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3.3つのビジョン−これからの科学技術理解増進活動において特に進めるべき3つの事柄−

第1のビジョン:「社会のための科学技術」実現のために
 科学技術は、20世紀型の「知識のための科学技術」というあり方だけでは、もはや人々に受容されない。今後は、「社会のための科学技術」という視点を重視していくことが重要である。
 これを実現していくための手段として、わかりやすく親しみやすい形で人々に科学技術を伝え、対話を深めて人々の望みや不安を汲み取って科学技術活動に反映させていく「アウトリーチ活動」を進めていく必要がある。

 科学は、人々の中にある自然や生物に対する賛美や感動の念を原点に、これらを理解しようとする知的探究心から始まった活動である。20世紀を迎え、科学技術は、すべての科学者・技術者が有する未知への探究心を源として、大きな発展を遂げてきた。そして21世紀においては、科学技術は一層進展・高度化し、我々がこれまで経験し実感してきたよりもさらに速いスピードで社会を変え、日々の生活に大きな影響を与えていくことが予想される。このような状況下においては、科学技術活動を「社会のため」という視点で進め、その成果を社会に還元していくことによってこそ、はじめて、科学技術は人々に受容されるものとなる。このため、科学者・技術者や科学技術の振興に携わる者は、わかりやすく親しみやすい形で人々に科学技術を伝え、対話を深めて人々の望みや不安を汲み取って、自らの科学技術活動に反映させていく活動(以下「アウトリーチ活動」という)を進めていく責務がある。

1. アウトリーチ活動の意義と内容
(1) 意義
 アウトリーチ活動には、次のような意義があり、今後科学技術を振興していく上で重要な意味を持つ活動であることから、科学者・技術者の大切な仕事として受けとめ実践していくことが望まれる。
1 人々に対して説明責任を果たすと同時に、科学技術の知識を普及する。
2 次世代の科学技術を担う人材を育成する。
3 科学者・技術者自身が人々の関心・受けとめ方を実感する。
4 学生を活動に参加させることにより、将来、科学者・技術者として効果的な活動を実践できる者を育成・増加する。また、科学者・技術者以外の道へ進む人材に対しても、科学技術に関する教育効果が期待できる。

(2) 具体的内容
 アウトリーチ活動は、単にホームページなどで活動内容について一方的に情報を流す活動とは異なるものである。大切なことは、相手の目線に立って、きちんと理解し受け入れてもらえるよう十分心がけて活動や会話を行うことである。
 たとえば、大学・研究機関・学協会では、一般の人々や子ども、教員を対象として公開シンポジウム、オープンキャンパス、研究室公開、出前講義、実験教室、研修等の活動を行っているが、これらは、社会貢献活動であるのみならず、人々と対話することができるアウトリーチ活動の機会と考えていくべきである。アウトリーチ活動には、1特定の機会や場を捉えて多くの参加者を対象に行うシンポジウム・セミナー、2科学者・技術者と一般の人々がお茶などを飲みながら語り合う「サイエンスカフェ」、3高等学校等の科学系クラブの指導、4高校生などが気軽に研究室を訪れて、教員や学生と研究のことなどについて会話を交わしたりする日常的なかしこまらない活動、などが該当する。

(3) 実践者に求められること
 科学者・技術者は、今後、狭い専門の分野に閉じこもるのではなく、若い世代から積極的に活動に参加し、他の分野の科学者・技術者等とコミュニケーションを行うことなどにより、科学技術全般に関する知識を広く備えていくことが求められる。

2. 組織的なアウトリーチ活動の実施と支援
(1) 大学・研究機関における組織的活動の実施
 アウトリーチ活動の普及・定着を図り効果を高めていくためには、意識の高い科学者・技術者の個人的活動に委ねるのみではなく、今後は組織的に取り組んでいくことが重要である。大学や研究機関にとっては、同活動は、組織の活動・成果を紹介し、人々の理解や支持を高めていくことができる重要な広報活動の場であり、また、その実践は、学生の教育や教員・研究者自身の資質向上という人材育成面においても大きな効果がある。このため、法人・機関としての機動的な経営・運営能力を発揮して、たとえば次の取組を組織的に行っていくことが求められる。
1 組織としてアウトリーチ活動を行うための経費を確保する。研究費の一部を同活動に充てる経費とすることをルール化する。
2 アウトリーチ活動を行うための組織体制を整備する。
3 科学者・技術者のアウトリーチ活動の実績を、個人の業績として適切に評価する。
4 人々とのコミュニケーションの取り方や、企画の進め方などについての研修制度を設ける。

