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今後の国立の教員養成系大学学部の在り方について(報告)

2001/11/22
今後の国立の教員養成系大学学部の在り方について(報告)


平成13年11月22日
高等教育局専門教育課

今後の国立の教員養成系大学学部の在り方について
−国立の教員養成系大学学部の在り方に関する懇談会−


    

-U 今後の教員養成学部の果たすべき役割-

1   学部の在り方

  (1) 学部教育で身に付けさせるべき資質

   今後の教員に求められる資質能力については、教育職員養成審議会第1次答申「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」(平成9年7月)に詳しく述べられている。そこで述べられていることは、一般学部における教員養成にも該当するものであるが、教員養成の専門学部である教員養成学部には、特に努力が求められる事柄である。

   現在、学校現場には、前述したような社会や学校を取り巻く大きな変化の中で、例えば次のような様々な課題が山積しており、これらに対する教員の果たすべき役割はかつてなく大きくなっている。
・   自ら学び自ら考える力など「生きる力」の育成
・   総合的な学習の時間、「ゆとり」の中での特色ある教育、心の教育の推進
・   情報教育、環境教育、国際理解教育の推進
・   いわゆる活字離れ、理数科離れと指摘される状況への対応
・   いじめ、不登校、いわゆる学級崩壊への対応、カウンセリング・マインドの育成

   前述の第1次答申において、養成段階で修得すべき最小限必要な資質能力として「採用当初から学級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等の職務を著しい支障が生じることなく実践できる資質能力」をあげているが、教員養成学部に対しては、基本的な資質能力の育成はもちろんのこと、学校現場の様々な課題に取り組んでいくことができる力量ある教員の養成が期待されている。


  (2) 教員養成カリキュラムの在り方

   @ 体系的な教員養成カリキュラムの編成の必要性
教員養成学部は、全教科を担任する小学校教員と10教科にわたる中学校教員を養成していることから、それに必要な各教科の専門科目、教科教育法(学)及び教職の専門科目が開講されており、他学部に比べ幅広い専門分野で構成されている。

他方、教員養成の在り方として、教員養成学部内においても従来からいわゆる「アカデミシャンズ(学問が十分にできることが優れた教員の第一条件と考える人達)」と「エデュケーショニスト(教員としての特別な知識・技能を備えることこそが優れた教員の第一条件と考える人達)」との対立があり、それぞれの教科専門の教育指導の基本方針が、分野によりあるいは教員により違うという傾向がある。
特に、小学校教員養成において、わずか数単位である小学校の教科専門科目にどのような内容を盛り込むべきかという教員養成学部独特の課題についても、共通認識が薄かった面がある。そのことが、教員養成カリキュラムの共通の目的性に欠け、ややもすると学生に対する教育が教員個々人の裁量に委ねられているのではないかとの批判につながっている。

将来教員になるべき学生に、幅広くいろいろな専門分野を体系的に教育するとともに、教員としての実践的な能力を育成していくためには、教員養成学部の教員が、教員養成という目的意識を共有し、体系的なカリキュラムを編成していくことが不可欠である。そのため、学内に教員養成のカリキュラムの在り方を検討するための組織を作っていくことも有効と考えられる。

   A モデル的な教員養成カリキュラムの作成
前述のように、教員養成における体系的なカリキュラムは、教員養成に携わる教員の間において必ずしも確立しているとはいえない状況にある。教員養成に関する共通的な認識を醸成し、教員の質を高めていくためには関係者においてモデル的な教員養成カリキュラムを作成することが効果的と思われる。

現在、医学部や歯学部におけるモデル・コア・カリキュラムの作成や、工学部等における技術者教育プログラムの認定制度の導入など、それぞれの分野において教育の質の向上に向けて様々な試みがなされている。教員養成学部についても、日本教育大学協会を中心として速やかに教員養成のモデル的なカリキュラムを作成し、各大学はそれらを参考にしながら、自らの学部における特色ある教員養成カリキュラムを作成していくことが求められる。

