年では児童が自分の考えをお絵かきソフトなどで絵や文字で表したり、小学校の高学年から高等学校では児童生徒が自分の考えをワープロソフトで文章にまとめたり、調べた結果を表計算ソフトで表やグラフなどにまとめたりできるように、教員が指導する能力を評価するチェック項目である。
 「C−3 児童がコンピュータやプレゼンテーションソフトなどを活用して、わかりやすく発表したり表現したりできるように指導する(小学校版),生徒がコンピュータやプレゼンテーションソフトなどを活用して、わかりやすく説明したり効果的に表現したりできるように指導する(中学校・高等学校版)」は、児童生徒がプレゼンテーションソフトなどでつくった絵図や表、グラフなどを提示したり印刷したりして、他の児童生徒にわかりやすく説明したり、自分の伝えたいことを効果的に表現したりできるように、教員が指導する能力を評価するチェック項目である。
 「C−4 児童(生徒)が学習用ソフトやインターネットなどを活用して、繰り返し学習したり練習したりして、知識の定着や技能の習熟を図れるように指導する」は、児童生徒が学習用ソフトやインターネットなどを活用して、繰り返し学習したり練習したりして、知識の定着を図ったり身に付けたい技能の習熟を図ることができるよう、教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

教員が小学生のコンピュータを使ったドリル学習を支援しているイラスト

 「D 情報モラルなどを指導する能力」は,携帯電話やインターネットが普及する中で,児童生徒が情報社会で適正に行動するための基となる考え方と態度の育成が求められていることを踏まえ,すべての教員が情報モラルなどを指導する能力を持つべきという観点から位置付けられた大項目である。「情報モラル」という語は,狭義には,情報教育における倫理的,規範的な内容を指す場合もあるが,ここでは「情報モラルなど」として,倫理的・規範的なものだけではなく,ルールやマナー,著作権や個人情報保護,更には情報セキュリティなどを含む広義の意味で用いている。「D 情報モラルなどを指導する能力」には、D−1〜D−4の4つのチェック項目がある。
 「D−1 児童が発信する情報や情報社会での行動に責任を持ち、相手のことを考えた情報のやりとりができるように指導する(小学校版),生徒が情報社会への参画にあたって責任ある態度と義務を果たし、情報に関する自分や他者の権利を理解し尊重できるように指導する(中学校・高等学校版)」は、児童生徒が情報社会に参画する中で、情報を活用する際に責任ある態度と義務が必要であることを理解し、情報に関して正しい判断を行い適正な行動がとれるよう、教員が指導する能力を評価するチェック項目である。
 「D−2 児童が情報社会の一員としてルールやマナーを守って、情報を集めたり発信したりできるように指導する(小学校版),生徒が情報の保護や取り扱いに関する基本的なルールや法律の内容を理解し、反社会的な行為や違法な行為などに対して適切に判断し行動できるように指導する(中学校・高等学校版)」は、児童生徒が情報活用する際に、ルール、マナー、法律など社会規範に従って行動するために、授業などの教科指導に限らず、課外活動や校外活動などの授業外においても指導する必要があり、教員がその能力を評価するチェック項目である。
 「D−3 児童がインターネットなどを利用する際に、情報の正しさや安全性などを理解し、健康面に気をつけて活用できるように指導する(小学校版),生徒がインターネットなどを利用する際に、情報の信頼性やネット犯罪の危険性などを理解し、情報を正しく安全に活用できるように指導する(中学校・高等学校版)」は、児童生徒がインターネットなどを利用して情報を収集し利用する際に、健康面や精神面に配慮し、情報の正確さや信頼性などに留意して情報を安全に活用し、悪意のある情報による被害などから身を守れるよう、教員が指導する能力を評価するチェック項目である。
 「D−4 児童がパスワードや自他の情報の大切さなど、情報セキュリティの基本的な知識を身につけることができるように指導する(小学校版),生徒が情報セキュリティに関する基本的な知識を身に付け、コンピュータやインターネットを安全に使えるように指導する(中学校・高等学校版)」は、児童生徒が情報を活用する際に、IDやパスワードの必要性を理解し、自分や他人が情報にアクセスする際の権利を守ることの重要性を意識し、情報セキュリティに関する基本的な態度を育成できるよう、教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

