第3章 教室等の良好な室内環境を確保するための方策
本協力者会議が平成17年9月に取りまとめた中間報告を受けて、同年11月7日に「建築基準法施行令の一部を改正する政令」が公布・施行され、学校の教室の天井高さに係る特例(いわゆる3メートル規制)が廃止された。
この改正により、学校の教室の天井高さは、一般的な建物の基準によることとされた。このことは、地方公共団体等の学校設置者の裁量が拡がり、従来に比べてより主体的に自由な教室環境づくりを進めていくことができることを意味するものであって、経費節減の観点のみの教室環境づくりが進められ、本来、学校が持つべき良好な教室環境が十分に確保されなくなることがあってはならない。すなわち、天井高さに係る特例の廃止を生かすか否かは学校設置者の判断によるところが極めて大であり、良好な教室環境を確保することについての学校設置者の責任はより重くなったと言えよう。
『この特例の廃止を生かして、創意工夫によって、より良好な教室環境を持った学校をつくっていってほしい。』、このような趣旨のもとに、本協力者会議では、第3章において教室等の良好な室内環境を確保するための方策として、良好な教室環境づくりを進める際の基本的な考え方と、教室の天井高さに係る計画・設計上の留意点を示すとともに、参考として、教室環境づくりの創意工夫の事例を示すこととした。
本協力者会議は、学校設置者が学校施設整備指針等の趣旨を十分に踏まえた上で、こうした考え方や留意点、事例を参考に、学校関係者等との緊密な連携の下、教室環境を構築する多様な要素を総合的に検討しながら、創意工夫によって、良好な教室環境づくりを一層推進されることを期待するものである。
1 良好な教室環境づくりを進める際の基本的な考え方
(1) |
多様な視点からの総合的な検討 |
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第2章で述べたように、今後の良好な教室環境づくりに当たっては、児童生徒の学習及び生活の場として、多様な教育内容・方法等への対応とともに、健康的かつ安全で豊かな教室環境を確保することが重要である。その上で、学齢、学級規模、学習形態、学習内容、学習活動の人数、情報化への対応などを分析・検討し、地域との関連性、将来の教室の転用の可能性などの見通しも持ちながら、これらの諸要素を考慮して、次のような教室空間の質に係る要素を総合的に検討することが重要である。また、これらの質に係る要素は、相互に密接に関連していることから、一体的に検討していくことが重要である。
- 空間構成(教室の広さ、天井高さ、平面形状、断面形状等)
- 室内環境(自然採光・照明環境、温熱・空気環境、遮音・吸音等への配慮)
- 室内装備等(家具、収納・掲示スペース、情報機器等)
- その他(階高等)
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(2) |
関係者の参画と理解・合意の形成 |
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学校施設は、児童生徒の学習及び生活の場であるとともに、まちづくりの核、生涯学習の場として地域社会において最も身近な公共施設であることなどから、学校施設の計画・設計に当たっては、何よりも児童生徒を含めた利用者の視点を重視し、学校関係者の学校づくりへの積極的な参画を促しながら、理解・合意を求めていくことが重要である。
すなわち、良好な教室環境づくりを促進していくためには、設計着手以前の基本構想、基本計画など企画の段階から、教職員や、保護者、地域の人々、行政関係者、専門家等の関係者が参画するなど、学校・地域・行政の緊密な連携協力を図るとともに、教室を利用する児童生徒の声にも配慮した教室環境づくりを進めていくことが重要である。
具体的には、学校施設の基本計画の検討に当たり、行政関係者、設計者に加え、教職員や保護者、地域の人々で構成される検討委員会が組織され、先進校の視察、ワークショップ、現場見学などを行いながら計画を進めている例もあり、こうした取組も有効である。
なお、教室環境づくりにおいては、その後の維持管理も含め、良好な教室環境づくりが進められているかどうか、児童生徒の声も聴きつつ、教職員や学校建築の専門家を含む関係者による適切な点検評価等を行い、その結果を教室環境の更なる改善につなげていくことが重要である。 |
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教職員や生徒などの関係者を交えた打ち合わせ風景
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 教職員との検討会 |
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 教職員、PTA、地域住民、行政、設計者で構成される検討委員会でのワークショップの様子 |
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2 教室の天井高さに係る計画・設計上の留意点
1(1)で指摘したように、学校設置者が学校施設の計画・設計を行うに当たっては、 空間構成、 室内環境、 室内装備等、 その他についての総合的な検討が重要であり、特に、今回、基準の改正が行われた教室の天井高さを決めるに当たって留意すべき点を挙げれば以下のとおりである。なお、以下の留意点は、研究会の「教室の健全な環境の確保等に関する調査研究」における多面的検証 等を踏まえて整理したものである。
