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参考  1
 
第31回ユネスコ総会遠山敦子文部科学大臣
首席代表演説(参考訳)
平成13年10月16日ユネスコ本部
 
   議長、総会議長に選任されたことをお喜び申し上げます。
 
   議長、
   まず最初に、新しい世紀の初年にあたり、あの残虐な同時多発テロ事件により多数の尊い生命を失ったことに強い憤りを覚えるとともに犠牲者及び被害者の方々への哀悼とお見舞いの意を我が国代表団も共有するものであることを表明したいと考えます。今回の行為は、米国のみならず人類全体に対する卑劣で非道極まりないものであり、決して許すことが出来ないものであります。
   本総会において、執行委員会から勧告されている、こうしたテロ事件に対してユネスコとしても強く抗議するとともに再発防止への決意を表明する決議案ができるだけ早く採択されることを望むとともに、今後、ユネスコがこのために取りうる措置の具体的な方向性を検討していくことが重要であり、我が国としても積極的に貢献したいと考えます。
 
   議長、
   本年は我が国のユネスコ加盟50周年に当たります。ちょうど半世紀前、第2次世界大戦の敗戦後間もない焦土にあって、我が国国民は、教育・科学及び文化を通じて世界の平和と人類の福祉に貢献するというユネスコ憲章の精神に深く共鳴し、国際連合への加盟に先駆けていち早くユネスコへの加盟を遂げました。以来50年間、我が国はその活動に常に積極的に協力を行ってまいりました。
   50年前のユネスコ加盟を想起して、私は、今回のような事件を再び発生させないためには、テロ組織を力によって排除するだけでなく、より抜本的な解決のためにユネスコの役割がきわめて重要であることを確信します。
 
   今回のような事件を再び発生させないためにユネスコがなすべきことは、あらゆるレベルでの対話を力強く促進することです。異なる文明に対する無知や非寛容により多くの紛争が生じていると思われる今日、紛争を抑止、解決し、平和な世界を構築するために、ユネスコは異なる文化や文明間の相互理解に全力を注がねばなりません。
 
   議長、
   この観点から、先ず私は教育の役割の重要性を指摘したいと思います。教育は、国が貧困から脱出し発展していくための基盤となるものであり、また、人々に自ら考え自ら生きる力を与えるものであります。対話を通じての他者や他文化を理解する力、国際協調の精神を重んじる態度も、教育によって培われるものなのです。教育が平和の構築に果たす役割は強調して強調し過ぎることはありません。
   この意味で、ユネスコの教育プログラムの目指す方向として、「万人のための教育」の達成という旗印の下、識字率の向上や基礎教育普及のための国際的な取り組みが進められていますが、今後このプロセスを加速させていく必要があります。それとともに、「クォリティ・エデュケーション」と呼ばれる国際理解教育、市民教育、文化の多様性に関する教育等の内容の充実・改善に力を注いでいることは非常に高く評価できます。
 
   議長、
   次に、このコンテクストで、ユネスコの科学プログラムの方向性について言及したいと思います。
   現代の資源不足状態は地域紛争の要因としてとりわけクローズアップされておりますが、人類にとって最も基本的な資源の一つである水を巡る問題を予防・解決するためには、ユネスコにおける科学的知見の蓄積や英知の結集が、必要不可欠なものであります。
   また、科学技術の倫理の問題に関しては、生命倫理の分野での検討の深化が特に重要な課題であります。また、この問題を人々が自らのものと捉えるためには科学知識の普及が重要であり、科学技術理解増進の活動を含めた幅の広い科学教育を積極的に推進する必要があります。
 
   議長、
   ユネスコの文化プログラムについても一言申し上げたいと思います。
   ユネスコはこれまで人類共通の遺産の保護に努めてきており、これは全世界的にも評価・支持されているものであります。先のタリバンによるバーミヤンの仏像破壊のような惨事が二度と起こらないよう世界的な文化遺産の保護を一層強く推進するとともに、その意識啓発等の活動を積極的に展開すべきであると考えます。
   また、現在、主として経済的効率性の観点から世界を覆う共通化・標準化の波は一層勢いを増しております。世界の活力ある発展の基礎である多様性、特に文化の多様性の保護・発展をユネスコが重要課題として取り上げることは適切と考えます。
   しかしながら、文化の多様性の尊重が、相互の対立を助長するようなことがあってはなりません。それぞれの価値観の間に対話が行われ、これによって互いが互いを尊重して協調していく世界を作り上げることが必要であります。同時にこうした対話の過程は地球人類に共通する価値の追究に他ならず、これが真の意味でのグローバリゼーションにつながるものではないでしょうか。
 
   議長、
   今次総会は、21世紀最初のユネスコ中期戦略及び事業計画を決定し、今後ユネスコがその進むべき方向に向かって第一歩を踏み出す、きわめて重要な意義を持っております。松浦事務局長は、ユネスコ改革の一環として事業の精選化・重点化を進めておりますが、既に言及しましたように、万人のための教育、科学技術の倫理、水を中心とする環境の課題、文化の多様性の保護、無形遺産保護など、その内容はいずれも必要かつ適切なものであり、我が国としてはこの方向性を強く支持するものであります。また、同時に松浦事務局長が就任以来進めている事務局機構のスリム化、分権化等の改革の方向性とその強いリーダーシップを日本政府は高く評価いたします。   
   
   議長、
 
   ここで、先程韓国代表から言及のあった歴史教育について、一言述べたいと思います。
 
   このグローバル化時代に共に生きる能力を育成するには、特に若い世代への歴史教育がきわめて重要であります。このため、我が国は、相互理解と国際協調の観点からバランスのとれた歴史教育の推進に努めているところであります。
 
   これに加えて、韓国大統領と我が国の首相が、昨日、歴史の共同研究を進めることに合意したことは大変喜ばしいことであり、こうした対話の継続が両国間の友好的で未来志向の関係の推進に大いに資することを信じて疑いません。
   
   議長、
   最後に、ユネスコの役割の一つが普遍的な価値の追求であることを再び想起し、そのユニバーサリティの確保のためにも、事務局長が続けている米国及びシンガポールのユネスコへの復帰の努力が一刻も早く実を結ぶことを願ってやみません。
 
   ユネスコ活動の今後一層の発展と加盟国及び全世界の平和と繁栄を祈念して、私の代表演説を終わります。
 
   ご静聴ありがとうございました。
 
 

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