戻る



3    我が国の今後の舞台芸術創造活動への支援の在り方
   1.    舞台芸術創造活動への支援の基本的在り方
   今後一層我が国の舞台芸術創造活動を活性化するとともに,国民が多様で幅広い舞台芸術を享受できるようにするため,国が行う舞台芸術創造活動への支援については,次の各点を基本的在り方として考えていくべきである。

重点的支援と幅広く多様な支援をバランスよく,メリハリをつけて】
   国が行う舞台芸術創造活動への支援については,それぞれの支援の事業の目的を明確にし,それにふさわしい活動に対して厳正な審査の下,重点的に支援を行っていくべきである。
   一方,水準の高い創造活動は幅広い多様な活動の中から生まれてくるものであり,様々な芸術的価値の創造に挑戦する機会を多くの団体に多様な形で提供することが必要であり,このような点はこれまで文化芸術振興基金を中心に対応してきたところである。
   文化庁では,舞台芸術創造活動を国全体としてより一層活性化するよう,芸術文化振興基金の在り方も含めて,上記の二つの趣旨の支援を国全体の立場から今後ともバランスを取りつつ,よりメリハリをつけたものとしていくべきである。

中長期的な観点から創造活動が活性化するように】
   国の支援事業は,毎年度の予算により措置されるものであり,舞台芸術創造活動に対する支援についても,基本的には毎年度の手続に則って行われるものである。
   しかしながら,舞台芸術創造活動は他の文化芸術活動と同様,単年度での成果を求めることが適当でないものが多い。
   国が行う舞台芸術創造活動への支援については,我が国の文化芸術の将来的な発展という中長期的な観点に立って,創造活動がより一層活性化していくよう留意すべきである。

東京中心の視点から地域重視の視点へ】
   現在の国の舞台芸術創造活動への支援においては,文化芸術団体の多くが東京周辺に集中しているため,採択団体も東京周辺に集中する傾向があり,他の地域の文化力が全国に発信されにくい状況にある。こうした状況を看過すれば,我が国の文化芸術の全体的な活力も薄れ,また,それぞれの地域の特色ある文化が衰退していくことにもつながる。
   我が国の文化芸術の健全な発展を図っていく上では,このような文化の一極集中という状況を改善し,東京と地域との構造的違いにも配慮し,地域において優れた舞台芸術創造活動が活発に展開されることをこれまで以上に重視していくべきである。
   また,様々な地域における舞台芸術創造活動が全国的に発信され,相互に影響を与え合うよう,各地域における取組み,活動状況が全国に周知されるような方策についても配慮していくべきである。

人材育成をはじめとする基盤形成への支援の充実】
   舞台芸術創造活動が今後とも充実・発展していくためには,中長期的な観点からは,何よりも,才能ある人材がその能力を最大限に発揮できるような環境を整備することが最も重要である。また,より安定した活動を展開していくためには,舞台芸術創造活動に関する資料の収集,保存,調査研究とともに,この分野の様々な情報が円滑に入手できるような情報網の整備も重要であり,このような舞台芸術創造活動を支える基盤を形成するための事業への支援は,創造活動への支援と両輪を成すよう進めていくことが必要である。
   特に,人材育成策については,将来的に我が国の舞台芸術創造活動の振興に果たす役割が極めて大きいことを考慮し,我が国の将来の舞台芸術創造活動を担う若手の養成,プロデューサーなどのアートマネージメント担当者の研修,現場の舞台を作り上げていくために必要な人材の養成・研修などの充実に取組んでいくことが必要である。
   また,現在の舞台芸術創造活動を後世に伝えていくためには,資料,情報を体系的に収集し,保存・活用していくことが必要であり,そのための仕組みについても検討していく必要がある。
   さらに,我が国において舞台芸術創造活動が一層活性化されるためには,民間企業・団体等の果たす役割が大きいことに鑑み,このような民間企業・団体等が主体的に舞台芸術創造活動を行い,また,様々な支援を充実していくことができるような環境を醸成していくことも重要であり,そのために必要な税制上の措置などについても検討していくことが必要である。

