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3 教職調整額制度の見直し

(1)基本的な考え方

  •  上記2を踏まえ、教職調整額制度の見直しに当たっては、まず学校の組織的運営の改善に資する制度とする必要があり、その観点から、よりふさわしい制度を検討していく必要がある。
     また、教員の勤務時間管理を適切に行うことや時間外勤務の抑制、適切な時間外勤務の評価につながるような制度とすることで、教員の勤務状況が改善され、教員が担当する教科や児童生徒への指導方法などに関して幅広い知識や技能を習得するなどの自己研鑽に励んだり、一人の社会人として公私ともに充実した生活を送る余裕を持てるようにし、教員の資質向上や優秀な人材の確保に資するようにすることや、これらのことにより、子どもたちにより充実した学校教育の提供が可能となるようにしていく必要がある。
  •  そのため、教職調整額制度に代えて時間外勤務手当制度を導入することは一つの有効な方策であると考える。時間外勤務手当制度を導入することにより、教職調整額制度の下であたかも学校には無限の時間的資源があるかのように見られ、学校や教員の業務がいたずらに増大してきた現状を見直す契機となることや、いわゆる超勤4項目を見直すことで組織的、一体的な学校の組織運営に資することなどが考えられる。
  •  ただし、教職調整額制度の見直しは、単に給与の問題に留まらず、以下(2)に記載するように、学校の組織運営、教員の勤務時間管理、教員の時間外における勤務の在り方などにも大きく影響する問題である。
  •  そのため、教職調整額制度については、今後の学校の在り方などの検討を踏まえ、時間外勤務手当とすることも含め、その見直し方策について今後さらに検討していく必要があると考える。

(2)教職調整額制度の見直しに係る論点

1教員の職務の特殊性

  •  教員の時間外勤務が社会的な問題となる中、昭和46年2月に人事院は国会及び内閣に対して「義務教育諸学校等の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する法律の制定についての意見の申出」を行った。この申出及び当該申出に関する説明においては、「教員の勤務時間については、教育が特に教員の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいことおよび夏休みのように長期の学校休業期間等があること等を考慮すると、その勤務のすべてにわたって一般の行政事務に従事する職員と同様な時間的管理を行うことは必ずしも適当でなく、とりわけ超過勤務手当制度は教員にはなじまないものと認められる」ので「教員の勤務は、勤務時間の内外を包括的に評価することとして、現行の超過勤務手当および休日給の制度は適用しないものとし、これに替えて新たに俸給相当の性格を有する給与として教職調整額を支給する」こととされた。
     この人事院の意見の申出を受けて、昭和46年5月に「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が制定され、公立学校の教員については、教職調整額を支給し、時間外勤務手当を支給しないこととされた。
  •  この教職調整額制度の創設の際における、教員の勤務は自発性や創造性に基づくという特殊性を有するという考え方に鑑み、一般的な時間外勤務手当制度は教員になじまないのではないかという意見もある。
  •  これについては、まず、教員に求められる自発性や創造性とはいかなるものなのかということをきちんと整理する必要がある。
     教員も学校という組織を構成する一員である以上、学校の方針と無関係に各教員の個人的な判断のみで、行う業務を取捨選択することはあり得ない。教員に求められる自発性や創造性というのは、あくまでも学校として必要な業務を遂行するに当たって、校長の学校経営方針の下で各教員の判断により最も適切だと考えられる手段や方法などにより処理することが求められることと考えるのが適当である。
  •  校長などが全ての業務を一方的に命令することは教員の自発性を損なうのではないかとの意見もある。それに対しては、自発性や創造性を要する業務には時間外勤務を校長などが一方的に命じるのではなく、教員の申し出に対して校長などが承認・命令をするという運用上の工夫をすれば、教員の自発性を損なうことはないとの意見もある。
  •  そして、この教員の職務の自発性や創造性に基づき、児童生徒への個別の指導や教材研究などについて、どのような対処を、どの程度の時間をかけて行うのかは、各教員の判断により行われるため、それに費やされた時間に応じて手当を支給するのはなじまないのではないかという意見がある。
     このような意見に対しては、組織的、一体的な学校運営が求められ、複雑困難な課題に対して複数の教員によるチームとしての対処が求められる中、その処理方法などについて完全に各教員の個人的判断のみに委ねられる業務はほとんど無くなってきているとの意見や、このような自発性や創造性は、教員のみならず全ての労働者についても求められるものであるとの意見、勤務時間として計測することが困難な活動については、教員の職務の専門性などの特殊性を評価するための措置(例えば本給の優遇、別途の手当の支給など)で対応すべきではないかとの意見もある。
  •  教員の自発性や創造性に基づく勤務とそれに対する給与上の評価をどのように行うかなどについては、今後さらに検討を進める必要がある。

