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資料9
第2回初等中等教育における国際教育推進検討会報告資料
平成16年10月7日

海外子女教育の課題

東京学芸大学国際教育センター 佐藤郡衛

1  この報告のねらい
 海外子女教育の今後の課題を考えるには、理念や目標からだけでは対応できない。海外子女教育の初期の提案を読み返すと、「国際人の養成」「国際的に活躍できる日本人の育成」「国際性の涵養」「優れた言語能力」、逆に「国内なみの教育」「帰国後の教育の充実」等々、いわば同じ言説が繰り返されている。いわば、「診断なき処方箋」が書かれてきた。これまでの海外子女教育の現状をできるだけ客観的に把握し、その成果と課題を踏まえた議論が必要になる。まずは海外子女教育の現状を把握し、そこから成果や課題を明らかにし、今後どのように海外子女教育を進めるかを検討することが必要ではないか。そのときに、国が何をどこまでやるかを明らかにしていくことが課題である。

2  課題の洗い出しの視点を明確にすること
  1. 構成する主体から ―児童生徒の実態から、保護者の要求から、教員の実態から
  2. 学校管理・運営の実態から
  3. 日本国内の教育との関連から
  4. 現地との関連から
  5. 日本経済との関連から
  6. グローバリゼーションの視点から

3  海外子女教育の課題とは
 児童生徒の実態から
(1) 日本人学校の児童生徒の学力の実態(資料参照
 学力調査等の結果からみると、日本人学校の児童生徒の学力は、国内の公立学校と比較しきわめて良好といえる。また、日本人学校の児童生徒は、「学校が好き」「勉強が好き」「勉強は受験に関係なく大切だ」という回答が多く、学校と勉強に親和的である。国内の小・中学生と比較し、「授業がよく分かる」、「1日の勉強時間が長い」、「よく読書をする」という回答比率が多い。基礎学力を支える学習への構えを強く持っている。
(2) 海外の子どもの多様化への対応
 就学前・高等学校段階の子どもの増加、特別支援を必要とする子ども、日本語能力が十分でない子ども等の増加等。例えば、子どもの多様化が学力調査結果にもあらわれている。国際結婚の子どもが多いアジアの日本人学校では、国語が「弱い」といった結果が出ている。
(3) 現地校・補習授業校に通う子どもの異文化適応・言語能力
1 現地校への適応状況―不適応の増加
2 現地語による学習と日本語による学習のメリット、デメリット―その中で補習授業校はどのような意味をもつか
3 現地語の獲得状況―特に英語力の問題、両極化現象
4 永住者、長期滞在者の子どもの増加とともに日本語教育の必要性

 保護者の要求から
(1) 保護者の自立と「私事化」の進行―「自己責任」という認識の芽生えと「公」へのとらわれ
(2) 保護者の勤務形態の多様化、ライフスタイルの多様化、長期滞在化・永住化等
(3) 保護者の要求の多様化、高度化

 教員の実態から
(1) 派遣教員制度は―義務教育費国庫負担金に関する議論の波及は、派遣教員の選抜と研修のあり方、教員の充足率は
(2) 教員としての資質―派遣教員、現地採用教員等
(3) 補習授業校の教員
1 パートタイムという制約、権利要求と実際の仕事遂行とのズレ、指導内容についての自己研修の不十分さ
2 固定的学習指導観、児童生徒理解の不十分さ

 学校管理・運営の実態から
(1) 学校経営基盤の脆弱さ―日本経済との関連
(2) 学校運営の不安定さ−流動性
(3) 現地社会との関連
(4) 危機管理対策と危機後の対応
(5) 補習授業校の管理・運営
学校という組織的特性をとりにくい。「組織」とは1組織目標の明確化、2職制の明確化(校務分掌)、3意思決定の民主化、4カリキュラムの組織化、5指導方法の明確化等の特徴をもつが、補習授業校はこうした特性を持ちえない。

 日本国内の教育との関連から
(1) 最近の日本の教育改革の動き
 予測をこえた動きにどこまで対応するのか、ただ、対応するだけでなくその改革に成果を提供するという側面を強調することも必要。そのためにも、経験即や印象論をこえたデータにもとづく議論が不可欠。
(2) 帰国子女教育との関連―受け入れ制度−特に高等学校と大学
(3) 国際理解教育との関連

 現地コミュニティとの関連から
(1) 現地における日本人学校の位置づけ―教育機関といえども国際政治の渦に巻き込まれる状況の出現
(2) 危機管理対策と危機後の対応
(3) 現地の政策との関連

 日本経済、グローバリゼーションの視点から
(1) 経済状況に左右される海外子女教育
 経済状況、人口統計等による海外子女数の推計
(2) 企業・労働組合の対応は
 アウトソーシング化が進むか
(3) 長期的視野からの海外子女教育の理念
(4) グローバル化のなかでの海外子女教育の方向性は

4  海外子女教育の今後の方向性
1. 海外子女教育の政策課題は
(1) これまでの枠組みと違う課題への対応は
就学前教育、高等学校段階への政府の支援の必要性は(必要なしも含めて)
特別な支援が必要な子どもへの対応は
(2) 継続的な実態把握の必要性
何年かおきの調査による新しい課題の把握
(3) 所在国に開かれた学校経営、実践・カリキュラム等開発支援
(4) 教員派遣の在り方
広域型派遣の検討(例えば、補習授業校ディレクター制の導入等)
シニアボランティアの活用
(5) 遠隔授業 e-learning等の実施
(6) 教員研修、教員へのサポート体制の整備

2. これまでの成果を日本国内の教育にどういかせるか
短期的視点―最近の改革・動向への示唆―ただ、海外子女教育の成果をいかすと言っても効果はない。そこで、どう発信するかの戦略が重要であり、その方策を検討することが課題になる。
(1) 6・3制の見直しへの示唆
1 日本人学校は小中が併存、小中の乗り入れが日常的−メリット、デメリットを含めて
2 教科指導、生徒指導への示唆
3 教員の指導力の観点
(2) 学校運営・経営の視点
1 危機管理のノウハウ
2 経営的手腕―日本人学校・補習授業校ともに
(3) 「確かな学力」と「豊かな教養」―児童生徒の学力調査からの示唆
1 基礎的学力の保障のための工夫―どのような教師の創意工夫があるのか等
例:「ティーム・ティーチングや少人数指導を多くの時間で行っている」「習熟の程度に応じて学習グループを編成した授業を行っている」「宿題を出す」「コンピューターを活用した授業を行っている」「課題解決的な学習を取り入れた授業を行っている」「読書を習慣化させるための特別な取り組みを行っている」「発展的な課題を取り入れた授業を行っている」等が国内と比較し多い。
2 「総合的な学習の時間」と基礎学力の両立のための教育課程編成・指導法等
3 小学校英語教育と中学校英語科への示唆
(4) 国際理解教育の実践の視点の明示−現地理解教育の成果を
「国際理解」「国際協力」「パートナーシップの形成」「地球市民の育成」という視点
(5) 派遣教員の実践的力量の向上?それをどのように国内の還元できるか。(人事異動「専門職大学院構想」等に)

3. 中長期的な視点からの議論
(1) トランスナショナリズムという状況での日本人学校のあり方
1案として、「国際学校化構想」―日本人の多様化への対応、学校経営戦略、現地への貢献、日本からの発信等のため。特に「EAU学校」等―「アジア人」の育成を海外子女教育でできないか。
(2) 補習授業校のあり方
現地校の授業の共同開催と情報通信ネットワークの活用(第15期中教審第1次答申での提言)
(3) 日本国内の「構造特区」的な発想からの海外子女教育の構想を

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