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第1章 法制問題小委員会

第1節 私的使用目的の複製の見直しについて

1  問題の所在

   個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする複製(以下「私的複製」という。)については、実際上家庭内の行為について規制することは困難である一方、零細な複製であり、著作権者等の経済的利益を不当に害することがないと考えられたため、著作物を複製することができるとされている(第30条第1項及び第102条第1項)。
 著作権法は他方において、昭和45年の現行法の制定以降、技術革新を踏まえ、私的複製の範囲として権利制限を認めておくことが不適切と考えられるものについては、上記の趣旨も踏まえながら、私的複製の範囲を制限し(第30条第1項第1号及び第2号)、あるいは、私的複製の範囲内において行われる私的録音録画については、一定の条件の下で補償金を課すことにより(第30条第2項)、権利の保護と公正な利用とのバランスを図ってきたところである(【別添】参照)。なお、その際の考慮要素としては、上記の趣旨と併せて、個人的かつ家庭内の複製について個別に権利を行使しようとする場合の費用(トランザクションコスト)の存在も含めて考えられるものといえる。

 

   複製・通信技術の発達は目覚ましく、私的領域においても、大量かつ広範に高品質の複製物が作成されうる状況である。特に、インターネットを通じた著作物等の交換・共有は、大量かつ広範な複製を可能にしている。しかし、技術革新は、複製の拡大ということだけではなく、同時に、私的領域であっても、契約や著作権保護技術を通じて、権利者の利益を確保することも可能性となしうるものである。
 このため、現行法の制定当初は予定していなかったと考えられるこのようなデジタル化・ネットワーク化等の急速な技術革新に対応して、私的複製に関する適切な権利保護の在り方について検討を行うことが必要となっている。

 私的複製における権利保護の在り方については、上記のとおり、立法措置としては、これまで、私的複製の範囲から除外し、又は補償金を課することにより対応してきたところである。しかし、私的複製をめぐっては、立法措置以前に、関係者間の契約や著作権保護技術を通じて、私的複製の範囲を事実上制限することが可能になりつつあることから、まずは、このような場合における契約の有効性や権利者が被る不利益との関係について、整理が必要となる。
 その上で、そのような私的複製の範囲を前提として、問題とされる私的複製について、私的複製の範囲から除外する必要があるのか、あるいは補償金を必要とすると考えるべきか等、立法措置の必要性の有無について、私的複製についての立法趣旨も踏まえながら、検討することが必要となる。

2  検討課題

 
(1) 解釈上の検討課題

 
1 私的複製と契約との関係

   例えば契約により複製の回数等が制限されている場合には、その契約(いわゆるオーバーライド)は有効なのか、また、その契約が存在する場合における私的複製の範囲はどこまでを指すのか。

2 私的複製と著作権保護技術との関係

   例えば、著作権保護技術のルールに従って、利用者が複製を行う場合も、私的複製の範囲内といえるのか。

(2) 立法上の検討課題

 
1 私的録音録画補償金関係

   私的録音録画補償金の対象である私的録音・録画について、大量かつ広範に行われている私的複製の現状に加え、著作権保護技術の普及・適用状況や、そのような保護技術を前提とした契約の存在も踏まえたとき、現在の私的録音録画補償金制度が対象とする範囲等について見直しの必要があるのか。

2 違法複製物等の扱いについて

   著作権者等の許諾を得ずに違法に複製・頒布等された著作物等の複製物からの複製について、現行法では、私的複製の対象から除外する明文の規定はないが、このような違法複製物等について、大量かつ広範な複製の可能性が考えられることから、著作権者等の利益の保護の観点からどのように考えるべきか。

3  検討結果

 
(1) 解釈上の検討課題

 
1 私的複製と契約との関係について

   私的複製と契約との関係については、「著作権法と契約法の関係について(いわゆる契約による著作権法のオーバーライド)」として、法制問題小委員会契約・利用ワーキングチームにおいて、平成17年以降検討を行い、契約・利用ワーキングチームにおける検討では、ソフトウェアや音楽配信等に関する契約において、私的複製に関する権利制限を定めた第30条をオーバーライドする条項については、基本的には無効とするべき理由がないと整理を行ったところである(後述第3節)。

 ただし、私的複製に関する規定をオーバーライドする有効な契約があるからといって、それだけで当然に第30条第1項柱書に定める私的複製は存在しえなくなるものではなく、私的複製の範囲については、個々の契約内容に照らして個別に判断される必要がある。
 また、上記に関連して、契約によって複製可能な範囲が限定され、その可能な範囲内の複製が私的複製として位置づけられる場合、その私的複製によってなお権利者の利益が害されているといえる場合があるか否かについては、実態に照らして別途検討される必要がある。この点について特に検討を要する分野は私的録音・録画であるが、私的録音・録画については私的録音録画小委員会において検討を進めていることから、同小委員会においてこの点にも留意した検討が進められる必要があると考えられる。

