2. |
自然放射性物質の概要
2.1 |
自然放射性物質について
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)2000年報告書3(以下「UNSCEAR 2000年報告書」という。)では、自然放射線源による被ばくの世界平均は、2.4 年であると評価されている。その内訳は、宇宙線や宇宙線により生成する放射性核種による外部被ばく 0.39 年、大地起源の放射性核種(建材を含む)からの外部被ばく 0.48 年、ラドン等の吸入による内部被ばく1.26 年及び食物摂取による内部被ばく 0.29 年である。これらに対する最も大きい被ばくの要因はTh-232系列核種、U-238系列核種であり、全体の約7割を占めている。
自然界に存在する放射性核種としては、K-40、Rb-87、Cd-113、In-115、Te-123、La-138、Nd-144、Sm-147、Gd-152、Lu-176、Hf-174、Re-187、Os-186、Pt-190及びTh-232系列核種、U-235系列核種、U-238系列核種などが挙げられる。また、宇宙線により生成されるH-3、Be-7、C-14などは、自然に生成される放射性核種に含まれる。
これら自然放射性核種のうち、UNSCEAR 2000年報告書に示された一般環境での濃度レベルを考慮して、BSS免除レベルより十分濃度が低く規制の対象かどうか検討する必要はないと考えられる核種を除き、規制対象とすべきか検討する必要のある核種とその属性を表1に示す。
本報告書においては、表1に掲げた核種のうち単体の比放射能がBSS免除レベルを超えるSm-147、Th-232系列核種、U-238系列核種を含むものについて規制のあり方を検討する。なお、Th-232系列核種、U-238系列核種に属するRn-220、Rn-222については、規制下にあるラジウム線源から発生するラドンは現行法による規制下にあり、また、住居等におけるラドンについては、介入対象として対策レベルを今後検討することとなっているため、今回の検討対象から除く。また、放射線を放出する性質等を意図して利用するために精製された核燃料物質やラジウム線源など放射線源として使用されるものは、すでに法規制の体系があるため今回の検討対象から除く。(表5の区分7及び8参照)
3 |
Sources and Effects of Ionizing Radiation., UNSCEAR(2000)3 Sources and Effects of Ionizing Radiation., UNSCEAR(2000) |
|
表1 規制の対象とすべきか検討を要する自然放射性核種
核種名 |
壊変 |
エネルギー( )
内放出割合( ) |
半減期 |
天然存在比 ( ) |
単体の比放射能b( 金属) |
BSS免除レベル( ) |
K-40 |
β |
1.314 89.3
γ:1.46 10.7 |
1.28 年 |
0.0117 |
30.3 |
100 |
Rb-87 |
β |
0.273 100 |
4.75 年 |
27.85 |
892 |
10,000 |
La-138 |
β |
0.254 32.9
γ:0.7884 33
γ:1.4356 67 |
1.35 年 |
0.089 |
0.632 |
10 |
Sm-147 |
α |
2.232 100 |
1.07 年 |
15.07 |
127 |
10 |
Lu-176 |
β |
0.42 100
γ:0.306 94.6
γ:0.201 78.4 |
3 年 |
2.6 |
65.2 |
100 |
Th-232 |
α |
4.013 77 ,3.954 23 |
1.41 年 |
100 |
4,060 |
10 |
Th-232系列 |
Th-232, Ra-228, Ac-228, Th-228, Ra-224, Rn-220, Po-216, Pb-212, Bi-212, Tl-208, Po-212 |
1 |
U-235 |
α |
4.40 57 ,4.368 12.3)
γ:0.186 54
γ:0.144 10.5 |
7.04 年 |
0.72 |
576 |
10 |
U-238 |
α |
4.197 77 ,4.15 23 |
4.47 年 |
99.274 |
12,400 |
10 |
U-238系列 |
U-238, Th-234, Pa-234m, U-234, Th-230, Ra-226, Rn-222, Po-218, Pb-214, Bi-214, Po-214, Pb-210, Bi-210, Po-210 |
1 |
Rn-220 |
α |
6.288 99.93 |
55.6秒 |
− |
− |
− |
