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4.税関における水際取締りに係る著作権法の在り方について

1. 問題の所在

 
(1) 現状について
   経済のグローバル化の進展により、企業等による国境を越えた経済取引が活発化する一方で、模倣品・海賊版が国際的に取引される事例も増大している。

  【知的財産侵害物品の輸入差止状況】
  (出典:「平成17年の知的財産侵害物品の輸入差止状況」財務省関税局)

 
   模倣品・海賊版問題が世界各国に拡散しており、反社会的勢力等の資金源となると考えられることから、こうした模倣品・海賊版の国境を越えた移動を未然に防ぐことが日本の著作物の国際的信用を高めるために非常に重要であると考えられる。このため、我が国では、各国が模倣品・海賊版の輸出及び通過を規制すること等を内容とする「模倣品・海賊版拡散防止条約」を提唱しており、2005年7月に開催されたグレンイーグルスサミットにおいて、小泉総理大臣から模倣品・海賊版の拡散を防止するための国際約束の必要性が提唱され、模倣品・海賊版取引の削減に関する文書(「より効果的な執行を通じた知的財産権海賊行為及び模倣行為の削減」)が合意された。
 「知的財産推進計画2006」においても、模倣品・海賊版の輸出・通過を取り締まる制度の整備が求められている。

  【「知的財産推進計画2006」(抄)】
 
第2章 知的財産の保護
2 模倣品・海賊版対策を強化する
  1.水際での取締りを強化する
(4)模倣品・海賊版の税関での取締りを強化する
 
2  模倣品・海賊版の輸出・通過を取り締まる制度を整備する
 
1  海賊版が侵害品発生国・地域から第三国で積み替えて輸出を行うなどの新たな手口が発生している現状を踏まえ、税関が著作権を侵害する物品の輸出・通過についても水際で取締りを実施できるよう、2006年度中に検討し、必要に応じ法改正等制度を整備する。
  (法務省、財務省、文部科学省)
  ※ 下線は当方で付したものである

(2) 関税定率法と著作権法との関係について
   現在、輸入禁制品については関税定率法に規定があるものの、輸出禁制品については関税関係法令に記載がない。
 この点、財務省関税・外国為替等審議会関税分科会に設けられた「知的財産侵害物品の水際取締りに関するワーキンググループ」において平成17年12月にまとめられた座長取りまとめでは、「輸出・通過の取締りの仕組みを関税関係法令の中で規定する場合、貨物の輸出及び輸入についての税関手続の適正な処理を図ることを目的とする関税関係法令の性格上、他の法令によりその輸出・通過が何ら規制されていない物品の輸出・通過を関税関係法令により独自に禁止することは適切ではないと考えられること、関税関係法令の中で税関が自らの権限をもって特定の貨物の水際取締りを行っているのは輸入禁制品であること等を踏まえると、…(中略)…各知的財産法上、輸出等が侵害行為とされる場合は、輸出を禁止する制度を設けることにより水際取締りを行う」と見解を示している。
 そのようなことから、水際で取締りを行うことができるようにするためには、知的財産各法において、輸出が侵害行為とされていることが必要となっている。

(3) 著作権法における考え方について
 
1 現行規定の考え方(適用範囲)
  (ア)輸出
   「輸出」とは「内国貨物を外国に向けて送り出すこと」を指す(関税法第2条第1項第2号)。
 現行の著作権法において、「輸入」に関する侵害みなし規定は存在するものの(第113条第1項第1号)、「輸出」を明示した侵害みなし規定は存在しない。
 ただし、侵害品を情を知って「頒布」し、又は「頒布の目的をもって所持」する行為は侵害とみなされる(第113条第1項第2号)。この点、「頒布」は有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること(映画の著作物の場合は公衆への提示を目的として複製物を譲渡し又は貸与することを含む)をいい(第2条第1項第19号)、この場合の「公衆」は「特定かつ多数の者を含むもの」であり(第2条第5項)、「頒布」とは、国内とともに国外への頒布も含むものと考えられている。(注14)
 したがって、「輸出」行為のうち、「頒布」行為の一部として、海外在住者等へ(情を知りつつ)侵害品を譲渡又は貸与する行為は、頒布権侵害となると考えられる。
 
   一方、「輸出」行為の形態に当たるが、以下の行為については現行著作権法において、侵害とみなされる行為に当たらない、もしくは当たるか否か不明である。
 
1 特定少数の者に対する侵害物の譲渡又は貸与の一環として、海外在住者等へ侵害品を譲渡又は貸与する行為
 
 
2 海外における頒布を目的として、特定少数の海外在住者等へ(情を知りつつ)侵害品を譲渡又は貸与する行為
 
 
3 「頒布」目的で、海外在住者等へ侵害品を譲渡又は貸与するために(情を知りつつ)所持する行為(「頒布」目的で海外に侵害品を携帯する行為)
 
