審議会情報へ

文化審議会

2003年7月30日 議事録
文化審議会著作権分科会   契約・流通小委員会(第3回)議事要旨

文化審議会著作権分科会   契約・流通小委員会(第3回)議事要旨

1.   日  時 平成15年7月30日(水)14:00〜16:00

2.   場  所 経済産業省別館10階1020号会議室

3.   出席者  
      委員)
紋谷主査、飯田、石井、今川、上原、大森、加藤、久保田、児玉、佐々木、寺島、土肥、生野、橋元、橋本、松田、森田の各委員

      文化庁)
素川次長、森口長官官房審議官、吉川著作権課長、川瀬著作物流通推進室長、その他担当者

4.   配付資料:

        契約・流通小委員会  第2回  議事要旨(案)  
  大森委員の説明に対する意見について(前回議論の意見)  
  ライセンシーの保護に関する論点の整理について  
  利用許諾契約に係る権利者Aと利用者Cの債権・債務関係の一例 (PDF:14KB)

参考資料
   
1−1     金融審議会「信託業のあり方に関する中間報告書」のポイント (PDF:28KB)
1−2   「信託業のあり方に関する中間報告書」(概要) (PDF:33KB)
1−3   「信託業のあり方に関する中間報告書」 (PDF:115KB)
  破産法等の見直しに関する要綱案(抄) (PDF:15KB)

5.   概  要:
   (1)    「ライセンス契約におけるライセンシーの保護」について
   事務局から資料に基づき説明があった後、各委員により以下のような意見交換が行われた。(以下、委員:○、事務局:△)

○D案については、不動産取引の対抗要件の関係によく似ていると思う。D案とC案とは対抗要件による方法とそうでない方法ということで分けられているが、かなり近い説である。D案は、既に事業化されているのであれば、譲受人はその事実を知っている筈だ、という考えに基づき、対抗力を付与するものであり、不動産取引の対抗要件もそのような思想に則ったものである。
   C案は、知的財産制度又は物権法の対抗要件制度全体に影響を与えることなく、状態債務関係の承認という法理を著作権法に入れることが出来る。

○債権債務関係が著作権の譲受人に対して移るかどうかという議論は、A、B、D案においては当然議論になるが、C案は契約が移るか移らないかを決めるのだから、移るとなれば契約関係は全部移るので、契約の承継の問題はないことになる。

○独占性の保護については、いわゆる独占とは、第三者に利用許諾をしないという意味の債権的な約束であると理解している。私は、独占性を保護する必要はないと考えているので、そういう意味で、著作権の譲受人はそのような債務を負担しないというのが原則と考えている。
   サブライセンスについては、許諾されたサブライセンス権は保護されるべきだと考えている。
   保守保証の債務を譲受人に負担させるかについては、譲受人に保守保証を行う能力が有るか無いかに関わらず、そのような債務は負担しないことを原則とするのが、著作権の対抗制度としてあるべき姿と考える。
   著作者人格権の不行使の特約については、著作権の譲渡に伴ってライセンス契約のライセンサーの地位が著作権の譲受人に承継されるべきではないと考えているので、その考え方に沿えば、譲渡人である著作権者は引き続き契約関係の拘束を受けるので、著作者人格権の不行使について問題となることはない。

○著作権法でいう手足理論とサブライセンスの違いについてだが、情報財のライセンスを受けてそれを利用をする場合は大きく二つある。一つは作業の一部を下請けにやらせてその成果を発注元にリターンし、対外的な商売は発注元がやるという場合。これはいわゆる手足理論に対応する実態と思う。こういうやり方はだんだん少なくなっている。現在は、サブライセンスによる事業形態、つまる親会社が事業を行うというより、子会社が行うという形が増えている。このような場合は、契約の当事者は親会社だが、実質的な事業の実施主体は子会社であって、子会社が取引の相手方から情報財の提供を受ける。子会社が対外的な事業の実行主体なるという事例が増えている。その場合は、別法人である子会社がライセンスの実行主体となると思う。