(2) 大学・研究機関等に対する国による支援
 アウトリーチ活動を進めていくにあたっては、国が、大学・研究機関・学協会等が活動しやすいよう、支援していくことも重要である。
 たとえば、平成17年度の科学技術振興調整費の一部のプログラムにおいては、直接経費の3パーセントを同活動に充てるよう定められた。今後は、その他の競争的な研究資金制度や公的研究制度においても、同活動への一定規模の支出を可能とするなどの取組の導入や同活動の取組を評価していくなどの取組を進めていくことが期待される。

(3) その他の活動の担い手・支援者
 アウトリーチ活動については、科学者・技術者にとどまらず、科学技術政策の担当者である行政機関の職員も積極的に行っていくことが望まれる。また、科学館・博物館など、人々にわかりやすく伝える技術と人材に富んだ機関や組織が、積極的に科学者・技術者と連携しつつ、科学技術の現状や方向性を伝えることや、アウトリーチ活動のモデルを開発し普及させていく役割を果たしていくことを求めたい。さらに、人々と科学者・技術者の間をつなぎ、わかりやすく科学技術を伝える科学技術コミュニケーターが、大学や科学館・博物館で養成され、活躍していくことを期待する。


第2のビジョン:「科学技術に関する知識や能力」の向上のために
 日本人の科学技術への関心や科学技術に関する知識や能力(科学技術リテラシー)は、世界的にみても低く、憂慮されるべき現状にある。科学技術理解増進活動の意義にかんがみて、広く人々が科学技術リテラシーを有していくことが重要である。またこの上に、我が国は、独自の価値や文化を大事にしながら科学技術リテラシーを深め、いわば科学技術文化として定着するような時代の形成を目指す必要がある。
 こうした将来の姿を表すものとして、科学技術リテラシー像の策定を進めていくことを提言する。

 人々の科学技術に関する関心は低下傾向にあり、また大人の科学技術に関する知識や能力(科学技術リテラシー)は、国際比較調査(参考資料4 5.科学技術基礎概念の理解度の各国比較)において、科学技術に関する基礎概念の理解度を測る11問への正答率が13位であるなど、世界的に低い状況にある。科学技術理解増進活動の意義にかんがみて、科学技術リテラシーは、科学技術に携わる者だけでなく、広く人々が有すべきものであり、前出の調査対象となった世代の子どもの頃の学力が世界最高水準であったことを踏まえると、現状は、憂慮されるべきである。このため、人々の科学技術リテラシーを高めるための取組みを強化していかなければならない。この上に、我が国は、独自の価値や文化を大事にしながら科学技術リテラシーを深め、いわば科学技術文化として定着するような時代を形成することを目指すべきである。
 こうした将来の姿を表すものとして、科学技術リテラシー像の策定を進めていくことを提言する。
 「科学技術リテラシー像」とは、成人段階を念頭において、全ての人々に少なくとも身につけて欲しい科学・数学・技術に関係した知識・技能・物の見方の理想像をわかりやすく具体化し、文章化したものをいう。
 科学技術リテラシー像策定の意義は、次のとおりである。
1 人々にとって、身につけるべき基礎的知識・考え方の指針となる。また、科学館・博物館・学校等で活動内容を検討する際の指針となる。
2 人々の科学技術への理解・関心を高める素材となり、人々が科学技術の内容・重要性・必要性を理解しやすく、また教員・科学者等も説明しやすくなる。
3 リテラシー像を策定する過程で、科学技術の意義や科学技術と社会の関係について人々の関心が高まり、理解が進む。
 また、科学技術リテラシー像の策定にあたっては、たとえば、以下のことに留意することが求められる。
1 日本人の自然観、生物観なども踏まえること。
2 倫理観や価値観、人の生き方なども踏まえること。
3 策定作業には、科学者や教育学者、小学校・中学校・高等学校・大学の教員をはじめとする人々が広く参画すること。
4 策定していく過程を公開することにより、国民的運動につなげていくこと。
5 メディアの協力を得て、効果的に人々に働きかけていくこと。
6 有効な活用方策の検討も並行して進めていくこと。

