第4章 初等中等教育における情報モラル教育

第1節 児童生徒の実態や発達段階に応じた情報モラル教育

1.情報モラル教育とは

 情報社会では、一人一人が情報化の進展が生活に及ぼす影響を理解し、情報に関する問題に適切に対処し、積極的に情報社会に参加しようとする創造的な態度が大切である。誰もが情報の送り手と受け手の両方の役割を持つようになるこれからの情報社会では、情報がネットワークを介して瞬時に世界中に伝達され、予想しない影響を与えてしまうことや、対面のコミュニケーションでは考えられないような誤解を生じる可能性も少なくない。このような情報社会の特性を理解し、情報化の影の部分に対応し、適正な活動ができる考え方や態度が必要となってきている。そこで、新しい学習指導要領では、「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」を「情報モラル」と定め、各教科の指導の中で身につけさせることとしている。
 具体的には、他者への影響を考え、人権、知的財産権など自他の権利を尊重し情報社会での行動に責任をもつことや、危険回避など情報を正しく安全に利用できること、コンピュータなどの情報機器の使用による健康とのかかわりを理解することなどの内容となっている。また、これらの内容は、情報社会の進展に伴って変化することが考えられ、今後も柔軟にかつ適切に対応することが必要である。例えば、普及の著しい携帯電話をはじめとする携帯情報通信端末のさまざまな問題に対して現時点では、地域や家庭との連携を図りつつ、情報モラルを身につけさせる指導を適切に行う必要がある。

(1)情報社会の特性の理解

 情報化社会の進展により、携帯電話のインターネット等の普及が急速に進む中で、インターネットの掲示板や携帯電話のメールによるいじめ、「ネットいじめ」が多発している。常に持ち運ぶことができるようになった携帯電話は、子ども達に最も身近なインターネット端末となった。子どもたちはその携帯電話の小さな画面から世界中にリンクしていることを理解しないまま利用している。何気なくプロフに書き込んだ個人情報、悪気のない掲示板への書き込みが世界中に発信されていることを理解しないまま利用しているという現状がある。
 携帯電話を使ったコミュニケーションは、従来の人と人が接するコミュニケーションとは全く異なる。会話であればその場で話したことは記憶にのみ残り、記録には残らない。しかし、インターネットを介したコミュニケーションの場合、記録として保存され、簡単に削除することができない可能性がある。これにより、インターネット上の1つの書き込みから、裁判に至るケースもある。基本的な情報モラルを持ち合わせていないために大きな事件に巻き込まれる場合もある。
 このような情報社会の進展とともに変化する特性を教員自身が理解し、児童生徒に指導することが必要である。
※プロフ・・・インターネット上で自己紹介をするサイト。画像や詳しい個人情報を掲載できる。

(2)社会の変化と情報モラル教育の必要性

 前述のように、情報社会は日々進化しており、その流れは後戻りできない状況である。児童生徒は将来にわたり、社会人となっても情報社会の中で生きていかなければならない。そういう観点からも、児童生徒の時期の情報モラル教育は、重要且つ急務であり、情報活用能力の学習と合わせて行われなければならない。
 パソコンや携帯電話は、一つの道具・ツールとして非常に利便性が高く社会生活から切り離す事ができない。しかし、使い方によっては、非常に危険なツールとなることもあり、児童生徒が巻き込まれる事件も多く、加えて顕在化していないトラブルは相当の数に達すると考えられる。既にPCや携帯電話を利用している児童生徒への情報モラル教育はもちろん、これから新たに情報機器に触れていく初期段階での児童生徒に対しても、情報社会の光の部分と共にその影の部分に関する具体的な事例、それに伴うルール決めや遵守すべき項目を明確にする必要がある。また、この取組は学校のみならず、社会や家庭を巻き込み、それぞれの立場で情報の共有化や児童生徒への教育を進めていかなければならない。

(3)地域や学校の実態の把握

 情報化によるパソコンや携帯電話の機能や使用方法は日々変化・進化しており、今後、新たな機能や使用方法の開発に伴った問題が起こってくる可能性がある。学校や地域、家庭で情報モラル教育を推進する上で、これらの実情を知るとともに、情報社会での児童生徒の行動や状況を知ることは非常に重要である。
 児童生徒の情報化社会における行動や状況を把握するには、アンケートやヒアリング等を定期的に実施し、新しい状況を把握する必要がある。そして、その分析結果や動向を元に、情報モラル教育の対象、方法、中身を検討し、臨機応変に対応できるよう取組む必要がある。児童生徒本人へのアンケートやヒアリング以外に、保護者(家庭)に対するアンケートやヒアリングも把握のためには重要である。保護者(家庭)に対するアンケートは実態の把握のみならず、保護者への意識付けや家庭での情報モラル教育の推進のためにも重要な取組といえる。
 また、情報化に関連する企業・団体との連携も必要な要素である。地域だけでなく、全国的な児童生徒の情報社会に関する情報が入手可能で、情報モラル教育を実施するための支援者ネットワークとしても活用できる。

