資料2 科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業(SciREX事業)全体の方向性について

科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業(SciREX事業)全体の方向性について

平成28年3月22日科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」
アドバイザリー委員会

  平成27年12月21日に開催された「第21回科学技術イノベーション政策のための科学推進委員会」において、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業の今後の推進方策について」(以下「アクションプラン」という。)が決定され、28年度以降のSciREX事業の推進に対して制度設計が進められている。
  アドバイザリー委員会では平成28年1月の発足以後、SciREX事業に関して、「政策のための科学」と「政策形成」の共進化の方向性や方法論、「科学技術イノベーション政策のための科学」の「科学」の在り方、政策形成プロセスの進化の在り方等について精力的に議論を進めてきた。
  SciREX事業の目標は、客観的根拠(エビデンス)に基づいた適切な科学技術イノベーション政策の推進によって、「公益」を実現することにある。そのためには、
A.科学としての「科学技術イノベーション政策のための科学」の確立
B.SciREXの知見の活用:喫緊の政策課題上の「重点課題」に対する政策の実効性の拡張
C.中核的拠点機能の充実と関係機関間の連携強化
が重要であるとアドバイサリー委員会は考える。

  文部科学省は、SciREX事業の推進に当たって、「SciREX事業基本方針」、「SciREX事業重点課題」、「SciREX事業役割と連携の方策」をとりまとめることとしており、それに基づきSciREX事業は、推進されることとなっている。
  アドバイザリー委員会の責務は、SciREX事業全体の方向性について議論し、議論の内容を「事業全体の方向性について」として意見をとりまとめ、文部科学省に対して助言することであり、今般のアドバイザリー委員会の議論の結果を基に、上記の3点に関して、以下のとおりそれを取りまとめた。
また、事業の適切な推進のためには、アドバイザリー委員会とSciREX事業を実施する各拠点・関係機関の実務責任者で構成される「運営委員会」とが、密に情報共有を図り、事業全体の方向性と個別の課題の進捗状況に齟齬が生じないよう適切に連携を図ることや、提言の具体化とロードマップの検討も必要と考えている。

A.科学としての「政策のための科学」の確立

  政策の形成、遂行過程は、「科学技術ならびに社会の現状の把握・分析」、「政策課題の発見・発掘」、「政策目標・手段のリストアップ」、「経済的・社会的影響の分析」、「複数の選択肢からなる政策オプションの作成」、「政策オプションの立案とその事前評価」、「合意形成」、「政策の実施」、「政策の事後的評価」と、多段の過程を経て実施され、これらの各課程において解決すべき様々な課題が存在する。SciREX事業は、これらの課題に、客観的なエビデンスに基づき、「科学」として、合理的、論理的に応えていくことを目指している。
  「科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」(SciREX)」は、科学としての論理の構築に際しての分析的側面と、そこで培われた知見を用いて科学技術政策を立案・実施するという設計的側面の二つの側面をもっており、「真の法則性」を探るという科学とその知見を「応用して、社会をデザインする科学」の総合化という性格を有している。このSciREXのディシプリンの確立の必要性とそのための体系化については、SciREX事業創立以来、多くの委員の方々からご意見をいただいているところである。
  その主な意見としては、

  • 科学と社会の接点(経済、イノベーション、負の側面、教育、文化など)が多くあり、これらの様々な局面を分析して体系化することが科学としての要件であり、体系化してこそディシプリンとなり得る。
  • 科学技術が関わる問題・課題が拡大する中、(「政策のための科学」)を幅広い社会科学、自然科学を総合的に動員した学際的・融合的な領域として育てていく必要がある。
  • 限られた時間と不確実性の中で、ある種の経験論と勘で政策を立案実行していく局面が多かったが、そこから脱却して行くことが必要。そのためのエビデンスの活用と、行政官と研究者とのダイアログは重要。
  • 科学技術インナーの受益者が重視する価値に基づくSTI政策から、社会が重視する価値もインボルブしたSTI政策への転換が重要。
  • 各種の統計データや政府系のデータにとどまらず、Big-Dataの利活用も通じて、新たな知見を得ることも重要になってきている。
  • これらの多面的な要素を有するSciREXの科学としての確立については、そのディシプリンをまとめた教科書の作成と人材育成のためのコア・プログラムの完成が必須である。

などが示されている。
  これらを踏まえ、第2期SciREX事業の達成目標として、いままでの議論を集約して、以下のように目標を設定し、目標設定の妥当性の検討と実現に向けてのロードマップを描くことによって、「科学技術イノベーション政策のための科学」のディシプリンの確立を目指したい。それを、第2期のアドバイザリー委員会の目標とする。

