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第3章 大学施設のコストマネジメントの推進方策

1. コストマネジメント推進のための全学的なシステムの構築

 
PDCAサイクルに基づく施設マネジメントシステム
 施設マネジメントの導入に当たっては、P(Plan:総合的な計画立案)、D(Do:計画の遂行)、C(Check:評価)、A(Action:計画反映・補正行動)のサイクル(以下、PDCAサイクルという。)により目標の達成を目指すのが効率的であり、コストマネジメントの実践においても同様である。
  PDCAサイクルでは、立案した計画を遂行し、その結果を評価して次期計画に反映させるとともに、計画遂行のための具体的行為について随時評価し、問題点を修正する補正行動が必要である。
 
図3-1 施設マネジメントにおけるPDCAサイクル
施設マネジメントにおけるPDCAサイクルのイメージ図

全学的な枠組みの策定
 アンケート調査によると、国立大学で施設運営コストや省エネルギーに関する委員会を設置しているところは半数以下であるが、コストマネジメントを推進するためには、全学的な委員会を設置するなど組織体制を整える必要がある。併せて重要なのは、コストマネジメントの実施に必要な幅広い権限を委員会の責務として付与し、かつ学内議論をリードすることができる者を委員会の責任者とすることである。
 この委員会活動を通じ、コストマネジメントに関する基本方針や意志決定方法を明確にするとともに、施設利用者全体が当事者意識を持って参画する機運づくりを推進する必要がある。基本方針は文書化することが重要であり、施設の管理運営の基本的な考え方、これを実現するための行動方針、施設管理者の責務、学生を含む施設利用者の責務等について、簡潔に記述することが望ましい。

コスト負担の基本的な考え方の明確化
 大学施設には先に述べた独自の特性があることから、教育研究活動や学内経費の執行と密接に関連するコストマネジメントを円滑に遂行するには、十分な連絡調整と関係者の理解が必要である。
 コストマネジメントの成果を導くポイントは、施設運営コストの負担方法の基本的な考え方を明確にし、学内合意を得ることである。コスト負担では常に受益者負担と共通負担の分担が議論となるが、光熱水費や施設運営コストについては、省エネルギー推進の観点からも受益者負担を原則とするのが効果的と考える。

具体的な目標の設定
 コストマネジメントの推進には、具体的な数値目標の設定が必要である。表3−1はコストマネジメント関連指標の例であるが、重要性の高い事項に絞り込むとともに、実現可能性を考慮した数値と達成までの期間を明示する必要がある。施設運営コストや省エネルギー指標は比較的数値化しやすい目標であるが、併せて施設の機能水準や利用者満足度を低下させないことが重要である。

 
表3−1 コストマネジメント関連指標の例
指標の例 目標の例
省エネルギー法令に基づくエネルギー使用原単位
中長期的に年平均1パーセント以上低減を目標
温暖化ガスのCO2換算量の総排出量
京都議定書で、温室効果ガス総排出量を1990年比で2012年までに6パーセント削減を義務づけ
CASBEE
Comprehensive Assessment System for Building Environmental Efficiency
建築物の環境品質・性能Q(室内環境、サービス性能、室外環境)と建築物の環境負荷L(エネルギー、マテリアル、敷地外環境)から、建築物環境性能指標BEEを算出、BEEを5段階に格付けして建築物の環境性能を総合的に評価するシステム
BEE]イコール[Q]わる[L]で表す
維持管理費・清掃費等の財務関連指標
光熱水費等の現状を把握・分析して施設の機能水準や利用者満足度等が低下しない削減目標を設定
年度ごとに削減対象や範囲を絞り込むのも有効
光熱水費等の財務関連指標
FCI (Facility Condition Index)
  [残存する不具合の解消に要する額]
[保有施設の再整備に要する額]
施設は経年につれて不具合箇所が発生しFCIは増加
修繕費の投入により金額に応じFCIは低下
中長期的な修繕計画の立案や施設の改築判断に活用
利用者満足度
サンプリング調査を繰り返し実施し、評価の低い項目について達成目標を設定


2. 総合的な計画の立案(P:Plan

 
コストマネジメントの視点を踏まえた実態把握
 マネジメントサイクルの基本はまず正確な実態把握であり、データをきちんと把握することが全ての出発点である。実態把握は、要修繕箇所や機器類の劣化状況など施設実態関係の指標と、光熱水費や維持管理費の実績額など財務関係指標の両方から行うことがポイントである。
 国立大学等では毎年度実施している施設実態調査により、敷地面積、施設保有面積、施設配置、整備年等を把握しているが、コストマネジメントの観点からより踏み込んだ実態把握が必要である。特に、エネルギー使用量、要修繕箇所、設備機器の更新需要の3項目は、実効性ある計画立案に欠かせない。
 実態把握やデータ管理には一定の経費が必要であるが、これは将来への投資であり、大学運営に必要な経費であることのコンセンサスが重要である。