鑑賞者の動向への配慮】
   国による舞台芸術創造活動への支援は,文化芸術団体が行う創造活動に対するものであるが,それと同時に,支援の効果が最終的に享受者の広がりを導くとともに,享受者の豊かな文化芸術体験の実感となり得ることに,留意しなければならない。このため,文化芸術団体においては自らの創造性を保ちつつも,鑑賞者の動向を踏まえ,享受者の広がりにも十分配慮するとともに,鑑賞者の動向を将来の活動に積極的に反映させていくことが望まれ,国としてもそのような取組を促進していくべきである。
   ただし,国の支援は,市場原理のみに委ねていては活動の継続が難しく,文化の多様性の確保の観点から重要であるものを中心に行われるべきであり,鑑賞者の動向への配慮という観点を重視するにしても,単純に鑑賞者数の競い合いに陥ることは避けなければならない。また,先駆的・実験的な舞台芸術創造活動など,現時点ではこれを支持する鑑賞者数が少なくても,将来的に我が国の文化芸術の振興に資する活動については,積極的に支援していくべきである。

子どもたちの教育の中における文化芸術活動の重要性を認識した取組】
   文化芸術は人間に人間らしさを取り戻させるものであり,子どもの時から舞台芸術創造活動などの文化芸術活動に触れる機会を充実させていくことが重要である。
   音楽,舞踊,演劇などの舞台芸術創造活動は,創造活動を体験することによって,子どもたちに他者の価値観の尊重やコミュニケーションの重要性などを学ばせることができ,また,鑑賞活動を通して,学校の生活では体験できないような感動を味わうことにより,いのちの大切さ,生きることの意味など人生において重要な価値を率直に伝えることができる。
   子どものうちから,舞台芸術創造活動に触れる機会を多様な形で提供していくとともに,学校教育の中においても,子どもたちの表現活動により一層積極的に取り組むことが望まれる。


   2.    舞台芸術創造活動への具体的支援策の方向性
      (1)    創造活動への支援
1 支援目的の明確化
   今後の舞台芸術創造活動への支援に当たっては,国として我が国の文化芸術の振興を図る上でどのような活動を重視しているのかなど,支援目的をより明確に示し,その目的に適した活動を厳正な審査により決定し,支援していくべきである。
   現在,文化庁が実施している創造活動への支援の中で大きな比重を占めている芸術団体重点支援事業は,団体が年間に行う自主公演事業全体を評価して支援を行っているが,近年,予算の増加に伴う対象分野や支援団体数も拡充してきた。このこと自体は大変好ましいことであり,今後とも,事業の拡充を図っていくべきであるが,事業創設当初と比べれば,支援内容が多様なものとなっている。このような状況を踏まえ,芸術団体重点支援事業については,その支援目的をより明確にするとともに,支援対象事業についても,これをより明確にし,それぞれの対象事業の趣旨に則した活動を支援対象とするなどの見直しを行い,その拡充を図っていくべきである。

2 支援対象事業・経費の範囲の改善
   上記1のような支援目的,対象事業を明確にし,見直していくに際しては,舞台芸術創造活動をより活性化していくという観点から,支援対象とする事業,経費について,これまで支援対象とされていなかったものについても,その目的に適するものについては,できる限り,創造活動の実態に則して,弾力的に考えていくべきである。
   また,昨今の文化芸術分野の細分化によって,既存の文化芸術分野には属さない舞台芸術創造活動も芽生え始めており,このような新しい領域横断的な舞台芸術創造活動や新たな芸術的価値の創造に挑戦する活動等への支援についても考慮していく必要がある。

3 各分野の特性に応じた支援
   舞台芸術創造活動には多様な分野があり,それぞれの分野によって規模が異なり,また,公演など活動の在り方も様々である。このように多様な形態を持つ舞台芸術創造活動への支援に当たっては,各分野一律ではなく,それぞれの分野の特性に応じた支援となるよう留意していくことが望まれる。