教員が中学生に著作権の説明をしているイラスト

 「E 校務にICTを活用する能力」は,校務が児童生徒の直接的な指導にかかわる能力ではないものの,校務分掌や学級経営などは教育活動において欠かすことはできないことから位置づけられた大項目である。ここでは,日常的に行われる文書作成や情報の収集・整理などにおいてICTを活用し,校務を効率的にかつ確実に遂行するための能力を挙げている。さらに,校内のネットワーク環境を活かし,教員間で情報共有やコミュニケーションを行う能力も含まれ,インターネットなどを利用して,保護者や地域など校外との連携を図る能力についても想定している。「E 校務にICTを活用する能力」には、E−1〜E−2の2つのチェック項目がある。
 「E−1 校務分掌や学級経営に必要な情報をインターネットなどで集めて、ワープロソフトや表計算ソフトなどを活用して文書や資料などを作成する」は、校務文書の作成にワープロソフトを活用したり、児童生徒の情報を管理する際に表計算ソフトを活用したり、さらには、校務に必要な情報をインターネットなどを活用して収集するなど、教員が校務や学級経営などにICTを活用する能力を評価するチェック項目である。
 「E−2 教員間、保護者・地域の連携協力を密にするため、インターネットや校内ネットワークなどを活用して、必要な情報の交換・共有化を図る」は、校内ネットワークやインターネットなど、比較的時間と場所の制限を受けない情報交換手段を活用することで、教員間での情報共有や保護者・地域住民などとの連携を、個人情報などに配慮しつつ円滑に行う能力を評価するチェック項目である。

2.学習指導要領とICT活用指導力

 すべての教員がICT活用指導力チェックリストで示された能力を身に付けることは,学習指導要領に示された情報教育の充実,コンピュータなどや教材・教具の活用を図る上で,とても重要である。ここでは,学習指導要領と教員のICT活用指導力チェックリストの5つの大項目との関係について説明する。
 小学校学習指導要領(平成20年3月告示)第1章第4の2(9)は,情報教育の充実,コンピュータなどや教材・教具の活用について記載されており,「各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」とされた。各教科等においては,国語科における言語の学習,社会科における資料の収集・活用・整理,算数科における数量や図形の学習,理科の観察・実験,総合的な学習の時間における情報の収集・整理・発信などコンピュータや情報通信ネットワークなどを活用することとされた。教員は,教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用したり,授業中にICTを活用して指導したりするだけでなく,児童のICT活用を指導する能力を高める研修を継続することが求められている。また,道徳においては情報モラルを取り扱うこととされており,教員は情報モラルを指導する能力を身に付け,指導の効果を高める方法について絶えず研修する必要がある。
 中学校学習指導要領(平成20年3月告示)第1章第4の2(10) は,情報教育の充実,コンピュータなどや教材・教具の活用について記載されており,「各教科等の指導に当たっては,生徒が情報モラルを身に付け,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ主体的,積極的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」された。そして,生徒に基礎的・基本的な知識・技能を習得させるとともに,それらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を育成し,主体的に学習に取り組む態度を養うためには,生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ主体的,積極的に活用できるようにすることが重要であるとされた。技術・家庭科だけではなく,国語科,社会科,数学科,理科,外国語科等の各教科において,教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力,教員が授業中にICTを活用して指導する能力,生徒のICT活用を指導する能力を身に付け,高めることが求められている。また,道徳において情報モラルを取り扱うとともに,インターネット上での誹謗中傷やいじめ,インターネット上の犯罪や違法・有害情報の問題を踏まえ,情報モラルについて指導することが求められている。教員は情報モラルを指導する能力を身に付け,指導の効果を高める方法について絶えず研修する必要がある。

教員がICTを活用した授業を参観しているイラスト

 高等学校においても小学校や中学校と同様に,教科「情報」を指導する教員だけでなく全ての教員が,教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力,授業中にICTを活用して指導する能力,生徒のICT活用を指導する能力,情報モラルなどを指導する能力を身に付け,指導の効果を高める方法について絶えず研究することが求められている。
 さらに、小中高等学校において,教員は校内のICT環境の整備に努めるとともに,日常的に行われる文書作成や情報の収集・整理などにおいてICTを活用し,校務を効率的にかつ確実に遂行するための能力を身に付けるよう求められており,校務にICTを活用する能力を高める研修を進めていかなくてはならない。