 
4 「頒布(譲渡・貸与)」以外の目的(個人使用目的など)で、海外に侵害物を携帯する行為
 
  (イ)通過
   「通過」については、関税法等も含め、明確に定義する規定はないが、一般的に、日本の領域に一度入ったのち、他国へ送付される行為形態として、用いられている。
 著作権法第113条第1項第1号は国内において頒布する目的をもって「輸入」する行為について著作権等を侵害する行為とみなしている。
 したがって、「通過」行為の形態のうち、日本で頒布することを目的として「輸入」したのち、その貨物を第三国(外国)に送り出す行為については、輸入の時点で、現行法上侵害とみなされる行為に該当し、著作権侵害となる。
 なお、著作権法上は「輸入」について定義規定はないが、輸入を、「日本国の法令が及ぶことのできない領域から日本国の法令が及ぶ領域内に物を引き取ること」としている。(注15)したがって、侵害品が税関を通過するより以前の、日本に陸揚げされた時点で、「輸入」があったと考えられる。

 
   一方、以下の行為についても、「通過」行為の形態に当たると考えられるが、現行著作権法において、侵害とみなされる行為に当たらない、もしくは当たるか否か不明である。

 
1 外国からの貨物が単に我が国の領域を通過する場合
 
 
2 日本を仕向地としない貨物が荷繰りの都合上いったん日本で陸揚げされた後(保税地域に置かれる場合も含む)、日本において通関手続きを経ずに当初の仕向地に向けて運送される場合
 
2 属地主義との関係
   著作権法における属地主義の考え方については、通常、一国の著作権の効力が外国に及ばないという趣旨であると解される。このため、輸出を利用行為に規定することは、属地主義に反するのではないかとの考え方があり得る。
 しかしながら、輸出行為自体は、国内で行われる行為であり、海外における譲渡等の行為に対して直接的に我が国の著作権の効力を及ぼすものでもないため、属地主義に違反しないものと考えられる。

(4) 産業財産権法における「輸出」「通過」の考え方について
   特許法をはじめとした産業財産権法については、平成17年に産業構造審議会知的財産政策部会のもとに設置された各小委員会において、以下のような検討が行われた。

 
1 「輸出」について
   商標法を除く産業財産権法における「実施」行為及び商標法における「使用」行為には、侵害物品を国内から国外に送り出す「輸出」行為について規定が置かれていなかった。また、国内から国外へ侵害物品が搬送されることに伴い所有権の移転がなされる場合、こうした行為が「譲渡」に該当するか否かについては、裁判所による明確な判断は示されていない状況である。
 したがって、関係の小委員会においては、商標法を除く産業財産権各法における「実施」行為及び商標法における「使用」行為のそれぞれの内容として、「輸出」を新たに追加するとともに、産業財産権各法の「侵害とみなす行為」に「輸出を目的とした所持」を追加すべきであると判断し、産業発達という産業財産権法の目的から判断して、単に個人的あるいは家庭的な実施を除外するために「業として」という限定をかけるべき旨の検討が行われた。
 この検討結果を踏まえて、平成18年通常国会において法案が提出され、改正が実現したところである。

2 「通過」について
   まず「通過」と考えられる行為について、以下のような類型化が行われた。
 
(ア) 外国から到着した貨物が単に我が国の領域を通過する場合、
(イ) 我が国を仕向地としない貨物が荷繰りの都合上いったん我が国で陸揚げされた後当初の仕向地に向けて運送される場合
(ウ) 我が国を仕向地として保税地域に置かれた貨物が必要に応じ改装、仕分け等が行われた後、通関されることなく、我が国を積み出し国として外国に向けて送り出される場合
   このうち、(ア)については、我が国に陸揚げされていないため、特許法に仮に「通過」に関する規定を設けたとしても、その特許法の効力が及ぶと考えることは困難であると考えられるとした。また(イ)及び(ウ)については、侵害物品がいったん我が国に陸揚げされていることから、形式的には「輸出」に該当すると考えられるが、(イ)については、陸揚げの行為形態によっては、侵害物品の拡散には必ずしもつながらず、権利者の利益を害する蓋然性も低いと考えられる場合もあることから、個別に判断することが必要である。
 以上を踏まえて、「通過」に関する新たな規定について設けていない。