 我が国の科学技術リテラシー像としてどのようなものがふさわしいのか、平成17年度から検討が開始されることとなっているが、関係者の英知を集めて、人々の支持を得られるものが策定されることを、大いに期待したい。


第3のビジョン:「伸びうる能力」を伸ばしていくために
 将来の科学技術をリードしうる人材層を厚く育んでいくためには、「出る杭を打つ」文化から「長所を伸ばす」文化へと転換し、伸びうる能力を伸ばして、中堅層を厚く、ピークを高くしていくことが必要である。
 このため、個人の資質や才能を尊び、その能力を活性化し十分に伸長していく環境を築いていくことが不可欠であり、大学をはじめ各界が連携して、個人の能力を伸ばすための取組を積極的に進めていく必要がある。

 我が国においては、依然として悪しき平等主義が見受けられ、学協会をはじめとする科学者・技術者コミュニティにおいても、一部ではあるものの、エリート育成に対する偏見意識を捨てきれず、伸びうる能力を有する人材に対し、その能力を十分に伸長する環境を与えることを躊躇するような雰囲気が見受けられる。
 科学技術分野に限らず、個人が持つ資質や能力は当然に尊重されるべきものである。また、我が国の科学技術を振興していく上で、優れた人材を育成していくことは最重要の課題である。
 このことから、我が国の「出る杭を打つ」文化を「長所を伸ばす」文化へと転換し、科学技術の振興を担う人材の中堅層を厚く、ピークを高くしていくことができるよう、高等学校など初等中等教育の段階から、伸びうる資質を有するものを積極的に見出し、その能力を存分に活性化し伸長することができる環境を提供していく必要がある。

1. 「スーパーサイエンスハイスクール」事業の充実と高大接続の推進
 文部科学省が高等学校等を対象として公募により経費支援を行う事業「スーパーサイエンスハイスクール」については、たとえば、愛媛県立松山南高校と愛媛大学とが連携して充実した理数教育を実践し、その中で見出された優れた能力を持つ生徒をAO入試を経て大学に入学させる、という素晴らしい取組を行っていることが当懇談会で発表された。
 優秀な人材を育成する上で、このような高大接続の取組を拡大していくことは重要な課題であり、大学においては、たとえば、国際科学オリンピック(国際数学オリンピック、国際化学オリンピック等)などの科学技術コンテストで入賞した生徒を、AO入試等で積極的に評価し受け入れていく等の取組も進めていくことが求められる。

2. 「国際科学技術コンテスト」の推進
 昨今、学協会等が協力して、「国際科学技術コンテスト」へ優秀な高校生を参加させる取組が広がっている。国際コンテストへの参加に先立っては国内コンテストが行われているが、これら一連の取組は、甲子園を目指して野球に打ち込む高校生が後を絶たないように、子どもたちの科学技術分野に対する意欲や能力を伸長し、我が国の科学技術を支える人材の裾野を広げ、かつ、その広い基盤の上に、優れた人材を育てていくことができる、という点で大きな効果を有するものである。
 このため、学校においては、これらコンテストへの生徒の積極的な参加を促すとともに、教育関係者や学協会等が連携し、また産業界など各界とも協調を図って、「国際科学技術コンテスト」参加への取組を進め広げていくことが求められる。

 なお、人材育成の観点では、高等教育段階でのエリート教育の導入が必要との意見も懇談会では出されたが、高等教育段階での人材育成の重要性については、中央教育審議会や科学技術・学術審議会等でも審議されているところであることから、当懇談会では、特に、中等教育以前の段階の子どもたちの能力伸長の重要性に着目し議論を行ったことを付言しておく。

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