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第1章   今後の国立大学施設の在るべき姿


   国立大学は、次代を担う豊かな人材の育成、独創的・先端的学術研究の推進など、社会の要請、期待を受けて様々な活動が行われており、施設は、これらの活動を支援・推進する重要な基盤である。法人化後、国立大学は、教育活動や研究開発などに個性を発揮することが期待されており、施設に関してもそのような個性化を支える対応が求められる。このため、各大学の多様な教育研究計画に対応した施設の充実が図られるよう、教育、研究、地域との共生等大学の諸活動等に応じた施設の今後の在り方を以下に示す。


1.教育機能の充実

[現状と課題]
       大学は高等教育機関として次代を担う豊かな人材を育成・確保する重要な役割を担っている。このためには教育機能の充実を図る必要があることから、教育の受け手である学生の視点を重視し、今後ますます高度化・多様化していく教育内容・方法に対応した施設が求められる。

[今後の在り方]
   
(1) 教育内容・方法の進展への対応
     学問の進展や社会・経済からの様々な要請に伴う教育内容・方法の高度化・多様化に留意し、教育に係る施設では、マルチメディア教材の活用やインターネットへの接続といった情報化への対応など施設機能の向上を図ることが必要である。また、教育内容、形態や方法の変化に柔軟に対応できるよう講義室の共用化や、一斉授業や少人数教育を適正規模で行いうるよう、各種規模の講義室の確保や可動間仕切りによる柔軟性のある講義室の確保といった取組が必要である。
   なお、施設の情報化にあたっては、情報技術の進展が著しいことを考慮して、施設を計画する際に、情報機器等の更新に柔軟に対応できるよう配慮する必要がある。

(2) 学生等の視点の重視
     大学施設を学生の視点から捉えると、講義室、実験室はもとより、学生自らが主体的に学習を行うためのスペースとして図書館や自学自習の場などの充実や、学生が長時間大学で過ごし、相互コミュニケーション等を図ることができる空間の確保が求められる。また、近年、学生の年齢やニーズは多様化してきており、夜間利用を考慮した施設づくりや保育施設の確保など社会人や女性の視点を取り入れた取組が必要である。
   このような学生等の視点を把握するためには、キャンパスや各施設における課題やニーズについて、教員のみならず学生も含めた利用者の満足度等を調査し、その意見を取り入れる仕組みを作ることが有効である。


2.研究機能の充実


[現状と課題]
       科学技術創造立国を目指す我が国にとって、大学は、研究拠点として、また、研究者等の養成機関として重要な役割を担っている。研究機能の充実を図るために必要となる施設については、これまで「緊急整備5か年計画」により着実に整備を進めているところであるが、今後とも競争的研究資金やプロジェクト研究の増加や研究の学際化、複合化等への対応が求められる。

[今後の在り方]
       
(1) 大学院の充実、卓越した研究拠点の形成への対応
     「緊急整備5か年計画」により進められている大学院充実等に伴う大学院施設の狭隘解消等や、卓越した研究拠点の施設整備については、大学院生※2、留学生※3や外国人研究者が増加し続けていること、また近年、ポスドクや競争的研究資金により雇用される学外研究者等※4や、大規模プロジェクト研究が増加していること等を踏まえつつ、引き続き対応していくことが必要である。その際、競争的研究資金等を獲得した若手研究者が研究実施場所を確保できるよう留意する必要がある。
(2) プロジェクト研究や研究の学際化に対応する施設
     近年、既存の研究分野にとらわれない学際領域、複合領域の研究や、研究者が結集して一定期間で成果を求めるプロジェクト研究が実施されるなど、研究施設に関して迅速かつ柔軟な対応が求められることが増えつつある。このため、現在、弾力的、流動的な施設利用を可能とする「総合研究棟」の整備を進めている。今後、プロジェクト研究のための研究棟など、より一層、迅速かつ柔軟にスペースを確保できる施設が必要である。
   なお、このような施設に関しては、例えば、工学実験や生物・化学実験といった実験形態に応じた利用方法を想定し、施設計画を作成するとともに、関係する多くの利用者が適切な場所で研究ができるよう全学的視点に立った施設運用体制を確立することが必要である。
(3) 研究交流のためのスペース
     研究者には、細分化された専門分野に留まらず幅広く学問分野を見渡せる視点が必要であり、このため、異分野の研究者が自由な討論やコミュニケーションを図ることのできる交流スペースの確保が重要である。
   また、研究者の研究室、実験室等については、研究分野の特性やプロジェクト研究等の利用形態に応じて、複数の利用者がコミュニケーションを図りつつ、研究が行えるよう大部屋化を図るなど、研究とコミュニケーション双方に有効なスペースの在り方について検討する必要がある。


