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3 指定規則改正案の看護系大学等への適用課題

1. 指定規則改正案に対する基本的見解

(改正案で新たに追加が提案された事項について)
 厚生労働省の「看護基礎教育の充実に関する検討会」が平成19年3月23日に示した指定規則改正案(以下、「改正案」という。)において、現行の指定規則に追加すべき内容として提案されている事項は、社会が看護師等に期待する役割・能力を踏まえたものであり、卒業時の看護実践能力の到達度を保証する観点から、多くの看護系大学等において、既に教育されている内容であると考えられる。

 したがって、指定規則の改正が行われた場合には、それを機に、各看護系大学等においては教育すべき内容としての位置づけを明確にし、その教育課程に確実に盛り込まれるようにすべきである。

 指定規則は、看護系大学等において教育すべき最低限の内容を定めたものであり、各教育内容を、どれだけの単位数で、また、どのような授業科目の中で扱うか、どのような授業形態で教授するか、などの教授方法については、各看護系大学等が、それぞれの教育理念・目標に基づいて決定することが基本である。

 また、教育内容の展開の順序をどうするかということは、教授方法の課題であり、各看護系大学等において追究していく必要がある。したがって、教育内容の展開の順序や教育方法に関して、固定的なものとならないよう、詳細な規定を指定規則に盛り込むことは適切ではないと考える。

(指定規則に規定する総単位数について)
 協力者会議では、学士課程における看護学教育の基本的な考え方として、「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標」(平成16年3月26日:看護学教育の在り方に関する検討会報告)に示された5点の特質を再度確認した。
 その5点とは、以下のとおりである。
1.  看護師等に共通した看護学の基礎を教授する課程であること
2.  看護生涯学習の出発点となる基礎能力を培う課程であること
3.  創造的に開発しながら行う看護実践を学ぶ課程であること
4.  人間関係形成過程を伴う体験学習が中核となる課程であること
5.  教養教育が基盤に位置づけられた課程であること

 また、看護系大学等に適用される指定規則については、「大学・短期大学に適用される保健師助産師看護師学校養成所指定規則の在り方について(まとめ)」(平成7年6月21日:大学・短期大学における看護教育の改善に関する調査研究協力者会議)の基本的考え方を踏襲することを確認した。

 改正案では、指定規則別表一、別表二及び別表三のいずれについても、総単位数の増加が提案されている。しかし、現行の指定規則においても、大学設置基準に定められた最小卒業要件単位数である124単位のうち、指定規則に規定する単位数が多くの割合を占めており、各看護系大学が、独自に教育課程を編成し、特色ある教育を実施する余地が制約されている現状にある。また、短期大学については、短期大学設置基準に定められた最小卒業要件単位数が93単位であるため、指定規則に規定する単位数が多くなれば、各短期大学独自の教育課程編成が一層困難となる。

 教養教育を充実させるなど、特色ある教育を行い、自ら主体的に考え行動できる人間性豊かな看護師等を育成することは、看護系大学等の社会的使命である。そのため、指定規則に規定される内容に加えて、独自の教育内容を教授する必要があることから、指定規則に規定する総単位数は、一定の範囲内に抑えることが適切である。

(臨地実習の単位数について)
 看護学の基礎を教授し、看護実践能力を育成するには、臨地実習の充実が不可欠である。しかし、近年、臨地実習の現場では、リスクマネジメントの観点から、免許を有しない学生が実際に看護を体験する機会が著しく制約され、主として見学に留まる傾向がある。

 こういった臨地実習の現場の問題を解決し、必要な教育内容を保証する体制を整えない限り、臨地実習の単位数を増加しても、その教育効果には一定の制約があるとの指摘がある。

 また、臨地実習は、看護サービスの利用者と看護サービス提供機関の協力なくしては、成立しない。特に、医療機関における看護サービスの利用者は、疾病等に罹患し治療を受けている状態にある。臨地実習への協力を依頼する場合には、その安全・安楽を保証するだけでなく、学生実習に伴う負担を最小にするよう努めることが、教育する側の責務となる。

 改正案では、臨地実習の単位数の増加が提案されているが、実習単位数の増加については、上記のような実習施設や指導体制の整備状況を勘案し、原則として、できる限り慎重に行うべきであると考える。

2. 指定規則改正案を看護系大学等に適用する際の課題

(各看護系大学等の教育改善の取り組みとの連動について)
 各看護系大学等では、「大学における看護実践能力の育成の充実に向けて」(平成14年3月26日:看護学教育の在り方に関する検討会報告)、「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標」(平成16年3月26日:看護学教育の在り方に関する検討会報告)の2つの報告を受け、教育改善の取り組みを重ねてきている。特に、卒業時までに修得すべき看護実践能力を明確化することや、その到達度の評価方法の開発は、重要な課題と位置づけられ、取り組まれている。しかし、多くの大学において、その取り組みは未だその途上にある。