教員が集合研修に参加しているイラスト

3.情報モラル指導モデルカリキュラムとICT活用指導力

 情報モラル教育は,児童生徒に適確な判断力を育成することが求められており,小学校・中学校・高等学校において連続性を確保して体系的に推進していく必要がある。
 小学校における情報モラル教育は,児童の発達段階と実態に応じて,総合的な学習の時間に電子掲示板への書き込みについて討論したり,道徳の時間に情報モラルにかかわる題材を生かして話合いを深めたり,コンピュータによる疑似体験を授業の一部に取り入れたり,児童の生活体験の中の情報モラルにかかわる体験を想起させたりするなど,学習活動を工夫して計画的に進める必要がある。
 中学校における情報モラル教育は,他者への影響を考え,人権,知的財産権など自他の権利を尊重し情報社会での行動に責任をもつことや,危険回避など情報を正しく安全に利用できること,コンピュータなどの情報機器の使用による健康とのかかわりを理解することなどを指導することが必要である。そこで中学校では,ネットワークを利用する上での責任について考えさせる学習活動,基本的なルールや法律を理解し違法な行為のもたらす問題について考えさせる学習活動,知的財産権などの情報に関する権利を尊重することの大切さについて考えさせる学習活動,トラブルに遭遇したときの主体的な解決方法について考えさせる学習活動,基礎的な情報セキュリティ対策について考えさせる学習活動,健康を害するような行動について考えさせる学習活動などを通じて,小学校での指導の上に,情報モラルを確実に身に付けさせることが必要となる。
 高等学校においては,中学校での指導の上に,情報に関する法律の内容を理解し遵守することや,情報セキュリティに関する基本的な知識を身に付けて適切な行動ができること,情報社会において責任ある態度をとって義務を果たすことなどを指導する。
 文部科学省は平成19年2月に,小中高一貫の指導内容を示した情報モラル指導モデルカリキュラムを公表した。情報モラル指導モデルカリキュラムは,1.情報社会の倫理,2.法の理解と遵守,3.安全への智恵,4.情報セキュリティ,5.公共的なネットワーク社会の構築の5つの柱で構成された。情報モラル指導モデルカリキュラムは,校種・学年に応じて,5つの柱の中に大目標と中目標を設定しており,校種・学年は,L1(小学校低学年),L2 (小学校中学年),L3(小学校高学年),L4(中学校),L5(高等学校)に区分されている。
 教員のICT活用指導力のチェックリストの5つの大項目のひとつが「D 情報モラルなどを指導する能力」である。「D 情報モラルなどを指導する能力」は,児童生徒が情報社会で適正に行動するための基となる考え方や態度を育成するために教員が持つべき能力である。指導内容を示した情報モラル指導モデルカリキュラムの5つの柱と,教員が身に付けるべき能力を示した「教員のICT活用指導力のチェックリスト」の「D 情報モラルなどを指導する能力」の4つのチェックリストは密接な関係をもっており,教員は「教員のICT活用指導力のチェックリスト」を参考に,研修などを通して継続してICT活用指導力を向上させる必要がある。表1には「情報モラルなどを指導する能力(中学校・高等学校版)」と「D 情報モラルなどを指導する能力」の4つのチェックリストの関連を示す。

表1 モデルカリキュラムとチェックリストとの関係

情報モラル指導モデルカリキュラムの柱   「情報モラルなどを指導する能力」のチェックリスト
1.情報社会の倫理 D-1:生徒が情報社会への参画にあたって責任ある態度と義務を果たし,情報に関する自分や他者の権利を理解し尊重できるように指導する。
2.法の理解と遵守 D-2:生徒が情報の保護や取り扱いに関する基本的なルールや法律の内容を理解し,反社会的な行為や違法な行為などに対して適切に判断し行動できるように指導する。
3.安全への智恵 D-3:生徒がインターネットなどを利用する際に,情報の信頼性やネット犯罪の危険性などを理解し,情報を正しく安全に活用できるように指導する。
4.情報セキュリティ D-4:生徒が情報セキュリティに関する基本的な知識を身に付け,コンピュータやインターネットを安全に使えるように指導する。
「5.公共的なネットワーク社会の構築」は,D-1〜D-4およびその他の項目との関連がある

