資料4-1 科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業 重点課題について2016

科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業
重点課題について2016

平成28年3月31日作成
文部科学省科学技術・学術政策局

1  重点課題の設定について
  ここで設定する重点課題は、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業基本方針(以下「SciREX事業基本方針」という。)において規定されている「重点課題」について、平成28年度から3年間を目処に取り組むべきものとして示すものである。以下に設定した重点課題については、各拠点や関係機関において蓄積してきた知見・特徴等を踏まえつつ、SciREXセンターが開催するワークショップやフィージビリティスタディ等での議論、省内に設置した検討会での議論などを経て設定した。また、設定に当たっては、アドバイザリー委員会から文部科学省に示された助言の内容を考慮した。
  重点課題については、第5期科学技術基本計画(以下「基本計画」という。)において、科学技術イノベーション政策を推進するに当たっての基本方針として、個別政策課題への対応を主とした4つの第5期基本計画の政策の柱と、それらの取組を効果的・効率的に進めていく上での、社会との関係深化や実効性確保といった重要事項が示されていることを踏まえて、
    A  科学技術イノベーション政策の実効性の確保と基盤強化
    B  政策の柱(個別政策課題)への対応
に大きく分類して設定した。また、必要に応じて、喫緊の政策課題に機動的に対応するため、さらに、
    C  喫緊の政策課題への機動的対応
の枠を設定する。Cについては、主にSciREXセンターがこれに対応することとする。
なお、重点課題は、「重点課題」と、それぞれをより具体化した「重点取組分野」からなる。各々の重点課題・重点取組分野に基づくプロジェクトに当たっては、適切にマイルストーンを設定し、具体的な達成目標については関係者間で議論し、共有するものとする。

2  具体的な重点課題及び重点取組分野
  A  科学技術イノベーション政策の実効性の確保と基盤強化
  本項目については、科学技術イノベーション政策の推進に当たって取り組む必要のある、政策の実効性を高めるための取組や我が国のイノベーションシステムを支える制度など、基盤的問題について取り扱う。

重点課題A-1  政策のインパクト評価
  (重点取組分野)政策の経済的影響の分析に関する手法・指標の開発
  基本計画において、国民一人ひとりが活躍する豊かな社会を実現し、次代に引き継いで行くには、政府による科学技術イノベーション政策への先行投資が不可欠である旨指摘され、政府研究開発投資に関する具体的な目標の設定や政府研究開発投資の拡充が明記されている。政府研究開発投資のみならず、税制や政策金融等の政策効果を測定し、将来の影響を評価することは科学技術イノベーション政策をエビデンスベースで進める上で重要である。科学技術イノベーション政策が経済成長や雇用など経済・社会的な効果を産み出すまでには、長い時間がかかるとともに、効果までのパス(波及経路)が複雑である。これまで、SciREXでは、SciREXセンター、NISTEP政策課題対応型調査研究及びRISTEX公募型研究開発を通じて、様々な経済モデルや手法が開発されている。
  これらを踏まえ、重点取組分野として科学技術イノベーション政策の経済的影響の分析に関する手法・指標の開発を設定する。ここでは、科学技術イノベーション政策の経済的影響の測定を行うために、科学技術や社会の現状を踏まえた経済モデルの開発やその基礎となる研究を行うとともに、将来の政策形成への活用の視点から多様な手法の比較検討及びレビューを行う。また、これを通じて関係者の政策担当者や研究者のネットワーキングを行うことが重要である。さらに、マクロな研究開発投資の効果のシミュレーションだけでなく、これを支える理論やデータの整備等も併せて行うことも必要である。本重点取組分野に基づく取組により、科学技術イノベーション政策の経済的影響の分析を行うための指標・手法が整備され、それらを適切に活用できる人材のネットワークが形成されている状態を目指す。

