現行学習指導要領では,確かな学力の育成に当たって,基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とともに,自ら学び,自ら考える力の育成を目指している。昨年10月の中央教育審議会答申や,本年2月の中央教育審議会教育課程部会の審議経過報告においては,現行の学習指導要領の学力観については様々な議論があるが,基礎的・基本的な知識・技能と,自ら学び自ら考える力の両方を総合的に育成することが必要であるとしている。また,その際,基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させることや,思考力・判断力・表現力をはぐくみ,学習や生活において,知識・技能等を活用することを重視している。
なお,審議経過報告においては,学校教育の目標を整理し,教育課程の構造を明確化する作業の進捗(ちょく)も報告されており,国際的な通用性という視点として,PISA調査の概念的な枠組みの基本であるOECDの主要能力(キーコンピテンシー)という考え方などが,作業の参考として示されている。全国的な学力調査においても,これらの作業の進捗(ちょく)を踏まえ,測定すべき学力を構造的にとらえるとともに複数の視点から把握する必要がある。
全国的な学力調査の調査問題の出題範囲・内容の検討に当たっては,国として教育の機会均等の確保や教育水準の維持向上を図ること,教育委員会及び学校等が広い視野で教育指導等の改善を図る機会を提供することなど,調査実施の意義・目的を踏まえる必要がある。これらとともに,国の教育課程の基準としての学習指導要領の理念・目標・内容等に基づくことを考慮することが必要である。
これらのことなどを踏まえ,全国的な学力調査における調査問題の出題範囲・内容については,各学校段階における各教科などの土台となる基盤的な事項に絞った上で,以下のように問題作成の基本理念を整理することが適当である。
このような調査問題により調査を実施することによって,各教育委員会や各学校に対して,学習指導要領に示される内容等を正しく理解するよう促すとともに重視される力を子どもたちに身に付けさせるといった国としての具体的なメッセージを示すこととなる。
また,平成17年に公表された義務教育に関する意識調査において,保護者の6割強が全国学力テストの実施に賛成するなど,子どもたちの学力に対する社会的な関心や要請が高まりつつある。そうした中で,義務教育における各教科等の土台となる基盤的な事項について,全国的な視野から義務教育の機会均等や一定以上の教育水準の達成状況を把握すること,我が国において学校教育で達成されていることを明らかにすることは,保護者や社会に対して客観的で正しい情報を提供する意義があると考えられる。
各教科の具体的な調査問題の作成に当たっては,調査問題自体が学校の教員や児童生徒に対して土台となる基盤的な事項を具体的に示すものであり,教員による指導改善や,児童生徒の学習改善・学習意欲の向上などに役立つとの視点が重要である。例えば,以下のような観点を盛り込むことや工夫をすることが考えられるが,具体的には調査問題の作成過程における検討にゆだねることとする。
義務教育における機会均等や一定以上の教育水準を確保するために,各学校段階において土台となる基盤的な事項に絞った内容とするなど出題範囲・内容を絞る観点から,対象となる児童生徒に対して共通の問題冊子により学力調査を実施する。
迅速かつ客観的な採点を考慮しつつ記述式の問題を一定割合で導入する。
国語,算数・数学に関する調査の時間配分については,児童生徒や学校の負担や多くの児童生徒が時間的余裕を持って取り組むことができる程度の問題量等を考慮して,質問紙調査に要する時間を除き小学校第6学年は3単位時間,中学校第3学年は4単位時間程度までとする。
各学校における指導改善や児童生徒自身の学習改善や学習意欲の向上に役立てるため,調査問題や採点基準,さらには問題を出題するねらいや児童生徒の学習状況の評価の観点との関係などを公開する。
なお,毎年同じ部分に焦点を当てるのではなく視点を変えて何年かの周期で考えるということも有効と考えられるが,その具体的な方策については問題作成の過程で検討することが適当である。
質問紙調査については,児童生徒の関心や意欲など,国語及び算数・数学に関する調査を補完して学力を把握する内容や,児童生徒の授業での取組方や学習方法など,国語及び算数・数学に関する調査では把握が困難な内容について,質問紙を用いることにより把握する必要がある。
また,児童生徒の学習環境や家庭における生活状況等の生活の諸側面,教育条件,教育施策など,国語及び算数・数学に関する調査結果との結び付きが強いと考えられる内容について,それらを把握するとともにその相関関係等を分析する必要がある。
これらを踏まえ,以下の二つの視点,すなわち,
から質問紙調査を実施することが適当であり,最低限盛り込む質問項目の具体例としては,別紙2 学力の一要素として調査する質問項目の具体例について及び別紙3 学力の規定要因として調査する質問項目の具体例についてとする。
さらに,地域の特色ある教育活動を尊重しつつ,体力調査の結果などの学校教育の様々な成果についても把握に努めるとともに,学力との相関関係を分析することが重要である。
質問紙調査の形式などについては,有効な回答が得られるとともに意味ある調査結果が得られるよう,適切な質問形式や質問項目数に配慮する。
質問紙調査の対象については,その有効性や負担等を考慮し,児童生徒への調査と,学校全体としての取組や人的・物的な整備の状況を問う調査を基本とする。
児童生徒への質問紙調査の時間配分については,児童生徒等への負担等を考慮すると1単位時間程度までとする。
なお,毎年継続して質問する項目のほか,年によってテーマを絞って質問する項目を設けることも有効と考えられるが,その具体的な方策については質問項目作成の過程で検討することが適当である。
初等中等教育局学力調査室