4.教員のICT活用指導力の調査

 「e-Japan戦略」のもとで進められた「概ね全ての教員がコンピュータ等を使って指導できるようにする」ための取り組みの結果は,全国の全公立学校を対象に,自己評価を行う形で調査されてきた。この調査によると「各教科等においてコンピュータ等を使って指導できる教員の割合」は平成18年3月で,76.8%にまで高まっていた。平成19年3月からは,「IT新改革戦略」に掲げられた教育の情報化の目標の達成状況等について把握するため,「教員のICT活用指導力のチェックリスト」に基づいた調査が始められた。調査はチェックリストの18項目について,4段階(「わりにできる」,「ややできる」,「あまりできない」若しくは「ほとんどできない」)の自己評価を行う形で実施されている。図1に示すようにチェック項目ごとに4段階評価で「わりにできる」もしくは「ややできる」と回答した教員の割合は,「A2:教材作成のためにICTを活用」は77.3パーセント,「C1:児童生徒がICTを活用して情報収集できるよう指導」は66.3パーセント,「E1:ICTを活用して,校務分掌等に必要な情報を収集し,文書等を作成」は71.0パーセントと,高い割合を示した。しかし,「B4:児童生徒の知識を定着させるため,ICTを活用して資料等を提示」は50.4パーセント,「C3:児童生徒がICTを活用してわかりやすく発表・表現できるよう指導」は48.8パーセント,「E2:教員間における必要な情報の交換・共有化」は52.6パーセントと,低い結果となり,これらを更に高めるために,各自治体や学校での研修を計画的に進める必要がある。
 学校のICT環境を整備したり自治体がネットワーク環境を整備したりして,教員一人1台のコンピュータが整備されたり,全ての教室にプロジェクタや電子黒板が導入されたり,ブロードバンド環境が整って校内のどこでも高速に大容量のデータをやりとりできるようになると,「教員のICT活用指導力のチェックリスト」に基づいた調査結果が低くなることがある。これは,ICT環境の整備以前には,できなかったICTの活用ができるようになると同時に,新しい機器操作法の習得に困難を感じたり,授業での新たなICTの活用方法を求められるための時間や研修が必要となったり,学習展開の工夫が求められたりして,導入直後の短期間ではあるが教員の慣れが必要となるからである。「教員のICT活用指導力のチェックリスト」に基づいた調査は教員の自己評価であり,ICT環境の整備による自己評価の基準が教員によって変わることが原因ではあるが,ICT環境の変更等にともなう見通しをもった研修が求められている。

国のICT戦略と教員のICT活用指導力との関係の図

第2節 効果的な研修活動

1.効果的な研修とは

 教員のICT活用指導力を向上させるためには、教員のICT活用指導力チェックリストを積極的に活用して、目的を明確にした各種研修を実施することが大切である。
 学校現場においては、教員のICT活用指導力チェックリストを活用して、5つの大項目をバランスよく研修する校内研修や自己研修を実施する。情報担当や校内研修担当は、教員のICT活用指導力を把握し、一人一人の教員の実態にあった研修内容や研修方法をアドバイスし、計画的に自己研修が実施されるようはたらきかける。その際、教員のICT活用指導力チェックリストを活用して、一人一人の達成度を設定して研修計画をたて、学校独自で中間評価を行って、研修計画や研修内容を修正して実施することが効果的である。
 また、情報担当や校内研修担当は、学校の実態にあわせて校内研修の計画をたて、情報担当や校内研修担当が講師となって研修を進めたり、教育センター等の研修に参加した教員を講師として研修を行ったり、必要に応じて外部の講師を招いたり、ワークショップ形式の研修を取り入れたりして計画的に校内研修を行う。また、自己研修とあわせて中間評価を行い、達成度と比較して研修計画や研修内容を修正して後半の研修を実施する。
 教育委員会や教育センター等では、管理職におけるリーダシップおよびマネジメントに関する研修、情報担当や校内の研修担当への校内研修を活性化する研修、各教科等での研修、情報モラル指導の研修などが実施されており、計画的にこれらの研修に参加する必要がある。研修の成果は校内研修などで校内に広めたり、教科の授業に取り入れてICTを活用した授業を公開したりして、研修の成果を学校全体に波及させることが大切である。
 このように教員のICT活用指導力チェックリストを活用して、自己研修、校内研修、教育委員会や教育センター等で実施する集合研修を相互に関連させ、総合的な研修を実施することで、教員のICT活用指導力を向上させることが大切である。

年間研修ロードマップ例の図

 教育委員会や教育センター等で実施する研修においても教員のICT活用指導力チェックリストを活用して研修を行うことが大切であり、県内または自治体の実態を把握して、5つの大項目がバランスよく研修されるよう研修計画を立てる必要がある。次に、教員のICT活用指導力を向上させる各種研修の在り方について述べる。