2管理職の負担

  •  時間外勤務の管理のために管理職の負担が増えるのではないか、少ない管理職で大勢の教職員の勤務時間を管理することは困難ではないかとの意見もある。
  •  これに対しては、部下職員の勤務時間の管理は管理職として求められる当然の責任に属するものであって、校長などが命じた勤務の処理に要した時間数を事後的に教員から自己申告させ、それを校長などが確認・承認することや、教員から時間外に行う必要のある業務とその処理に見込まれる時間数を事前に申し出させ、それを校長などが承認するなどの工夫により解決できるという意見もある。
  •  部下職員の勤務時間を管理することは、2(1)1で記述したように、管理職に当然求められることである。
     適切に勤務時間管理を行える体制をどのように構築していくのか、そのために必要な措置は何かなどについて、今後検討を進めていく必要がある。

3部活動指導の取扱い

  •  部活動指導に従事した時間を教員の勤務時間と位置づけ、部活動指導が時間外に及んだ場合には時間外勤務手当を支給すると、部活動指導が抑制され、支障が生じるのではないかとの意見もある。
  •  これに対しては、部活動を「学校教育の一環」として明示した新学習指導要領の趣旨に鑑みても、今後は週40時間労働制の原則の下で教員の勤務時間内で行われるべきものとして位置付けた上で、専門的指導者を配置するなど、必要な条件整備を図ることが必要であるとの意見もある。
     また、現在の長時間に及んでいる部活動指導を改め、適切な部活動指導の時間について各教育委員会や学校が定めていく必要があるとの意見もある。
  •  部活動指導については、それが学校教育上果たしている役割も踏まえ、その在り方について、今後さらに検討を進めていく必要がある。

4持ち帰り業務の取扱い

  •  自宅に仕事を持ち帰らざるを得ない教員もおり、時間外勤務手当制度が導入されるとそのような教員には不公平感が生じるのではないかとの意見もある。
  •  これに対しては、自宅で業務を処理せざるを得ない状況は教員にとって大きな負担で、教員の健康管理やワーク・ライフ・バランスの観点から大きな問題であり、また、成績処理などのため児童生徒の個人情報を学校外に持ち出すことは適切な情報管理の観点からも問題であることから、今後は、学校として必要な業務は、勤務時間内で処理できるようにすることが必要であり、自宅への持ち帰り業務は原則として無くしていく必要があるとの意見もある。
  •  また、介護や育児などの事情がある教職員については、テレワークの導入などにより、適切な勤務管理体制を整えた上で、自宅でも勤務ができるようにするべきとの意見もある。
  •  持ち帰り業務については、あることが前提になるのではなく、そのような業務が無いことが本来あるべき姿であるという前提に立ち、どのようにすれば自宅への持ち帰り業務を無くすことができるのか、その方策などについて今後検討していく必要がある。

5残業時間の縮減

  •  時間外勤務手当制度を導入しても、教員の時間外勤務の実績に見合う時間外勤務手当に係る予算が確保できず、いわゆるサービス残業が常態化するだけで、教員の勤務実態は変わらないのではないかとの意見もある。
  •  一方、時間外勤務手当制度の導入により、より厳格な勤務時間管理が行われるようになるとともに、時間外勤務手当に係る財政支出の抑制のため業務の精選などが促されるなど、残業時間の縮減が見込まれるとの意見もある。
  •  平成18年に行われた「教員勤務実態調査」の結果によると、小学校・中学校の教諭の勤務日の残業時間が1月当たり平均約34時間となるなど、昭和41年の「教職員の勤務状況調査」の結果と比べ残業時間が増加しており、教職調整額制度の下で残業時間が増大していることは否定できない事実である。
     このような状況を踏まえ、学校業務の効率化などと併せて、教職調整額制度の見直しに当たっては、教員の時間外勤務が抑制されるような仕組みとなるよう今後検討していく必要がある。