戦略的調査分析機能に関する有識者懇談会(第3回)議事要旨

1.日時

令和6年6月27日(木曜日)13時~14時30分

2.場所

ハイブリッド形式により開催(文部科学省15F1会議室及びWEB会議)

3.議題

  1. 戦略的調査分析機能に関する国内外の取組状況等について
  2. 戦略的調査分析機能に関する論点整理(中間まとめ)案について
  3. 意見交換
  4. その他

4.議事要旨

 戦略的調査分析機能に関する国内外の取組状況等について、3名の委員(森委員、高橋委員、牧委員)から話題提供が行われ、また文部科学省からこれまでの意見を踏まえた論点案について説明があった後、意見交換がなされた。委員からの主な意見は以下のとおり。

・機関の意思決定や計画策定での判断を支援するための調査分析である、Institutional Research(IR)には3つの知性(Intelligence)の層があり、1.データを集めて分析する「分析・技術の知性」、2.問題解決のために問題を具体化する「問題解決知性」、3.どのようにすれば組織の改善につながるか等を見極める「文脈的知性」が必要。加えて、データサイエンスには3つのスキル「情報学」、「統計学」、「文脈(IRなら高等教育)」が求められてきている。

・流通している学術情報等は、分析に適した形でデータが保持されていないケースが多く、データのクレンジング作業に時間がかかることに留意が必要。

・科学技術データの扱い方について、近年の欧州ではオープンサイエンスの推進などを目的としてFAIR原則(※注)が唱えられており、その実現に向けて、対象となるデータを一意かつ恒久的に識別できるIDとして永続的識別子(PID)の整備が必要となっている。戦略的調査分析機能の強化には、調査分析だけでなく、関連するシステムや情報流通も考慮する必要があり、PIDの導入を国として推進していくことも重要。
(※注)Findability(発見可能性)・Accessibility(入手可能性)・Interoperability(相互運用性)・Re-usability(再利用可能性)

・戦略的調査分析機能の重要性や必要性は理解するが、論点としては、1.調査分析機能を担うのは誰か、また、その情報を使う(使える)のは誰か、2.戦略的調査分析の対象範囲はどういったものか、といった点を検討していく必要。

・1点目については、大学経営に戦略的なインテリジェンス(Strategic Intelligence)を実装するためにはトレーニングが必要であり、情報を理解・選別・行動に反映する下地となる状況認識が重要である。また、Strategic Intelligence機能が期待されているURAは、日本国内では1,600人しかいない新規・小規模の専門職集団であり、政策的な後押しや時限付きの人件費がなくなった時に、消滅してしまうおそれがあるので、関連する既存セクターの実情を踏まえたキャリアパスを含めた組織設計が必須である。
 また、2点目については、経済安全保障や関連データルールなどに加え、SDGsやLGBTQ等の多様な文脈が種々の階層の多様な意思決定に際し、どの程度関係しているかといったことも理解しながら対応することが重要である。

・サイエンスの分野では、より多くの論文を出版し、より多くの引用を集め、特許も多数出願する、卓越した業績を残す少数のスターサイエンティストが存在していることが、米国でみられることは分かっていたが、現在、日本でも同様の傾向がみられるのかということを研究している。

・分析によれば、日本はショートリスト、ロングリスト共に世界12位であり、論文数は低下傾向にあることや、所属組織の分布を見ると、東京大学一極集中ではなく、旧帝大のみならず、地方国立大学にも分散していること、また、指標の設定にもよるが、一番多い指標では全体の12.42%がスタートアップに関与していること等が分かった。

・スターサイエンティストのリストについて、大学やVC、官庁から共有してほしいという声があるが、このような分析情報を、誰がどのように作成し、どのような資金源で継続的に管理・公表していくのがよいか、Strategic Intelligenceの文脈においてパフォーマンスの高い研究者の情報は重要であると考えられる中、議論が必要。

・欧州は、大学が持っているデータについて標準化がされているように聞いているが、日欧の違いはどうなっているのか。また、欧州のURAは、こうした標準化されたデータを使っているといったことはあるのか。

・CERIF(Common European Research Information Format)というデータのスキームのことである。今はもう少し進展しているかもしれないが、EU全域で標準モデルがあり、そのモデルを用いて、データ交換ができるようになっている。日本もCERIFに準拠したデータになると良いだろう。

