第3編 小学校及び中学校の教育を充実させるための施設整備関連方策について

1.背景及び課題

1.背景

 平成20年3月,子どもたちの「生きる力」をより一層はぐくむことを目指し,小学校及び中学校の学習指導要領が改訂された。
 今回の改訂は,約60年ぶりに改正された教育基本法等において明確となった教育の理念を踏まえ,「生きる力」を育成すること,知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視すること,道徳教育や体育などの充実により,豊かな心や健やかな体を育成すること,の3つの基本的な考え方に基づき行われた。
 具体的には,言語活動や理数教育,外国語教育の充実などの教育内容の改善が図られている。
 この小学校及び中学校学習指導要領の改訂や,地球温暖化等の環境問題など社会状況の変化への対応等を踏まえるため,平成21年6月から,現行の小学校及び中学校施設整備指針について,改訂を行うための検討を実施し,今般,検討結果を報告書としてまとめた。
 今後,この報告書を踏まえて,小学校及び中学校の質的な整備が進められることを期待するものである。

2.課題

 各学校において新学習指導要領を円滑に実施するため,例えば,以下のような施設環境の充実が求められる。
 社会や経済のグローバル化の進展に伴い,学校教育において外国語教育を充実させることが重要な課題となる中,今般,小学校第5学年,第6学年において外国語活動が新設された。学校施設においても,外国語活動における体を使っての活動やグループ活動,床に座っての活動など多様な学習活動が適切に実施できる空間の確保が求められている。
 また,中学校における武道の必修化に伴い,武道を安全かつ円滑に実施できるよう施設環境の充実が求められている。
 さらに,今日,次代を担う科学技術系人材の育成が重要な課題となっている中,理数教育の充実に向け,知識・技能を活用する学習を充実させる観点から,観察,実験等の学習活動がより一層推進されるよう施設環境の充実が求められている。
 また,道徳教育等の充実を図っていくためには,学校,家庭,地域の役割分担と連携が重要である。このため,学校施設においても,従来にも増して保護者や地域住民等との連携協力を促進する施設づくりが求められている。

2.小学校及び中学校施設整備指針改訂の要旨

 今回の改訂の要旨は以下の通り。

1.多様な学習内容,学習形態による活動が可能となる環境の提供

(1) 多目的教室における発達段階等に応じたしつらえの工夫

○多目的教室については,学習内容・学習形態や,発達段階による学習集団の編成の違いなどに応じた規模や構成等とするとともに,多様な教育活動に柔軟に対応できるよう計画することとしたこと。

(2) 外国語活動に係る空間の確保(小学校)

○外国語活動室を項目として新たに設け,外国語活動における体を動かす活動など多様な学習活動に対応できる大きさとするとともに,床に座っての活動にも配慮した計画とすることとしたこと。

(3) 武道の実施に係る空間の充実(中学校)

○中学校における武道の必修化に伴い,武道が安全かつ円滑に実施できるよう施設環境を一層充実させることとしたこと。

2.理数教育環境の充実

○多様な教育方法に対応するため, 理科教室と図書室,視聴覚教室等との連携に配慮して計画することとしたこと。また,理科教室は,演示実験が実施しやすい空間として計画することとしたこと。

3.情報環境の充実

○校内の各室,空間においてコンピュータ等が利用できるよう情報環境を一層充実させることとしたこと。

4.環境面からの持続可能性への配慮

○環境負荷の低減や自然との共生等を考慮した施設環境について,環境教育の教材としての活用や温室効果ガス排出量の削減など,一層の充実を図ることとしたこと。

5.その他

(1) 屋内運動施設での快適な環境づくり

○屋内運動場の計画について,通風,換気及び自然採光の十分な確保と,適切な室温の確保が重要であるとしたこと。また,便所,更衣室,シャワー室等の附属施設について,利用状況等に応じ,適切に計画することとしたこと。

