資料4−4 原子力損害賠償に関する国際条約への対応の方向性について(案)

  原子力損害賠償制度については、各国の国内法に加えて、国境を越えた原子力損害の処理等に適切かつ迅速に対応するために、国際的に共通な原子力損害賠償制度の共通ルールを定めた国際条約が存在する。
  原子力損害賠償に関する国際条約には、パリ条約、ウィーン条約、原子力損害の補完的補償に関する条約(以下「CSC」という。)の3系統があり、パリ条約、ウィーン条約については現在それぞれ改正議定書が採択されている。

1.国際条約の概要

  • 各条約とも、原子力損害の責任に関する最低基準・基本原則を設定しようとする点で、概ね次のような共通の内容を備えている。
    • 原子力事業者の無過失責任及び責任集中
    • 賠償責任限度額の設定
    • 賠償責任限度額までの損害賠償措置(保険等)の強制
    • 専属裁判管轄の設定と判決の承認・執行の義務

(1)2004年パリ条約改正議定書(以下「改正パリ条約」という。)

1.採択・発効の状況

  • 1960年にOECD/NEA(経済協力開発機構原子力機関)で採択
  • 1968年に発効、フランス・ドイツ・イタリア・イギリス等の欧州のEU加盟国を中心に15カ国が締約国
  • 2004年に改正議定書が採択、旧条約締約国15カ国とスイスが署名(未発効)
  • 現在、EU諸国において改正パリ条約に対応した国内法を整備中

2.条約の概要

原子力損害の定義 死亡又は身体の傷害、財産の滅失又は毀損、経済的損失、環境損害の原状回復措置費用、環境損害に基づく収入の喪失、防止措置費用及びその措置から生じた損失・損害
賠償責任限度額
(賠償措置額)
7億ユーロ(約1,146億円)以上
少額賠償措置額 施設:7,000万ユーロ以上、輸送:8,000万ユーロ以上
※ ただし、賠償措置額との差額を公的資金により確保する必要がある。
免責事由 戦闘行為、敵対行為、内戦又は反乱
除斥期間 死亡又は身体の傷害は原子力事故の日から30年、その他の損害は原子力事故の日から10年

(2)1997年ウィーン条約改正議定書(以下「改正ウィーン条約」という。)

1.採択・発効の状況

  • 1963年にIAEA(国際原子力機関)で採択
  • 1977年に発効、中東欧・中南米等IAEA加盟国を中心に34カ国が締約国
  • 1997年に改正議定書が採択、アルゼンチン、ベラルーシ、モロッコ等5カ国が締約国、2003年に発効

2.条約の概要

原子力損害の定義 死亡又は身体の傷害、財産の滅失又は毀損、経済的損失、環境損害の原状回復措置費用、環境損害に基づく収入の喪失、防止措置費用及びその措置から生じた損失・損害、環境汚染によって生じたものではない経済的損失
賠償責任限度額
(賠償措置額)
3億SDR(特別引出権)(約513億円)以上
少額賠償措置額 500万SDR(特別引出権)以上
※ ただし、賠償措置額との差額を公的資金により確保する必要がある
免責事由 戦闘行為、敵対行為、内戦又は反乱
除斥期間 死亡又は身体の傷害は原子力事故の日から30年、その他の損害は原子力事故の日から10年

(3)原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)

1.採択・発効状況

  • 1997年にIAEAで採択
  • アルゼンチン、モロッコ、ルーマニア、アメリカの4カ国が締約国(アメリカは2008年5月に批准)
  • 未発効(発効要件:締約国が5カ国、原子炉熱出力の合計が4億KW(キロワット))

2.条約(附属書を含む。)の概要

原子力損害の定義 死亡又は身体の傷害、財産の滅失又は毀損、経済的損失、環境損害の原状回復措置費用、環境損害に基づく収入の喪失、防止措置費用及びその措置から生じた損失・損害、環境汚染によって生じたものではない経済的損失
賠償責任限度額
(賠償措置額)
3億SDR(特別引出権)(約513億円)以上
少額賠償措置額 500万SDR(特別引出権)以上
※ ただし、賠償措置額との差額を公的資金により確保する必要がある
拠出金 原子力損害が3億SDR(特別引出権)(又は締約国がIAEAに登録したそれ以上の額)を超える場合に、超過損害分について全締約国が一定のルールで拠出金を分担する
免責事由 戦闘行為、敵対行為、内戦又は反乱、異常に巨大な天災地変
除斥期間 原子力事故の日から10年(賠償措置・国の補償が10年より長い期間整備されている場合は、その期間でも可)

2.仮に条約の締約を想定した場合の我が国の選択肢

  それぞれの条約の定める原子力損害賠償と我が国の原子力損害賠償の基本的な制度上の異同として、次のような諸点を考慮する必要があることから、仮にこれらの条約の締約を検討する場合には、CSCを念頭に置くのが現実的と考えられる。

(1)改正パリ条約

  • 主な締結国は欧州のEU諸国であり、国境を越えて生じる損害(越境損害)への対応という点では地理的な関係が薄い。
  • 異常に巨大な天災地変が免責事由にされていない。
    →原賠法では免責事由とされている。

(2)改正ウィーン条約

  • 締結国が5カ国と少なく、また、締約国が中東欧・中南米の国であり、越境損害への対応という点では地理的な関係が薄い。
  • 異常に巨大な天災地変が免責事由にされていない(改正パリ条約同様)。