・データの標準化については、大学内で使われている各種オペレーションのデータシステムが、英語圏ではかなり統一化されてきていて、大学を移ったとしても各種データ分析が楽になっているが、日本では必ずしもそうはなっていないことにも留意が必要。

・オープンデータ、オープンサイエンスの流れの中で、活用を見据えながらデータベースを整備する等、活用も含めた一体的な検討や対応が出来ているかどうかが、研究インテリジェンスに大きく影響すると思う。例えば、大学別にライブラリを自分たちで整えていくだと、統一的なデータベースにはならず、誰も使わないために、リソースが提供されなくなってしまうといったことになる。一方で、ScopusやWeb of Scienceなど世界的なデータベースは、コストの問題はあるが、使用しないと、世界と戦えず、対抗できない。

・他の研究領域と比較すると、科学技術の分野は非常に良いデータが整備されている領域である。実際、例えば、NatureやNature Human Behaviorには、科学者の活動の足跡に関する大規模データセットを用いて分析を行いロバストな結果を示した論文が掲載されている。
 日本での現状の科学技術データ収集には課題があることに加え、独自のデータベースの構築・運用にはそのコスト負担の問題が伴う。一方で、整備済みのScopusやWeb of Scienceのデータベースを買うとなると高額になる。エルゼビア社は最近、Scopus AIというものを提供開始している。独自開発しても、ユーザーから相対的に高い評価が得られないと使用してもらえないので、このように国際的にどういったものが使われているか、という点は把握しながら進めるべきである。

・大学の運営そのものの標準化が極めて大事であり、さもなくば、今後プレミアリーグに入ることも、居続けることも難しくなるであろう。一方で、ある種、ガラパゴス的に育ったことによって、突出している日本の研究分野が、日本の研究の独自の流れを作っていた部分もあり、今後、標準化と、日本的な研究の良さを、どのように組織として混ぜ合わせていくのかが大事になるかと思う。

・「具体的な対応」について、いつまでに何をやるといったことも含めて、具体化すべきではないか。

・政府内でどのようなガバナンスの仕組みを作るか、大学をどのように活用していく仕組みを作るか、考える必要がある。解決のヒントは分散型をどのように実現していくかという点にある。

・既にデータやインテリジェンスはあるのではないかという声もあるが、インテリジェンスには様々あり、インテリジェンスが何を意味しているか更なる区分けが必要になるだろう。フェーズによって必要なインテリジェンスが異なるため、どのようなインテリジェンスがどこにあるかといったマッピングが必要である。
 また、ユーザー側がインテリジェンスをどのように活用するかに合わせ、加工翻訳をする必要があるため、そうした加工翻訳の人材が必要である。また、どのような仕組みにせよハブ機能は必要になるため、その機能を誰が担うかも含め、在り方を考えるべきである。

・政策担当者のニーズとインテリジェンスを繋ぐファンクションが必要。SciREX事業ではアカデミアと行政官が同じ目的に向かって研究する仕組みとして共進化実現プログラムを実施しているが、そういった取組も参考にしてニーズや文脈を常に把握し、戦略的なインテリジェンスを作っていくシステムをどのようにハブ機能に取り入れていくのか、考えていく必要がある。

・行政側にabsorbableなキャパシティがあれば問題ないのだが、日本の場合はそもそも行政官がインテリジェンスを求めるような仕組みになっていないのではないか。それは、各個人の問題ではなく、仕組みとしてのキャパシティがないということに問題がある。エビデンスに基づく政策立案を行う仕組み作りが大事である。

・また、データに基づいたインテリジェンスを想定している人もいるようだが、大学が戦略を策定する時には、データのみならず、例えば学内の競争的研究費を使って各教員から提案を得ることによって、各教員の研究内容に関する情報が自然と集まってきており、そうした情報も活用している。また、政府においても、ファンディングを通じて集まった情報を踏まえて、目利きをして、SBIR等で大きくするといったことをしている。こうしたソフトなデータも含まれるといったイメージがあると良い。

・英国や中国、カナダでは、Science of ScienceやResearch on Research、メタサイエンスといった研究分野に対して予算を付けている。国際的には、科学の生産性に関する科学的な分析、科学に対する政策課題、科学的な分析に係る取組は盛り返してきていることから、国際的なコミュニティに繋がりながら、人材を育成していくことが大事である。