4 採択決定の早期化及び資金の早期交付
   舞台芸術創造活動は,企画から公演の実施まで相当の期間を必要とする。また,芸術的な完成度を高めようとすれば,必然的に準備期間に多くの時間と労力を費やさざるを得ない。
   特に,国際交流支援事業などはこの傾向が顕著であることから,支援対象事業はできるだけ早く決定されることが必要である。
   また,資金の早期交付については,現状の契約形態の事情も勘案し,公演実施後に可能な限り速やかに交付できるように,国及び文化芸術団体側の事務処理の効率化について検討するほか,文化芸術団体が公演の準備期間に一定の資金を確保できるよう,舞台芸術創造活動への低金利の融資制度やつなぎ融資制度の可能性についても検討していくことが望まれる。

5 地域の特色ある芸術拠点の形成へ
   我が国の舞台芸術創造活動の振興を図っていくためには,現在の一極集中を改め,各地域の文化力の形成とその発信がなされるような環境を整えていかなければならない。そのための新たな事業として,平成14年度から芸術拠点形成事業が開始されたが,各地域における中核となる特色ある芸術拠点が着実に形成されていくよう,芸術団体重点支援事業との関係に十分留意しつつ,対象事業をより明確にするなど,今後も一層その充実を図っていく必要がある。
   一方,団体に対する支援事業である芸術団体重点支援事業についても地域の芸術拠点における活動の展開にも配慮するなど,両事業による相乗効果により,地域の文化力の活性化が図られるよう考慮する必要もある。
   さらに,これらの支援に当たっては,各地域の芸術拠点と文化芸術団体や芸術家等との様々な提携関係(フランチャイズ制,レジデンシーなど)が促進されるよう配慮する必要がある。

      (2)    基盤形成への支援
1 人材育成策の充実
   人材の育成については,近年,新進の芸術家が育っている一方,現場で舞台を作り上げる人材,芸術家を育てる指導者,既に活躍する芸術家の再教育の場の不足などが指摘されており,こうした人材の育成を図るため,文化芸術団体による人材育成事業や新進芸術家国内・海外留学制度への支援を充実していくことが必要である。
   また,我が国の舞台芸術創造活動を活性化させる上で,各分野において実力と知名度を兼ね備えた団体・個人を育成することで,それぞれの分野の舞台芸術創造活動の国内的・国際的な知名度の向上を目指すといった手法も検討されるべきである。このような取組により,我が国の舞台芸術創造活動が,将来的には日本の顔ともなり,また観光資源ともなり得る評価が得られる可能性を秘めているため,国としては芸術家を育成する文化芸術団体と連携して表彰・顕彰などを充実していくことも重要である。

2 地域の文化力の全国への発信
   前述のように,文化芸術団体が圧倒的に東京周辺に集中している現状から,現在の国による舞台芸術創造活動の支援対象団体も東京周辺に偏在するという傾向がある。このような一極集中を緩和し,地域で行われている優れた舞台芸術創造活動を活性化させ,我が国全体の舞台芸術創造活動を発展させていくためには,地域の活動を全国に発信していく力を育てること,また,その基になる地域の舞台芸術創造活動の情報を積極的に収集,提供できる環境を整えていくことが必要である。
   地域で行われる舞台芸術創造活動については,地域からその活動を全国的に発信する人や媒体などがないことに起因する発信力不足が見られる。国においては,このような状況に鑑み,各地域で行われる舞台芸術創造活動を適切に評価し,その状況を全国に発信していくため,文化芸術分野の評論家や報道関係者など,必要な人材の交流と情報の流通を促進することを検討すべきである。
   また,各地域がそれぞれ特色ある取組を展開していくためにも,各地域で行われている舞台芸術創造活動の取組の現状を様々な角度から取り上げ,全国に情報提供していくことが必要であり,これには,マスメディアからの一層の協力が望まれる。