(4)不易の部分の指導と変化への対応

 情報モラル教育の目標は、道徳などで扱われている「日常生活におけるモラル(日常モラル)の育成」と重複する部分が多く、これは情報モラル教育の基本となる態度の育成に欠かせない。
道徳で指導する「人に温かい心で接し、親切にする」「友達と仲良くし、助け合う」「他の人との関わり方を大切にする」「相手への影響を考えて行動する」「自他の個人情報を、第三者にもらさない」などが基盤となる。道徳においては、そのカリキュラムの軸の一つとして、

  1. 主として自分自身に関わること
  2. 主として他の人とのかかわりに関すること
  3. 自然や崇高なものとのかかわりに関すること
  4. 主として集団や社会とのかかわりに関すること

 などの視点から内容が展開される。情報モラルではその「他の人」や「集団や社会」がインターネット上の関係も含めた「情報化社会」に置き換えることができる。しかし、日常の社会では、個人、家庭、地域社会と順に経験しながら、ゆっくりと時間をかけてその関係を理解していくことができるのに対し、情報ネットワークでは、端末を利用したコミュニケーションを開始するとすぐに、見えない人とのつながりや社会との接点が同時に生じる部分が異なる。従って、情報端末を利用するにあたって、危険回避を行うための具体的な教育が必要な一方、情報化社会の特性やネットワークの理解を深め、自分自身で正しく活用するために的確な判断ができる力を身につけることが必要である。

(5)児童生徒のコミュニケーション能力や方法の変化と実態

 児童生徒のコミュニケーション力は社会の変化(家族構成、地域社会、情報化等)の影響を受け、それを高める経験や場面が少なくなり、学校におけるコミュニケーション力向上のための取り組みの必要性が大きくなっている。また、児童生徒のネットワーク上のコミュニケーションの拡大がコミュニケーション力に影響を与えているといえる。
 一般的に、対人関係のコミュニケーションが苦手で不得意な児童生徒が、その不安な気持ちを埋める場所として、ネットワーク上のコミュニケーションに傾倒している場合がある。ネットワーク上のコミュニケーションは、参加者全員が匿名という事もあり、通常のコミュニケーションとは大きく性質を異なるものである。しかし、児童生徒はその理解度が薄いのが現状である。結果的にネットワーク上では、誹謗中傷の言葉や表現が数多く掲載されていたり、有害情報サイトへの誘導が行われるなど、児童生徒を危険な環境に陥れている場合もある。
 児童生徒に対して、ネットワーク上と社会生活上のコミュニケーションは、根本的に違うという事を理解させると共に、相手の立場に立ち、思いやりのある行動は、ネットワーク上でも必要であるということを明確に提示する必要がある。

2.発達の段階に応じた指導

(1)児童生徒に身につけさせたい情報モラル

 平成19年3月に出された「情報モラル指導ガイドブック」の中に、情報モラルに関する「モデルカリキュラム」が示され、「情報社会の倫理」、「法の理解と遵守」、「安全への知恵」、「情報セキュリティ」、「公共的なネットワーク社会の構築」の5つの柱とともに、発達の段階に応じた指導内容が例示された。具体的には、情報発信による他人や社会への影響、ネットワーク上のルールやマナーを守ることの意味、情報には自他の権利があること、情報には誤ったものや危険なものがあること、健康を害するような行動について考えさせる学習活動などを通じて、情報モラルを確実に身に付けさせるようにすることが必要となっている。そして、情報の収集や判断、処理、発信などの情報活用能力の育成の中で情報モラルについて学習させることが重要であるとしている。また、子どものインターネットの使い方の変化に伴い、学校や教師はその実態や影響に係る最新の情報の入手に努め、それに基づいた適切な指導に配慮することが重要であるとなっている。情報モラル教育の内容は、次のように大きく2つに分けられる。1つは、「情報社会における正しい判断や望ましい態度を育てること」である。つまりは「心を磨く領域」として、自分を律し適切に行動できる正しい判断力と、相手を思いやる心、ネットワークをよりよくしようとする公共心を育てることが求められている。もう1つは、「情報社会で安全に生活するための危険回避の理解やセキュリティの知識・技能、健康への意識」である。健康への意識は、生活習慣の領域だが、昼夜逆転やネット依存など健全な生活を維持することへの悪影響が無いよう適切な指導が望まれる。情報化が進み生活が便利になればなるほど危険に遭遇する機会も増える。危険を回避し安全に生活するための知識を身につける必要がある。これは、「知恵を磨く領域」と言ってよいだろう。