・どの水準を目指すのかという論点があるが、国際的な動向に追従することを目指すだけではだめと考えている。日本は科学技術力が低下しており、より戦略的な取組が必要であることから、このStrategic Intelligenceについても、欧米へのキャッチアップではなく、日本がトップを取ることを目指さないといけない。

・どこでやるか、誰がやるかという点については、ニーズがないところでは意味がないので、例えばJ-PEAKSやVC、企業の経営企画部など、必要としている者と協力して実施した方が良い。

・誰と一緒にやるのかという点については、J-PEAKSや、COI-NEXT、ASPIREなどに参画しているトップ研究者と組んで、インテリジェンス人材を実践的に鍛えながら、そういうトップ研究者から評価される形にしていったほうが良いのではないか。

・エビデンスを求めることは大事だが、日本の大学ではナラティブ性を育てられていないので、必要な人材像としてナラティブも柱として掲げた方が良い。日本は、主張したいことの論拠付けにしか、こうしたインテリジェンスが活用されていない。

・研究インテリジェンスの需要は産官学どこにでもある。日本では、3者が共同してレベルアップしていかなければ、国際競争についていけない。そのうち、政府サイドの課題としては、論文を読む力や時間が必要である。分析から傾向やホットスポット等が特定できたとしても、最後は詳細な情報にあたることが欠かせない。例えば、創薬、化学の分野では企業の現場でも論文を読むのが普通であり、それによってインテリジェンスが他の分野に先駆けて実効的なものとなっている。

・具体的に人材を育成するのはどこかという話も重要である。また、どのレベルの層を手厚くしていくのか。例えば、IRは草の根で人材育成をしているが、成り手がなく苦労している。こういう仕事に魅力がないと進まないのではないか。

・スターサイエンティストは一つの分野を自分の人生と共に創出してきている。その過程は必ずしも予定調和ではなく、最後に運よく到達できた方が多いと考えると、そうした研究者が持っている直感もデータにはできないだろうが大事な部分であるため、最終的にデータを解釈する際には、多少の考慮が必要になってくるのではないか。

・人材育成については、産業界とも接続した方が良いと思う。また、先ほど言及があったが、企業や投資家の立場で専門論文も読める人材が入って戦略立案できると、日本の独自性が出るはずであるし、強みも見つけられるのではないか。

・e-Rad(府省共通研究開発管理システム)には省庁間をまたぐ色々な提案(採択・不採択問わず)が集約されているので、全体を俯瞰して偏りをみるなど、e-Radから得られる知見を政策全体に活用できたら良いのではないか。

・Strategic intelligenceが必要であるということが、皆に分かるように、この論点整理案もナラティブなものとできるとよい。

・大きな投資が、大局的なstrategic intelligenceに基づいて行われているのか、という問題意識に基づいて、この有識者懇談会が開催されていると理解している。昨今の投資は、インテリジェンスやナラティブは使われているものの、ローカルな範囲の調査やコミュニケーションに基づいて行われていて、全体最適化されておらず、局所最適化の集合体になってしまっているのではないか。それに向けて何ができるのかということが議論の目的であった。

・まず少なくともデータベースについては共通化できるものがあるだろう、というのが共通認識ではないか。世界で既に論文データベースはデファクトになっているものもある中で、仮にあえて、日本で新たにデータベース構築に投資するということであれば相当な費用対効果が期待されないといけないだろう。そうしたことを踏まえると、まずは世界的なデファクトのデータベースを使用料を払って使うことを考えつつ、そのデータベースではカバーできていないデータについては国内で共通性の高いデータとして整備し、多くの人がアクセスできるようにするのが良いのではないか。

・また、戦略的なインテリジェンスのためには、今現在の強みだけでなく、次に何をするべきか?という点を分析する必要がある。そして、ドラスティックな戦略であるほど大局的なナラティブが必要になる。そして、こうしたナラティブとインテリジェンスの相互のフィードバックが、それぞれのステークホルダーにおいて行われる必要がある。今は、インテリジェンスと、大局的なナラティブが欠けているというのが課題と考えている。インテリジェンスとナラティブから創出されるstrategyの好循環ができるようなエコシステムを形成する、というのが骨子になるのではないか。

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科学技術・学術政策局研究開発戦略課

(科学技術・学術政策局研究開発戦略課)