総合的な研修の実施のイラスト

(1)ICT活用のねらいや方法が明確な研修

 各教科の中に情報活用能力の育成やICT活用がどのように組み込まれているのか、それを踏まえてどのように研修の中に組み込んでいくのかが明らかな研修プログラムが必要である。また、最初にコンピュータありきという研修を行うのではなく、「模擬授業」などを通して、教科の授業に実物投影機などの視聴覚機器を活用したときの効果を授業づくりの面から考えていくことが効率的である。つまり、各教科の指導方法の研修の中で、コンピュータや他の視聴覚機器を活用した効果的な指導方法を研修していくアプローチを取ることが大切である。研修内容の策定にあたっては、「教員のICT活用指導力チェックリスト」との関連を明確にすることが必要である。

実物投影機で拡大して投影しているイラスト

(2)児童生徒に身につける情報活用能力やICT活用の方法がわかる研修

 児童生徒に身につけさせる学習指導に関する研修事例には、何をねらいとするのかなど、教員として押さえておくべきことは、何か。研修内容の策定にあたっては、「教員のICT活用指導力チェックリスト」のC項目を参考にするとともに学習指導要領の記述を参考にして明確なねらいを示すことが大切である。

児童生徒のICT活用のようすのイラスト/児童生徒の情報活用能力のようすのイラスト

(3)管理職におけるリーダーシップ及びマネジメントに関する方向性が適切に示されている研修

 県及び市町村等教育委員会は、情報の活用の実践力に関する取り扱いに関する内容及びICTを活用した学校マネジメントの在り方について、管理職向け研修の中で取り上げることが大切である。また、校内の情報化を積極的に推進することを指導・助言するだけでなく、予算的な措置についても支援を行うことが必要である。すなわち、校内で教育の情報化の推進リーダーと共に組織的に取り組むことが教育の情報化推進に不可欠である。

<管理職向け研修プログラム第2節(3)>

(4)校内研修を活性化する手法も含めた内容の情報担当と校内の研修担当者向けの研修

 教育の情報化を推進するリーダーの育成を目的とし、校内でICTの授業活用を推進するための研修プログラムを運用し、学校内で推進していく手法について研修を行う。都道府県・政令指定都市、市町村教育委員会において様々な研修プログラムが実施されている内容に、加えて、以降に示す「実践例から」を参考に実際に演習を行い、それぞれの職場に帰って実施できる手法を実践的に伝える研修を行うことが大切である。

 モデル研修プログラム(第2節1(1))

(5)校内研修での積極的な取り組みの要点

 教員一人一人の指導力を向上するためには、校内研修を充実することが必要である。単に時間を増やすことではなく、限られた時間の中で効果的なプログラムに基づいて研修を実施したり、定着を深められるように後述する研修ロードマップのような年間計画を策定したりすることが必要である。例えば、伝達型の研修スタイルから、全教職員が主体的に参加することが可能なワークショップ型の研修を取り入れるなどの工夫も必要である。ICTを効果的に活用することにより、児童生徒の学習に対する興味や関心を高め、「わかる授業」を実現する授業でのICT活用に関する取り組みを中心に据えた内容を校内研修では取り上げることが大切である。
 また、研修内容には、児童生徒のICT活用を指導する内容だけでなく、児童生徒が情報の活用能力向上すること及び情報モラル教育を推進する内容を取り上げることも必要である。
 特に、研究授業や公開授業を行い、実際に効果がある場面を共有し、授業における手法を研修していくことが必要である。このとき授業を客観的に評価することが必要であり、学校内の研究授業や、授業公開を行い、さらなる改善を図っていく仕組みを組織的に取り組むことが必要である。

モデル研修プログラムのイラスト

(6)OJT(On the Job Training)を活用した日々の校務の中における研修計画を策定

 情報機器の操作に関するスキルを向上する研修に関しては、伝達講習会を放課後などに特別に設けるだけでなく、OJTを活用した研修を積極的に活用し、日々の業務の中で校務の分掌及び校務の情報化への長期的なビジョンを作成し取り組むことが必要である。

(7)e−ラーニングシステムを活用した操作活動及び指導項目の繰り返し研修

 研修の場において、自己研修のための方法を示すことも大切なことである。苦手な操作活動及び指導項目に対するビデオ・オン・デマンドシステムの活用(例:教員研修Web総合システム TRAIN)などの紹介を行い、教員が必要なときに有効な情報を取り出し、積極的な活用による自己研鑽を促す必要がある。

