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4.科学技術理解増進活動を担う機関・人々へのメッセージ

(1)教育機関に望む

 私たちが様々なことを学ぶ場は、やはり何をおいても学校教育であるといえる。このことから、最新の科学技術を学校教育に反映させつつ、実験・実習などの体験活動を通じて、子どもたちの科学技術に関する興味関心を高め、その能力を伸長していくことが必要である。
 このため、小学校・中学校・高等学校等の理科・数学(算数)教員の養成・支援を充実し、教員が新しい科学技術に積極的に対応して、これを意欲的に学校教育に取り込んでいくことができるようにしよう。

1.子どもの体験活動の充実
 子どもの科学技術に対する興味関心や理解を深めていく上で、学校における理科・数学(算数)教育を充実していくことは非常に重要である。特に、子どもたちが自ら体を動かして体験的に科学技術に関する知識や技術を身につけていくことができるよう、観察・実験・実習などの体験活動を十分に行っていく必要がある。このため、科学館・博物館など、地域の様々な機関と積極的に連携して、子どもたちに様々な活動機会を得させていくことが望まれる。

2.小学校・中学校・高等学校等における教員の支援
 学校において、観察・実験・実習などの体験活動を行い理科教育を充実させていくためには、理科の教員が実験等の授業準備を十分行い、充実した授業を行えるよう、たとえば、校務負担の軽減や、実験等の校内研修の充実を図っていくことが求められる。
 また、理科教員は、青少年のための科学の祭典等、地域の科学技術関連行事への参加・協力や授業準備・教材作成に向けた野外調査活動、さらには理科教育に関する各種研修会への参加などのために、学外において活動する機会が多くある。これらの活動は、教員が最新の科学技術の動向を把握したり、地域の他機関の人々と連携・情報交換を行ったりするなど、新しいカリキュラムや教材作成等教育内容の充実や指導力の向上に大いに役立つものである。したがって、活動の趣旨や内容、校務運営への支障等を校長等が十分に判断した上で、当該教員の研修として位置づけ支援していくことが望まれる。
 さらに、教員の教育活動を支援するため、学校は大学と連携し、教育活動に関心の高い学生を学校へ派遣してもらい、授業準備や授業支援の場で活用していく等の工夫を行っていくことも必要である。また、教育委員会においては、理科教員が実験・観察・調査研究など工夫した様々な教育活動を展開できるよう、学校の状況に応じ、教員を加配することを検討することも望まれる。

3.大学における教員等の養成
 大学は教職課程における教育内容・方法の充実に加え、高度な知識と実践力を有する教員を養成するため専門職大学院制度の活用を図るなど、優れた理科・数学(算数)教員を養成し、また、その資質を一層向上させるために、本格的に取り組むことが求められる。
 また、大学においては、特に、たこつぼ型に陥りやすい博士課程における教育のあり方に留意しつつ、学生が専門分野以外の様々な分野にも視野を広げ、いろいろな職業や立場の人々と十分コミュニケーションをとりながら、広く社会で活躍していけるよう、幅広い知見とコミュニケーション能力を養成していくことが必要である。
 同時に、科学技術が常に「社会のため」にあるかどうかを問い直しつつ研究開発活動にあたる精神を持つよう、学生たちを育むことが望まれる。

(2)家庭に望む

 子どもの科学技術への夢や希望は、親子の触れ合いの中にある安心に支えられ、少しずつ着実に育まれていく。
 家庭においては、親子で科学技術を見たり聞いたり触れたりする機会を積極的に見つけよう。また、科学技術の道を目指す子どもたちの夢や希望を暖かく受けとめ、励ましていこう。

1.親子で科学技術に触れる時間や機会を見つける
 子どもが幼い時から科学する心を養ったり、物づくりの楽しさを身につけたりするためには、日々の生活の基盤である家庭の役割が大変重要である。こうした資質は、親や家族が日々の会話や過ごし方の中で、積極的に子どもたちに働きかけると同時に、子どもたちの興味関心に心を寄せていくことによって、自然に身につけることができる。
 たとえば、休日にはできるだけ自然の中で遊ぶ機会を持たせたり、科学館・博物館めぐりをしたりするなど、自ら体を動かして体験的に知識や技術を身につけさせていくことが有効である。また、ニュースや新聞などで話題となっている事柄について、どの程度子どもが理解しているのか確認しつつ説明や意見交換を行う、科学的な視点を持つ絵本や図鑑などを一緒に眺めてみる、子どもの「なぜだろう」という思いを大切にして一緒に考えたり調べたりする、手伝いを通じて家庭の活動における科学の要素に触れる機会を増やしていくなど、日々の生活の中にある親子の関わり・交わりの中で、科学技術に触れる時間や機会を意識的に見つけていくことが大切である。