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空間構成
ア |
教室の天井高さは、児童生徒等に対する視覚的・身体的・心理的な影響を考え、学習内容・形態や児童生徒等の身体寸法の特性、教室の広さとのバランスなどを考慮しつつ、居心地のよさや落ち着き感に配慮して計画する。 |
イ |
教室の天井高さは、オープンスペース や廊下等の教室と隣接する空間との平面的な広がりや高さの関係により印象が異なるため、教室と隣接する一連の空間の高さや広さのバランスを考慮して計画する。 |
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室内環境
ア |
天井や壁の仕上げ材によっては、天井高さを低くすると音が響きやすくなる場合があるため、天井高さの検討の際には、仕上げ材の吸音性を高めるなど、教室内の音響等に留意して計画する。 |
イ |
天井高さが低いほど、通風、換気等の室内環境に及ぼす影響が大きくなることが考えられるため、夏季における自然通風の確保や、良好な換気の確保等のための設備の設置など、教室の温熱・空気環境に配慮して計画する。 |
ウ |
天井高さの計画に併せて天窓やハイサイドライト などを設置する際は、直射日光により暑さやまぶしさを感じることがあるため、運用面に留意しつつ、カーテンやブラインドの設置など、直射日光による影響を考慮して計画する。 |
エ |
天井高さが低い場合で、外部に面した窓から自然採光を確保するために腰壁 の高さを低くせざるを得ない場合には、手すりやバルコニーを設置して児童生徒の転落防止を図るなど、安全性を十分考慮して計画する。 |
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室内装備等
ア |
天井高さが低い教室や、教室と連続的・一体的に構成されるオープンスペースでは、壁面積が制約を受け掲示スペース等が狭くなるため、可動式の掲示板を設置するなど、掲示スペース等を確保する方法を考慮して計画する。 |
イ |
天井高さが低い場合は、児童生徒が、天井面の照明器具や煙感知器等の設置物に触ろうとするおそれがあるため、取り付ける器具類の形状や取り付け方法を工夫し接触による事故の防止を図るなど、児童生徒に対する安全性を十分考慮して計画する。 |
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その他 |
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学校施設のより効果的・効率的な整備を推進するため、改修による再生整備を図るなど既存施設を有効活用することや、将来の社会のニーズ等に応じた学校以外の施設としての活用も考慮することが重要である。このため、空調設備の新設・更新や情報化に伴う二重床 の整備など、機能的な変化等にも柔軟に対応できるよう、階高の設定について十分に検討する。 |
3 教室環境づくりの創意工夫の事例(天井高さを中心として)
近年、学校施設整備指針に示された基本的方針の趣旨等を踏まえ、教室等を多様な学習活動に適した空間としたり、児童生徒にとってより快適な居場所とするため、天井高さをはじめ、空間構成・形状等を様々に工夫して教室環境づくりを進める取組が行われるようになっている。
以下は、学校設置者をはじめとする学校の関係者において、天井高さの特例の廃止を受けて、今後、教室環境づくりを考え、取り組んでいく際のきっかけ・参考となるよう、天井高さを中心とした教室環境づくりにおける創意工夫の具体的な事例を紹介するものである。
なお、各事例は、それぞれの地域や学校の状況等の諸条件に応じて創意工夫されたものであり、学校設置者においては、本例を一つの参考としつつ、それぞれの状況等に応じて創意工夫することが大切である。
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詳しくは、関連資料「教室の健全な環境の確保等に関する調査研究報告書」(概要版)【抜粋】の38ページ、39ページを参照。 |
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従来の固定的な教室空間に対して、多様な学習集団編成や学習形態に柔軟に対応するなどの目的のために設けられる学級間共用のオープンで多目的な学習及び生活スペース。(文部科学省の補助制度上は多目的スペースと呼ばれている。) |
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高窓採光のこと。側窓採光のうち目の高さより高い位置にある窓からの採光。 |
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窓の下の壁の部分。 |
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ある空間を挟んで床板を二重に張った床。防音、防寒、配線、配管などのために用いられる。 |
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