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4   看護実践能力にかかる卒業時到達度評価について

   教育の質の保証は、大学にとって重要課題であり、看護系大学においてもさまざまな取り組みが行われている。特に近年は、自己点検・評価の実施と結果公表、第三者評価の義務化により、大学評価に向けた努力が一層進んでいる。
   第一次検討会では、教育の質の向上と改善という観点から、組織としての教育能力の向上と教員個々の資質の向上、大学の基盤づくりの活動と人材育成目標の点検評価、教育の質の改善を恒常的に図るシステムの3点をとりあげ、卒業までに一定レベルの看護実践能力の習得を保証できる体制づくりを、看護系大学が取り組むべき課題であると指摘した。報告以来、各看護系大学では、特に臨地実習の方法に関する見直しが進んでいる。本章では、看護実践能力の到達目標を活用した、卒業時における総合的な看護実践能力の到達度評価に焦点を絞って検討する。

1)卒業時到達度評価の必要性
   看護系大学学士課程の卒業生は、そのほとんどが保健師・助産師・看護師として就業する。そのため、看護実践能力にかかわる到達度が保証されていることが重要である。看護系大学は、卒業時までの教育目標を示し、個々の卒業生の到達度を評価することで、実施した教育の質を保証する必要がある。質を保証できる卒業生を社会に送り出すことが、社会及び看護サービスの利用者に対する各大学及び看護学教育者の責任である。
   また、看護系大学が学生の到達度評価を行い、その内容を明示した上で卒業生を社会に送り出すことは、社会への説明責任の遂行以外の効果ももたらす。例えば雇用者である医療施設等では、新規採用時の人事配置に際し、学士課程卒業生の能力を見越した配属がしやすくなる。さらに、新規採用者研修の出発点を示すこととなり、その後の研修やキャリアディベロップメント支援のプログラムづくりを容易にする。

2)評価の実施に向けた教育課程の見直し
   本報告では、卒業時に達成すべき看護実践能力の到達目標を大項目と細項目に整理して到達度を提示した。これには、各大学が、看護実践能力の育成という面から教育課程及び教育方法を見直し、自大学の教育活動を一層充実させていくねらいがある。看護系大学は、本検討会が作成した到達目標を中核として、看護実践能力の育成という観点から教育課程の見直しをすることになる。教育課程が人材育成の目的に向かってより一層整理され、教育内容の精選が進むことが期待される。結果として、学士課程における看護学教育の質の保証がなされ、その社会的責任が果たされることになろう。
   教育課程の見直しにおいては、到達度評価を計画的に組み込んだ再構成が望まれる。看護系学士課程の教育課程は、看護職者に求められる能力を育成するという目的に向けて、大学独自の理念、目標をもって編成される。教育課程が独自の系統性と論理性を持って編成しているものである以上、到達目標の達成度評価もまた、それぞれの教育課程の中に確実に位置づいていることが重要である。

3)教育課程の見直しによる評価のための科目設定
   個々の学生の到達度評価の実施に際しては、教育課程の中で、課程を修める学生の質を保証するという観点が重要であり、到達レベルに達していない事が確認された場合、その学生にどのように対応するのかが最も大切な課題となる。その際、到達度評価の結果と他の授業科目の単位認定との関係も明確にしておかなければならない。
   到達度評価は、4年間の教育課程の集大成の評価であり、それまでの科目毎の単位認定とは異なる。つまり、ある科目群を履修して初めて学生に求めることができる総合的な能力の評価という意味を持つ。そのため、到達度評価は、4年間の教育課程の終盤にある総合的性格の看護専門科目(総合看護科目、セミナーなど)の中で行われなければならない。評価を行う科目を新たに設けてもよいし、現存の科目の中で行ってもよい。その中で到達度評価を行い、到達レベルに達していない学生に対しては、十分な指導を行い、その科目の終了時または卒業時までに補完履修する機会を保証することも考慮しなければならない。

4)評価の方法について
   実際の卒業時到達度評価は、各大学が独自の教育目標に基づいて行うことになる。すでにいくつかの大学で様々な方法が開発され、試行されている。今後も、各大学が創意工夫による独自の評価方法を開発していくことが必要となる。大学の体制としては、看護学の全教員が一丸となって一定期間内で評価を行い、引き続き補完教育を実施する体制づくりが必要である。
   評価の客観性と妥当性を確保するためには、評価内容及び評価基準を明確にし、広く周知され了承されている必要がある。特に到達度評価は、熟練臨地看護職の協力を得ながら行うものであり、卒業時の看護実践能力の評価が卒前教育と卒後教育において共有されなければならないことから、評価にあたる教員と臨地指導者が評価基準を熟知し、共通認識を持つことが大切である。
   また、評価の客観性・妥当性の確保という意味では、第三者による評価を含むことも考慮すべき点であり、他大学の教員などの第三者を加えた評価体制の構築も重要な課題である。これは、看護系大学同士の協働による学士課程における看護学教育の到達度を保証する体制づくりの基礎となる。
   総合的な看護実践能力の達成度評価は、その性質上、看護実践の場で行われるのが最良である。これを実現するためには、いくつかの課題がある。
   第1に、評価者の質の確保と均一化が必要である。評価者となる教員が臨地において看護実践能力を評価しうる資質を有していることは不可欠であり、教員の評価能力の向上は、各大学のファカルティディベロップメントの重要な課題となる。
   第2に、到達度評価を行う場の理解と協力を得る必要がある。臨地で到達度評価を行う意義を十分に説明し理解を求めることが必要である。評価は、臨地の熟練看護職者の協力の下に行われることになるため、評価についての共通認識を持つことも重要である。臨地看護職者が評価にあたる場合には、臨地看護職の評価能力の確保につとめなければならない。
   さらに到達度評価は、看護実践の場にいる看護サービスの利用者の承諾を得た上で行うことが不可欠である。評価に参加する利用者に十分な説明を行い、理解と協力を得る努力が必要である。

5)大学同士の連携・協働による到達度評価の体制整備
   看護系大学は、大学毎に独自の教育課程における自大学の卒業生の質を保証する責務に加え、全ての看護系大学の卒業生がある一定の到達レベルを充足していることを保証することが求められている。本報告において、大学間で共有できる到達目標が明示されたのを受け、大学同士の連携と協働による評価体制の整備が早急に確立されることが期待される。これによって、学士課程における看護学教育が、真に社会的使命を果たしているかどうかを示すことができ、それが社会的信頼を得ることにつながる。



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