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第1章 普通科におけるキャリア教育の必要性

1  キャリア教育の現状
   キャリア教育(注)は、平成11年12月中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(以下「接続答申」という。)で、その推進が提唱された。その後、国立教育政策研究所生徒指導研究センターによる「児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進に関する調査研究」(平成13年〜14年)及び文部科学省初等中等教育局児童生徒課による「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究」(平成14年〜16年)を経て、平成16年度から「新キャリア教育プラン」等で推進が図られている。キャリア教育は、その緒に就いたところであり、その現状を推し量るデータは必ずしも十分とは言えない。そこで、文部科学省の調査研究としてキャリア教育推進のための方策の一つとして示したインターンシップ(就業体験)の実施状況、また、「キャリア教育の中核をなすものである」とされた進路指導の現状から、高等学校普通科(以下、文章中「普通科」とする。)におけるキャリア教育の現状を見ることとしたい。
 
(注) キャリア教育:「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」(平成11年12月接続答申)、「「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」端的には「児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てる教育」」(平成16年1月キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議)

 
(1)  普通科におけるインターンシップの実施状況
   インターンシップ等の活動は、生徒が直接働く人と接することにより、実際的な知識や技術・技能に触れることを通して、学ぶことや働くことの意義を理解し、生きることの尊さを実感させること等について大きな効果が期待できる教育活動として、また、生徒が主体的に進路を選択決定する態度や意志、意欲などを培うことのできる教育活動として、重要な意味を持っている。
 国立教育政策研究所生徒指導研究センターが実施した平成17年度における公立高等学校全日制課程でのインターンシップの実施状況調査によれば、その実施率は63.7パーセントである。これを学科別にみると、職業に関する専門学科及び総合学科での実施率は、おおむね70パーセント台〜80パーセント台で、普通科においても実施率は50パーセントを超えた。しかし、「3年間を通して1回でも体験した3年生の数」では、職業に関する専門学科では50パーセント以上、総合学科で約46パーセントあるにもかかわらず、普通科は約12パーセントに過ぎない。これは、普通科におけるインターンシップでは、生徒の参加形態が、就職希望者などの「一部参加」の学校が多いことなどがその理由と考えられる。また、体験日数についても1日が33.5パーセント、2〜3日が56.7パーセントと短期間という状況である。
 以上のことから、普通科におけるインターンシップの現状は、他の学科に比して遅れていると指摘せざるを得ない。

(2)  普通科における進路指導の実態
   財団法人日本進路指導協会が文部科学省の委託を受けて平成17年2月〜3月に行った「中学校・高等学校における進路指導に関する総合的実態調査」の結果で見ると、普通科の進路指導は、以下のような現状にあり、キャリア教育を進めていく上で、様々な課題があると考えられる。
 
1  ホームルーム活動における進路学習の状況
   進路指導を補充・深化・統合する場としてのホームルーム活動における学習は、普通科にあっては、これに充てる授業時間数が卒業学年に偏っている。また、その内容は、進路の選択決定やその実現にかかわる事柄に偏っている。
 これに対して、普通科の生徒及び卒業生は、自己理解や将来の生き方、あるいは社会参加にかかわる知識や資質に関する学習を求めている。

調査結果の概要
 「中学校・高等学校における進路指導に関する総合的実態調査」(平成18年3月財団法人日本進路指導協会)
【普通科のホームルーム活動における進路学習の学年別授業時間数】
 第1、2学年では、ホームルーム活動の授業時間数が6時間以下の学校が過半を占めているが、第3学年では、7時間以上の学校が過半を占めている。
【普通科のホームルーム活動などにおける学習内容】
 生徒の学習状況から、普通科のホームルーム活動などにおける進路学習の内容を見ると、「進路選択の考え方や方法」「進路に関する情報の入手方法とその利用の仕方」「希望する進路の実現可能性」については、比較的高い割合で「よく学習した」としている。一方、「産業や職業の種類や内容」「自分の個性や適性の理解」「将来の生き方や人生設計」については、「よく学習した」としている割合が低くなっている。
【生徒、卒業生がホームルーム活動などで指導してほしかった事柄】
 普通科の生徒は、自分の将来の生き方や進路について考えるために、「自分の個性や適性を考える学習」「進路選択の考え方や方法」「将来の生き方や人生設計」「学ぶことの意義や目的」について指導してほしかったとしている。
 また、卒業生は、在学中に「自分の個性や適性を考える学習」「進路選択の考え方や方法」「社会人に必要なモラルやマナー」「産業や職業の種類や内容」を指導してほしかったとしている。

