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5 指定規則改正への対応を通して追究する看護学教育の発展

1. 看護実践能力の育成を目指した看護学教育の見直しの視点

(教育課程の見直しの視点について)
 改正案の別表三では、専門分野を12に分け、新たに統合分野を設けるなど、各教育内容の区切りが明確になった。これらの区切りは、さまざまな教育内容を体系づけ、学生の学習を統合する際に活用すべきものであるが、教育課程の編成や学習の順序性を厳密に縛るような性質のものではないと考えられる。したがって、各看護系大学等においては、看護実践能力を育成する立場から、到達目標を体系的に整理し、看護学の特質を充分配慮した上で、柔軟に独自の教育課程を編成することが望ましい。

 新たに追加された「看護の統合と実践」は、前述のとおり、看護学の各領域に共通する内容である。したがって、看護学の各領域を担当する教員は、この教育内容が新設される趣旨を十分に理解した上で、協力して教育にあたる必要がある。
 例えば、災害に関しては、看護師等は置かれた状況と場に応じて、幅広い役割と責任を担うこととなる。新たに追加が提案された「看護の統合と実践」では、災害時に必要となる基礎能力・技術教育に加えて、看護学の各専門領域を担当する教員がその専門性を活かして協力し、実践性に富む基礎能力を確実に修得させる教育方法を開発するなどの工夫が考えられる。

 また、看護学の学習の統合は、最終年次だけでなく、学年の進行と共に段階的に追究するものである。したがって、「看護の統合と実践」として教授する内容を適切に配置し、到達目標に向かって段階的に修得できるよう工夫し、卒業時の看護実践能力を担保する必要がある。

 なお、教育課程の見直しに併せ、看護系大学等で教育されている看護基本技術と、実践の現場で実際に適用されている看護技術との間に乖離を防ぐ見直しも重要である。さらに、技術教育においては、学生の成熟度や生活能力を見極め、看護を志し入学してくる学生の成長ニーズに見合うよう、教育方法の工夫・改善が必要である。

(臨地実習の見直しの視点について)
 指定規則別表三改正案では、新たに「看護の統合と実践」に係る臨地実習の単位が2単位追加されている。各看護系大学等では、この教育内容の位置づけや看護実践能力を強化していくための教育方法等を検討する必要がある。

 例えば、「看護の統合と実践」の実習内容として、病棟を中心とした実習内容以外に、外来や中央検査部などでの治療に至るまでの過程や、在宅療養、リハビリテーションなどの治療を終えた後の過程における人々の生活に即した支援を体験できるような実習も考えられる。また、従来の「受け持ち患者を中心とした看護過程展開実習」以外にも、複数患者を受け持つ実習や看護の機能別実習など、多様な実習形態が考えられる。

 また、近年、医療安全等の観点から、学生が侵襲的処置とそれに伴うケアを体験する機会が減っている。これらを体験すれば、看護実践能力が必ず身につくというものでもない。しかし、その必要性や最新の知見・方法・手技については、免許取得前の基礎教育における臨地実習で体験すべきものと、卒後の研修の中で修得することが相応しいものとを峻別し、前者については、安全性を確保しつつ、効果的な臨地実習ができる体制を整備する必要がある。

 また、指定規則別表一、別表二改正案のいずれにおいても、臨地実習に関する単位数が増加している。各看護系大学等では、当該課程の教育における到達目標のどの部分を強化するのかを、全体的視野で見直した上で、看護実践能力を強化していく必要がある。

 例えば、別表一の「地域看護学実習」では、訪問指導、個別健康相談、集団教育など、個別性の高い環境での臨地実習が中心となる。このような場合、単に実習期間を延長するだけでは、単位数の増加に見合う教育効果を期待することは難しい。むしろ、学生が体験した現場の実態の断片を、意味ある学習として統合させて導き、その体験に深まりと広がりを持たせる教員の意図的かかわりが、重要な教育的効果をもたらす。

 また、別表二の「助産学実習」での単位数を増加させる趣旨は、妊娠・分娩・産褥経過における心身社会的側面からの総合的なアセスメント能力及び基本的な援助技術の修得を強化することにある。したがって、各看護系大学等では、指定規則の備考欄に規定された分べん取扱い回数をこなすことに終始するのではなく、上記の能力と技術の修得につながる教育内容・方法を体系的に見直し、卒業時の能力を担保することが重要である。

 教育する側は、これまでの臨地実習の形態や方法にとらわれず、改正の趣旨を理解した上で視点を転換することも大切となる。それによって、学生が実習現場で体験する現実を、看護学の学習として統合することも可能になり、現場に直結したこれらの学習支援の機会を積み重ねることを通して、卒業時の看護実践能力を担保していくことができると考えられる。

 なお、臨地実習を受け入れている実習施設のすべてが、必ずしも看護学実習の学習環境として適切に整備されているとはいえない現状がある。したがって、看護系大学等の教員は、実習施設に出向いて看護学教育の学習環境としてふさわしい施設の在り方に整えるべく働きかける必要がある。

2. 看護学教育の特質を踏まえた看護系大学等の社会貢献

(看護系大学等の地域社会への貢献について)
 学生は、看護サービスの利用者や、看護サービス提供機関で働くさまざまな人々の協力を得ながら、看護実践能力を身につける。そして、免許を得た後は、地域の看護サービスを担う存在となり、さらに上級レベルの看護実践能力を修得していく。このように、看護系大学等における人材育成は、それぞれの組織内部で完結するものではなく、地域社会との協働によって成立しているものである。このことを踏まえれば、看護系大学等の諸活動は、常に地域社会に向かって開かれたものでなければならない。

 このような理解に基づき、看護系大学等は、看護サービスの利用者である地域住民や地域の看護サービス提供機関と連携し、実習施設の学習環境を整え、現場の看護の質の向上に努めていかなければならない。これらの活動を通して、地域の保健・医療・福祉サービスの展開と質の向上に寄与することが、看護系大学等の最終的な社会貢献として求められる。

 一方、看護師等を志し入学してくる学生は、多様な背景を有し、またその特徴も年々変化している。これらの学生の教育ニーズに応える方法の開発も、看護系大学等に求められる。学生の成熟度や生活能力を見極め、学生の成長ニーズに見合った教育方法を工夫し、真に他者への責任を果たすことができる看護師等へと育んでいくことは、看護系大学等の使命としてますます重要になってくると考えられる。

(看護生涯学習に対する貢献について)
 今回の指定規則改正の趣旨は主として看護実践能力の強化にあるが、看護実践能力は、資格者すなわち看護師等として認められた立場で行う実践の過程で、さらに上級レベルの能力へと発展していくという特質をもつ。

 そのため、「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標」(平成16年3月26日:看護学教育の在り方に関する検討会報告)においては、学士課程卒業後の数年間において、計画的・意図的に看護実践能力を修得する「研修的修得期間」を設けることが提案されている。

 看護系大学等においては、看護学教育を受け看護師等として就業した卒業者が、卒後いかに上級レベルの看護実践能力を発展させているか、その過程における課題は何か、などに関心を向け、離職防止策も含めて、適切な支援活動を組織的に推進する必要がある。これらの新人期の生涯学習支援は、卒業者が就業した施設との協働で行うものであり、前述の臨地実習施設における学習環境の整備の取り組みを含めて、地域における看護サービスの質の向上に貢献するものである。

 現在、卒後の研修については、新卒者を受け入れた施設側の自主的な努力に委ねられているが、今後、看護系大学等は、自大学の卒業者以外にも対象を広げ、新人期の支援を含む看護師等の看護生涯学習に積極的にかかわり、一定の社会的役割と責任を担うべきである。

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