3 芸術団体のマネージメント機能の充実
   舞台芸術創造活動は,各団体がそれぞれの信念に基づき,主体的に実施するものであり,国の支援は,それを最大限尊重しつつ,助長していくべきものである。
   国の支援事業がその効果を充分に発揮するためにも,創造活動を支える各文化芸術団体のマネージメント機能がより充実していくことが望まれる。このため,国としても,文化芸術団体のマネージメント機能の充実のための各種取組への支援を充実するとともに,アートマネージメント研修の充実などにも積極的に取り組んでいくべきである。

4 地域,民間との連携による相乗効果
   舞台芸術創造活動への支援は,国のみならず,地方公共団体や民間企業・団体等においても実施されている。
   これらの支援は,それぞれの目的に応じて,独自の観点から行われるべきであるが,その効果の一層の拡大を図る観点から,国,地域,民間の三者による支援の有機的連携といった視点を持つことも必要である。
   特に民間企業・団体等による特色ある支援事業は,我が国の舞台芸術創造活動が多彩に展開され,意欲的な創造活動を活性化させるために重要なものであり,国としても支援活動に力を入れている民間企業・団体等を積極的に顕彰するなど,このような取組の推進を図っていくべきである。
   また,国立,公立,民間のそれぞれの文化施設における主催公演は,それぞれの施設の方針に基づき,特色ある事業展開がなされることが必要であるが,それとともに,それぞれの主催事業を必要に応じて連携させることにより,相互の活動がより多彩に実施され,また,経済的な効率化が図られることも期待できる。
   このため,各文化施設が各地域や所有する施設の特色などに応じた様々なネットワークを構築し,他の施設等と連携していくことも必要と考える。


   3.    新たな評価システムの確立
   国の支援事業の充実を図るためには,支援目的を明確に定めた後,それにふさわしい事業を選定する(事前評価)体制を整備するとともに,支援対象事業がその成果をどのように出したかを評価し(事後評価),このような事後評価をその後の支援事業に反映させていくような評価の仕組みを整備することが必要である。
   また,そのような支援事業の評価が適切に行われるためにも,評価の過程,結果等はできる限り一般国民に公開し,透明性を高めていくことが必要である。

(1)    団体の自己評価と情報公開等
   国が支援事業を実施するに当たっては,厳正な審査,評価に基づき行うことはもちろんであるが,支援を受ける各文化芸術団体が国からの支援を受けていることを自覚し,各々の活動をそれぞれの観点から自己評価し,それを国民一般に公開していくことは大変有意義なことと考えられる。
   各団体において,このような取組が今後積極的に行われることを強く期待するものである。

(2)    支援のための評価
1 審査(事前評価)体制・方法
   国の支援事業の対象活動の選定は,全て各分野の専門家,有識者による審査に基づき行われており,支援事業が効果あるものとなるかどうかは,最終的にはその審査体制・方法の在り方に負うものと言える。
   このため,支援事業の審査委員の選定に当たっては,それぞれの事業の審査委員に最もふさわしい人材を,当該分野の専門家を中心としつつ,より幅広い分野から選ぶとともに,審査に当たっては,審査委員による合意を基本としつつ,客観的な指標を参考にすることも考慮していくべきである。

2 事後評価の実施とその結果の支援への反映
   国の支援事業については,事業終了後,その事業報告の提出を求めているが,その内容について評価を行うことは一部事業を除いてはあまりなされていない。
   今後の支援事業の実施に当たっては,支援した事業のフォローアップを必要に応じて行うとともに,事業終了後は,その評価を行い,評価結果をその後の支援事業に適切に反映していく仕組みを検討すべきである。

3 評価の透明性,公開性の確保
   事前評価及び事後評価については,評価の公平性の確保を十分考慮しつつ,その透明性を高めるために,評価実施後は可能な限り審査委員などの審査体制,審査結果,さらに必要な場合には審査過程も含めて,公開していくべきである。
   そのためにも,各支援事業の目的,内容,審査基準等はより明確でわかりやすいものとし,公表していくべきである。


ページの先頭へ