7-1. |
地球観測分野における研究開発の概要 |
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成層圏プラットフォーム研究開発において、地球観測分野は、地球観測の多角的な視点からの把握を可能にすることを目指し、地域の定常観測手法の一つとして開発に取り組んだ。
本研究開発は、海洋研究開発機構及び宇宙航空研究開発機構が実施した。
平成11年9月に策定された研究開発計画において、地球観測分野は、飛行船本体側と適切にインテグレートされた形で、実施すべきミッションとそれに必要なセンサを検討し、具体的な搭載計画、観測計画を立案することとした。
平成11年12月に決定されたミレニアム・プロジェクトにおいては、「平成15年度までに、二酸化炭素等の温室効果気体の直接観測を可能とする成層圏飛行船(成層圏プラットフォーム)による観測を実施する」こととなった。
平成12年4月の第4回開発協議会においては、当面は、ミレニアム・プロジェクトの目標達成のための集中的な開発(試験機を成層圏で飛行させること)を行うとされたことを受け、地球観測分野においても、試験機への搭載に向けて地球観測ミッションの検討を行い、研究開発を実施した。
平成15年度には、海洋研究開発機構が開発した「大気観測システム」を成層圏滞空飛行試験機に搭載し、大気観測センサによる二酸化炭素の直接測定(不具合により不成功)と大気採取の実験を行った。
また、平成16年度には、定点滞空飛行試験において、宇宙航空研究開発機構が開発した「地球観測センサシステム」による対流圏実験を行い、将来の成層圏プラットフォーム及び衛星からの地球観測に必要な光学センサ技術の蓄積と成層圏プラットフォームからの植生・大気観測、地表面温度分布観測、交通観測の有効性・可能性確認などのフィージビリティ確認を行った。
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7-2. |
事後評価結果 |
(1) |
研究開発の実施体制 |
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多数の成層圏プラットフォームがネットワークを形成する将来構想を踏まえた地球観測分野の開発構想なのか、将来とも1機程度の技術実証機しか可能では無いことを前提にした開発構想なのかで、開発目標が大きく変わる。この点に関するミッション全体にどのように地球観測を組み込むかについての長期戦略が欠如しており、資金計画、実施体制、技術面における検討が十分であったとは言えない。
「大気観測システム」については、観測対象を二酸化炭素としている点は、ミレニアム・プロジェクトが地球温暖化を対象にしていたことに起因するものと思われるが、1回しか飛行しない飛行試験による利用研究として妥当であったか疑問があり、研究開発の目標設定及び変更がミッション全体で適切に検討されたとは言えない。
「地球観測センサシステム」については、目標を高分解能、2次元観測、広画角観測においており、また、当初から環境観測技術衛星(ADEOS− )後継機への技術蓄積を課題として位置付けるなど長期戦略の観点からも妥当である。
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(2) |
研究開発の達成状況 |
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技術実証機に搭載するための観測技術開発と言う点では、要素技術の開発は概ね達成できた。今回設定した目標の達成に限定していえば、費用対効果はほぼ妥当であったが、大気のモニタリング観測として達成度は低く、効率的に資源が投入されていたとは言えない。しかし、これは1回のみの飛行試験計画にも起因する問題である。将来の目的である成層圏プラットフォームのネットワーク化と言う観点からすると、成層圏プラットフォーム研究全体の計画設定とも密接に関連するものであるが、安定して観測できるシステムが開発可能かについて評価する研究もなされていないなど不十分である。
「大気観測システム」については、航空機による試験及び地上での成層圏を模擬した試験に耐える計測機器開発を終了したが、試験機に搭載した観測では不具合のためデータが得られなかった。不具合原因調査により原因の可能性をプラットフォーム側との連携不足などの3項目まで絞り込んだが、実機による不具合の検証ができず、その原因の特定には至っていない。また、論文発表も4件と少なく、特許も得ておらず、知識の波及効果もあまり無い。
「地球観測センサシステム」については、光学センサの広画角光学系技術など技術改良が見られるなど、一定程度の技術的知見とデータが得られた。観測されたデータの科学的・社会的有効性に関しては更なる利用開発が必要である。また、特許は得ていないが、論文発表10件はほぼ妥当な件数であり、査読付き論文もあることから知識の発信がなされおり、ADEOS− 後継機用センサへの技術蓄積がある。
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(3) |
今後の課題 |
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成層圏プラットフォームによる長期観測システムの開発へつながる技術開発は、実証機自体から派生する制約が多いことが明らかになったので、成層圏プラットフォーム実証機での温室効果ガス計測の意義については再検討の必要がある。
「大気観測システム」に関しては、標準ガスを運ぶシャトル構想はコスト的に実施可能とは考えられず、他の手法であっても、長期観測システムの実現は極めて難しい。
「地球観測センサシステム」については、可視・近赤外計の光学系の特性測定と改良、熱赤外計におけるマイクロボロメーターシステムの高感度化が重要である。また、得られたデータの解析によるエアロゾル量、地表面温度等の推定を行い、地球物理学的な観測が可能であることを実証する必要がある。
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(4) |
総合評価 |
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成層圏滞空飛行試験機と定点滞空飛行試験機による観測を達成すると言う観点からは、要素技術の開発はできた。しかし、実証機は、実際の成層圏プラットフォームネットワークと比べて観測機器に関する制限が大きく異なるために観測に種々の問題点が伴うことが明らかになった。
今後、地球観測分野の研究開発を進めるにあたっては、まず、複数回の飛行が可能であり十分な電源の提供と観測機器の回収が可能なプラットフォームの提供の見通しを得る必要があると考えられる。その上で、どのような長期モニタリングが可能であるかの技術的検討が必要である。今後、これらの長期シナリオの検討と、それに即した観測システムの設計が必要である。 |