 
表3-2 施設運営コストの効率化に有効な項目
把握すべき項目 効用
エネルギー使用量
適切な区分でエネルギー使用量を把握し、単位面積あたりの比較が可能
要修繕箇所
要修繕箇所について、位置、部位、概算費用、優先度などを把握
修繕周期や必要経費から中期改修計画を作成
設備機器の更新需要
建築設備機器の省エネルギー対応の状況、更新時期、配電系統、設備配管等を把握
建築設備機器の更新状況の把握は、施設の改修、改築計画における機器の再使用等、3Rの検討に有効
 「循環型経済システムの構築に向けて」(循環経済ビジョン)(平成11年産業構造審議会報告書)で提言されたReduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)、Reuse(リユース:再使用)、Recycle(リサイクル:再資源化)を示す。

一元的かつ継続的な資料の収集
 計画の立案には、まず図面や設備台帳で実態を正確に把握する必要があるが、現状では学部で実施した改修情報が施設部課に届かず、図面と現状が一致しない場合が少なくない。
 施設運営コストの効率化を進めるためにも、説得力ある学内説明のためにも、最新情報に基づく図面等の更新や修理履歴を一元的かつ継続的に管理することが不可欠であり、これを着実に実施する体制を整える必要がある。

きめ細かなエネルギー使用量の把握と実態の開示
 コストマネジメントの基本は、施設運営コストと使用実態の把握、客観的な評価、実態の開示であり、実態を開示することによって部局間の違いが明らかになるとともに、当事者意識を高め、より積極的な取組が期待できる。この点できめ細かなエネルギー使用量の計量は極めて重要であり、利用実態に応じた方法で継続的に実施するとともに、結果を公表することが重要である。
 しかし、現状はキャンパス単位もしくは棟単位のデータ把握が多いうえ、実績を公表しているところも少ない。これは計量単位の細分化に計量器設置や検針等のコストが必要なためであるが、厳密な計量でなくても、夏期、冬期、中間期に可搬式計量器による短期間の調査や、棟の使用量を設備機器諸元をもとに按分する等により、大まかな推計を行うことは可能である。

効率的な施設管理運営計画の策定
 大学等は用途や履歴が異なる多数の施設を保有しているので、施設ごとの修繕、小規模改修、設備機器の更新等の実施時期と必要経費を検討するとともに、大学全体の施設整備計画と整合を図って優先順位を決定することで、効率的な管理運営計画を策定することができる。
 また、施設の安全性や信頼性を確保するためには、潜在リスクに対するプリメンテナンス(予防保全)が効果的である。プリメンテナンスには周期的に実施する時間基準保全と施設の状態を監視しながら行う状態基準保全注釈6があり、施設の重要度、回復までの損失、メンテナンスコストを比較衡量して判断する必要がある。常に事前保全が適するわけではなく事後保全が適する設備もある。
 
注釈6 状態基準保全
 対象設備の状態を監視し、劣化度合を定量化して評価、適切な時期に保全を実施する方法

 
表3-3 施設運営コストの効率化に有効な手法
手法の例 具体的内容及び期待される効果の例
高効率機器導入
省エネルギー法に基づく「中長期的な計画の作成のための指針」等で省エネルギー効果が高いとされている設備等を導入し、エネルギー使用量を削減
断熱等の施設改良
断熱性能向上により空調の必要エネルギーを削減
パッシブシステム、人感センサー、スケジュールタイマーによる照明制御も有効
ピークシフト
深夜電力使用蓄熱装置を持つ空調設備、都市ガスを熱源とする空調により、電力使用パターンを平準化
大電力を使用する実験をピーク時間を避けて実施
新エネルギー利用
太陽光発電装置や燃料電池の設置により、電力会社から購入する電力量を削減
修繕の集中化
集中的な修繕で工事期間を短縮
仮設の共用、現場監理の効率化等のコストの削減が可能
運転監視方法の合理化
空調の間欠運転、負荷バランスの確保、負荷に応じた受電トランスの台数制御等の運転の合理化
省エネルギー行動
利用者を啓発し、省エネルギー行動を奨励
アウトソーシングの合理化
関連する複数の業務を一括委託によりコストを削減
新たな契約方法の開拓など競争原理を活用して業務の質の向上やコストを削減
 「第一種指定事業者(上水道業、下水道業及び廃棄物処理業を除く。)による中長期的な計画の作成のための指針」(平成16年2月26日文部科学省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省告示第1号)