3.産学連携の推進
   
[現状と課題]
       産学連携研究や研究成果の移転は、法人化後、一層活発に行われることが期待されている分野である。大学が産業界等と連携して研究等を行うことは、大学の社会貢献のみならず大学の学術研究の活性化の観点からも重要なことである。これまでも産学連携を推進する諸制度の整備とともに、地域共同研究センター等の設置※5が図られており、以来、国立大学の企業等との共同研究は、増加の一途をたどっている※6。今後、産業界、地域の様々な要請の増加や法人化による産学連携に係る諸制限の大幅な緩和など、大学と企業等との連携が一層進展することが予想されることから、これらの活動を支える施設について、多様な形態による施設の整備に取り組む必要がある。

[今後の在り方]
       
(1) 施設整備における企業との連携
     産学連携のための施設については、大学が設置する地域共同研究センターやインキュベーション施設の整備を進めることが必要であり、実験施設そのものが企業からの寄附により整備される事例も多数見受けられる。その際、大学における教育研究施設と寄附建物との合築整備を行ったり、共同研究をサポートする関連施設の整備を併せて行うことが効果的である。
(2) 地方自治体、産業界との協力と多様なスペース確保の取組
     研究交流促進法や地方財政再建促進特別措置法施行令の改正※7等により、多様な形態の産学官連携が可能になっていることから、連携研究の基盤である施設についても、大学内で自ら行う施設整備のほか、地方自治体や企業等による大学内での施設整備や、大学外でのスペースの確保など多様な形態を考えていくべきである。


4.キャンパス環境の充実
   
[現状と課題]
       キャンパス環境の充実は、個性豊かな大学づくりと国際競争力のある教育研究の展開を図る上で大きな役割を担っている。これまで、大学キャンパスでは組織の量的拡充等に対応して教育研究施設の整備が進められているが、今後は、建物や屋外環境を含めた調和のとれた魅力あるキャンパスを創る取組がより一層求められる。

[今後の在り方]
       
(1) キャンパス環境の調和、個性化
     キャンパスは大学の知的存在感の象徴であり、学問の府にふさわしく、調和のとれた空間である必要がある。例えば、伝統的、歴史的な建物はこれまで各大学が培ってきた歴史と伝統を形あるものとして継承する重要な役割を担っており、今後とも積極的に保存活用していく必要がある。
   また、福利厚生施設等のキャンパス生活を支える施設※8は、コミュニケーションを活性化し、教育研究を側面から支援する重要な役割を担っていることを認識する必要がある。
   さらに、屋外環境は建物とともにキャンパス環境を構成しており、キャンパス環境の豊かさは建物とともに屋外環境に依るところも大きいことを考慮する必要がある。
(2) 長期的な視点に立ったキャンパス計画
     キャンパスは教育研究の進展に伴い、常に変化し続けるものであり、調和のとれたキャンパス環境を実現するためには、長期的視点に立ったキャンパス計画を策定する必要がある。また、良好なキャンパス形成のためには、、大学を取り巻く様々な状況の変化や個々の建物の実態に柔軟に対応しつつも、一貫したコンセプトを保持していくことが求められる。
   このようなキャンパス計画の策定や実行のためには、教員と施設担当部局との連携をより一層図るなど、長期的にキャンパス全体を捉え、既存施設の有効活用や管理運営も含め、責任を持って取り組む組織体制を確立することが必要がある。