2.科学技術の道を目指す子どもたちを励ます
 次世代の科学技術を担う人材を育成するにあたっては、その第一歩として、子どもたちに科学技術の道を目指そうとする気持ちを育てていくことが重要である。
 現状においては、子どもたちの年齢が上がるにつれて、理科・数学(算数)に対する関心が薄れていることが調査によって明らかとなっており、特に大学進学時点で科学技術に関する分野を選択した者のうち女子の比率は16.4パーセントという状況にある。
 これには、家庭の雰囲気や意向が影響しているのではないかと考えられる。このため、家庭においては、子どもが科学技術分野へ進もうとする気持ちを自由に育んでいくことができるよう、子どもの意欲を減退する意見や経験のみを伝えることなく、子どもの夢や希望を暖かく受けとめ、励まし支えていく姿勢を示すことが重要である。

(3)科学館・博物館・コーディネート機関に望む

 科学館・博物館は、企画や活動手法を十分に工夫し、科学技術の魅力を伝えて欲しい。また、学校や企業、科学館・博物館など様々な機関や人々が結びつき、活動を広げ深めていくためのコーディネート機関を育成し充実させよう。

1.科学館・博物館における企画や活動手法の工夫
 科学館・博物館においては、展示に体験や遊びの要素を取り入れたり、展示内容をわかりやすく解説するインタープリターやボランティアを配置するなど、人々が科学技術に興味を持ち理解できるような様々な工夫を行ってきている。
 しかしながら、そもそも科学技術分野に関心を示さず、科学館・博物館に足を運ぼうとしない人々がいることも事実であり、今後は、このような人々にも科学技術の魅力を伝えていく努力を進める必要がある。
 このため、近代・現代芸術、伝統工芸・芸能など、人々の関心が比較的高く、豊かな表現方法を有する分野の要素をうまく取り入れつつ、企画や活動手法を十分に工夫していくことが大切である。
 当懇談会においては、科学館において、様々な色の鉱物の特性を生かしたアクセサリー作りの活動を行ったところ、女性が多く集まったという事例が紹介されたが、このように、人々の趣味、好み、仕事、社会的問題意識などを的確に捉え、活動の対象者を明確に意識して、様々な分野の要素を取り入れていくことが重要である。その他には、特撮映画の怪獣の動作技術、ITを駆使した企業の顧客情報管理技術、草木と人工着色料による染色技術、伝統工芸・ロボット制御技術・現代アートが結合した動く人形などのテーマ・企画例もあり、科学館・博物館が、他の科学館・博物館の活動も参考にしつつ、工夫して、人々を引きつけるテーマの設定や展示等の活動を行っていくことが期待される。

2.コーディネート機関の育成・充実
 昨今、学校と、大学・研究機関、企業、科学館・博物館等が連携して、理科・数学(算数)教育に関する取組を行うことが増えてきている。しかしながら、様々な取組を行う上では、個人的なつながりに頼ることも少なくない状況にある。今後、一層効果的に連携活動を進めていくためには、学校や企業等からの相談への対応や関係機関の橋渡し(コーディネート)役を果たしていくことができる機関を育成していくことが重要であり、また、これらの役割を担う人材を育成・充実していくことが必要である。こうした取組を、地域の科学館・博物館、学協会等が担うことが期待される。
 一例として、企業が学校の教育活動に協力する意向を持っており、他方、学校として協力してくれる企業を探しているが、お互いの情報をうまく知ることができず連携活動が思うように進まない、といった状況がある。このような状況を打開していくためには、双方が情報を提供することにより、マッチングを行ってくれる機関が存在することが重要である。たとえば科学技術館が、産業界の出資により設立された沿革を活かして紹介機能を果たしたり、企業の協力を得て実験教室・教員研修などの取組を充実していくことが望まれる
 また、日本科学未来館や国立科学博物館は、全国の科学館・博物館を結び展示物の貸し出しを行ったり、学校に対して、科学館・博物館を利用した教育プログラムを提示しその実施に協力していくなど、支援機関としての機能を今後とも一層充実していくことが期待される。
 さらに、科学技術振興機構は、地域のモデルとなる学校や科学館などを支援し、当該モデル機関の活動内容を他機関に広げたり、優れた教育コンテンツを開発し、地方自治体の教員研修の場で紹介したりするなど、優れた取組を全国に普及させていく活動を進めていくことが望まれる。

(4)企業に望む

 企業においては、科学技術理解増進活動の意義を認め、積極的に活動を行って欲しい。また、博士号取得者をはじめ、優秀な人材を多様な分野で採用・登用していくことや、技術的貢献を評価することにより、科学技術に関する職業の魅力を高めていって欲しい。

1.企業による科学技術理解増進活動の推進
 当懇談会においては、本田技研工業株式会社が行う科学技術理解増進活動が紹介された。同社では、小学生から大学生までを対象に様々な学習プログラムを提供しており、小学校を対象としたロボットの訪問プログラムや、中学生を対象とした技術や自然を学ぶ2泊3日の「発見・体験学習」など、楽しみながら子どもの夢や好奇心をかきたてる取組を行っている。
 このように、企業・産業界が自らの活動に人材育成や社会的責任としての意義を認め、科学技術や産業技術に関する理解増進活動を積極的に進めていくことは、大変重要なことである。企業・産業界においては、たとえば工場見学プログラムを設けて子どもたちに現場を見せたり、インターンシップの受入れを進めたりするなど、積極的な取組を継続・発展させていくことが望まれる。
 また、企業・産業界においては、経済的な利益の追求のみならず、広く社会に役立つ科学技術かどうかという観点からも常に検証することが大切である。