必要額の算出と財源計画の検討
 コストマネジメントでは財源の確保が重要であり、必要なコストを時系列に整理するとともに、規模や時期を勘案し財源計画を立てる必要がある。必要コストとしては、光熱水費、修繕費、保守点検費、老朽機器(照明、空調等)の更新費、清掃費、警備費等があり、さらに実態把握や調査分析等の附帯的経費も必要である。
 財源の確保には、毎年度の維持管理費の必要額の確保と、機器更新のための一時的費用の確保がある。前者はライフサイクルコストを最小にするための経費であり、後者は一時的に負担が増えるが将来回収可能な経費である。

新たな手法の活用(PFIESCO等)
  PFI事業は、公共事業の新たな整備手法として実績を重ねており、民間ノウハウの活用、建設・維持管理・運営の一体化によるコスト縮減効果が現れている。対象事業や事業形態によっては、建設コストのみならず運営コストでも経費縮減効果が期待できる。
  ESCO事業注釈7は、施設の改修や更新を事業者の調達した資金で行い、その資金を光熱水費の縮減分から事業期間に分割して返済する事業であり、省エネルギー効果の高い施設ほど導入可能性が高まる。
 特徴として、改修経費を省エネルギー効果による縮減経費で賄うため新たな財政負担がないこと、事業者が従来の光熱水費負担以上の財政負担が発生しないことを保証すること、事業者が計画立案・施工・運転管理の責任を一括して持ち発注者の利益保証を行うこと等がある。現時点では国立大学等での実績はないものの、私立大学、地方公共団体等への導入実績が増えつつあり、今後に向けてより積極的な取組が期待される。
 
注釈7 ESCO(Energy Service Company)事業
  ESCO事業者が提供する省エネルギーに関する包括的なサービスにより、それまでの環境を維持した省エネルギーの実現及び効果を保証する事業。省エネルギーにより削減した経費をサービス料として支払う


3. 計画の遂行(D:Do

 
大学全体としての財源の確保
 施設の管理運営に関する経費の財源としては、運営費交付金、施設整備費補助金もしくは施設費交付金による営繕費がある。運営費交付金は大学等の裁量で執行できる経費であり、施設の管理運営にどれだけの経費を確保するかで取組姿勢が明らかになる。
 この他にも、競争的資金の間接経費の一部の充当や自己収入の活用など、各大学等は創意工夫により必要な財源の確保に努めることが望まれる。

学内の予算配分ルールの検証
 複数部局の大学では、施設の管理運営に関する経費を本部から各部局に配分し、部局の裁量で執行するのが一般的である。これは現場の要望に即応する点では都合がよいが、大学全体として限りある経費を優先度の高いものへ投入するというコストマネジメントの趣旨からみると改善の余地がある。
 学内の予算配分には、本部一括型、部局配分型、両者の組合せ型(一定割合を本部で確保した上で部局に配分)などがあり、各大学は自らの施設規模や教育研究活動の実状を踏まえ、現状の配分ルールを改めて検証する必要がある。
 施設運営業務を担当する組織形態については、アンケート調査で集約型のメリットを指摘する回答が多かったものの、国立大学の実状は私立大学に比べ分散化傾向である。これは、以前は国有財産法の規定により、施設の管理が各部局長に委託されていたことや、施設の管理運営に関する経費が各部局ごとに配分されていたこと等によると考えられるが、全学的見地に立ってコストマネジメントを推進するため、できるだけ集約化を進めることが効果的と考える。

新たな発想による業務実施
 施設運営業務では、契約方法、契約先選定、予算の計上等を前年度実績ベースに行うことが多く、このように硬直化しがちな業務をコストマネジメントの視点から検証する必要がある。例えば、同種業務を部局から本部一括契約へ変更する、業務内容や仕様を使用実態に併せて検証する、複数年契約の導入や新規契約先を開拓するなど効率化の可能性は多々ある。いずれもサービス水準を下げずに効率化することが重要で、単なる経費カットはコストマネジメントの趣旨に反する。

利用者へのフィードバックと施設関連情報の提供
 コストマネジメントの推進には利用者と一体になった行動が有効であり、実効性ある行動規範を策定し、利用者全体で実践する仕組みが必要である。さらに、成果を目に見える形で還元することが重要で、例えば部局毎に目標を設定し、達成した場合に一定額を還元する仕組みなどは極めて効果的である。
 また、光熱水費や修繕費等の実態を開示する努力が必要であり、利用者とのコミュニケーション手段として電子メールやホームページの活用が効果的である。施設に関する緊急連絡、不具合箇所の報告、改修要望など関連情報の窓口を定めておくことも効果がある。