5.地域・社会との共生
   
[現状と課題]
       大学は文化や情報の発信基地としての役割を果たすなど、地理的には地域における、また、機能的には社会における中核的施設として重要な役割を果たしている。今後、大学は、地域のコミュニティや社会の一員としての役割がより一層求められており、施設に関しても地域・社会との幅広い協力関係が求められる。

[今後の在り方]
       
(1) 地域環境、地域住民との共生
     大学キャンパスは地域社会の中で大きな空間を占める存在であり、周辺環境との調和に配慮したキャンパスづくりが必要である。例えば、キャンパスにおける緑の空間は、学生等のみならず地域住民にとって重要な環境資源であることを認識し、緑の空間の確保及び適切な保全に努めるべきである。
   また、大学が立地している地域との連携によって、大学を核としたまちづくりが行われている事例もあるが、施設整備に当たっては、地元自治体の地域振興に関する政策等との連携を図る視点を持つ必要がある。
   さらに、地域住民との交流を図ることができる仕掛けは建物だけでなくキャンパス全体に求められており、安全性の確保やバリアフリーにも配慮して、広い世代に利用しやすい環境にすることが重要である。
(2) 社会との共生
     国立大学は公共性の高い機関であり、大学における教育研究をはじめとする諸活動は、大学を取り巻く社会の理解を得ることに努めつつ展開することが必要である。このため、キャンパスについても、社会に対して一方的に情報を提供するだけでなく、サテライトキャンパスの設置等、相互の交流を図ることのできる環境を整備する必要がある。
(3) セキュリティへの配慮
     開かれた大学を目指すためには、一方でセキュリティに配慮することが必要である。防犯や事故防止の対策を講じることにより一層の安全性を確保することで、学生・教職員のみならず地域の住民にも安全で利用しやすいキャンパス環境を提供することができる。


6.国際化の推進
   
[現状と課題]
       大学は、国際的な教育研究の交流拠点であり、また、国際的に通用する人材育成の場としても重要である。留学生の受入れについては「留学生受入れ10万人計画」※9に基づき進められ、平成14年度においてほぼ達成されつつある※10。現在まで同計画に対応して宿舎の整備※11が進められてきたが、今後、留学生のみならず研究者の受入れや日本人学生の国際感覚を醸成することを考慮した施設が求められる。

[今後の在り方]
       
(1) キャンパスの国際化
     海外の優秀な研究者や留学生が我が国の大学に集まり、教育研究において成果を上げるためには、教育研究の国際化とともに、我が国の大学キャンパスにも、海外の大学と比肩できる学問の府に相応しいキャンパス環境を確立することが求められている。
   また、国際的に通用する人材を養成するためには、教員や学生等が国際的な情報に常時接することができるよう情報システム等の整備に配慮する必要がある。
(2) 外国人教員、研究者への対応
     国際化の進展に伴い、留学生をはじめ、外国人教員や研究者が増加していることから、対応する教育研究スペースの確保や宿舎等の生活支援のための施設の確保、また外国語の標識や掲示板の設置など利便性の向上に配慮する必要がある。また、留学生等のみならず、日本人学生も含めて相互交流できる場を作り出していくことも必要である。






用語説明
※2    参考8「国立大学における学生定員の推移」参照
※3    参考9「留学生数の推移」参照
※4    参考11「競争的資金による雇用者数他」参照
※5    近年、産学連携を推進するため、国立大学に地域共同研究センター、ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー、インキュベーション施設を、高等専門学校に地域共同テクノセンターを整備している。(参考12「産学連携の推進に関する国立大学等の施設整備」参照)
※6    参考13「企業との共同研究の実施件数等」参照
※7    参考14「地方財政再建促進特別措置法施行令の改正について」参照
※8    福利施設等を整備する際に、利用者の利便性、施設の効率的運営を考慮して、既存施設の増築や複合施設として計画することが考えられる。
※9    昭和58年及び59年に取りまとめられた有識者による二つの提言等に基づき、文部省(当時)において、21世紀初頭における10万人の留学生受入れを目途に、体系的な留学生受入れのための総合的に推進している施策。
※10    参考9「留学生数の推移」参照
※11    参考10「国立大学における留学生宿舎の整備状況」参照





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