「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」推進上の諸課題に関する調査研究について

 「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(以下、「問題行動調査」という。)の平成18年度分の結果等を検証・分析し、平成19年度調査の実施に当たって、より的確な調査の実施方法等の検討を行った。

論点1 「いじめ」を認知していない学校が半数近くあることについて

【現状】

 学校総数に占める「いじめ」を認知していない学校の割合が、小・中・高等学校・特殊教育諸学校の合計で45パーセントに上っている。

【検証・分析】

  いじめを認知していない学校において、他の学校で捉えたようないじめがあるならば、その学校は、「問題行動調査」の意義や趣旨等の理解が不十分であり、いじめの捉え方やいじめへの取組が徹底されていないこともあるのではないかと考えられる。
 また、現地視察を行った結果、いじめを認知した学校においては、学校全体でいじめに対する意識が高く、生徒会による生徒自身の自主的な取組など様々な方法によりいじめを認知できるように努めているなどの報告もあった。ただし、いじめを認知していない学校は、比較的小規模の学校であったり、地域との繋がりが強い学校であったりするなどの報告もあり、いじめを認知した学校と比較して、そもそも学校が置かれている状況等にも違いが見られ、いじめに対するアプローチ、いじめへの対応状況が異なっているものとも考えられる。

【19年度調査に向けて】

  • 1  「問題行動調査」の意義や趣旨等について、各都道府県教育委員会等への調査依頼文書、調査票等に記載して、より明確化を図るとともに、会議等の場を通じて周知徹底を図ることによって、各学校等が問題行動等に対して意識を高めるとともに、的確に実態を把握し、未然防止、早期発見・早期対応の取組をより一層進めていくようにする。
  • 2 すべての学校に対して、いじめの的確な実態把握のため、「アンケート調査」や「個別面談」等の取組を定期的に必ず行うよう徹底するとともに、いじめを認知した学校と認知していない学校に対して、その取組状況等に違いが見られるかどうかについても新たに調査項目として加えることとする。こうした調査結果等も活用して、仮にいじめの問題に意識が低い学校等でいじめを見逃していることがあるならば、当該学校の意識を高め、学校全体でいじめを見逃すことのないよう、指導していくこととする。

論点2 「いじめ」の認知件数に関して、都道府県間で開きがあることについて

【現状】

 千人当たりの「いじめ」の認知件数について、最も多い県では50.3件、最も少ない県では2.1件と、最大で48.1件の開きがある。

【検証・分析】

 各都道府県の調査結果を分析したところ、認知件数の多い県で、より「アンケート調査」を活用している割合が高く、いじめの実態把握のため、「アンケート調査」の取組が一つの有効な手法であることが明らかとなった。
 また、現地視察を行った結果、「アンケート調査」を実施後、個別面談等を実施することによって、いじめの認知及びその対応にも繋げているとの報告があり、様々な取組の工夫を通じて、より的確な実態把握が行われることとなることも確認された。

【19年度調査に向けて】

  • 1 各教育委員会、学校等において、いじめの実態把握のため、「アンケート調査」をはじめ、個別面談等の取組を実施するなど、児童生徒から直接状況を聞く機会を定期的に必ず設けるよう徹底することで、いじめの把握方法についてある程度の統一化を図ることとする。
  • 2 会議の場において、各県で行われた「アンケート調査」の調査様式を紹介するなど積極的な情報提供を行い、各都道府県や学校での具体的な取組を促すこととする。

論点3 「暴力行為」の発生件数に関して、都道府県間で開きがあることについて

【現状】

 千人当たりの「暴力行為」の発生件数について、最も多い県では9.1件、最も少ない県では0.3件と、最大で8.8件の開きがある。

【検証・分析】

  「暴力行為」についても、「いじめ」と同様、各学校でその捉え方が一様ではなく、取組状況や意識についても違いが見られるのではないかと考えられ、このことが、都道府県間による件数の開きが生じる要因の一つと考えられる。

【19年度調査に向けて】

  • 1  軽微なものも含めて、すべての暴力行為が計上されるよう把握の仕方について一層の明確化を図ることとする。
  • 2 各学校における暴力行為への対応について、新たに調査項目として加え、学校における指導等の状況把握を行うことで、各学校の意識を高めるとともに、暴力行為の未然防止、早期発見・早期対応の取組をより一層促していくこととする。

論点4 「自殺」の状況に関する調査について

【現状】

 児童生徒の自殺者数について、警察庁の調査結果と比較して、その数値に開きがあり、「自殺」として計上されていないケースが見られる。また、「自殺した児童生徒が置かれていた状況」の調査において、「その他」として計上されたケースが最も多い。

【検証・分析】

 児童生徒の自殺者数については、調査の精度を高めるため、警察庁の調査結果と照らし合わせた結果、学校として自殺であることの裏付けを確認できず、自殺であるという判断ができなかった場合や、遺族の心情等に配慮して、自殺として計上できなかったケースもあることが明らかとなり、このことは、学校や教育委員会を対象とした調査である以上、やむを得ないものと考えられるため、調査結果の公表の仕方を工夫していく必要がある。
 また、「自殺した児童生徒が置かれていた状況」について、平成18年度調査から調査方法を見直し、その結果、より実態に近づいた状況把握を行うことができた一方で、「その他」として計上されたケースが最も多くなっており、実態把握が困難であることが理解できる。ただし、今後も、自殺した児童生徒が置かれていた状況について、実態把握を行うことは重要であり、そのための調査方法等の見直しは必要である。
 なお、中長期的には、関係機関等から情報提供を受けることで、「問題行動調査」における自殺の調査の趣旨、目的等が達成できるものと判断されれば、調査実施の有無を含めて、検討していくことも必要である。

【19年度調査に向けて】

  • 1  「自殺した児童生徒が置かれていた状況」の調査において、「その他」と回答したケースが多く、その中には、「周囲から見ても普段の生活の様子と変わらず、特に悩みを抱えている様子も見られなかった」などのケースが多く見られたことから、回答区分を工夫することで、より的確な実態把握が行われるようにする。
  • 2 調査結果の公表に当たっては、関係機関等の調査結果も併記するなどして、その公表の仕方を工夫していくこととする。
  • 3 「自殺」の状況に関する調査自体の今後の在り方については、引き続き、検討していくこととする。

論点5 「問題行動調査」の活用方法について

【現状】

 「問題行動調査」の活用方法については、これまでに一定の評価ができるものの、より活用できる余地もあり、工夫が必要である。

【19年度調査に向けて】

 文部科学省において、「問題行動調査」の分析等を専門的に行う係を新設するとともに、学識経験者等の関係者の協力を得ながら、調査結果の分析・検証等を多角的に行い、その結果については、各学校における具体的な取組を促し、国の施策に反映させていくこととするなど、「問題行動調査」をより有効に活用していくこととする。また、「問題行動調査」の活用方法について、引き続き、検討していくこととする。