1.「分析的側面」における目標
  (1)自然科学、人文社会科学、データ科学などにまたがる多くの科学分野の知見の総合化によって、課題に係わる科学技術や社会状況の俯瞰的認識を踏まえて、解決すべき課題の発見の手法を開発すること。
  (2)その課題解決への政策目標を定め、解決にむけての選択可能な政策手段(Funding、税制、補助政策など)の抽出とそれぞれの政策手段の評価のためのメニューを政策目標と対応づける手法の開発。
  (3)選択可能な政策手段に対応した複数の政策オプションの作成により、具体的な政策立案のデザインへの示唆を与えること。
  これらを客観的、論理的に体系化することが、この第一の「分析的側面」のディシプリン確立の目標となる。

2.「設計的側面」における目標
  (4)分析によって培われたSciREXの科学的知見を総合的に評価し、政策手段を取捨選択し社会実装にむけての社会システムを設計する政策実装のデザイン手法の開発。
  (5)政策の実装に先立つ国民各層のステークホルダーへの説明と理解・合意形成手法の開発。
  (6)政策の実施に際し、人々が持つ感覚(主観)や社会受容の状況の観測。
  (7)政策の実施に際し生じる、社会責任・社会倫理課題への対応の手法開発。
  (8)客観的エビデンスと人々の持つ感覚(主観)とのギャップの分析、ギャップを埋める手法の検討。
  (9)政策実施の成果の事後的評価とその経験のフィードバック手法の開発。
  これらの「設計的側面」においては、社会の時代的・空間的環境変化に対応して、その時代の課題を解決し、「公益の実現」に資する科学としてのディシプリンが要求される。政策の科学が直面する現実社会は、常に流動的であるが、その流動的な現実の流れを動学的に把握し、政策立案と実施に際して、普遍的な科学的視点を保つことが、SciREXに求められる科学としての原理であり、ディシプリンとして求められるものである。

「科学技術イノベーション政策の科学」の確立に向けて、二つの学問的目標を支えるためには、もう一つの補完的目標が不可欠である。それは、各目標を実現するために必要とされる方法論的基礎を与える「エビデンスの体系化」である。それを、「Data構造の体系化」と呼ぶ。

3.「分析・設計科学をささえるData構造の体系化」のおける目標
  Data Scienceの知見とIT環境をふまえた、Big-Data、Panel-Data、Micro Dataの体系的蒐集、分析、利用のオープン化が不可欠であり、「科学技術政策」を科学的に行う根拠を与えるための、イノベーション政策の基本的理念となる。第1期SciREX事業におけるデータ・情報基盤を担ってきたNISTEPの成果をより充実させること、Dataの蒐集、分析、利用とそのオープン化に向けて組織間連携を深め、情報管理を体系化し、そのもとでのオープン化を目標とする。

4.「政策の科学」における人材育成の目標
  「政策の科学」に携わる人材育成の目標は、科学技術イノベーション政策のための科学の研究人材の育成と科学技術イノベーション政策における行政人材の育成の二つの分野の育成プログラムが考えられる。
  人材育成についても委員会では以下のような意見が寄せられている。

  • 行政官などが政策形成の上で経験してきた事項を体系化(教科書化、ケーススタディ、オーラルヒストリーのアーカイブ化など)すべき。
  • 行政官がSciREX分野の研修等に参加しやすい環境の整備や、研究の現場との人事交流、博士号取得などを推進すべき。
  • 育成された人材をどのように活かしていくか、このようにして育てた人材をどう活用するかそこまで考えて社会全体で育てていく視点が重要。

  これらを踏まえた人材育成の基本的方向は以下のとおりである。
  (1)「科学技術イノベーション政策のための科学」のディシプリンに基礎をおいた教育プログラムの確立。
  (2)各拠点大学に共通するコア・プログラムの構築。
  (3)自然科学、人文・社会科学の多分野との連携による各拠点独自のSciREX人材育成の目標の確立とそれに基づくカリキュラムの確立。
  (4)拠点大学間の連携による教育内容の補完性の充実。
  (5)育成された人材が、社会全体で活用されていくための取組も重要であり、これら人材のネットワーク化をサポートする取組をSciREX事業全体として進めていくべきである。

B.SciREXの知見の活用:喫緊の政策課題上の「重点課題」に対する政策の実効性の拡張
  SciREXの成果を実際の政策形成にいかにつなげていくかも事業の重要な視点である。委員会においては、以下のような意見を得ている。

  • (政策実施における)PDCAは重要だが、Pの段階から、科学的知見を十分活かしきっていない。限られた資源を効率的かつ合理的に配分していくための知見を見いだすのが政策のための科学。
  • 社会に適用されて初めて実質的なものとなる。そのためのプロセスをどう政策に組み込み、効果的に行うかと言う観点が重要。
  • 長期的視点に立ったSciREX事業の継続が重要。(携わる)研究者の創意を重視し多様性を確保すべきである。