公共的なネットワークの構築の図

 上記の内容を踏まえて、学校教育においては先に述べた5つの柱に基づいて体系的に取り組む必要があり、心の発達段階や知識の習得、理解の度合いに応じた適切な指導が大切である。

(2)モデルカリキュラムの活用

 「情報モラル指導ガイドブック」の「モデルカリキュラム」には、先の5つの領域に関して、小学校低学年(1、2年生)、小学校中学年(3、4年生)、小学校高学年(5、6年生)、中学校、高等学校の5つの発達の段階に応じた指導内容が示された。
 「情報社会の倫理」と「法の理解と遵守」の内容は、日常的なモラル指導の延長線上にあり、特に小学校低学年では、日常モラルの指導が優先され、中学年からは情報機器の活用などにあわせて、徐々に情報社会の特性やそのなかでの情報モラルについてふれるようにしていくことになっている。小学校高学年や中学校・高等学校になると、自分の権利や他人の権利を尊重することについて身の回りの課題から自ら考えさせ理解させ、情報社会へ参画する場合の責任や義務、態度に関する内容へと発展するような指導内容となっている。この場合、情報社会もルールや法律によって成り立っていることを知り、情報に関する法律の内容を理解した上でそれらを遵守する態度を養うことが必要性である。
 一方、安全教育については、「安全への知恵」「情報セキュリティ」で展開され、小学校の段階では、「情報社会の危険から身を守るとともに、不適切な情報に対処できる」や「安全や健康を害するような行動を抑制できる」、「危険を予測し被害を予防するとともに、安全に活用する」などが具体的な目標になっている。中・高等学校の段階では、「情報セキュリティに関する基礎的・基本的な知識」を身につけ、「情報セキュリティの確保のために、対策・対応がとれる」ようになることなどが求められている。
 これらの健全な心と社会のルールの理解、安全に活用する知恵の育成を前提に、健全で公共的なネットワーク社会の構築へ積極的に参画する態度を育成するようなカリキュラム構成になっている。
 このモデルカリキュラムを参考にしながら、各地域や学校の実態に応じて系統的なカリキュラムを作成することが必要であり、その内容を学校全体で教員がそれらを共通理解して指導することが必要である。そのためには、校種にかかわらず、それぞれの学校で年間を通した情報教育の指導計画のなかに情報モラルの項目を設定し、指導事項や指導内容を位置づけるなどの工夫が必要である。

(3)発達の段階に応じた継続的な指導

 前述のモデルカリキュラムの中項目にある「法の理解と遵守」について、5つの発達の段階に応じた指導内容を具体的に抽出すると、小学校3・4年で「情報の発信や情報をやりとりする場合のルール・マナーを知り、守る」、小学校5・6年では、「何がルール・マナーに反する行為かを知り、絶対に行わない」、中学校では、「違法な行為とは何かを知り、違法だとわかった行動は絶対に行わない」、高等学校では「情報に関する法律の内容を積極的に理解し、適切に行動する」となっている。ルールを知ることから始め、適切に行動できるようになるまで段階を追って指導することとなっている。
 このモデルカリキュラムに示されているように、情報モラルの指導には、様々な内容が含まれており、それぞれを一通り説明するだけでは、態度として定着させることは難しい。そこで、学習活動の様々な場面での適時、継続的な指導が必要となってくる。学級活動の中での説話や総合的な学習の時間、各教科、道徳などの時間に事例やタイミングを工夫しながらくり返して指導することが求められる。
 また、単なる説明だけでなく、友だちとの討論やコンピュータ教室等での実際の操作体験、資料を活用した調査活動など、学習方法を工夫して、児童生徒が情報モラルの重要性を実感できるような授業展開も必要である。校内における掲示物や校内放送での指導なども有効だと言える。指導内容を計画的に配置するとともに、学級活動をはじめとする特別活動などを通して学校教育全体で継続的に指導を行うように心がけたい。

