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建築設備の高度化と学級編制基準の引き下げ等
空気環境、採光・照明等の教室の環境衛生については、現在、建築設備の高度化等により、以前に比べ、良好な環境の確保・維持が可能になってきている。具体的には、空気環境に関して、換気設備を設置するとともに適切な窓開けに配慮することによって、また、採光・照明に関して、照明器具の性能向上や設置の促進によって、従来に比し、良好な室内環境の確保・維持が格段に容易になってきている。
また、以前のいわゆる「すし詰め学級」の頃に比べ、学級編制基準の引き下げ注6等により、全体的に一人当たりの気積注7が増加していることから、良好な室内環境の確保・維持が行いやすくなっている。
注6 |
学級の編制の基準として、昭和33年に「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(以下、義務標準法と呼ぶ)が制定され、それまでの小・中学校における「すし詰め学級」(義務標準法制定以前の各都道府県の学級編制基準の平均は約60人)を解消するため、学級編制基準(50人)が明定された。その後、教育内容の変化や時代の要請等に応じて学級編制基準の引き下げが行われ、現在では40人となっている。さらに、平成13年度以降、各都道府県の判断により、児童生徒の実態等を考慮して、40人を下回る学級編制基準を設定することが可能となるよう弾力化が図られている。 |
注7 |
室の実容積。すなわち、室容積から室内の家具などの占める容積及び在室者容積を差し引いた容積。 |
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天井高さに対する実測調査の結果
教室の天井高さが児童生徒への心身の健康に与える影響について、天井高さを3 、2.7 、2.4 に設定した設営室注8を用いて研究会が行った実測調査の結果によれば次のとおりであった注9。
注8 |
設営室とは、余裕教室(普通教室)を利用して天井高さを3 、2.7 、2.4 に設定し、実測調査を行った部屋を指す。 |
注9 |
詳しくは、関連資料「教室の健全な環境の確保等に関する調査研究報告書」(2次・概要版)【抜粋】の16ページ、17ページを参照。 |
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(児童生徒対象)
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「教室が広い・狭い」について
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2.7 と3 の設営室については、両者に差はあまり見られない。また、2.7 ・3 の設営室は2.4 の設営室と比べ、より広いという印象を受ける傾向が見られる。 |
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「教室が落ち着いた・落ち着かない」について
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2.4 ・2.7 ・3 の天井高さの違いによる大きな差は見られないが、3 の設営室よりも2.7 ・2.4 の設営室の方が、より落ち着いているという印象を受ける傾向が見受けられる。 |
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「黒板の文字が見えやすい・見えにくい」について
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2.4 ・2.7 ・3 いずれの天井高さについても「見えやすい」という印象を受ける傾向があり、これらの間に大きな差は見られない。 |
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(教師対象)
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全体の印象としては、天井高さの変化には、2週間目では「慣れた」と答える教師が多かった。また、2.4 以外の教室は概ね好印象で、教室環境に対する「不満」の理由は、内装の老朽化や汚れ、収納スペースの少なさなどが多い。 |
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なお、2.4 の設営室を体験した教師からは、天井が低くなった結果、音が響くこと、掲示スペースが狭いことなどの不満の意見が聞かれた。 |
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海外の学校における教室の天井高さの規定の状況
海外における教室の天井高さの規定の在り方について、調査した国の範囲では、最低基準として示している国は少ない。また、教室の天井高さを最低推奨値として示している国は比較的多く見られ、その場合、2.7 と示している例が多い。なお、教室の天井高さについて最低推奨値を示している国の中には、別に一般的な建築物の天井高さの最低基準を定めているところもある。
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学校以外の建物の天井高さの現状
学校以外の建物の天井高さについては、建築主や設計者がその機能に応じて設定しており、近年の建築雑誌において掲載されているオフィス等の商業建築、病院・福祉施設・図書館・児童利用施設等の公共施設、並びに集合住宅の実施例では、2.1 の基準ぎりぎりに設定している例は一部の集合住宅を除き見られない。
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学校施設を有効活用することの重要性
施設管理者が、普通教室を中心に、教室の天井高さの基準を制約として感じる場合の要因について、研究会における調査結果では、「既存施設の改修(OAフロア等の二重床等)に関すること」が最も多く挙げられ、次いで「整備コストに関すること」、「冷暖房設備に関すること」が挙げられている。このような面から、教室環境については、情報化への対応、教室の用途変更、空調設備の設置等に柔軟に対応できるようにする必要性が高まっている。
また、学校施設は、地域社会において最も身近な施設であること、児童生徒数の減少に伴って余裕教室が生じていること等から、他の用途の公共施設へ転用するなど、社会資本として有効活用を図ることの必要性も高まっている。同時に、他の建築物を学校施設に転用しようとする例もあり、教室の天井高さの規定について、他の用途の公共施設と同様の取り扱いとする必要性が高まっている。
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教室の天井高さと建設費
研究会が行った試算によれば、現行法規により建設された標準的な設計の小学校校舎と、これをモデルとして教室の天井高さ及び各階の階高注10を例えば30 下げた校舎の建設費を算出し、コスト比較を行った結果、総工事費は約1.5パーセントの減となった。また、建物の階高を変えずに教室の天井高さのみ30 下げた場合は約0.1パーセントの減であった。
注10 |
ある階の床面(水平基準面)から、その直上階の床面までの高さ。 |
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研究会からの報告
研究会における多面的な検討の結果、空気汚染の緩和及び視覚的・心理的・身体的な環境の保持の観点から、現在では、天井高さについて、3 以上なければならない直接的な根拠は見出せないとの報告がされている。 |