重点課題A-2  政策マネジメントシステム
  (重点取組分野)政策のPDCAの確立のための指標・手法開発
  科学技術イノベーション政策の実効性を高めるためには、政策のPDCAサイクルを確立し、政策が適切にマネジメントされるシステムを作り出すことが必要である。政策のPDCA、つまり、適切に計画を立て(Plan)、それに基づき行われた事業を着実に実施し(Do)政策目標の達成状況や効果を適切に評価し(Check)、事業の改善につなげる(Action)ということは、政策マネジメントシステムの核となる概念だが、特に科学技術イノベーション政策において、適切な評価までつなげるためには、達成状況をどう計測するかが重要になる。基本計画においては、「第5期基本計画の進捗及び成果の状況を把握していくため、主要指標を別途定めるとともに、達成すべき状況を定量的に明記することが特に必要かつ可能な場合には本基本計画の中に目標値を定め、主要指標の状況、目標値の達成状況を把握することにより、恒常的に政策の質の向上を図っていく」等の記載がなされ、主要指標及び目標値が設定されることとなったが、このような指標への対応については、既存のデータの収集のみならず、新たなデータの収集や測定の基礎となる理論やモデルの構築等も併せて行う必要がある。
  なお近年では、情報科学技術の進展により、研究助成、人材等の各種のデータベースを相互に接続し、政策分析に活用することが可能となってきている。OECDや海外の政府機関においても、政策のPDCAサイクルを確立するための指標開発が積極的に行われている。
  これらを踏まえ重点取組分野として、政策のPDCA確立のための指標・手法開発を設定する。従来から測定が難しかった、科学技術と社会の関連性、基礎研究のパフォーマンスなど、新たな指標体系の構築も含め、政策体系に合わせて適切な指標群を構築し、それらを適切にモニタリングする手法等を確立するためには、担当する行政部局だけでなく、各種統計や計量分析、政策研究、科学技術の各分野等の幅広い専門家の知見等が必要である。このため、現在および将来の指標・手法開発や、これを支える理論やモデルの構築を進めるとともに、それを支える政策担当者や専門家のネットワークを形成することが必要である。これらの活動を通じて、基本計画の体系の下で行われる府省、関係機関等の施策も含め、政策のPDCAサイクルの確立に貢献する。本重点取組分野に基づく取組により、政策のPDCAサイクルを確立するための指標・手法が整備され、それらをさらに発展させていくための人材のネットワークが形成されている状態を目指す。

重点課題A-3  パブリックセクターにおけるイノベーションシステム
  (重点取組分野)パブリックセクターの機能強化のための制度設計
  我が国のイノベーションシステムにおいては、民間企業も大きな役割を果たしているが、政府、大学、公的研究機関等のパブリックセクターの役割も大きい。基本計画第7章においても、科学技術イノベーション活動の主要な実行主体である大学及び国立研究開発法人の機能強化等について記載がなされている。国のイノベーションシステムにおいてパブリックセクターに期待される役割は、一般的に企業などでは実施が難しい、萌芽的、基礎的で最先端の研究成果を恒常的に創出することと、その成果を企業に移転されて活用されること、科学技術の成果をイノベーションに結びつけるための制度設計や規制改革を行うことであり、パブリックセクターがそれらの期待される役割を適切に果たせるような体制が必要となる。そのためにはセクターの成果創出のパフォーマンスを最大化できるようなマネジメントが欠かせない。海外の大学や国立研究所などでは、優れた研究者のみならず、優れた経営者についても獲得合戦が繰り広げられている。これは、組織が最大のパフォーマンスを上げるためには、組織を束ねる長のマネジメント能力の向上が欠かせないということを経験的に理解しているからである。一方、我が国ではマネジメントの重要性が指摘されているにもかかわらず、パブリックセクターという場でのより効果的なマネジメント手法の確立は十分ではなく、議論するための十分なデータの整備も必要である。
  これらを踏まえ、重点取組分野としてパブリックセクターの機能強化のための制度設計を設定する。これらに対応するためには、マネジメントも含めたパブリックセクターの組織の在り方、組織内の情報共有の在り方等、成果を最大化できるための方法論の分析、体系化、具体的なパブリックセクターの機能強化につながる方策の提示などが必要である。本重点課題に基づく取組により、パブリックセクターの効果的なマネジメント手法を議論するための必要なデータ等の基盤が整備され、それらを踏まえたパブリックセクターの機能強化のための制度が設計できる状態を目指す。

重点課題A-4  国家的課題への迅速・戦略的な対応
  (重点取組分野)国家的課題に対応した政策シナリオ等の作成手法の開発
  国家的に対応すべき課題については、府省横断で戦略的かつ迅速に対応することが肝要である。例えば、基本計画第7章(3)の「科学技術イノベーション政策の戦略的国際展開」では、科学技術イノベーションの国際活動や科学技術外交といった取組を国として戦略的、効果的に推進していくことの重要性が述べられている。また、例えば同計画第7章(4)「実効性のある科学技術イノベーション政策の推進と司令塔機能の強化」では、様々な制度の改革や整備の調整等を推進し、スピード感を持って未来の産業創造や社会変革につなげていくことも必要である旨が述べられている。このような課題は通常、複数の府省や関係機関、他国の機関などの多くのセクターにまたがっており、またその対応には、刻々と変化する科学技術の動向や国内外の経済社会情勢についても考慮する必要がある。
  これらを踏まえて、重点取組分野として国家的課題に対応した政策シナリオ等の作成を設定する。ここでは、限られた時間の中で、可能な限り客観的根拠に基づき迅速かつ戦略的に対応し、政策シナリオをデザインしていくための方法論を整理すること、さらには、客観的根拠に基づいた政策シナリオの作成手法を開発するとともに、それらを実行できる行政官、実務者、専門家からなるコミュニティを形成することが重要である。本重点取組分野に基づく取組により、国家的課題に対応した戦略的かつ迅速な政策シナリオ等の作成の手法が開発され、それらを適切に活用することのできるコミュニティが形成されている状態を目指す。

