戻る


はじめに
   今日,少子高齢社会の到来,産業・経済の構造的変化や雇用の多様化・流動化等を背景として,将来への不透明さが増幅するとともに,就職・進学を問わず子どもたちの進路をめぐる環境は大きく変化している。こうした中,子どもたちが「生きる力」を身に付け,社会の激しい変化に流されることなく,それぞれが直面するであろう様々な課題に柔軟にかつたくましく対応し,社会人・職業人として自立していくことができるようにする教育の推進が強く求められている。
   一方,これまでの学校教育の在り方については,学校における取組がともすれば「生きること」や「働くこと」と疎遠になる傾向があったのではないか,あるいは,子どもたちが社会人・職業人として基礎的・基本的な資質・能力を身に付けるための取組が十分展開されてこなかったのではないか,さらには,自らの生き方を探求したり主体的に進路を選択決定したりできるようにするための取組が十全に機能していないのではないかといった懸念が,各方面から繰り返し指摘されてきたところである。
   人材育成が日本の根幹を支えるものであるということを踏まえ,教育が何をなさねばならないかを考えるとき,改めて「キャリア教育」の視点から我が国の教育の在り方を見直す必要があろう。それは,今,まさに求められている,子どもたちの「生きる力」をはぐくむ教育を推進していくことに他ならない。本協力者会議のテーマである「キャリア教育の推進」のねらいとするところは,大きくはこのような課題を克服していくことにある。
   「キャリア教育」は,1970年代初頭からアメリカにおいて,直面する激しい社会の変化や学校から職業への移行にかかる様々な課題に対応するため推進され,その後,我が国の「進路指導」の充実・改善に少なからず影響を与えてきた。しかし,「キャリア教育」とは何かということについては,教育関係者の間においても,必ずしも明確な共通理解がなされていない状況があることも事実である。その背景には「キャリア」及び「キャリア教育」という概念が,本来,極めて包括的なものであること,また,現在,既に,これらの用語が広く流布しているにもかかわらず,その意味付けや受け止め方が多様であること,さらに,学校教育においては,従来から「進路指導」や「職業教育」などが展開されていることなどが考えられる。
   このため,本協力者会議では,これらの多様な受け止め方や「進路指導」,「職業教育」との対比の中で「キャリア教育」の概念を整理し,できるだけ明確に示すことができるように留意した。「キャリア教育」の意味付けや解釈が多様であるとはいえ,学校教育において「キャリア教育」を推進していく際には,学習指導要領の趣旨等を踏まえ,関係者が「キャリア教育」の目標や趣旨等について適切な意味付けや解釈を共有することが必要とされるからである。
   キャリアの形成には一人一人の成長・発達や諸経験が総合的にかかわってくる。このため,「キャリア教育」が行われる場や機会についても,学校教育だけでなく家庭教育や社会教育,各職場などでの研修等を含む幅広いものであることはもちろん,その時期についても,小・中・高等学校,大学等の学校段階にとどまらず,卒業後の職業生活や社会生活を通し,生涯にわたって展開される必要があることは言うまでもない。
   本協力者会議では,このような「キャリア教育」の持つ大きな広がりを視野に入れながら,子どもたちの成長・発達や進路を取り巻く今日の新たな状況を踏まえ,生涯にわたるキャリアを形成していく基盤を培う場として特に重要な意味を持つ,初等中等教育における「キャリア教育」の基本的な方向等について総合的に検討・審議した。
   本協力者会議の報告は,学校や教育関係者等における「キャリア教育」推進の指針となる提言である。国,各教育委員会や学校等において,関係者が本報告の趣旨を十分踏まえ,「キャリア教育」に関する取組の振興・充実を図ることを期待したい。




ページの先頭へ