 
2  将来の生き方や進路にかかわる体験活動の実施状況
   キャリア教育において重要とされている体験活動について、普通科の実施状況を、生徒が体験した活動から見ると、各大学主催の「オープンキャンパス」の体験率が極端に高い割合となっている。このことに象徴されるように、普通科の体験活動は、「当面する進路選択にかかわる体験活動」に偏っている。
 これに対して、卒業生は、「インターンシップ」「職場の見学」「卒業生の体験発表」といった、将来の生き方や社会参加にかかわる体験活動の実施を求めている。

調査結果の概要
 「中学校・高等学校における進路指導に関する総合的実態調査」(平成18年3月財団法人日本進路指導協会)
【普通科における将来の生き方や進路に関する体験活動の実施状況】
 生徒が体験した将来の生き方や進路に関する活動を見ると「オープンキャンパス(64.9パーセント)」が極端に高い割合となっており、次いで「職場の見学(25.9パーセント)」「社会人の講話・講演(23.3パーセント)」「卒業生の体験発表会(21.8パーセント)」が20パーセント台となっているが、「インターンシップ(16.1パーセント)」「インタビュー活動(10.4パーセント)」は低い割合になっている。また、体験活動を全く経験していない生徒が12.1パーセントいる。
【卒業生が在学中に実施して欲しかった体験活動】
 卒業生が、在学中に実施してほしかった体験活動を見ると、「インターンシップ(44.3パーセント)」「職場の見学(37.3パーセント)」「卒業生の体験発表(32.1パーセント)」「上級学校の体験入学(27.8パーセント)」「社会人や職業人の講話・講演(24.1パーセント)」「上級学校の見学や調査(19.2パーセント)」「身近な産業や職業についての調査(17.2パーセント)」「上級学校の先生の講話・講演(16.7パーセント)」「高等学校の先生からの体験談(13.4パーセント)」「その他(7.7パーセント)」となっている。

 
3  生徒の進路に関する悩み
   普通科の進路指導は当面する進路−進学や就職−の指導、特に進学にかかわる指導に偏る傾向にある。進学を希望する生徒の悩みは、進学にかかわる指導の根幹を成すと思われる「学習意欲がわかないこと」や「勉強の仕方がわからないこと」が少なくない。また、就職を希望する生徒の悩みは、キャリア教育においてその重要性が指摘されている人間関係形成にかかわる悩み、すなわち「就職先でまわりの人とうまくやっていく自信がない」や「仲のよい友人と離れ離れになってしまう」といった悩みが多く見られる。
 こうした生徒の悩みから見ると、普通科の進路指導は、当面する進路の指導に偏る傾向があり、その指導において十分な成果を上げているとは言い難い。

調査結果の概要
 「中学校・高等学校における進路指導に関する総合的実態調査」(平成18年3月財団法人日本進路指導協会)
【進学するに当たっての悩み】
 進学を希望する普通科の生徒が、どのようなことに悩んでいるかを見ると、「学習意欲がわかないこと(47.4パーセント)」「希望する学校に合格できる自信がないこと(46.2パーセント)」「勉強の仕方がよくわからないこと(42.3パーセント)」「進学するにあたっての経済的なこと(31.6パーセント)」が比較的高い割合で挙げられている。
【就職などに当たっての悩み】
 就職を希望する普通科の生徒の悩みを見ると、「就職先でまわりの人とうまくやっていく自信がない(28.2パーセント)」「仲のよい友人と離れ離れになってしまう(25.5パーセント)」「自分がどのような職業に向いているのかわからない(25.5パーセント)」が比較的高い割合を示し、人間関係にかかわる悩みが多くなっている。

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