2.実践事例から

(1)教育センター等における研修事例

研修の場において、自己研修のための方法を示すことも大切なことで

<研修の流れ図と表>

(1)チェックリスト全項目に対応する(校内)研修の実践事例

ICT活用指導力の向上を期した研修プログラム例

  1. 研修の目的
    ○ICTを活用した授業のイメージに関して模擬授業を通して伝える。(知識・理解)
    ○模擬授業を見せることやICT活用のチェックリストを具体的に記入していくことを通して、ICT活用の有効性を理解させる。(知識・理解)
    ○グループでICTを活用した授業の模擬授業案を作ることによって、ICTを活用した授業づくりを検討させる。(思考)
    ○ICTを活用した授業をやってみようという気持ちにさせる。(意欲・態度)
  2. 研修の対象
  3. 小・中・高等学校教員のうち、ICTを活用した授業の経験が少ない者を対照とした研修会及び校内研修
  4. 研修時間 60分〜90分程度
  5. 研修プログラム
目的 展開内容
(1)本研修のねらいや、授業でICTを活用するねらいについての理解を促し、研修に対する意欲を高める。















(2)グループでICTを活用した授業中での活用場面のアイデアを考え、模擬授業を行うことで、授業における活用について具体的なイメージを持つことができる。






















(3)各班の発表を行い、お互いのアイデアを交流し、明日からの授業の参考とする。





(4)各自の目標を明確にし、今後の活動目標を作ることができる。
○はじめに(ねらい等の説明:5分)
○模擬授業の実施(10分)
 ICT活用の効果についてイメージが持てる模擬授業を例示する。
(模擬授業例を2〜3分程度で、活用の場面がイメージできかつ効果が伝わるような2・3例、以下の内容の1つに焦点をあてる)
内容1:実物投影機とプロジェクタで教科書等を大きく映すICT活用
内容2:デジタルコンテンツによって教科内容を分かりやすく説明するICT活用
内容3:情報モラルの指導など
(留意点)
・模擬授業を見る際の視点を模擬授業の中で説明する。
・後のワークショップで利用できるよう、気づいたことを付箋紙に書くよう指示しておく。

○事例を踏まえ、授業にICTを活用するための考慮点についてディスカッションを実施し、模擬授業を考える。(15分程度)
(留意点)
・授業に有効なICT活用は何かを話し合わせる。
・活動には、4名〜5名の構成によるグループワークを中心にして行う。
○模擬授業についてWeb上の事例を元に、教科書等を参考に考案する。
(例)
・ICTを活用した授業の準備のコツを演劇風に行う。
・授業中にICTを活用して指導する例を模擬授業で行う(推奨)
・児童生徒のICT活用について指導するときの例を模擬授業で行う
・情報モラルなどについて指導する模擬授業を行う
(留意点)
・当初は、授業のイメージを最も持ちやすく、簡単に改善できる大項目「B 授業中にICTを活用して指導する能力」を中心に行う。
・インターネットが利用可能な設備であればNIMEなどの事例を積極的に参照させる。
・仲間と共に楽しく授業作りを行うようにサポートする。

○課題解決と発表(20分程度)
各グループの考案したアイデアを発表させる。(2〜3分が適切である)
・チームワーク良く作成している班、オーソドックスですぐに使える事例を行っている班、コミュニケーションがとれているか取り組みの様子も評価する。

○まとめ(10分程度)
研修の成果を授業に活かすために、ICT活用に対
する決意を具体的に記載させる。
・明日から活用できること
・スキルアップをすればできること
・同僚と協働すればできること
を話合い、行動目標を作る。
(留意点)
・すぐにでも使ってみようという気にさせることが大切であるので、参加者の中でファシリテータ的な役割を設け、意欲の喚起に努める。
・上記の行動目標の視点は、自分だけでやらない、同僚と協働することがポイントであることを押さえる。

事例1:授業の中でICT活用指導力を高める研修:
 普段の授業を公開し、授業の中での活用場面を校内及び公開校において見せ合う研修方法

  • あらかじめ決めた授業時間内での活用場面を10分〜15分程度見せ合う。
  • 簡易指導案と活用機器についての説明された配布物を作成する。
  • 授業参観者は、参考になった点とここをこうすればもっと良くなるという意見を付せん紙等に記入し模造紙に貼る。
  • 授業反省時に、意見を参考に授業のやり方について情報交換を行う。

模造紙例

  授業内容(めあて)について ICT活用について
ここがよかった    
ここをこうすればもっとよくなる    

事例2:ワークショップを中心とした模擬授業研修(ICT活用初心者向け)
<前述>

事例3:教員研修センター教材及び市販ソフト等を利用した「情報モラル」指導研修
<教員研修センター教材及び文部科学省委託事業により作成されたWebなどを紹介する>

お問合せ先

初等中等教育局参事官付課

-- 登録:平成21年以前 --