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コストマネジメントの視点を踏まえた実態把握
マネジメントサイクルの基本はまず正確な実態把握であり、データをきちんと把握することが全ての出発点である。実態把握は、要修繕箇所や機器類の劣化状況など施設実態関係の指標と、光熱水費や維持管理費の実績額など財務関係指標の両方から行うことがポイントである。
国立大学等では毎年度実施している施設実態調査により、敷地面積、施設保有面積、施設配置、整備年等を把握しているが、コストマネジメントの観点からより踏み込んだ実態把握が必要である。特に、エネルギー使用量、要修繕箇所、設備機器の更新需要の3項目は、実効性ある計画立案に欠かせない。
実態把握やデータ管理には一定の経費が必要であるが、これは将来への投資であり、大学運営に必要な経費であることのコンセンサスが重要である。
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表3-2 施設運営コストの効率化に有効な項目 |
把握すべき項目 |
効用 |
エネルギー使用量 |
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適切な区分でエネルギー使用量を把握し、単位面積あたりの比較が可能 |
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要修繕箇所 |
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要修繕箇所について、位置、部位、概算費用、優先度などを把握 |
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修繕周期や必要経費から中期改修計画を作成 |
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設備機器の更新需要 |
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建築設備機器の省エネルギー対応の状況、更新時期、配電系統、設備配管等を把握 |
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建築設備機器の更新状況の把握は、施設の改修、改築計画における機器の再使用等、3R注の検討に有効 |
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注 |
「循環型経済システムの構築に向けて」(循環経済ビジョン)(平成11年産業構造審議会報告書)で提言されたReduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)、Reuse(リユース:再使用)、Recycle(リサイクル:再資源化)を示す。 |
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一元的かつ継続的な資料の収集
計画の立案には、まず図面や設備台帳で実態を正確に把握する必要があるが、現状では学部で実施した改修情報が施設部課に届かず、図面と現状が一致しない場合が少なくない。
施設運営コストの効率化を進めるためにも、説得力ある学内説明のためにも、最新情報に基づく図面等の更新や修理履歴を一元的かつ継続的に管理することが不可欠であり、これを着実に実施する体制を整える必要がある。
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きめ細かなエネルギー使用量の把握と実態の開示
コストマネジメントの基本は、施設運営コストと使用実態の把握、客観的な評価、実態の開示であり、実態を開示することによって部局間の違いが明らかになるとともに、当事者意識を高め、より積極的な取組が期待できる。この点できめ細かなエネルギー使用量の計量は極めて重要であり、利用実態に応じた方法で継続的に実施するとともに、結果を公表することが重要である。
しかし、現状はキャンパス単位もしくは棟単位のデータ把握が多いうえ、実績を公表しているところも少ない。これは計量単位の細分化に計量器設置や検針等のコストが必要なためであるが、厳密な計量でなくても、夏期、冬期、中間期に可搬式計量器による短期間の調査や、棟の使用量を設備機器諸元をもとに按分する等により、大まかな推計を行うことは可能である。
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効率的な施設管理運営計画の策定
大学等は用途や履歴が異なる多数の施設を保有しているので、施設ごとの修繕、小規模改修、設備機器の更新等の実施時期と必要経費を検討するとともに、大学全体の施設整備計画と整合を図って優先順位を決定することで、効率的な管理運営計画を策定することができる。
また、施設の安全性や信頼性を確保するためには、潜在リスクに対するプリメンテナンス(予防保全)が効果的である。プリメンテナンスには周期的に実施する時間基準保全と施設の状態を監視しながら行う状態基準保全 があり、施設の重要度、回復までの損失、メンテナンスコストを比較衡量して判断する必要がある。常に事前保全が適するわけではなく事後保全が適する設備もある。 |
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状態基準保全
対象設備の状態を監視し、劣化度合を定量化して評価、適切な時期に保全を実施する方法 |
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表3-3 施設運営コストの効率化に有効な手法 |
手法の例 |
具体的内容及び期待される効果の例 |
高効率機器導入 |
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省エネルギー法に基づく「中長期的な計画の作成のための指針注」等で省エネルギー効果が高いとされている設備等を導入し、エネルギー使用量を削減 |
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断熱等の施設改良 |
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断熱性能向上により空調の必要エネルギーを削減 |
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パッシブシステム、人感センサー、スケジュールタイマーによる照明制御も有効 |
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ピークシフト |
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深夜電力使用蓄熱装置を持つ空調設備、都市ガスを熱源とする空調により、電力使用パターンを平準化 |
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大電力を使用する実験をピーク時間を避けて実施 |
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新エネルギー利用 |
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太陽光発電装置や燃料電池の設置により、電力会社から購入する電力量を削減 |
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修繕の集中化 |
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集中的な修繕で工事期間を短縮 |
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仮設の共用、現場監理の効率化等のコストの削減が可能 |
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運転監視方法の合理化 |
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空調の間欠運転、負荷バランスの確保、負荷に応じた受電トランスの台数制御等の運転の合理化 |
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省エネルギー行動 |
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アウトソーシングの合理化 |
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関連する複数の業務を一括委託によりコストを削減 |
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新たな契約方法の開拓など競争原理を活用して業務の質の向上やコストを削減 |
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注 |
「第一種指定事業者(上水道業、下水道業及び廃棄物処理業を除く。)による中長期的な計画の作成のための指針」(平成16年2月26日文部科学省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省告示第1号) |
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必要額の算出と財源計画の検討
コストマネジメントでは財源の確保が重要であり、必要なコストを時系列に整理するとともに、規模や時期を勘案し財源計画を立てる必要がある。必要コストとしては、光熱水費、修繕費、保守点検費、老朽機器(照明、空調等)の更新費、清掃費、警備費等があり、さらに実態把握や調査分析等の附帯的経費も必要である。
財源の確保には、毎年度の維持管理費の必要額の確保と、機器更新のための一時的費用の確保がある。前者はライフサイクルコストを最小にするための経費であり、後者は一時的に負担が増えるが将来回収可能な経費である。
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新たな手法の活用(PFI、ESCO等)
PFI事業は、公共事業の新たな整備手法として実績を重ねており、民間ノウハウの活用、建設・維持管理・運営の一体化によるコスト縮減効果が現れている。対象事業や事業形態によっては、建設コストのみならず運営コストでも経費縮減効果が期待できる。
ESCO事業 は、施設の改修や更新を事業者の調達した資金で行い、その資金を光熱水費の縮減分から事業期間に分割して返済する事業であり、省エネルギー効果の高い施設ほど導入可能性が高まる。
特徴として、改修経費を省エネルギー効果による縮減経費で賄うため新たな財政負担がないこと、事業者が従来の光熱水費負担以上の財政負担が発生しないことを保証すること、事業者が計画立案・施工・運転管理の責任を一括して持ち発注者の利益保証を行うこと等がある。現時点では国立大学等での実績はないものの、私立大学、地方公共団体等への導入実績が増えつつあり、今後に向けてより積極的な取組が期待される。 |
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ESCO(Energy Service Company)事業
ESCO事業者が提供する省エネルギーに関する包括的なサービスにより、それまでの環境を維持した省エネルギーの実現及び効果を保証する事業。省エネルギーにより削減した経費をサービス料として支払う |
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