(5) 諸外国の情勢について
 
1  アメリカ著作権法
 輸出を著作権侵害として禁止したり、刑事罰の対象とする明文の規定はない。

2  イギリス著作権法
 輸出を著作権侵害として禁止したり、刑事罰の対象とする明文の規定はない。

3  ドイツ著作権法
 複製物の作成や頒布が著作権侵害であれば、権利者の申立てに基づき、輸出入に際して、差し押さえることができる。


第111条のb 税関の措置
1  複製物の製造又は頒布が、著作権又は本法に基づき保護を受けるその他の権利を侵害する場合には、模倣品、違法に製造された複製物又は偽造品を関税法上の自由流通又は非徴収手続に供することを禁じるための措置並びにそれらの輸出及び再輸出を禁じるための措置に関する1994年12月22日の理事会規則(EG)第3295/94号(官報EG L341号8頁)が、そのときどきに通用している文言において適用できないときは、これらの複製物は、権利侵害が明白である限りにおいて、権利者の申立に基づき、かつ担保と引き換えに、その輸入又は輸出に際して、税関がこれを差し押さえる。欧州連合の他の加盟国との流通及び欧州経済地域に関する条約の他の締約国との流通については、税関による検査が行われる限りにおいてのみ、これを適用する。

4  フランス著作権法

  侵害著作物の輸出については、侵害との場合と「同一の刑に処せられる」として、著作権侵害に関する刑事罰に関する規定を適用している。

第335条の2    著作者の所有権に関する法律及び規則に違反する文書、楽曲、素描若しくは絵画のいずれの出版又はその他の全体的若しくは部分的に印刷され、若しくは印刻されたいずれの複製も、侵害となる。また、いずれの侵害も、罪となる。
  2  フランス又は外国において発行された著作物のフランスにおける侵害は、2年の禁錮及び100万フランの罰金に処せられる。
  3  侵害著作物の小売、輸出及び輸入も、同一の刑に処せられる

第335条の4    実演家、レコード製作者、ビデオグラム製作者又は視聴覚伝達企業の許諾が要求される場合において、その許諾を得ずに行われる実演、レコード、ビデオグラム若しくは番組の有償若しくは無償のいずれの固定、複製、公衆への伝達若しくは提供又はいずれのテレビ放送も、2年の禁錮及び100万フランの罰金に処せられる。
  2  レコード製作者、ビデオグラム製作者又は実演家の許諾が要求される場合において、その許諾を得ずに行われるレコード又はビデオグラムのいずれの輸入又は輸出も、同一の刑に処せられる

5  中国著作権法

 中国著作権法には、輸出を著作権侵害として禁止したり、刑事罰の対象とする明文の規定はない。
 ただし、「中華人民共和国知的財産権海関保護条例」(2004年3月施行)では、「国家は知的財産権を侵害した貨物の輸出入を禁じる」として、輸出を禁止している。

第3条    国家は知的財産権を侵害した貨物の輸出入を禁じる。
  2  海関は関連する法律及び本条例の規定に基づき、知的財産権の保護を実施し、「中華人民共和国海関法」に規定された関連の権力を行使する。

6  韓国著作権法

  韓国著作権法には、輸出を著作権侵害として禁止したり、刑事罰の対象とする明文の規定はない。

2. 検討結果

 
(1) 「輸出」規定の必要性について

 著作権法においては「みなし侵害行為」(第113条)において、著作権等を侵害する行為によって作成された物を「頒布」する行為または「頒布の目的をもって所持」する行為については規定が存在する。しかし、必ずしも「輸出」行為自体が対象とされているものではない。国内における侵害行為を抑止し、水際において確実に侵害物品の取締りを行う観点から、「輸出」に関する規定を整備することが適当である。
 ただし、著作権等の侵害に係る「輸出」行為の取締りについては、すべての「輸出」行為を対象とすべきではなく、「輸出」行為の目的や態様等について限定をかけることが適当である。
 なお、「輸出」行為が実行されてしまった場合には、侵害品が拡散するなどしてその後の侵害防止措置が困難な状況に至ることから、「輸出」行為の予備行為として侵害に至る蓋然性が高い行為(輸出を目的とする所持)についても取締りの対象とすることが適当である。

(2) 「通過」に対する対応の必要性について

 「通過」行為には大きく分けると、1外国からの貨物が単に我が国の領域を通過する場合、2貨物がいったん日本で陸揚げされた後(保税地域に置かれる場合も含む)、日本において通関手続きを経ずに当初の仕向地に向けて運送される場合(いわゆる「輸入」行為と「輸出」行為が複合しているような場合)があると考える。
 この点、1については、我が国に陸揚げされていないため、そもそも著作権法の効力が及ぶことは困難であると考える。2については、著作権法における「輸入」は一般的に「日本国の法令が及ぶことのできない領域から日本国の法令が及ぶ領域内に物を引き取ること」とされており、通関を前提としたものではないと考えられるため、税関通過以前であっても、陸揚げにより保税地域等に置いた時点で「輸入」に該当すると考えられる。第三国に送付する行為は行為態様によっては「輸出」と考えられる場合もあり、「輸出」行為に係る規定により、個別に判断して対応することが可能と考える。
したがって、「通過」について、「輸出」行為として対象となるもの以上に、新たな規定を設ける必要はないと考えられる。



(注14) 加戸守行著『著作権法逐条解説 五訂新版』(著作権情報センター,2006)655頁
(注15) 前傾・加戸650頁

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