4. 評価の実施(C:Check

 
合理的手法による達成度の評価
 評価の実施に当たっては、設定した目標に対し期間中にどれだけ達成したかを、FCI(17ページ参照)やエネルギー消費原単位等(6ページ参照)の客観的な指標を用いて評価し、公表することが重要である。その際に施設管理者の観点だけではなく利用者の評価を加えることが重要であり、外部専門家の協力や第三者機関の評価も効果がある。
 評価の方法については大学の特性を十分考慮する必要があり、単位面積当たりのデータを単純に比較するだけでは、教育研究活動が低調なほど経費効率化の成果が高いというおかしな結果になる。

施設運営コストに関する実施状況の把握
 運営費交付金は大学等の裁量で執行できる経費であり、その配分方針が大学等の取組姿勢を示すとともに、その実施額は取組成果を評価する指標の一つとなる。施設運営コストについて評価する指標の一つとしては、教育等施設基盤経費の実施状況も考えられる。

適切なパラメーターによるベンチマーク評価
 ベンチマーク評価は、施設運営の実施状況やエネルギー使用量等の水準を客観的に評価できるため、コストマネジメントにおいても有効な評価手法である。施設の管理運営に関するベンチマーキングの指標としては、学生一人当たりの施設面積、単位面積当たりの維持管理費や光熱水費など様々な指標があり、これらを組み合わせて総合的な評価を行う。
 大学等では、専攻分野によって施設の利用状態が異なるため、評価の目的や対象に応じて、様々な指標を組み合わせることが必要である。


5. 次期計画への反映、補正行動(A:Action

 
PDSからPDCA
  PDCAサイクルにおいては、計画が終了した段階で結果を評価し、これをもとにより効果的な取組や新たな目標を設定し、次期計画に反映させる行動が重要である。
 しかし、計画終了段階の評価のみでは当初予定した目標を達成できない事態を回避することが困難なため、計画期間の中間で逐次達成状況を評価し、必要に応じて実施方法や予算配分を補正する行動を起こすことが極めて重要である。
 マネジメントサイクルとしてPDSPlanDoSee)が推奨された時期があったが、Doの次が単なるSeeでは計画期間の終了まで達成状況が判明せず、課題の解決が次期の計画期間になってしまうことから、近年はCheckActionの重要性が強調されている。国立大学等では年度計画を定めているので、コストマネジメント関係の項目について、年度の中間で進捗状況をチェックし、必要に応じ年度後半に補正行動を起こすことが効果的である。


6. コストマネジメントの推進に向けた国の支援

 国は、引き続き施設運営に必要な財源の確保に努めるとともに、コストマネジメントの更なる推進のため、各大学における取組の支援に努める必要がある。コストマネジメントはまだ始まったばかりであり、国は、より適切な評価の基盤づくりのため、大学の実状を踏まえたベンチマーク指標の選定や、標準値の提示等を行う必要がある。早急に必要な方策として、実践事例の情報提供、ベンチマーク指標の公表、人材育成への支援等が必要である。
 また、今後の検討課題として、より効率的な業務遂行や新たな発想による財源確保を図る観点から、国立大学の法人化の趣旨を踏まえつつ、制度運用の弾力化やさらなる規制緩和を検討していくことが望まれる。

 
グッドプラクティスに関する情報提供
 既にいくつかの大学等では、自らの特色や地域の状況に応じたコストマネジメントの取組が進められており、これらの中には他の大学等でも効果が期待できる、グッドプラクティスが含まれている。一方、各地の国立大学等が他大学の状況をタイムリーに入手するのは困難なため、これらの事例に関する情報を提供する仕組みを整備し、運用していく必要がある。

評価に有効なベンチマーク指標の公表
 他との比較により自己改善の方策を得るベンチマーキングは、コストマネジメントの評価においても有効であり、大学等が公表するデータを収集分析することでより実践的な評価が可能になる。国は、より適切な評価の基盤づくりのため、大学の実状を踏まえたベンチマーク指標の共通化、対象となる指標の選定、標準値の提示等行う必要がある。

人材育成への支援
 コストマネジメントの実践には、施設のハード面に関する専門知識に加え、資産管理や契約事務等に関する幅広い知識を有する人材が必要であり、担当する教職員には一層のスキルアップが求められる。これを各国立大学等が独自に実施することは難しいため、様々な機会を利用して、役員や幹部職員等を対象としたセミナーや担当職員を対象としたリカレントプログラム等により、コストマネジメントを担う人材育成を支援する必要がある。


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