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1    舞台芸術創造活動への支援の意義について
1.    舞台芸術創造活動の意義
   「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(平成14年12月閣議決定)においては,文化芸術の意義を,1人間が人間らしく生きるための糧,2共に生きる社会の基盤を形成するもの,3質の高い経済活動の実現を促す条件,4人類の真の発展への貢献,5世界平和の礎,の5つに要約している。そして,文化芸術は,芸術家や芸術団体,一部の愛好家だけのものではなく,すべての国民が真にゆとりと潤いの実現できる心豊な生活を実現していく上で不可欠なものであり,「国民全体の社会的財産である」ため,社会全体で文化芸術の振興を図っていくことが必要であるとしている。
   そのような文化芸術の中でも,音楽,舞踊,演劇といった舞台芸術は,創り手と受け手とが時間と空間を共有することによって,人と人とのつながりを深め,コミュニティの共通の基盤を形成するという重要な役割を果たしている。このため,舞台芸術創造活動を活性化することは,我が国の文化芸術の振興を促すとともに,広く社会全体の発展をも促していくという重要な意義を有している。
   優れた舞台芸術創造活動は国民全体の文化的高まりを導き,新たな文化芸術創造活動に貢献し,社会を活性化させる。また,科学技術の発達によって人間と自然との乖離が見られる今日,舞台芸術創造活動はこの溝を埋めることができるものとも言える。科学技術の発達により,利便性という面では人々の生活水準は向上を遂げたが,一方で,通信手段の多様化により,他者と同じ時空間を共有しているという意識が希薄になってきている。こうした共存の意識を呼び覚まし,人々のコミュニケーション能力を向上させていく上で,舞台芸術創造活動の振興は極めて重要である。
   先進諸国間における音楽,舞踊,演劇などの国際的な交流において,我が国はこれまでに海外から多くの影響を受けて来た。しかしこの21世紀においては,極東に位置し,西欧と異なる文化圏に属する日本が,独自のものを創造し,舞台芸術の分野で国際的に貢献することが求められており,その一層の振興は必要不可欠なものとなってきている。

2.    我が国の舞台芸術創造活動の現状
   音楽,舞踊,演劇などの舞台芸術は,我が国においても永い歴史を有しており,各時代において,有力者による保護,育成,大衆による支持などでその振興が図られてきた。また,近年では,国による舞台芸術創造活動への本格的な支援が開始され,芸術団体重点支援事業等の国からの支援,芸術文化振興基金による助成などによって,各芸術家・芸術団体の公演活動も活性化してきており,今日これらの舞台芸術創造活動は我が国の文化として国民生活の中に定着しつつある。
   しかしながら,これら舞台芸術創造活動の主体や活動拠点は,一部を除いて,ほとんどが事業規模の小さな団体であり,経済状況によってその活動が大きく左右される傾向が避けられない状況下にある。現に今日では,民間劇場の閉鎖などが見受けられ,創造活動の停滞が憂慮される事態が生じている。また,稽古場等の活動場所の恒常的な不足や借料等の財政的な負担などもかねてから指摘されている。さらに,地域における創造活動の発表の機会の不足などから,創造団体が東京一極に集中し,その結果,地域の特色ある文化芸術の衰退なども問題となっており,国による舞台芸術創造活動支援の更なる充実と,より有効な運用が望まれている。

3.    舞台芸術創造活動への支援の必要性
   芸術家や芸術団体等が行う舞台芸術創造活動等は,我が国の社会に活力を与えるとともに,諸方面に及ぶ国民の活動の活性化が促され,文化面のみならず経済面における波及効果など様々な効果が期待できる。
   しかし,舞台芸術創造活動は,一回の上演に際して鑑賞し得る観客の人数に一定の限界があり,また,公演回数にも限りがあるなど,構造的に創造活動と鑑賞活動の経営バランスがとりにくい分野である。したがって,舞台芸術創造活動の評価を市場原理だけに委ねてしまうことは避けなければならない。
   無論,多数の観客の支持を得て,レパートリー化や長期興行を可能とするなど,各団体が自力で収益をあげていく道を探るべきであることは言うまでもないことである。
   そもそも,舞台芸術創造活動は,常に多様な芸術観の下に自由な発想による開拓や挑戦が活発に行われなければならない。興行的な成功が期待される作品だけでなく,先駆的・実験的な作品が常に意欲をもって創りだされるべきであり,また少数の観客に強く支持される作品も社会全体として尊重していくことが必要である。また,舞台芸術創造活動は作品創造のための初期投資や公演毎の経費などの点において本質的に採算が取りにくい分野である。それは舞台芸術という芸術形態の構造に由来するものであるため,いつの時代にも誰かが財政的にこれを支えていかなければならないものである。
   我が国では,舞台芸術をはじめとする文化芸術活動は経済活動と二極を成して社会を構成するものであるにもかかわらず,経済効率ばかりが重視され,文化芸術が軽視されてきた経緯がある。文化芸術立国を目指す今後の我が国の在り方として,国の施策として文化芸術活動への支援を充実させていく必要がある。
   現在の日本においては,各地方公共団体や企業のメセナ活動にも大いにこれを期待するものであるが,上記に鑑み国の施策として強力な支援を行っていく必要があろう。



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