2 医学部の今後の定員の在り方

(1)基本的な考え方

  • 現在、関係者の努力にもかかわらず、医師の地域偏在は依然として大きな問題であり、へき地を含む地域での医師の確保は極めて困難なものとなっている。また、小児科、産婦人科等の特定の診療科での医師の確保も困難なものとなっている。
  • このため、第一次報告で提言しているように、入学者選抜の工夫改善、医学教育モデル・コア・カリキュラムの充実等による学部教育における地域医療に関する教育の改善、大学病院における新医師臨床研修や地域医療支援等の改善など、地域別・診療科別の医師の偏在の問題への対応の充実を図ることが必要になっている。
  • 地域別・診療科別の医師の偏在の問題に関する対応としては、入学定員の増加は短期的には直接的な効果は見られず、検討会報告書で提言されているように、地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築等が求められるところである。しかしながら、地域における医師の偏在の現状やこの問題への対応の必要性を踏まえれば、「新医師確保総合対策」で掲げられている緊急対策等の実施を前提として、医師の不足が特に深刻と認められる10県の大学医学部及び自治医科大学において、期間を付した定員増を認めることが適当である。
  • 国においては、私立大学における定員増の認可のみならず、国立大学における中期計画の変更や公立大学における定員増の届出も含め、平成20年度からの入学定員増に必要な申請等に対象大学が対応できるよう所要の措置を講じる必要がある。
     また、定員増の取扱のみならず、医学教育の改善等、医師の養成・確保の充実を図る必要がある。

(2)期間を付した定員増の具体的な要件

  • 検討会報告書にあるように、平成34年に医師の需要と供給が均衡すること等を踏まえると、入学定員増の期間は平成29年度(収容定員増の期間は平成34年度)までとすることが適当である。この場合、平成21年度以降からの入学定員増の申請等の場合も平成29年度までとし、対象大学が期間を付した定員増の申請等を行うにあたっては、その廃止時期も明記することが必要である。
  • また、定員増に伴う教育環境の維持等を踏まえると、増員は入学定員当たり10名を限度とすることが適当である。
  • 期間を付した定員増は、対象県の医師不足の現状に鑑み容認すべきものである。また、「新医師確保総合対策」においては、対象県が奨学金の拡充等一定の措置を講じることが条件とされている。対象県の取組の審査は厚生労働省において行うこととされているが、対象大学の定員増の前提となっているため、対象大学の申請等にあたっては、文部科学省においても、対象県の取組について関係書類により審査(条件を満たしていることの確認)を行うことが必要である。
     なお、対象県においては、定員増の条件以外の取組も含め、医師の確保や地域定着に関する取組の充実・強化を図ることを期待したい。
  • 定員の扱いについては、医師の需給というマクロ的な数量調整の観点だけでなく、優れた資質能力を有する医師の育成・確保をいかに図っていくべきかという視点から検討することが必要である。期間を付した定員増が対象県の医師不足の現状に鑑み容認するものであることを踏まえれば、対象となる大学においては、学部教育の改善をはじめ、医師の育成・確保に資する取組について一層の改善・充実が求められる。
     このため、対象大学の定員増の申請等の審査に当たっては、教員組織や教育環境等の審査に加え、1.地域枠の設定・拡大、推薦入学における工夫、地元高等学校との連携(アドバンスドプレイスメント)など、入学者選抜段階における取組の推進、2.地域医療への関心と意欲を高めるためのカリキュラム開発、早期体験学習や臨床実習における地域医療と接する機会の提供など、学部教育における取組の推進、3.学部教育の改善等に当たっての地域の医療機関との連携の推進など、学生(卒業生)を地域に定着させるための大学の取組を考慮することが必要である。
      なお、対象県の医師不足の現状や求められる医師の需要等を勘案すれば、地域に定着させるための取組は、増員分の学生のみならず学生全体に対して広く取り組むことが重要である。また、定員増の対象以外の大学においても、このような取組の充実が求められる。
  • 期間を付した定員増の取扱や審査を統一的に行うため、国立大学に係る期間を付した定員増の審査は、学部等の設置の際と同様、大学設置・学校法人審議会における「意見伺い」等の審査を行うことが望まれる。また、公立大学に係る定員増の届出にあたっても、対象県の取組や学生を地域に定着させるための対象大学の取組に関する資料の提出が求められる。

(3)期間を付した定員増に当たって求められるもの、留意点等

  • 期間を付した定員増は、地域間の偏在により一部の地域における医師の不足が深刻な状況に鑑み容認するものであり、全国一律に医師の養成規模の量的拡大を意図するものではないことに留意すべきである。また、前述したように、定員の扱いについては、医師の需給というマクロ的な数量調整の観点だけでなく、優れた資質能力を有する医師の育成・確保をいかに図っていくべきかという視点から検討することが必要である。このため、期間を付した定員増の実施を契機として、定員増の対象大学のみならず全ての大学において、医師養成の取組の改善・充実が図られることが重要である。
  • 期間を付した定員増の申請等の有無及び規模については、対象大学の主体的な判断によるものであるが、各大学における申請等や規模の検討に当たっては、単なる養成数の増大となることがないよう、教育内容の一層の改善・充実等質を高める取組に十分留意することが求められる。
  • また、期間を付した定員増が対象県の医師不足の現状に鑑み容認するものであることを踏まえれば、対象大学の検討に当たっては、県の医師確保策等を踏まえるなど、検討の段階から県との十分な連携を図ることが求められる。さらに、県と大学との連携の充実とともに、寄付講座の設置など、県による大学への支援の充実も望まれる。また、学部教育の改善等、大学が学生を地域に定着させるための取組を行うに当たっては、大学や学生への地域医療に関する情報の提供、学生が地域医療と接する場の提供など、県の協力の充実も望まれる。
  • さらに、対象大学においては、卒後教育について、生涯学習の場の提供や、大学病院とともに地域の多様な医療機関をローテートしながら修練や経験を積む機会の提供など医師としてのキャリア形成への支援について、県とも連携しつつ、取組の充実を図ることが望まれる。
  • 国においても、対象大学の定員増の検討や実施に当たって必要な助言、情報提供、援助等に努めるとともに、優れた資質能力を有する医師の養成・確保に取り組む大学に対する財政的支援も含めた支援施策の一層の充実を図ることが必要である。また、定員増の対象以外の都道府県の地域別、診療科別の医師の偏在の状況や大学の取組の状況・課題等を踏まえ、定員増の対象以外の大学も含めた取組の充実や支援について検討することも必要である。
  • 前述したように、定員の増加は、医師の偏在の問題に対して短期的には直接的な効果は見られないことから、この問題への対応の充実を図るためには、医学部の定員の扱いと併せて、関係者が連携協力して地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築や、卒業後学生が実際に地元に定着することに結びつけるための学部教育等の工夫・改善等が求められる。このため、定員増の対象大学をはじめとして、各大学においては、入学者選抜の工夫改善、学部教育における地域医療に関する教育の改善、大学病院における新医師臨床研修や地域医療支援等の改善など、第一次報告で提言した事項に積極的に取り組むことを改めて期待したい。

お問合せ先

高等教育局医学教育課