第2節 学習指導要領における情報モラル教育

1.道徳における指導

 社会における情報化が急速に進展する中、インターネット上の「掲示板」への書き込みによる誹謗中傷やいじめといった情報化の影の部分に対応するため、「情報モラル」に関する指導について、道徳の改善の具体的な項目の10項目の中の一つに上げられ、道徳の時間における指導にあたって配慮する事項の中に記載されている。
 道徳教育は、小・中・高等学校の全ての学校段階において一貫して取り組むべきものである。小学校においては生きる上で基盤となる道徳的価値観の形成を図り、自己の生き方についての指導を充実すること、中学校では、思春期の特質を考慮し、社会とのかかわりを踏まえ人間としての生き方を見つめさせる指導を充実すること、高等学校においては社会の一員としての自己の生き方を探求するなど人間としての在り方生き方についての自覚を一層深める指導を充実することとなっている。このような発達の段階に応じた道徳の指導の中で「情報モラル」に関する指導に留意することとなっている。

(1)小学校「道徳」における情報モラルの指導

 小学校の道徳においては生きる上で基盤となる道徳的価値観の形成を図る指導を徹底するとともに自己の生き方についての指導を充実することが必要である。具体的には、小学校学習指導要領「道徳」の「指導計画の作成と内容の取扱い」の3の(5)に「児童の発達の段階や特性等を考慮し、第2に示す道徳の内容との関連を踏まえ、情報モラルに関する指導に留意すること。」と記述されており、情報化の影の部分への対応としての情報モラルの指導が盛り込まれた。第2に示す内容とは、「主として自分自身に関わること」「主として他の人とのかかわりに関すること」「主として集団や社会とのかかわりに関すること」などの4つの内容である。学年があがるにつれて、コンピュータや携帯電話の活用度合いが高まり、それに応じた学校教育の対応として、道徳の時間において情報モラルに関する指導の配慮が必要だとしている。これを踏まえて、小学校学習指導要領解説「道徳編」には、次のように記載されている。

(1) 情報モラルと道徳の内容
 情報モラルとは情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度ととらえることができ、その内容としては、個人情報の保護、人権侵害、著作権等に対する対応、危険回避やネットワーク上のルール、マナーなどが一般に指摘されている。
 道徳の時間においては、第2に示す道徳の内容との関連を踏まえて、例えば、情報モラルに関する題材を生かしたり、情報機器のある環境を生かすなどして指導に留意することが求められる。道徳の内容との関連を考えるならば、例えば、ネット上の書き込みのすれ違いなど他者への思いやりや礼儀の問題及び友人関係の問題、情報を生かすときの法やきまりの遵守に伴う問題など、多岐にわたっている。特に、情報機器を使用する際には、自分のことを明らかにしなくとも情報のやりとりができるという匿名性に伴って、使い方によっては相手を傷つけるなど、人間関係に負の影響を及ぼすこともある。小学生の段階も、少しずつそのような環境の中に入っていく時期であることを押さえて指導上の配慮をしていく必要がある。
 各学校においては、児童や地域の実態等を踏まえ、指導に際して配慮すべき内容について検討していくことが重要である。
(2) 情報モラルへの配慮と道徳の時間
 情報モラルに関する指導について、道徳の時間では、その特質を生かした指導の中での配慮が求められる。
 指導に際しては、情報モラルにかかわる題材を生かして話合いを深めたり、コンピュータによる疑似体験を授業の一部に取り入れたり、児童の生 活体験の中の情報モラルにかかわる体験を想起させたりする工夫などが考えられる。創意ある多様な工夫が生み出されることが期待される。
 具体的には、例えば、相手の顔が見えないメールと顔を合わせての会話との違いを理解し、メールなどが相手に与える影響について考えるなど、インターネット等に起因する心のすれ違いなどを題材とした指導が考えられる。また、ネット上の法やきまりを守れずに引き起こされた出来事などを題材として授業を進めることも考えられる。その際、その問題の根底にある他者への共感や思いやり、法やきまりのもつ意味などについて児童が考えを深めることができるように働き掛けることが重要になる。
 なお、道徳の時間は、道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考えを深めることを通して道徳的実践力を育成する時間であるとの特質を踏まえ、例えば、情報機器の使い方やインターネットの操作、危険回避の方法やその際の行動の具体的な練習を行うことにその主眼をおくのではないことに留意する必要がある。