   B 各大学における教員養成カリキュラムの創意工夫
各教員養成学部は、モデル的な教員養成カリキュラムを参考にしつつ、学部自らの判断に基づいた教員養成カリキュラムを編成していくことが求められるが、その際、特に次のような項目について、教員によって区々にならないよう一定の指標を共有することが望ましい。
・   授業の内容(目的・目標、範囲、レベル)及び方法
・   学生が修得すべき知識・技術の内容
・   成績評価の基準と方法

また、各大学が教員養成カリキュラムを作成する際、特に留意しなければならないことは、教員養成は単なる教育方法のテクニックの修得を目的とするものではなく、子どもの成長と発達に対する深い理解と教科に関する専門知識に基づいて行うものでなければならないということである。

なお、幅広い人間性の涵養や社会的視野を広げるため、他大学との単位互換や、他学部の授業科目の履修、各種の社会体験の奨励なども積極的に検討すべきである。

教員養成カリキュラムの在り方については、今日まで日本教育大学協会や国立大学協会、日本教育学会をはじめ、様々な団体、個人から提案がなされ、一定の成果があがっている面もないわけではない。我が国の教員養成の質的向上のため、今後とも関係団体や関係者において様々な研究ができるだけ速やかに進められるべきである。そして何よりも必要なのは、各大学において力量ある教員を養成するための教員養成カリキュラムの編成について創意工夫がなされ、それが実践されることである。また、国はそのための支援措置を積極的に講じていく必要がある。

各大学においては、それぞれの判断に基づいた教員養成を行っていくため、それぞれが養成を目指す教員像を明確にし、それに基づき、次に示す教科専門、教科教育法(学)、教職専門の各科目を体系的に組み合わせるとともに、幅広い人間性や主体的な判断力など、これからの教員に求められる資質能力を育成するために、他大学や他学部とも協力して、幅広い選択科目を用意するなど、それぞれの独自性を発揮した魅力ある教員養成カリキュラムを編成すべきである。


  (3) 教員養成学部としての独自の専門性の発揮

   @ 教科専門科目の在り方
学校教育は様々な活動からなるが、「教科の授業」を中心に展開されていることは論をまたない。学校の教員は、授業を通して子どもたちの能力を引き出し、個性を育てる努力が求められており、教員養成において、教科専門科目にどのような目的・内容を持たせるかが重要な意味を持っている。

教科専門科目の分野は、理学部や文学部など一般学部でも教育されている。教員養成学部の独自性や特色を発揮していくためには、教科専門科目の教育目的は他の学部とは違う、教員養成の立場から独自のものであることが要求される。必ずしも共通認識があるわけではないが、教員が教科を通して教育活動を展開していくということを考えれば、「子どもたちの発達段階に応じ、興味や関心を引きだす授業を展開していく能力の育成」が教員養成学部の教科専門科目に求められる独自の専門性といえよう。
各大学・学部において、一般学部とは異なる教科専門科目の在り方についての研究が、より推進されることが望まれる。

        (小学校教員養成の場合)
小学校は、人間が成長していく過程で、子供から少年へと成長し、人格を形成していく最も重要な時期である。子供一人一人の成長にも個人差があり、小学校教員にはそれに対応した教育が求められている。小学校教員を養成する場合、学生にこのような資質能力を身に付けさせることが必要である。

小学校教員を養成するために、教科専門科目としてどのようなことを教授すべきかについては、免許法において具体的に定められているわけではない。したがって、各大学でその内容を研究し、構成していかなければならない。例えば「理科」を考えた場合、物理学、化学、生物学、地学をそれぞれ区々に教授するのではなく、大学の教員が協力して「小学校理科」という大学レベルの科目を構築していくことが求められる。

小学校教員養成のための教科専門科目の在り方については、従来から様々な議論があるが、小学校における教育の特性を考えると、何をいかに教えるかという小学校における教育の充実のため、教科専門と教科教育の分野を結びつけた新たな分野を構築していくことが考えられる。従来から、その必要性が指摘されながら両者の連携が必ずしも十分ではなかったという実態があるが、その在り方を研究するのは、教員養成学部をおいて他にはなく、教員養成学部が独自性を発揮していくためにも率先して取り組まなければならない分野であり、これまで以上に関係者の連携協力を図り、それを構築していくことが教員養成学部の特色の発揮につながっていくと考えられる。

