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第1章 普通科におけるキャリア教育の必要性

2  キャリア教育の必要性
   キャリア教育の推進を提唱した接続答申は、「新規学卒者のフリーター(注1)志向が広がり、高等学校卒業者では、進学も就職もしない者が約9パーセントに達し、また、新規学卒者の就職後3年以内の離職率も、労働省の調査によれば、新規高等学校卒業者で約47パーセント、新規大学卒業者で32パーセントに達している。こうした現象は、経済的な状況や労働市場の変化なども深く関係するため、どう評価するかは難しい問題であるが、学校教育と職業生活との接続に課題があることも確かである」と、キャリア教育の求められた背景について指摘している。その上で、「学校と社会及び学校間の円滑な接続を図るためのキャリア教育を小学校段階から実施する必要がある」と、キャリア教育の必要性について述べている。そこで、初等中等教育の最終段階である高等学校、特に普通科と社会との接続及びフリーターやいわゆるニート(注2)の現状などから、改めて、普通科におけるキャリア教育の必要性について述べることとしたい。
 
(注1) フリーター:平成18年版労働経済白書によると、年齢15〜34歳、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者とし、1雇用者のうち勤め先における呼称が「パート」又は「アルバイト」である者、2完全失業者のうち探している仕事の形態が「パート・アルバイト」の者、3非労働力人口のうち希望する仕事の形態が「パート・アルバイト」で家事も通学も就業内定もしていない「その他」の者としている。平成17年で201万人となっている。
(注2) ニート:平成17年版厚生労働白書によると、通学も仕事もしておらず職業訓練も受けていない人々としている。なお、平成18年版労働経済白書によると、「ニート」に近い概念として、若年無業者を年齢15〜34歳に限定し、非労働力人口のうち家事も通学もしていない「その他」の者と定義して集計すると平成17年は64万人となっている。

 
(1)  高校卒業後の進路状況からみたキャリア教育の必要性
   近年の高等学校卒業者の進路の特徴は、大学等の上級学校への進学率が高い割合に上る一方で、就職率が長期的に見れば低下傾向にあること、また、「進学も就職もしなかった者」の割合が低くないことである。これを平成17年3月高等学校卒業者でみると、「大学等進学率」47.3パーセント、「専修学校(専門課程)進学率」19.0パーセント、「就職率」17.4パーセント、「一時的な仕事に就いた者」1.9パーセント、「進学も就職もしなかった者」6.6パーセントとなっている。
 普通科の卒業者では、「大学等進学率」と「専修学校(専門課程)進学率」とを合わせた上級学校進学率は73.3パーセントと高い割合に上る一方で、「就職率」は8.8パーセントと低く、また、「一時的な仕事に就いた者」と「進学も就職もしなかった者」とを合わせた割合は8.5パーセントとなっている。
 これは、普通科にあっては、学校間の接続、すなわち上級学校への進学に係る指導に偏り、上級学校進学希望者以外の生徒に係る指導、すなわち学校と社会との接続に係る指導が必ずしも十分でないことをうかがわせる。普通科にあっても、生徒が進学希望であるか就職希望であるかを問わず、将来の生き方にかかわる問題として、生徒が将来への夢や希望をはぐくみ、その実現に努力する指導・援助として、キャリア教育に取り組むことが大切なのである。

(2)  大学卒業後の進路状況からみたキャリア教育の必要性
   高等学校卒業者の現役での「大学等進学率」は47.3パーセントに上り、普通科のそれは55.4パーセントに達している。しかし、大学進学者について見ると、平成17年3月大学卒業者数は、約55万人であるのに対し、入学した年にあたる4年前の大学入学者数は約60万人であった。この間の出入りは様々であるとは言え、単純な差引きで言えば大学進学者と大学卒業者に約5万人の差が生じている。
 また、大学卒業者の進路状況は、平成17年3月末で、「進学者」12.0パーセント、「就職者」59.7パーセント、「臨床研修医」1.4パーセント、「一時的な仕事に就いた者」3.5パーセント、「進学も就職もしなかった者」17.8パーセント、「死亡・不詳の者」3.3パーセントとなっている。つまり、留年・休学等の学生がいるため、一概には言えないが、単純に数字だけの比較でみると大学進学者のうち、約12人に1人は卒業せず、卒業する者の約6人に1人は、進学も就職も決まらないままに卒業しているのである。
 このような大学進学者のその後の進路は、成熟した社会にあって、若者の価値観が多様化していることや職業について考えたり選択・決定したりすることを先送りしていることの反映にほかならないと言うことができる。また、同時に、高い大学等進学率の下で、十分に学ぶ意義を理解しないままに、あるいは、無目的に「入れる」大学、学部・学科を選択して「入った」学生が、学業や生活に適応できなかったり、厳しい就職等の状況を克服できなかったりしている姿を反映しているものとも言うことができよう。
 大学入学後の進路についての直接的な責任は、大学教育にもあることは改めて指摘するまでもない。しかし、高等学校、特に、大学等進学率が55.4パーセントに上る普通科にあっては、このような大学進学者の大学での学業や生活での挫折、大学卒業時の進路状況を、高校と大学との接続の在り方にかかわる問題として重く受け止め、「学校と社会及び学校間の円滑な接続を図るためのキャリア教育」について、責任の一端を担い、キャリア教育に積極的に取り組むべきである。とりわけ大学進学希望者が多い高等学校にあっては、生徒が将来における社会参加を視野に入れて、何のために学び続けるのか、何を目指して、何を学ぶのかというように、大学進学の意義を理解し、目的を持って勉学や諸活動に取り組むことができるよう、キャリア教育に取り組む必要がある。