(2)中学校「道徳」における情報モラルの指導

 中学校の道徳においては思春期の特質を考慮し、社会とのかかわりを踏まえ、人間としての生き方を見つめさせる指導を充実することが必要である。具体的には、中学校学習指導要領「道徳」の「指導計画の作成と内容の取扱い」の3の(5)に「生徒の発達の段階や特性等を考慮し、第2に示す道徳の内容との関連を踏まえ、情報モラルに関する指導に留意すること。」と記述されており、小学校と同様、情報化の影の部分への対応としての情報モラルの指導が盛り込まれた。生徒は、すでにコンピュータや携帯電話を日常的に活用しており、それに応じた学校教育の対応として、道徳の時間において情報モラルに関する指導の配慮が必要だとしている。これを踏まえて、中学校学習指導要領解説「道徳編」には、次のように記載されている。

(1) 情報モラルと道徳の内容
 情報モラルとは情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度ととらえることができ、その内容としては、個人情報の保護、人権侵害、著作権等に対する対応、危険回避などネットワーク上のルール、マナーなどが一般に指摘されている。
 道徳の時間においては、第2に示す道徳の内容との関連を踏まえて、例えば、情報モラルに関する題材を生かしたり、情報機器のある環境を生かしたりするなどして指導に留意することが求められる。道徳の内容との関連を考えるならば、例えば、ネット上の書き込みのすれ違いなど他者への思いやりや礼儀の問題及び友人関係の問題、情報を生かすときの法やきまりの遵守に伴う問題など、多岐にわたっている。特に、情報機器を使用する際に、自分のことを明らかにしなくとも情報のやりとりができるという匿名性に伴って、使い方によっては相手を傷付けるなど、人間関係に負の影響を及ぼすこともある。
 各学校においては、生徒や地域の実態等を踏まえ、指導に際して配慮すべき内容について検討していくことが重要である。
(2) 情報モラルへの配慮と道徳の時間
 情報モラルに関する指導について、道徳の時間では、その特質を生かした指導の中での配慮が求められる。
 指導に際しては、情報モラルにかかわる題材を生かして話合いを深めたり、コンピュータによる疑似体験を授業の一部に取り入れたり、生徒の生活体験の中の情報モラルにかかわる体験を想起させたりする工夫などが考えられる。創意ある多様な工夫が生み出されることが期待される。
 具体的には、例えば、相手の顔が見えないメールと顔を合わせての会話との違いを理解し、メールなどが相手に与える影響について考えるなど、インターネット等に起因する心のすれ違いなどを題材とした指導が考えられる。また、ネット上の法やきまりを守れずに引き起こされた出来事などを題材として授業を進めることも考えられる。その際、その問題の根底にある他者への共感や思いやり、法やきまりのもつ意味などについて生徒が考えを深めることができるように働き掛けることが重要になる。
 なお、道徳の時間は、道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚を深めることを通して道徳的実践力を育成する時間であるとの特質を踏まえ、例えば、情報機器の使い方やインターネットの操作、危険回避の方法やその際の行動の具体的な練習を行うことにその主眼をおくのではないことに留意する必要がある。

<イラスト:情報活用の場面で情報モラルの指導を行っている>

2.各教科における指導

 教育課程実施上の配慮事項9の「情報教育の充実、コンピュータ等や教材・教具の活用」には、『各教科等の指導に当たっては、児童生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け、適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに、これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。』とあり、情報活用の場面での情報モラルに関する指導が重要だとしている。情報に関する自他の権利の尊重や、情報発信による他人や社会への影響、ネットワークを利用する際のルールやマナーの理解と遵守、情報の真偽の見分け方など、その活動は多岐にわたっており、さまざまな教科の学習活動の中で育成することが必要である。従って、道徳だけでなく、各教科での情報モラルの指導が必要だと考えることができる。

3.技術家庭(中学校)との関連

 中学校の技術・家庭では、「D情報に関する技術」の(1)に「情報通信ネットワークと情報モラル」が設けられ、ここでは、「著作権や発信した情報に対する責任を知り,情報モラルについて考えること。」となっている。
 中学校学習指導要領解説「技術・家庭編」には、次のように記述されている。

 著作権や,情報の発信に伴って発生する可能性のある問題と,発信者としての責任について知ることができるようにするとともに,情報社会において適正に活動する能力と態度を育成する。
この学習では,情報通信ネットワーク上のルールやマナー,法律等で禁止されている事項に加えて,D(1)のアの情報のディジタル化や,D(1)のイの情報通信ネットワークの学習と関連させて,情報通信ネットワークにおいて知的財産を保護する必要性を知ることができるようにする。その上で,情報通信ネットワーク上のルールやマナーの遵守,危険の回避,人権侵害の防止等,情報に関する技術の利用場面に応じて適正に活動する能力と態度を育成する。
 例えば,映画や楽曲等の違法な複製は,制作者に経済的な損害とともに制作意欲の減退などの悪影響を及ぼすことを知ることができるようにすることが考えられる。