現在、小学校教員免許を取得する学生のほとんどがいわゆるピーク制(全教科にわたって広く履修するとともに、特定の教科あるいは分野について深く専門的に学ぶこと)によって履修している。その理由としては、
・   学生の側に特定の分野を深めたいという専門志向が強いこと
・   学生の帰属を分散させることで、責任ある指導体制が確保できること
などがあげられる。また、教員への就職の必要性から多くの学生が小学校と中学校教員の免許を併せて取得しており、中学校の教科を選択することによって自動的にピーク制につながっているという実態がある。

今までのピーク制をみると、前述のように併せて取得しようとする中学校の教科がピークになっているのが実状である。そのようなカリキュラムの設定も否定されるべきではないが、小学校教員養成の独自性の発揮を考えた場合、例えば情報教育や環境教育、国際理解教育、カウンセリング・マインドに関する分野などをピークとして構築していくことも考えられる。

小学校教員養成にとって、教科専門科目をどのように編成していくかは重要な課題である。特に平成10年の免許法の改正により、それまで小学校教員養成に必要な教科専門科目が「9教科各2単位、計18単位」であったものが、「1教科以上8単位」となった。このことにより、各大学においてピーク制の在り方も含め、小学校教員養成のためのカリキュラムの在り方を検討していくことが今まで以上に重要となっている。

(中学校教員養成の場合)
中学校教員養成のための具体的な教科専門科目は、免許法によって定められている。中学校教員は多くの一般学部でも養成しており、それだけに中学校教員養成の教科専門科目の在り方については、教員養成学部の独自性の発揮が求められる分野である。単に一般学部とは専門科目の修得単位数に違いがあるというのではなく、その内容に本質的な違いがあってしかるべきである。基本的には、生徒の発達段階や他教科との関連性をも踏まえてどのような授業を展開すべきかということを内容とすることが、中学校の教科専門科目の特色と考えることができる。

なお、現在、高等学校教員の免許も、教員養成学部で取得することが可能となっているが、近年の学問や科学技術の進展とその適切な教育を考えると、高等学校の教員免許の取得は、それぞれの教科に関連する専門の学部に委ねた方がよいのではないかという意見がある。
現在の免許制度では、中学校と高等学校とで共通する科目が多く、両方の課程認定を受けることが比較的容易であるため、両方の認定を受けている大学が多いのが現状であり、学生への配慮から課程認定は受けておいた方がよいという事情もある。このことは、教員免許制度とも関連することであり、ここでは将来の課題として指摘しておきたい。


   A 教科教育法(学)の在り方
  教科教育法(学)は、免許法上は教職に関する科目の「各教科の指導法」として位置付けられるものであるが、教科専門と教職科目を結びつけるものとして極めて重要な分野である。この分野は、教育技術的なことを教授するにとどまることなく、今後、教科教育担当教員と教科専門担当教員とが協力して教員養成学部が独自性を発揮していくための重要な分野として充実を図っていくことが期待される。

  また、教員養成カリキュラムの体系性を強化していく上で、各々の教科教育法(学)が関連性を追求しつつ、各教科共通的、横断的な専門分野を構築していくことが期待される。



   B 教職専門科目の在り方
教職専門科目は、教職の意義や教育の基礎理論など、どの学校種の教員にも共通に要求される普遍の分野である。教員養成の共通的科目として、優秀な教員の養成という観点から、いろいろな分野の教科専門を教員養成という目的に収斂(れん)させる重要な役割を持っている。

特に、平成10年の免許法の改正により、現在の学校現場の実態に対応するため教職科目が充実され、その重要性は改めて強調されている。

教職専門科目は、教員養成学部が教員養成という目的に沿って、その内容を深化、発展させていく場合の基本となる教育分野である。実践的な教員の養成という観点から、その現状について点検・見直しを行い、充実を図っていくことが必要である。





    
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