(2) 家庭・地域と連携した施設の充実

○保護者や地域住民等との連携協力を促進するための関係諸室を一層充実させることとしたこと。

3.小学校及び中学校における教育を充実させるための施設整備の推進方策

1.設置者における推進方策

 設置者においては,小学校及び中学校における教育を充実させる施設整備の推進のため,地域の実情等を踏まえ,特に,以下の方策を講ずるよう配慮することが望ましい。
 なお,小学校又は中学校施設の耐震化や老朽化対策,エコ化等の機会を積極的に活用し,教育環境を計画的かつ総合的に向上させることが期待されている。

(1) 多様な学習内容,学習形態による活動が可能となる環境の提供

 変化の激しい社会を担う子どもたちに必要な力である「生きる力」をはぐくむことの重要性が増している今日において,様々な学習を通して,生きる力を支える確かな学力,豊かな心,健やかな体の調和のとれた育成を目指していくことが求められている。学校施設においても生きる力をはぐくむ多様な学習が可能となるよう施設環境の充実が求められている。

○外国語活動に係る空間の確保

 小学校第5学年,第6学年における外国語活動の新設に伴い,外国語活動における体を動かす活動やグループでの活動など多様な学習内容に対応できる大きさの空間,また,床に座っての活動にも配慮した空間を地域や学校等の実情に応じ,既存施設の有効活用も考慮しつつ確保することが重要である。

○武道の実施に係る空間の充実

 中学校における武道の必修化に伴い,武道が安全かつ円滑に実施できる空間を確保することが重要である。その際,武道の運動種目(柔道,剣道,相撲等),利用人数,利用形態等に応じた適切な面積,形状等とするとともに,武道場を屋内運動場のアリーナと連続して計画する場合にはアリーナとの境界を壁等で仕切るなど安全性を考慮して計画することが重要である。

(2) 理数教育環境の充実

 理科教室については,観察・実験等の重要性を踏まえ,様々な実験器具や情報機器等が活用できるとともに,教員の実験用机を児童生徒から見やすい位置,高さに設置するなど,演示実験を実施しやすい空間として計画することが重要である。その際,図書室や視聴覚教室等との連携にも配慮して計画することが重要である。

(3) 家庭・地域と連携した施設の充実

 学校活動における保護者や地域住民等との連携協力の重要性を踏まえ,ミーティング室やボランティア等のための控室など地域連携を促進するための関係諸室を,地域や学校等の実情に応じて確保することが重要である。

2.国の推進方策

 国においては,設置者における小学校及び中学校施設の整備の推進・充実に向け,引き続き必要な指導,助言,援助を行うことが求められる。とりわけ,以下の推進方策を講ずるものとする。

(1) 外国語活動に係る施設の整備

 今般の小学校第5学年及び第6学年における外国語活動の新設に伴い,指針に新たに外国語活動室が位置づけられたことに鑑み,地域や学校等の実情に応じ,外国語活動室を整備する際の支援方策について検討を行うことが必要である。

(2) 設置者に対する財政支援

 基本的な教育条件の一つとして,子どもたちの教育の場にふさわしい安全,快適で豊かな環境が全国で形成されるよう,国は,小学校及び中学校施設の整備に関して,必要な財源を安定的に保障することが求められており,そのための負担金又は交付金を確保する必要がある。

(3) 施設整備に関する情報提供

(事例集の作成)

 国は,小学校及び中学校における教育を充実させるための施設の計画的な整備を促進するため,優れた施設整備の事例を集めた事例集を作成し,関係者に周知する必要がある。
 その際,小学校,中学校施設については,地域の実情等を踏まえた整備がなされる必要があることから,多様な条件に応じた事例を提示することが望まれる。

(積極的な情報提供)

 質的整備を一層推進していくためには,小学校及び中学校学習指導要領の趣旨と共に,本報告において示した基本的な方針や計画・設計上の留意事項を学校関係者に対して幅広く周知し,関係者の理解の増進を図っていく必要がある。このため,文部科学省は,本報告や事例集について研修会等で解説するとともに,広報誌,インターネット等を利用した情報提供を積極的に行うことが望まれる。

お問合せ先

大臣官房文教施設企画部施設企画課

課長 長坂 潤一(内線2286) 専門官 瀬戸 信太郎(内線3181) 専門職 野口 公伸(内線2288)
電話番号:03-5253-4111(内線2291)

(大臣官房文教施設企画部施設企画課)