4.特別活動を含めた学校教育全体での指導

 各教科や技術家庭、教科「情報」、総合的な学習の時間などでの指導だけでなく、学級指導や郊外学習などを含めた特別活動などで、情報モラルに関する内容をスポット的に指導することや、児童生徒の生活体験に基づいた実態や問題点を取り上げ、それらに対する迅速な指導が必要である。

第3節 具体的な指導内容

1.道徳における指導事例

 モデルカリキュラムの指導事項との関連、指導内容の決め方、教材の選択方法、コンピュータやネットワークなどの活用方法などについて解説する。また、指導上の留意点や、児童生徒への前向きなメディア活用に向けた留意点などについても記述する。
 例えば、小学校では、顔を合わせてのコミュニケーション(会話)と、電子メールでのコミュニケーション(文字情報)での伝わる内容の違いを、具体的な体験の交流や資料を活かした話し合いを通して学習する事例がある。 児童に、実際の話し言葉をそのまま文字にしても、気持ちを表せないことを体験的に理解させる。パソコンや携帯電話などの電子メールによる文字情報のみのコミュニケーションでは、どんな文章にすると、相手にきちんと気持ちを伝えられるのかを考えさせる。それをもとに、相手が直接見えなくても相手を感じ、尊重する心情を伝えるための留意点について学習することが可能である。

2.各教科における指導事例

 情報モラル教育は、道徳や総合的な学習の時間での指導だけでなく、各教科の通常の授業の中に「情報モラル」の視点を組み込むことが出来る。
 例えば国語では、「伝え合う力」や「コミュニケーション能力」を身につける指導が行われている。メールのやり取りや掲示板の利用などから、「相手を思いやる気持ち」「文字の大切さ」「言葉の表現」を学ぶことが可能である。
 社会・理科・家庭・芸術科目では、調べ学習を取り入れることで、正しい情報と間違った情報の区別・選別する力を学んだり、著作権や肖像権といった知的財産権や個人の権利に触れることも出来る。また、危険情報・有害情報に出会ったときの対処方法も学べる。更に、情報を入手する手段として、各方面へ問合せをする際に、メールという手段を活用することで利便性や注意点を学び、個人情報の管理など広範囲でのモラル教育が可能である。
 保健体育では、健康管理といった側面に触れ、携帯電話の利用時間や使用頻度、ネット利用の種別などのアンケート調査を実施したり、インターネットで健康被害について調査したりし、グループディスカッションで意見交換をすることも可能になる。
 これらの指導内容は、学年で区切るのではなく、地域社会の環境や生徒児童のネットの利用状況(アンケート調査などで把握する)などを踏まえた上で、適切に指導する必要がある。

(1)国語における指導

 コミュニケーション能力の育成を中心とした指導例を取り上げ、小学校や中学校における言語指導が情報モラルの態度の根幹にあること、それらを教師が意識的に指導することが重要である。小学校の低学年では、はがきの書き方、中学年では手紙の正しい書き方、高学年では自分の気持ちを相手に伝える言葉や相手を思いやる表現などを学習する。それらのことを基盤として、電子メールや掲示板での適切な表現を指導することが可能である。

(2)社会における指導

 調べ学習などにおける資料や情報を活用する学習活動の機会を通して、著作権等に関する法律に関する指導を中心に、倫理的な指導が可能である。小学校の中学年では、地域の様子や生活をしらべ、その特色を理解する調べ学習があり、その中で地域に出かけたり、図書やインターネットで検索して調べたことを整理、発表するような活動が含まれている。これらの中で、相手に許諾を得て内容を公開することや、著作物からの引用時に、出展を明記する約束などを取り入れることで、自然と著作物などに対する正しい取り扱い方を身につけることができるようになる。
(中高等学校の事例を追記)

(3)算数における指導事例

 調べた数値データを正しく処理することや、相手に応じて分かりやすく表現することなどの事例。

(4)理科における指導事例

 実験や観察で得られる様々な情報について、それらを利用する場合の留意点や、発信する場合の情報の信憑性を確認することなど、情報を正しく取り扱うことや責任を持って発信することの指導が必要である。

