資料4-2 前回改正時に提起された検討課題について(案)

   前回の改正に先立って原子力委員会で取りまとめられた報告書(平成10年12月11日原子力損害賠償制度専門部会報告書)においては、将来的に法的な検討が行われることを要請する事項が複数挙げられているため、本検討会において既に検討を行った事項以外の事項について、以下のとおり整理する。

1.放射性同位元素による損害について

(1)報告書における記載

  報告書では、核燃料物質以外の放射性同位元素(以下「RI」とする。)による損害について、原賠法の対象とされる廃棄物に準じた損害賠償措置を要することとする法改正を検討することが望ましいとされていた。

(2)現状

1.国際的動向

  1997年(平成9年)のウィーン条約改正議定書、同年の原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)及び2004年(平成16年)のパリ条約改正議定書のいずれにおいても、RIによる損害は原子力損害に含まれていない。

2.RIによる損害の実態

  RIについては、核燃料物質と異なり臨界事故の可能性がなく、大規模・集団的な損害が想定されない。このため、RIによる事故があったとしても、その被害者の救済は、一般の損害賠償や労災補償で十分対応することが可能と考えられる。同様の考え方により、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)では、原子力災害を発生させる可能性がないものとして、RI事業者はその対象から除かれている。
  また、放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和32年法律第167号)に基づき報告のあった事故のいずれについてもも、一般人への被害はなく軽微なものにとどまっている。

平成9年度から平成18年度までの事故の事例
発見(18件)
  • 倉庫の整理の際、放置されていた放射性物質、密封線源等が発見された。
紛失(9件)
  • 保管状況の調査・確認により、放射性物質、線源等の紛失が判明した(一般廃棄物として廃棄された可能性のあるものも含む)。
被ばく(10件)
  • 非破壊検査後、放射線源を完全に回収する前に近づき計画外の被ばくをした(最大で38.6mSv(ミリシーベルト)。作業者に係る法令限度は年間50mSv(ミリシーベルト)。)。
  • 放射線科医師の年間累積被ばく量が法令限度を超えていたことが判明した。
漏洩(5件)
  • 排水管の腐食により放射性物質を含む漏水が判明した。
誤廃棄(0件)
  • 微量の放射性同位元素を含む物品を一般廃棄物として廃棄した。
汚染(2件)
  • 短寿命放射線薬剤合成装置の調整作業を行っていた作業員が、汚染検査をせずに管理区域を退出し、手に着けた汚染をドアノブ等を介して拡大した。
その他(2件)
  • 駅構内において、瓶・チューブに入った放射性物質がばらまかれた。

  なお、本年6月に独立行政法人日本原子力研究開発機構法の一部を改正する法律(平成20年法律第51号)が成立・公布され、RI廃棄物を含む低レベル放射性廃棄物の処分の開始が現実に想定されることとなったが、現計画では核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物と一緒に処分するため、実態上は、損害賠償措置が原賠法に基づいて講じられることとなる。

(3)対応

  以上を踏まえると、RIによる損害については、現行どおり一般の不法行為責任制度に委ねることで被害者の保護に問題はなく、原子力事業者に対して損害賠償措置の行政規制や特別の民事責任を課す必要はないのではないか。

2.除斥期間について

(1)報告書における記載

  原賠法には原子力損害の賠償請求権の除斥期間について特段の規定がなく、民法第724条後段の規定により20年の除斥期間が適用されるところ、報告書では、国際的動向等を注視しつつ、原賠法に民法の特則として、死亡又は身体障害に係る賠償請求権の除斥期間を30年とする規定を設ける方向で検討することが適当である、とされていた。

(2)現状

1.国際的動向

  原子力損害の消滅時効又は除斥期間については、以下のとおり、人的損害に関して30年の特別期間とする傾向が見られる。

  • ウィーン条約改正議定書及びパリ条約改正議定書
    • 死亡又は身体の障害は事故から30年、その他の損害は事故から10年
  • CSC
    • 事故から10年(賠償措置・国の補償が10年より長い期間整備されている場合は、その期間でも可)

2.国内裁判例の動向

  近時の裁判例においては、不法行為に基づく損害賠償請求権の起算点は、後発性の損害の場合には損害発生時に統一されている。
  「加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には、加害行為の時
(略)損害の性質上、加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となる。」(じん肺健康被害に関し最三小判平成16・4・27民集58・4・1032、水俣病に関し最二小判平成16・10・15民集58・7・1802、B型肝炎に関し最二小判平成18・6・16民集60・5・1997)。

(3)対応

  現行の原子力損害に係る賠償請求権の除斥期間については、裁判例における民法の適用を踏まえると、後発性の損害に係る被害者の保護が十分に確保されており、また事故から10年以上経過した後に発生した原子力損害の賠償については、賠償措置額の範囲内において政府補償契約により補償金が原子力事業者に支払われることが明定されていることから、民法と異なる特別の除斥期間を設ける必要はないのではないか。

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