1. |
検討の経緯 |
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IAEAでは従来から規制免除レベル、クリアランスレベルについての検討が進められてきたが、2000年9月のIAEA総会決議において、原子力事故による汚染地域からの商品(commodity、特に食品、木材)の円滑な国際貿易のために商品中の放射性物質レベルの策定が求められたことから、これらに共通の統一的なレベルの策定を目指した審議が放射性廃棄物安全基準委員会(WASSC)及び放射線安全基準委員会(RASSC)との合同会合で安全指針案(DS161)として審議されてきた。
上記指針案は、2004年8月に、RS-G-1.7(Application of the Concepts of Exclusion, Exemption and Clearance,「規制除外、規制免除及びクリアランスの概念の適用」)として出版された。以下に本安全指針の概要を述べる。
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2. |
RS-G-1.7の目的 |
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「電離放射線に対する防護及び放射線源の安全のための国際基本安全基準」(S.S. 115、以下「BSS」という。)には、規制除外、規制免除及びクリアランスの概念1と中程度の量(1トンオーダーの量)に関する規制免除レベルは示されている。しかしながら、規制除外とクリアランスに関する定量的な濃度基準と大量の物質に対する規制免除レベルは示されていない。
このため、本安全指針は、BSSを補完する目的で、国の規制当局等に対して、規制除外、規制免除及びクリアランスの概念の適用に関する指針を示すことを目的として、作成されたものである。また、天然起源の放射性核種及び人工起源の放射性核種の両方に対して、大量物質を規制除外、規制免除又はクリアランスをする際の「放射能濃度値」を示すことを目的としている。
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1 |
「規制除外」は、規制のための法律文書による管理に従うとみなされないことに基づいて、規制管理の当該法律文書の範囲から、特定の範疇の被ばくを計画的に規制除外することを意味している。このような被ばくは、規制除外された被ばくと称される。「規制免除」は、線源又は行為による被ばく(潜在被ばくを含む)が規制管理の適用を正当化しないぐらい小さいという根拠に基づいて、それらの線源又は行為がいくつか又は全ての観点の規制管理を受ける必要がないとする、規制当局による決定を意味している。「クリアランス」は、認可された行為の中にある放射性物質又は放射性の物体を、規制当局によるその後のいかなる規制管理からも取り除くことを意味している。本文章中の管理から取り除くということは、放射線防護の目的で適用される管理を指している。 |
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3. |
RS-G-1.7の適用範囲 |
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本安全指針は、下記の事項に対しては適用されない。 |
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食物、飲料水、動物の飼料及び食物又は動物の飼料に使うことを意図された材料 |
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空気中のラドン(対策レベルが用意されているため) |
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体内中の |
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IAEAの輸送規則に従って輸送される物質 |
● |
認可された施設からの排気・排水 |
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汚染された土地の再使用 |
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4. |
放射能濃度値の算出根拠 |
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RS-G-1.7で提案されている「放射能濃度値」の設定においては、天然起源の放射性核種と人工起源の放射性核種に分けて設定している。
このうち、天然起源の放射性核種に対する放射能濃度レベルは、世界規模での土壌、岩石、砂及び鉱石中の天然起源の放射性核種の放射能濃度の測定結果(UNSCEAR 2000年報告書)の上限を基に設定している。これらの放射能濃度の影響として、BSSでも別に取り扱われているラドンのエマネーションからの寄与を除外すれば、個人の受ける線量が約1 を超えることはありそうもないとしている。
これに対して、人工起源の放射性核種については、全ての固体状物質(all material)を対象に、外部被ばく、ダスト吸入及び経口摂取(直接及び間接)を包含するように選定された典型的な被ばくシナリオ(enveloping scenario)の評価に基づいている。
上記評価シナリオに基づく人工起源の放射性核種の放射能濃度値の算出においては、以下のような実効線量に対する基準線量とパラメータの組み合わせの考え方が採用されている。また、皮膚被ばくに対する基準線量としては、50 が使用されている。 |
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● |
基準線量が10 の場合は、現実的なパラメータ値 |
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● |
基準線量が1 の場合は、低確率なパラメータ値 |
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なお、計算の詳細(シナリオ、モデル、パラメータ等)については、現在出版準備中の安全レポート(Derivation of Activity Concentration Levels for Exclusion, Exemption and Clearance,「規制除外、規制免除及びクリアランスのための放射能濃度値の算出」)にまとめられている。本安全レポートの概要については参考資料2に示す。
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5. |
放射能濃度値の算出結果 |
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規制除外の概念を使用して設定された天然起源の放射性核種のための放射能濃度値を表1に示す。また、規制免除の概念を使用して算出された人工起源の放射性核種を含む大量の物質のための放射能濃度レベルを表2に示す。 |
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表1 天然起源の放射性核種の放射能濃度値 |
放射性核種 |
放射能濃度
( ) |
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10 |
上記以外の天然に存在する放射性核種 |
1 |
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6. |
放射能濃度値の適用 |
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(1) |
適用の基本的考え方 |
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表1に示された値を下回る、天然起源の放射性核種を含む物質を規制することは通常不必要であるとしている。ただし、表1の値を下回る放射能濃度を有する物質からの被ばくが、ある種の規制上の管理を規制当局に考えさせるような状況が存在する可能性がある(例えば、天然の放射性核種を含むような建材の使用)。このため、規制当局は、このような状況を調査し、必要と考えられる行動を取れるように権限を留保しておくべきであるとしている。また、放射性核種の放射能濃度が表1に与えられた放射能濃度値を超えているならば、規制当局は、適用する規制の程度を検討する必要があるが、その際には(4)項で述べる段階的(graded)アプローチが適用可能であるとしている。
人工起源の放射性核種を含む物質については、物質中の放射性核種の放射能濃度が表2の放射能濃度値を下回っているならば、物質の取扱と使用は、規制免除の検討対象になるとしている。また、天然起源の放射性核種と同様に、表2の値を超える場合には、段階的(graded)アプローチが適用可能であるとしている。
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(2) |
クリアランスへの適用 |
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表2の放射能濃度値をクリアランスに対して適用可能であるとしている。
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(3) |
取引への適用 |
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表1と表2に示された放射能濃度値を下回る放射能濃度で放射性核種を含む物品の国内と国際取引は、放射線防護の目的のための規制上の管理を受けるべきではないとしている。
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(4) |
段階的(graded)アプローチ |
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検討対象物質中の放射能濃度が、表1と表2の放射能濃度値を超える場合には、以下のような規制の運用が可能であるとしている。 |
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● |
放射能濃度値を数倍(例えば、10倍まで)超える場合、国内の規制の枠組みによっては、規制機関は規制要件を適用しないことを決定できる。その際、多くの場合は、ケースバイケースで判断が行われるが、この程度であれば、規制が不要であると予め規定することも可能である。 |
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● |
規制を行うことを決定した場合、規制の程度(届出、許可等)は、リスクの程度に比例したものであること。 |
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7. |
その他 |
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RS-G-1.7に示された内容については、次回のBSS改訂時には取り入れることが計画されている。 |
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RS-G-1.7で示された放射能濃度の算出根拠を取りまとめた安全レポート「規制除外、規制免除及びクリアランスのための放射能濃度値の算出」については、RS-G-1.7と同時期に出版される予定であったが、校正作業に手間取ったため、現在出版準備段階にある。 |
● |
RS-G-1.7を受けて、クリアランスレベルの測定に関する安全レポート「クリアランス規準の遵守のためのモニタリング」の原案が検討されている。 |
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