(5)音楽における指導事例

 作曲や編曲など、音楽に関する著作権について、他者の権利を大切にすることが必要である。

(6)図画工作における指導

 絵画の模写や意匠権などについて、絵画活動を通して指導する場面がある。

(7)技術・家庭における指導事例

 技術・家庭科では、「情報に関する技術」の中に「情報通信ネットワークと情報モラル」に関する指導事項があり、情報通信ネットワーク上のルールやマナー、法律等で禁止されている事項などの指導内容がある。また、情報のディジタル化や情報通信ネットワークの学習の中で、情報通信ネットワークにおいて知的財産を保護する必要性を学ばせることとなっている。さらに、情報通信ネットワーク上のルールやマナーの遵守、危険の回避、人権侵害の防止等、情報に関する技術の利用場面に応じて適正に活動する能力と態度を育成することも必要である。
 具体的には、映画や楽曲等をはじめとする著作物の違法な複製行為が、著作者に経済的な損害や制作意欲の減退などの悪影響を及ぼす可能性があることを、実際の事例や判例などを通して知るなどの指導が考えられる。

(8)保健体育における指導事例

 コンピュータの心身への影響について、コンピュータや携帯電話、ゲーム機などを長時間使用すると、心身に悪い影響があること、使う時の注意事項、自分の健康は自分で守るという意識、健康によい生活行動を自ら実践することが必要であることを理解させる。

3.外国語活動における指導事例

 海外との交流学習で英語版学校紹介のビデオやWebページの制作を通し、その中で指導する事例。高等学校では、海外の情報モラルの紹介など。

4.総合的な学習の時間における指導事例 

 情報活用の実践力の育成を伴うような実践事例を中心煮紹介する。情報モラルに関する内容を広く捕らえ、課題解決的な活動の中で著作権に関する課題から情報発信時に留意することなど、情報モラル教育の範疇を広く確実に定着させる。

5.特別活動における指導事例 

 教科の指導では難しい、安全・安心に関する分野の指導をスポット的に取り扱っている事例を紹介し、短時間でも効果的な指導ができることや、教員が安全・安心に関する一般的な考え方や情報を日常的に把握しておくことの必要性、それらを教材として構築して指導することが必要である。

第4節 家庭や地域の連携と学校の役割

1.児童生徒が安心して生活できる環境の確保

 インターネットの普及や携帯電話の利用の増加により、児童生徒が様々なトラブルに巻き込まれる事例が多発している。その解決には、学校での指導だけでなく、家庭や地域の連携が要となる。まず、児童生徒のインターネットや携帯電話の活用実態の調査を実施することで、大人との利用方法の違いを把握し、その報告を家庭や地域へ発信し、多くの大人が関心を持つことが、児童生徒が安心して生活できる環境の確保へつながることを認識させることが大切である。
 具体的な方法としては、児童生徒に対して、有害情報対策やネットトラブルの対処法を映像を中心とした専門家の情報モラル教育を年に1回実施する。このタイミングでアンケートを実施して、利用実態調査を行う。その報告を兼ねた家庭や地域の大人たちへの情報モラル講演会を専門家へ依頼して実施する。毎年実施し定着させることが大切だ。各家庭で、「インターネットの利用」や「携帯電話の使用」のルール作りを親子で考える機会の必要性を伝えることが大切だ。
 家庭や地域との連携をつくるには、まずは学校内での体制作りが必要だ。例えば、「情報委員会」を設置し、各学年より1~2名の委員を選出し、児童生徒の情報の共有化をはかり、問題が発生した場合は、その対応に尽力する。この委員会が学校内にとどまらず、PTAや地区の連絡協議会に働きかけ連携した組織作りをすることで、共有の認識が生まれ、問題を未然に防ぐことが出来るようになる。

2.携帯電話の普及、新たな情報端末への対応と情報モラル教育

 携帯電話は急速に普及し、必要不可欠なものとなり、日々進化している。その進化に柔軟に対応し、新たな知識として取り込むことが必要となります。情報端末の新たな進化を予測することは不可能に近いが、新たな情報収集に取り組むことにより、対策方法を迅速に検討することができる。情報モラル教育を特別な内容と意識せず、日常の問題として取り組むことにより、生徒たちとのコミュニケーションなどから自然と新たな情報を受け取ることができる。この情報の一つ一つをおろそかに対応せず、着手することが重要となる。情報を受け取ってから、知識として身につけたことに満足せず、実際の機能やサービスを利用することでより、具体的に確認することができる。