2 私的複製と著作権保護技術との関係について

   著作権保護技術は、それにより複製可能な範囲が制限されるものであるが、複製可能な範囲内の私的複製については、第30条第1項柱書に定める私的複製の枠内にあるものとして位置づけられると考えられる。
 もとより、そのような著作権保護技術だけではなく、著作権保護技術を前提とする契約があると認められる場合の私的複製の位置づけについては、私的複製と契約に関する上記の議論が同様に当てはまる。したがって、この場合についても、複製可能な範囲内における私的複製によって、権利者の利益が害されているといえる場合があるか否かについては、実態に照らして別途検討される必要があることから、私的録音録画小委員会において、この点にも留意した検討が進められる必要があると考えられる。

(2) 立法上の検討課題

 
1 私的録音録画補償金関係

   私的録音・録画については、複製の実態についての急激な変化の中で、上記の契約や著作権保護技術に係る整理も踏まえ、権利の保護と著作物等の公正な利用とのバランスを図る方策について、補償金制度で対応するべき範囲、著作権保護技術等で対応するべき範囲の検討も含め、私的録音録画小委員会において検討を進めることが適切である。

2 違法複製物等の扱いについて

   インターネット上で著作権者等の許諾を得ずに複製・交換されている著作物等を、私的複製(ダウンロード)する場面に、特に問題となる。
 もとより、私的使用のため一旦複製したものを、その後公衆に頒布又は提示する場合は、原則に戻り、許諾が必要となる(第49条第1項第1号及び第102条第4項第1号)。したがって、例えば、ファイル交換ソフトを利用して音楽ファイルを自分のパソコンにダウンロード(私的複製)し、さらにアップロード状態にして、インターネットを通じてファイルを自動的に公衆送信した場合には、「目的外使用」として、著作権者等の許諾が必要となる。また、アップロード行為自体、送信可能化に関する権利が別途働く(第23条、第92条の2及び第96条の2等)。
 このような現行法における規定以上に、違法複製物等を私的複製としてダウンロードすることについて、第30条において、私的複製の範囲から明文で除外する規定を設ける必要性があるかについては、「家庭内の行為について規制することは困難である」との第30条の立法趣旨や、「著作権者の利益を不当に害するか」等の観点に十分留意して検討する必要がある。この課題に関して特に検討を要するのは音楽についてであり、私的録音録画補償金の在り方の議論と密接に関係することから、私的録音録画小委員会において、この点にも留意した検討が進められる必要があると考えられる。

(3) まとめ

   私的複製の範囲にかかる立法上の検討課題については、私的録音・録画の在り方にかかる検討を避けては通ることはできないが、私的録音・録画の在り方は、私的録音録画補償金の在り方と密接に関係する課題である。すなわち、私的録音・録画の在り方については、私的録音・録画の現状を踏まえ、私的領域における複製に関し、権利の保護と著作物等の公正な利用とのバランスを図る方策として、いずれの部分を補償金で対応し、著作権保護技術等で対応し、あるいは私的複製の範囲としておくことが適切なのかといったことについて、一体的な議論が必要となる。
 したがって、法制問題小委員会としては、私的録音・録画に関する私的録音録画小委員会における検討の状況を見守り、その結論を踏まえ、必要に応じて、私的複製の在り方全般について検討を行うことが適当である。



別添

私的複製に関するこれまでの改正

(1) 昭和59年改正〔公衆向けに設置された自動複製機器を用いた複製〕
 
私的複製であっても、公衆による使用を目的として設置されている自動複製機器を用いて行う複製については、権利制限規定の対象とならない(第30条第1項第1号及び第102条第1項)。また、このような自動複製機器を営利を目的として、著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となる著作物又は実演等の複製に使用させた者に対しては刑罰が科せられる(第119条2号)。 ただし、当分の間、ここでいう自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製のために使用されるものを含まない(附則第5条の2)。
 
【趣旨】  公衆の利用に供することを目的として設置された自動複製機器を用いた私的複製については、家庭のような閉鎖的な私的領域における零細な複製を許容する趣旨を逸脱すると考えられることから、権利制限規定の対象から除外したもの。
 なお、文献複写の分野については、必ずしも権利の集中処理の体制が整っていないことから、附則第5条の2において、当分の間の措置として、権利制限の対象から除外される自動複製機器には文献複写機は含まないとされている。

(2) 平成4年改正〔私的録音録画補償金制度〕
 
私的複製のうち、デジタル方式の私的録音録画については、政令で定める機器及び記録媒体による録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を権利者に支払わなければならないとされた(第30条第2項及び第102条第1項)。
 
【趣旨】  デジタル方式の私的録音録画については、広範かつ大量に行われ、さらに市販のCD等と同等の高品質の複製物を作成しうるものであることから、そのような私的録音録画を自由とする代償として、政令で定める機器及び記録媒体による録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を権利者に支払わなければならないとしたもの。

(3) 平成11年改正〔技術的保護手段の回避による私的複製〕
 
私的複製であっても、技術的保護手段(第2条第1項第20号)の回避により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになった複製を、その事実を知りながら行う複製については、権利制限規定の対象とならない(第30条第1項第2号及び第102条第1項)。
 
【趣旨】  技術的保護手段が施されている著作物等については、その技術的保護手段により制限されている複製が不可能であるという前提で著作権者等が市場に提供しているものであり、技術的保護手段を回避することによりこのような前提が否定され、著作権者等が予期しない複製が自由に、かつ、社会全体として大量に行われることを可能にすることは、著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあると考えられることから、権利制限規定の対象から除外したもの。

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