  政策形成に具体的に貢献できるような成果の創出のためには、生きた政策課題に積極的に取り組むこと等が期待される。「重点課題」は研究者側のシーズと行政のニーズを結びつけ、具体的な政策形成の実践につながる成果の創出を目的としており、このような取組が進むことで、より研究者の側と政策形成担当者との対話が進むことが期待される。
  これらを踏まえ、以下提言する。
  (1)SciREX事業の推進過程における、研究者と行政当局との共進化の推進に関しては、すでに行政側の各部局との連携した「政策リエゾン」体制が整いつつあり、SciREXセンター並びに拠点大学連携プログラムとの間でのSeedsとNeedsの対話の体制が整いつつある。両者の共進化を進めていくため、今後、「重点課題」に対する取組の目標設定において、文科省各部局のNeedsと研究者側のSeedsとの突き合わせが重要である。
  (2)科学技術イノベーション政策における政策決定過程で、科学者が助言を求められたり、研究成果や知見がとり入れられたりすることは多々ある。科学的助言に際しての科学者の在り方や助言内容の在り方に関して、内外の活発な議論が行われており、それらの議論の成果を踏まえてアドバイザリー委員会として所見をまとめるべき。
  (3)科学技術が関わる問題・課題が拡大する中、(「政策のための科学」)は、幅広い社会科学、自然科学を総合的に動員した学際的・融合的な領域となるべき。そのため、これらの多様な層が参加できるような場の提供や、教育プログラムの策定など、これらの視点を十分認識し事業を進めるべき。
  (4)科学技術イノベーション政策の社会受容のとらえ方と政策へのFeedbackのあり方まで考慮し、PDCAの方法論の分析等を行うべき。

また、政策の評価基準の策定と評価方法の確立に関しても、いままでの委員会の議論において、

  • 大綱的指針の見直しで提案された「プログラム評価」の実施によるPDCAは良い参考事例。プログラム評価の体系化と実際の具体的なプログラムの実施内容の評価の経験が、政策の科学の実現を目指すSciREXと具体的な政策との共進ということにもつながり、その定着が期待される。
  • 基本計画で、主要指標及び目標値が提示されたが、指標が一人歩きする心配あり。SciREXの役割はこれら指標の意味、有効性を理論的に検証し、実際の政策フレームに活かす上での理論的バックボーンをあたえるべき。
    等の意見が出されていることから、

  (5)評価については、「政策の科学」の深化と、政策形成プロセスの進化の双方に貢献するものであるべきである。特に後者については、実際の政策の形成への貢献の有無を尺度とするのみならず、政策へのインプリケーションの萌芽たり得るか、現時点では政策への実装は困難であるものの、今後の社会的な変化によって何らかの方法論の提示となり得るかなど多角的な評価が望ましい。
  (6)科学技術イノベーションに関する指標に関しては、SciREX事業では指標に関する多くの成果が得られ、実際に第5期基本計画において活用された。SciREX事業では、よりアカデミックで客観的なエビデンスを提供するという立場から指標の開発に対応するとともに、第6期基本計画の政策形成の実践にも貢献するべきである

C.中核的拠点機能の充実と関係機関間の連携強化
  アクションプランに基づき、中核的拠点機能の充実と関係機関間の連携強化を図ることが目標。これらに関し、以下提言する。
  (1)中核的拠点機能の充実・強化を実施し、ネットワークの形成や成果の政策形成への橋渡しのハブとしての機能を充実させる。そのため、SciREXセンターはより高次の立場から、事業の把握にとどまらず、制度設計、各機関との調整、事業が円滑に進むようにするための場の設置、政策形成担当者とのつなぎの支援など、幅広く業務に携わり、事業全体の進展に責任を持って事業推進に当たるべき。
  (2)SciREXセンターが中心となり、関係機関(各大学拠点、RISTEX、NISTEP、CRDS)が連携して、共通の重点課題に基づく研究開発プログラム・プロジェクトを実施し具体的な成果の創出を目指す。そのため、運営委員会の場での情報交換のみならず、関係者間で情報共有が効果的にできるようSciREXセンターで検討すべき。
  (3)研究活動と実際の政策形成の現場のつなぎについて、SciREXセンターはもとより、文部科学省の政策科学推進室においても省内の意見を把握する場の設置や、日常的なコミュニケーションを省内各課と行うことにより、SciREXセンターの活動をサポートとすべき。
  (4)SciREXの推進に当たって、必要なデータ・情報を体系的かつ継続的に蓄積し、データ・情報基盤を構築することが重要である。データとは、Factsにとどまるものではなく、そのデータの意味は何か、何を指向しているのか等、Evidenceとして活用されるものであると認識されなければならない。
  (5)Data Platformの確立と連携によるData基盤の体系化を意識して、取り組むべきである。
  (6)SciREXの成果のアウトリーチ活動をより充実させなければならない。SciREXセンターや各拠点が行うセミナーやウェブサイトでの情報発信にとどまらず、外部の研究者・市民に開かれたシンポジウムの開催、自然科学、人文社会科学の他の分野の学会などの場での発信等によりSciREXの知名度の向上に努めるべき。

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科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:平成28年10月 --