重点課題A-5  政策形成プロセスの改善
  (重点取組分野)共創的な政策形成プロセスの構築に向けた手法開発
  SciREX事業基本方針おいても示したとおり、政策の内容が客観的根拠を必要とするばかりではなく、政策形成のプロセスもまた合理性を備えたものであるべきである。科学技術イノベーション政策形成のプロセスは、多数のステークホルダーが参加する複雑な政治過程であり、これを合理的に進めていくためには、ステークホルダーとの対話・協働も含め、様々な改善がなされなければならない。基本計画においても、「第6章 科学技術イノベーションと社会との関係深化」において、共創的科学技術イノベーションの推進の重要性が指摘されている。ステークホルダーインボルブメントは、科学技術イノベーション政策のみならず、他の政策でも重要視されてきているが、政策形成の主要なチャンネルとなるにはまだまだ課題が残されている。また、政策形成と社会の意識とに齟齬があったり、政策担当部局と社会との間で情報の不均衡があったりした場合、その政策を社会に適用させる上で著しい困難を抱えるなどの問題も生じかねない。さらに、ベースとなるエビデンスが存在しても、政策形成プロセスの制度的・構造的課題により、政策が実行されないなどの問題も起こりうる。
  これらを踏まえて、重点取組分野として共創的な政策形成プロセスの構築に向けた手法開発を設定する。共創的な政策形成プロセスの構築に向け、意思決定プロセスの解明や障害要因の特定に加え、いかに客観的に政策目標を定めるか、その目標を広く社会で共有するか、ステークホルダーの意識をどう関与させるかなどの観点も踏まえた政策形成プロセスの改善のための手法の開発が重要である。本重点取組分野に基づく取組により、適切なステークホルダーインボルブメントを含む政策形成プロセスの合理化のための手法が開発され、政策形成のプロセスがより共創的に行われている状態を目指す。

B  政策の柱(個別政策課題)への対応
  基本計画の4本柱において示されている多くの政策課題を勘案し、以下の4重点課題を設定する。

重点課題B-1  超スマート社会とSTI政策
  (重点取組分野)先端技術の研究開発実施と社会実装に向けた制度設計
  基本計画においては、「超スマート社会」が未来社会の姿として示され、これを世界に先駆けて実現するための取組を強化することとされ、様々な取組が進められている。超スマート社会の到来は、生活への利便性をもたらし、新たな産業の創出につながる可能性を持つ一方で、新しい技術の社会への適応においてサイバーセキュリティの問題やAIの発達による雇用の喪失、ビッグデータの活用によって個人の生活やプライバシーの侵害への懸念など新たな問題が生じる可能性も否定できない。このような超スマート社会に係る新しい科学技術に対して、社会的な課題の把握や、実装前の段階における望ましい研究開発の方向性の検討、関連施策・法制度の検討が求められており、これらの検討なしには、社会実装まで至るのは難しいと考えられる。
  これらを踏まえ、重点取組分野として先端分野の研究開発実施と社会実装に向けた制度設計を設定する。ここでは、超スマート社会の実現に資する先端的な研究開発を実施する上での社会的課題等の特定や、それらを踏まえた研究開発実施のための制度設計などを行う。さらに、それらの研究開発の成果を社会に実装するに際して想定される社会的課題等の特定や、それらを踏まえた、法規制の在り方も含めた制度設計などを行う。本重点取組分野に基づく取組により、先端的な研究開発やその成果の社会実装を円滑に行えるための制度が設計できる状態を目指す。