2.企業における博士号取得者等の積極的採用・登用の推進
 子どもたちは、科学技術に関する職業が魅力的であると感じたとき、理科・数学(算数)や科学技術に関心を持ち、これを懸命に学び、ひいては科学技術をリードしうる人材層となっていく可能性を高めていく。
 このことを踏まえ、企業においては、博士号取得者など、高度に科学技術を学んだ者を積極的に採用することや、これまでややもすると軽視されがちであった研究者・技術者による技術的貢献を十分評価していくこと、さらには、これらの人々が指導的地位に立って活躍できるよう、環境を整えていくことが重要である。(これらの取組については、国においても同様に求められることはいうまでもない。)
 このようにして、科学技術に関する職業を魅力あるものとし、科学技術を学ぶことが、子どもたちに明るい将来を展望させるものとなっていくことが望まれる。

(5)メディアに望む

 情報化社会を迎えたとはいえ、多くの人々は新聞やテレビなどの従来型のメディアから情報を得ており、これらの社会的影響力は依然大きい状況にある。
 このことを受けとめて、メディアは、科学技術に関する情報を、わかりやすく親しみやすく十分に伝えて欲しい。

 人々が科学技術について情報を得る際、その手段としては、テレビ・新聞が圧倒的であり、また、人々が科学技術への理解を深めるために必要な取組としては、メディアよる情報伝達を重視していることが調査により明らかとなっている。このように、人々が科学技術への理解を深めていく上で、メディアの影響力は非常に大きく、メディアが果たす役割は大きく期待されている。
 しかしながら、現状としては、メディアによる科学技術関係の情報発信は少ない状況にある。人々の関心が低いから情報発信を多くすることはできない、という論法は鶏と卵の関係といえる。メディアの効果は大きく、メディアが科学技術に対する人々や子どもの関心を高める必要性は高い。また、メディアは、社会にとっての科学技術の必要性・意義といった問題を、広く鳥瞰的に論じることもできる。
 こうした状況をメディア関係者は認識し、科学報道を重視しているか、十分な量の情報を発信しているか、人々にわかりやすく親しみやすく伝えているか、ということを日頃気にかけ、人々の科学技術に対する興味関心を喚起していく役割を果たしていくことが望まれる。また、科学技術の負の面を過大に扱い過ぎて、バランスある見方を損なっていないか、という点を十分に顧み考慮していくことが求められる。
 このような点に配慮しながら、子どもや大人の科学技術への理解を促進する内容を伴った報道、ドキュメンタリー・解説番組の製作・配信、科学技術雑誌の出版などを、時宜を得て、人々に受け入れられやすい形で行っていくことが大いに期待される。

(6)地方自治体に望む

 科学技術の振興を担う人材の育成は、国の取組のみでは実現不可能である。
 地方自治体は、地域の教育関係機関や経済・産業界と連携して、住民の科学技術に対する興味関心の喚起や人材育成に取り組んで欲しい。

 科学技術の振興を担う人材の育成は、国の取組のみでは実現は不可能である。また、科学技術の振興は、国の盛栄のみならず、直接的には地域の経済・産業振興につながるものである。したがって、地方自治体においては、教育委員会にとどまらず、他の知事部局や経済・産業界とも十分に連携し、地域の特色を生かした理科・数学(算数)教育や科学技術関係事業を展開して、その定着を図り、住民の科学技術に対する興味関心の喚起や人材育成に自ら努めていくことが必要である。
 たとえば、地方自治体の一部においては、財政的な理由から、理科教育センターの廃止や社会教育施設の整理縮小を行っている現状が見受けられるが、これら施設が科学技術に対する住民の興味関心の喚起や人材育成の点で果たせる役割も少なからずあると考えられることから、効果的な活用を図っていくことが望まれる。
 また、子どもたちの興味関心を高める優れた理科教育を実践していく上で、学校の教育環境を充実していくことは不可欠であり、各学校が観察・実験等を積極的に行えるよう、たとえば顕微鏡・天体望遠鏡などの設備に関し、老朽化した物品の更新や数量の充足に向けた努力を行っていくことを期待したい。

 一方、国においては、地方自治体が新たな理科・数学(算数)教育や科学技術関係事業を行っていくためのきっかけ作りや、理科教育環境の整備に対する支援策を講じていくことが重要である。現在、国が学校や地域を対象に行っているスーパーサイエンスハイスクール、サイエンス・パートナーシップ・プログラム、理数大好きモデル地域事業などの支援事業においては、理科・数学(算数)に関心を持つ児童生徒が増えたり、優秀な人材が育ち大学に受け入れられていくなどの成果が現れつつあり、今後、このような動きを全国に広げていくことが重要である。国においては、こうした地方自治体の取組に対する支援を拡大していく必要がある。

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