 したがって、改正案を適用する際には、改正の趣旨について充分な周知を図り、各看護系大学等の教育改善の取り組みを阻害することのないよう、充分配慮する必要がある。

 また、看護系大学等については、年間10校程度の新設が続いており、専修学校や短期大学からの改組転換も多い。これらの新設大学では、教員の教育力を組織的に高めることが課題となっている。

 教員の教育力を高めるためには、教育理念・目的、教育課程の展開方法を教員間で共有するするとともに、ファカルティ・ディベロップメントを積極的に実施することが不可欠である。このような状況にある新設大学に対して、改正案の適用を不用意に強いれば、その対応に追われ、ファカルティ・ディベロップメントを含めた教育改善の取組を阻害するおそれもある。

 したがって、改正案を新設大学に適用する際には、改正の趣旨について事前に充分な周知を図るなど、当該大学等の進めているファカルティ・ディベロップメントを含めた教育改善の取組を阻害することのないよう、特段の配慮が必要である。

(実習施設数の増大について)
 看護実践能力を確実に修得できるようにするためには、臨地実習の充実が不可欠である。実習施設の確保については、単に実習受け入れの了解を得ることだけではなく、同時に、各看護系大学等の教育理念・目標を理解し、さらに優れた看護実践能力と指導能力を備えた実習指導者の確保が欠かせない。

 実習施設における実習指導者の育成には、実習施設と看護系大学等の協働が不可欠である。看護系大学等は、実習指導者の育成にも積極的に関与していくべきであるが、これには、相応の時間が必要であることに留意して、早急に取り組む必要がある。

 実習指導者の育成に時間を要することを踏まえると、指定規則改正にあたっては、実習施設数の増大に伴う実習指導者の育成に特に配慮する必要がある。

 また、実習施設数の増加は、各種実習経費の負担増加をもたらす。そのため、各看護系大学等が実習施設数の増加を検討する際には、必要な経費の確保も視野に入れる必要がある。

3. 改正案に対する協力者会議の具体的提案

 以上の検討結果を踏まえ、協力者会議では、看護系大学等に適用する改正案について、次のとおり、具体的提案を行うものである。

(別表三改正案について)
 改正案において新たに追加された「看護の統合と実践」の内容は、すでに多くの看護系大学等において教育されているが、今後は、すべての看護系大学等において必須の内容として教育することが必要である。したがって、「看護の統合と実践」を別表三の教育内容として明示することは適切である。

 また、「看護の統合と実践」の内容は、すでに多くの看護系大学等において教育されている現状を考慮すると、「看護の統合と実践」の新設に伴う単位数の増加は、現行指定規則別表三の教育内容の精選を通じた単位数の減少によって、ある程度相殺可能である。具体的には、関連分野の教育内容の単位数を減じ、指定規則に規定する総単位数の増加を一定の範囲内に抑えることが適切である。

 特に、臨地実習の単位数を大幅に増加させることは、学生に過密なスケジュールを強いることにもなり、教育上望ましくない。「看護の統合と実践」の臨地実習単位数と、他の臨地実習の単位数とを合わせ、現行の23単位以内に留めるべきである。

(別表一改正案について)
 「地域看護学」の教育内容として、備考欄に新たに追加された「学校保健・産業保健を含む。」については、地域看護学の教育内容に当然含まれるべきものであり、改正案において新たに追加することによって看護系大学等における看護基礎教育が大きな影響を受ける内容ではない。

 保健師の政策形成能力については、保健医療福祉サービスの連携の必要性の更なる高まりや地方分権の進展の中で地域の特性を活かした特徴ある行政サービスが求められるようになっていること等から、特に、社会から強く求められているものであり、すべての看護系大学等において重点的に教育されることが望ましい。したがって、「保健福祉行政論」の充実は必要であると考えられる。

 「地域看護学実習」において新たに追加された「地域看護活動展開論実習」及び「地域看護管理論実習」で求められている到達度は、「実際を知り理解できる」レベルであり、現行の単位数を大幅に増加させなくても充分到達可能であると考えられる。指定規則に規定する総単位数を抑える観点からも、「地域看護学実習」の単位数の増加は、一定の範囲内に抑えるべきである。

 実習施設や実習方法の選定については、基本的に、各看護系大学等の裁量に委ねることが適当である。別表一改正案では「地域看護学実習」備考欄に「保健所・市町村での実習を含む。」「継続した訪問指導を含む。」と規定することが提案されているが、それによって、看護系大学等の裁量の幅が実質的に狭められることは避けるべきであると考える。

(別表二改正案について)
 医療安全を確保する観点からも、実習の質を担保する観点からも、「助産学実習」における分べん取扱いの原則を示すことは重要である。

 また、「助産学実習」では、分べん取扱いだけでなく、妊娠期、産褥期の診断および看護についての教育を充実させ、卒業時の到達目標に達するようにすることが重要であり、1単位の実習単位数の増加は適切である。

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