(3)CSC

  • CSCは、パリ条約・ウィーン条約の締約国及び両条約の非締約国も含め、各国の国内法による賠償措置を補完することを目的としており、世界規模の原子力損害賠償枠組みの構築に資することが可能である。
  • 責任限度額を改正ウィーン条約と同等としつつ、免責事由はパリ条約・ウィーン条約よりも広い等、アジア周辺諸国が比較的締約しやすい内容であり、既に韓国は締結が可能な国内制度を整備している等、経済的にも結びつきが強く、今後原子力発電の発展が見込まれるアジア周辺地域において、国際的な原子力損害賠償体制を構築できる可能性がある。
  • 異常に巨大な天災地変が免責事由。→原賠法と同じである。
  • 除斥期間は原子力事故の日から10年(賠償措置・国の補償が10年より長い期間整備されている場合は、その期間でも可)。
      →原賠法と親和性がある。なお、詳細は資料4-2を参照。

3.仮にCSCの締約を想定した場合の論点

  国際条約の中ではCSCが現実的とはいえ、締約を検討するに当たっては、次のような課題について慎重な検討が必要である。

(1)政策的課題

1.原子力ルネサンスに対応した原子力損害賠償国際秩序の整備への貢献

  今後原子力発電所の急速な立地が見込まれるアジアその他の周辺諸国に対しては、原子力損害賠償に関する各国国内法制の整備・充実を促していく必要があること、アジア・周辺地域においても国境を越える原子力損害からの被害者保護を含む国際秩序を構築する重要性が増すこと等が考えられる。
  また、CSCは事故発生国に他の締約国が拠出金を送付する仕組みでもあることから、我が国が拠出金を受け取ることにもまして、原子力発電の運転の経験が浅くリスクの高い国を他の参加国が支援していくという側面もある。
  これらを踏まえ、我が国が率先してCSCを締約するとともに、周辺国の参加を促し、原子力損害賠償国際秩序の整備を通じて、アジア・周辺地域の原子力の安全な利用に貢献する意義等について検討していく必要がある。

2.プラント輸出・燃料輸送の事業展開

  CSCを締約(注:我が国だけでなく、相手国も締約することが必要)することによって国際裁判管轄と準拠法が整理されるため、プラント輸出を行う電機メーカー、燃料等の国際輸送を行う電気事業者等にとっては、複数国における賠償を求める裁判の提起が回避されること、国際的な事業者間で賠償責任を負う範囲が明確化されること、といった事業遂行上の法的なリスクが抑えられる可能性があると考えられる。
  このため、近年の世界的な原子力利用の拡大の中で、多数の原子力発電所の新規建設が見込まれている状況等も踏まえつつ、メーカー等の事業展開への効果・影響を検討していく必要がある。

3.国境を越える損害に対する我が国国民への賠償の確保

  他国の事故による損害が国境を越えて我が国にも生じた際、事故発生国及び日本がCSCを締約していれば、他国の事業者の責任及び裁判管轄が明確となることで、より確実な賠償が得られる利益がある。一方で、他国において裁判を行うことの国民の負担が大きくなる等の不利益も考えられる。
  このため、条約締約についての国民の理解・合意を得つつ、実際に国民の保護に欠けることのないように配慮していく必要がある。

(2)法制的課題の例

1.拠出金支払のための体制

  CSCにおいては、原子力損害が3億SDR(特別引出権)(又は締約国がIAEAに登録したそれ以上の額)を超える場合に、すべての締約国は、一定の計算基準に従って算定した拠出金を裁判管轄を有する締約国に支払うことが義務付けられている。こうした拠出金を調達するため、新たな制度を構築する必要がある。

  • ※ アルゼンチン・モロッコ・ルーマニア・アメリカに加えて、例えば日本・韓国・中国が締約国となった場合、全体の拠出金は約2億ドルに、このうち日本の拠出金は約7,000万ドルになると見込まれている。

2.少額賠償措置額に係る公的資金の確保

  CSCにおいては、少額賠償措置額(500万SDR(特別引出権)以上の額)を認める一方、賠償措置額(3億SDR(特別引出権)以上の額)との差額について公的資金が利用可能であることを確保することが締約国に義務付けられている。現行の原賠法では、保険等による賠償措置を超える部分も含めて原子力事業者に無限責任があること、国の支援は「必要があると認めるとき」に行われることとなっていること等について、条約のより詳細な解釈とともに、必要に応じて、当該差額を確保する方策を検討しておく必要がある。

3.原子力損害の定義

  CSCが原子力損害として定義している損害のうち、「環境損害の原状回復措置費用」、「防止措置による損害」及び「環境汚染によって生じたものではない経済的損失」については、原賠法との関係が明確でない部分もあるため、その整合性について整理する必要がある。

4.裁判管轄権

  CSCによると、(1)締約国の領域(EEZを含む。)内で原子力事故が発生した場合は、その締約国のみに、(2)締約国の領域外で原子力事故が発生した場合には、原子力施設所在地である締約国のみに裁判管轄権があることとなり、管轄裁判所の確定判決については、他の締約国は承認・執行の義務を負うため、民事訴訟法・法の適用に関する通則法について、これに対応した制度を構築する必要がある。

5.賠償措置としての責任保険における制約

  CSCによると、保険契約の解除の効力を事前の通知から2か月経過した後に発生させること等が締約国に義務付けられており、賠償措置としての責任保険契約の対応について検討する必要がある。

6.拠出金受取のための体制

  締約国がCSCに基づいて拠出金を支払った場合、責任を負う事業者が国内法に基づいて求償権を有するときは、拠出額の範囲内で締約国が求償権の利益を受けられるよう措置する必要がある。このため、原賠法の下で事業者が有する求償権について、裁判管轄を有する国が取得・行使し、拠出金を支払った締約国に還元する仕組み等を整備する必要がある。

7.国際輸送

  CSCにおいては、国境をまたぐ核物質等の輸送に関し、国際的事業者間の賠償責任の所在について規定しているため、原賠法上も対応する必要がある。

お問合せ先

研究開発局原子力計画課

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-- 登録:平成21年以前 --