重点課題B-2  少子高齢化社会とSTI政策
  (重点取組分野)少子高齢化社会に向けた医療・健康ビッグデータの利活用手法の開発
  我が国は、既に世界に先駆けて超高齢社会を迎えているが、基本計画第3章の「経済・社会的課題への対応」の中でも、超高齢化、人口減少社会に対する持続可能な社会の実現が謳われており、世界最先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成や、医療関連分野における産業競争力の向上を目指すこととしている。また、ICTを活用した医療サービスの向上や、子供からお年寄りまでのあらゆる層にICTが活用されることにより、快適かつ活動的に過ごせる場が提供出来ること等も記載されている。質の高い医療はその中でもきわめて重要だが、医療情報をデータ化し、情報として活用することは、各種データとの連結や多くの症例の収集・分析等の手法により、より高度な医療の提供や研究開発の可能性を開くことになる。一方で、医療・健康データの多くは個人情報であり、その取扱の方法にも配慮が必要となる。
  これらを踏まえ、重点取組分野として少子高齢化社会に向けた医療・健康ビッグデータの利活用手法の開発を設定する。ここでは、これまで利活用の限られていた医療・健康データを利活用するための、データベースをはじめとした基盤作りと、個人情報等の社会的な問題に対応しながら、それらの利活用を行うための手法の開発などを行う。また、これらの活動を通じて、生命科学分野等における政策形成のエビデンスの蓄積を行う。本重点取組分野に基づく取組により、医療・健康データといった個人情報を含む各種情報をSTI政策に活用できるようにするための方法論やツール等の基盤が整備されている状態を目指す。

重点課題B-3  地方創生とSTI政策
  (重点取組分野)地域イノベーション政策の政策形成支援手法の開発
  平成26年発足の第2次安倍改造内閣において、地方創生は国の極めて重要なテーマと位置づけられ、国が定めた長期ビジョンと総合戦略をもとに、様々な政策が進められてきている。基本計画においても、地域からイノベーションの芽を創出し、地域の企業や大学、公的研究機関等が連携し、地域に自律的・持続的なイノベーションシステムを構築することが重要である旨が記載されている。一方、これまで、国は各地域の特性を活かしたクラスター施策や、地域の大学の技術シーズ等を核とする地域施策を推進してきたが、全国一律の展開により地域性が十分引き出されなかった、他地域も巻き込んでの広がりに至らなかった等の反省点も指摘されているところである。地域イノベーション政策を形成するに当たっては、これらの指摘の内容も含め、これまでの国内の様々な地域で行われてきた政策の事例を活かすことが必要である。
  これらを踏まえ、重点取組分野として地域イノベーション政策の政策形成支援手法の開発を設定する。地域イノベーションを成功させる鍵については、自治体の主体性、核となる中堅企業、ベンチャー、地域リーダーの存在や、地域の「場」にアクターが集まり続け、高め合うこと、等の指摘が、科学技術政策研究所のレポートや総合科学技術・イノベーション会議の基本計画専門調査会等で報告されているが、様々な事例が共有・分析されてデータ化されることにより、初めて可視化され、政策形成の支援に活用されることとなる。また、地域が主導した多様な成功事例等の要因を抽出して、他の地域とも広く情報を共有していくことや、これらを通じて、地方自治体等の政策担当者策のネットワーキングを行うことも重要である。本重点取組分野に基づく取組により、地域イノベーション政策の形成を支援できるデータやツール等の基盤が整備され、それらを適切に活用できる人材のネットワークが形成されている状態を目指す。

重点課題B-4  オープンイノベーション政策と産学連携
  (重点取組分野)大学・研究機関における産学連携の役割等に関する制度設計
  基本計画の第5章ではグローバル競争の激化の中、組織の内外の知識や技術を総動員するオープンイノベーションの手法が優位性を持つとの認識が示されている。オープンイノベーションを推進するに当たって、大学・研究機関の役割は欠かせないが、大学・研究機関が産学連携を推進するに当たって、どのような成果をオープンにし、あるいはクローズド化するかという、オープン・クローズド戦略の建て方も非常に重要になってきている。大学・研究機関は最新の知を生み出す場であるが、産学連携が本格化する中で、研究成果の発表と知財の取り扱いに関し、大学・研究機関の知財部門等ではケース毎に多様な判断が求められるようになってきている。さらに、ここ数年で、大学・研究機関と企業の共同研究におけるデータの不適切な取り扱いによる問題が起こった事例もあり、利益相反の問題にも対峙していく必要が生じてきた。
  さらに、基本計画第4章ではオープンサイエンスについても、適切に推進することも記載されているが、オープンデータ・オープンアクセスをすることによるメリットとデメリットについて、研究者の理解が深まっているとは言いがたい状況であり、これらの施策を推進する場合の大学等のガバナンスのあり方についても、まだ議論が端緒についたばかりである。
  これらを踏まえ、重点取組分野として大学・研究機関における産学連携の役割等に関する制度設計を設定する。ここでは、これまで起こっている、若しくはこれから起こりうる様々な課題を特定し、大学・研究機関におけるガバナンスのあり方、学内の推進体制、費用負担などの具体的な対策の策定に関する議論を進めることが重要であり、それらを踏まえた制度設計を行うことが必要である。本重点取組分野に基づく取組により、オープンイノベーションの潮流を踏まえた、大学・研究機関の在り方に関する制度が設計できる状態を目指す。

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科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)