(3)  中途退学、早期離職とニート、フリーターとのかかわりから見たキャリア教育の必要性
 
1  中途退学といわゆるニートとのかかわり
   内閣府の調査によると、15歳〜34歳の年齢層の者を最終学歴別に見ると、中学校卒業者は8パーセント弱であるにもかかわらず、同じ年齢層のいわゆるニートを学歴別に分類すると、中学校卒業者は約20パーセントにも上っている。
 同世代のいわゆるニートの内、中学校卒業者が約20パーセントを占めるということは、高等学校を中退するなど最終的に高等学校を卒業しなかった者が職に就かないまま、あるいは職に就きながらも離職して、長期にわたってニート状態にあるためと推測される
 このようなことから高等学校においては、生徒が、学校生活や学業に適応することができるよう、入学後の早い時期から指導・援助することが重要である。しかし同時に、生徒が、将来の社会参加を視野に、高等学校で学ぶ意義や目的を見いだし、学習や諸活動に積極的に取り組むよう、また、たとえ高等学校を中途退学しても、学業に再挑戦したり、社会生活・職業生活に積極的に参加し、自立することができるよう、高等学校入学時からのキャリア教育が必要となっているのである。
 なお、高等学校で効果的にキャリア教育を進めるためには、小学校段階から、児童生徒の発達段階に応じた組織的、系統的なキャリア教育が取り組まれていることも重要となる。
2  不登校と中退そしてニート
   文部科学省が平成16年度に初めて実施した高等学校における不登校に関する調査における不登校生徒数は67,500人であり、在籍者に占める割合は1.82パーセントに上っている。また、不登校生徒のうち中途退学に至った者は24,725人で不登校生徒数に占める割合は36.6パーセントである。そして、不登校の要因は、生徒の4人に1人が「無気力」から不登校が続いており、これに「あそび・非行」を加えると、3人に1人が学校生活や学業に適応できないために不登校に陥っている。
 この不登校に関する調査結果から、高等学校においては、「無気力」や「あそび・非行」から不登校が続いている生徒が、やがて中退に至ることが考えられる。そして、先述したようにニートにおける中学校卒業者が約20パーセントを占めることから推測すると、高等学校中退後にあっては、ニートという一つの道筋も考えられる。
3  早期離職とフリーター
   近年の厚生労働省の労働統計によれば、新規高等学校卒業就職者の約5割が、また新規大学卒業就職者の約3割が、就職後3年間で初めの就職先から離職しているという実態がある。そして、早期離職者の相当数がパート、アルバイトあるいは派遣労働で働いたり、非労働力化していることは、若者の就業を取り巻く今日の厳しい環境からみて容易に推測できるところである。また、旧日本労働研究機構が平成2年に実施した、新規高卒就職者で早期(就職後8か月目)に離職した者に対する追跡調査によれば、当時にあっては若者の労働市場が売り手市場であったにもかかわらず、早期離職者の77パーセントが再就職しているものの、そのうちの43パーセントがフリーターとして働き、また、早期離職者の23パーセントが失業中あるいは非労働力化している。

 このような実情を踏まえて、高等学校は、生徒が働くことの意義や大切さを理解するとともに、積極的に仕事に就き、働く意欲、態度を身に付けるなど、将来の社会的・職業的な自立に必要な意欲・態度や資質、能力を養うためにもキャリア教育に取り組む必要がある。

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