Rn-222 |
α |
5.4895 99.9 |
3.824日 |
− |
 |
: |
放射線データブック(地人書館、1982年)より抜粋 |
 |
: |
Rn-220は、Th-232系列のRa-224から生成する壊変生成物である。 |
 |
: |
Rn-222は、U-238系列のRa-226から生成する壊変生成物である。 |
|
2.2 |
自然放射性物質に対する放射線防護の基本的考え方
自然放射性物質については、人の手が加えられず地殻や土壌中に存在する場合には、制御が不可能であるため、規制から除外すべきであると考えられる。ICRP 1990年勧告においては、「除外」cについて『地表における宇宙線及び体内のK-40のような本質的に制御不可能な線源は、規制手段の範囲から除外する。』とされている。
自然放射性物質を採取したり、加工してその濃度を高めたり、また処分することにより、作業者や公衆の被ばくを増大させる場合については、これらの活動は、人工放射線源の利用と同様にICRPが規定する「行為」cと考えられる。ただし、低濃度の自然放射性物質を含む原材料の利用は、多くの場合その放射線を放出する性質を意図して利用するものでなく、またそれを認識していない。このような場合の自然放射性物質は、もともと自然界に存在している物質であり、それを長く利用してきたことから「すでに被ばくの経路が存在している」と考えられる。ICRPPubl.82「長期放射線被ばく状況における公衆の防護」においては、「行為」は、ある便益を得る目的で、計画された選択の問題として採用されるものとしている。また、「介入」cは、その存在が健康上の問題であるかもしれないが選択の問題ではなく、すでに事実上存在する被ばくを減らすことを意図しているものとしている。このように「行為」は選択されたものであるのに対し、「介入」の対象は、選択しないで事実上存在する被ばく源としている。この観点から、自然放射性物質の利用は、「行為」と「介入」の両方の要素を持つと考えられる。「介入」の対象となるものについての免除に関し、ICRPPubl.82では、「介入」の対象となる主な種類の商品からの予測される個人年線量の介入免除レベルについて、おおよそ1 の値を勧告している。また、この勧告に基づき、関係する国の機関は、個々の商品、特に建材に対して、放射性核種別の介入免除レベルを規定すべきであるとされている。
以上の観点から自然放射性物質の規制免除については、人工放射線源の規制免除のように「行為」だけでなく、「介入」の要素も考慮に入れる必要がある。
|
2.3 |
海外における自然放射性物質の規制の状況
自然放射性物質に対する規制免除についての基本方針は、現在、ICRPにおいて明確に規定されているわけではない。免除に関する方針としてまとめられたものとしては、欧州委員会の報告書RP-122「規制免除とクリアランスの概念の自然放射線源への適用」4(2001年)d(以下「RP-122」という。)がある。ここで、自然放射線源による高められた被ばくについては、「作業活動」という新たなカテゴリーを設けて、規制免除に関する線量規準として0.3 年が採用され、人工の放射線源による被ばくをもたらす「行為」に対して用いられている10 年は、適用されていない。
欧州連合加盟国では、2002年11月現在でポルトガルを除く14ヵ国でBSSの免除と同様の内容を盛り込んだ欧州原子力共同体指令書(1996年5月採択)を受けて国内法の改正が実施され、人工放射線源については、一部の例外を除き、BSS免除レベルと同じ値を導入している。自然放射性物質についても、ほとんどの加盟国においてすでに自然放射性物質の規制制度を取り入れているが、免除レベルの設定やその線量規準、規制方法については、国によって異なる対応がとられている。
BSS免除レベルは、米国では、取り入れられておらず、カナダでは、一部取り入れられている。また、これらの国やBSS免除レベルを導入した中国についても、自然放射性物質の規制制度は一部を除き取り入れていない。
各国の自然放射性物質の規制免除について、その概要を参考資料5に示す。
c |
除外:用語解説(付録1)を参照
行為:用語解説(付録1)を参照
介入:用語解説(付録1)を参照 |
4 |
Practical Use of the Concepts of Clearance and Exemption-Part ;Application of the Concepts of Exemption and Clearance to Natural Radiation Sources:Radiation Protection 122, European Commission(2001) |
d |
RP-122の概要を参考資料4に示す。 |
|
|
|