3.学校教育の情報社会の変化への対応の必要性

 情報社会の変化へ対応するためには、いち早くその変化を把握し認識する必要がある。学校のみならず、家庭地域の大人達に児童生徒が安全に使用できる機能についての理解が備わっているかがポイントになる。まずは、大人達が児童生徒の使用実態を把握し、トラブルが起きた際の解決方法や対応策を学ぶことが大切だ。具体例としては、学校・家庭・地域が一体となり、学校主催でオープンスクールやPTA主催の総会や各委員会での勉強会、地域の家庭教育講座や教育委員会主催の研修会などで定期的に情報モラルの専門指導員から最新情報を得る講演会や端末機器の実演講習会を実施する。NPO団体や携帯電話業者、警察などの出前講座を利用することも有益だ。さらに、参加者自らが、専門的な指導員になれるよう知識を身につけ、その後の学校や地域での指導にあたれるよう指導員の育成も大切だ。また、学校と保護者が連携して、児童生徒が巻き込まれやすいネット上のトラブルに対しての対処方法を記載した冊子を作成し、各家庭や地域に配布することで意識を高める効果につながる。
 地域の携帯事業業者や電気機器販売店(端末機器を扱う販売店)やネット販売や売買の利用に使うコンビニエンスストアなどとの情報や意見交換なども児童生徒の実態を把握する上で活用すると良い。

4.教員の指導力の向上

 情報モラル教育の指導力を向上するために理解しておくべき項目は、主に下記の内容である。

  1. 情報社会で起きていることの理解

  2.  サイト上に児童生徒たちが危険に巻き込まれる可能性がある掲示板やプロフ、出会い系サイト、学校裏サイト(学校非公式サイト)、ブログ等があるという事とその危険性を理解する。また、新聞記事やデータベースを活用し児童生徒が巻き込まれた事例を把握しておく必要がある。
     学校でのコンピュータなどの活用においても、IDやパスワードの取り扱い方と、その操作体験などをとおして、社会でそれらがどのような役割を果たし、またどのような危険性を持っているのかということを理解させることが必要である。身近な問題を体験的に生場競るような環境の整備が必要である。
  3. 情報モラルの教材・授業カリキュラムの作成と指導方法

  4.  児童生徒たちに情報モラル教育を推進するために必要な教材・カリキュラムを作成するには、無料で利用できる教材の利用や、先進的な取組を行っている学校の情報収集等がある。
     授業カリキュラムの実施については、一方的な授業ではなく児童生徒が自発的に参加し考える事ができる仕組が必要である。そのためには、コンピュータ教室で体験的に学ばせることや、ビデオやアニメーションなどを活用して理解させることが必要である。また、保護者に対する啓蒙にも活用できるという視点で作成することが望ましい。
  5. 関連する法律の知識

  6.  インターネット上での児童生徒のトラブルには、保護者や教員が気づいた時には手遅れになる場合も多い。犯罪者や被害者にならないためにも、著作権法、個人情報に関する法令やその他インターネットに関する法律の知識を踏まえた上での指導が必要である。
  7. 具体的な対処方法

  8.  児童生徒のインターネット上の問題の対処については、予防のための対処方法と、事後の対処方法があるが、両方について理解しておく必要がある。情報モラル教育は、予防のための対処方法であるが、問題が起きた場合の対処方法(相談窓口、有害・誹謗中傷書き込みの削除依頼方法、発信者開示請求の方法、心のケアの必要性)も理解すべきである。

5.学校全体で取り組むことの必要性

 携帯電話やパソコンなどの最新の情報端末を利用した情報モラル教育は、各科目と連動した活用が重要となる。各科目を担当する教員の視点から学校全体として取り組み、特別なカリキュラムとして取り組むのではなく、従来の授業の中に情報モラルの視点をもった学習活動を取り込むことが必要だ。これにより、情報モラルの重要性が学校全体から発信され、まずは生徒達への興味関心のきっかけとなる。生徒達が意欲喚起されることにより、さらに保護者へ関心を持たせることができる。情報モラル教育は学校だけではなく、家庭の中でも養われる。正しい情報モラルを学校・家庭で身につけることにより、情報化社会の有害な部分ではなく、有効な利用方法が認知され、情報化社会を活用した教育を行うことができる。
 教員自身が教材を作成する場合の著作物の取り扱い → 校務で明記

==イラストの例==

  • 情報モラル教育推進のための地域と学校の連携モデル図
  • 危険なサイトの画面例
  • 児童生徒がネット上でのコミュニケーションを活発に行っている図
  • 学校裏サイトの増加グラフ

==児童生徒の情報モラルチェックリスト==

  • 自分自身でチェック
  • お友だちと相互チェック
  • 学校の生活でチェック
  • お家の人と一緒にチェック

お問合せ先

初等中等教育局参事官付課