○AからBに著作権が譲渡された時に、原則として全て承継することとして、法律で一定の事項は承継しないという方法を想定しているのか。議論の前提が曖昧な感じがする。AとCの契約において、著作権が譲渡された場合のことについて言及することは、別に法律がどうなっているかに関係なく、契約の実務として結構ある。

○論点1の前提について確認したい。契約を分解して承継されるものとされないものに分けて考えるということを論じているのか、そうではなくて、契約の債務の承継とは別に法律上著作権の内容がある契約の内容に従って縮減するというようなことを論じているのか、論点1の整理の前提について教えて頂きたい。

△事務局としては、AC間の契約が著作権の譲受人Bに承継されることを前提とするのではなく、例えば独占性は保護されるべきか等、ライセンスの承継と関係なしに、ライセンシーを保護するためにはどのような制限が著作権の譲受人Bに課されるべきなのかを議論した上で、次の論点としてそれを実現するために、契約を承継させるのか、法律上に制限を規定するのかを考えるのが分かり易いのではないかと考える。

○本来的には、全部まとめて安心して買えるというのが、ライセンシーにとって何より大切。社会通念上買っているものに明らかに何かが欠けている制度をつくりたくないというのが素朴な想い。

○JASRACの場合には応諾義務がある。JASRACに信託している時はJASRACは応諾義務があるから、合理的に拒否する理由がない以上応諾する。例えば、放送局には人格権を侵害する使い方でなければ自由に使っていいという包括許諾を与えている。
   あるシリーズもののテーマに使われている曲について、委託者である著作者がJASRACとの信託契約を解除した場合、当然JASRACの権利行使からは外れる。その場合信託契約を解除した著作者は、個人なので応諾義務はない。シリーズものだからすぐに代えることができないので、その著作者に悪意があった場合、JASRACの許諾条件、つまり使用料が安過ぎる、この楽曲はそんな価値じゃない、さあ払え、ということが実際に起こり得ると思う。我々としては、ライセンシーを保護したい。少なくとも応諾義務がある時点でライセンスしたものについては、一定の期間何らかの形で保護したい。

○世の中の変動は非常に激しく、ここ10年のうちにはローカル局の中で、潰れるところや統合されるところが出てくるのではないかという予想もある。プロダクション側も離合集散或いは潰れるという事態が、放送局より先に進んでいるということがあるわけで、そうすると、映画の著作権者がどこかに消えてしまって、契約したのに使えないというような事態が増えてくる。

○サブライセンスの問題についてもう少し詰めて議論すべきではないか。手足理論で言うと、放送局の場合、全国放送権を買っても、自社でその事業を実体化することはできない。免許はそれぞれの地域毎で持っているのだから自分の地域外は全て他社にやらせるしかない。それは手足理論なのか。事業主体は別だから、自分がライセンスされたが自分ではやりようがないので手足としてやってもらうという意味では、手足と言えるかもしれないが、学校の先生がコピーを子供にやらせるのとは違う。考え方としては、著作権者との契約によってキー局が系列局に許諾する代理権が与えられていると考えるのか、或いは、これは解釈上難しいかもしれないが、著作権のごく一部を、限定的に条件付で譲渡されているという考え方ができないか。例えば、放送権を期間と回数と地域を含めて譲渡されていて、譲渡されている以上はその間は自分が使えるということ。その辺のところを詰めて、何らかの解決が出ると、契約が承継されるかという議論も解決する。本当に限定譲渡ということが認められ得るのであれば、その間著作権が譲渡されているのだから、契約関係が解除されても問題ないわけで、その期間が切れるまでは放送局は権利者である。そういう考え方が出来ると契約がしやすい。独占性の問題も同時に整理される。サブライセンスの問題は現場では必ず起きているので、大きな問題として整理した方がよいのではないか。

○独占性については、放送業界としては何らかの形で保護されないと意味がないというのがビジネスの実態。委員の説明は、委員自身が所属する産業界の実態に照らし、独占性の保護は不要であり、逆に契約全体が移行する方が問題である、という主張だと思うが、放送業界だけでなく著作権の業界においては、独占性を保護しないのであればライセンシーが保護されないのと同じという実態がある。ここについては真剣に議論して頂ければありがたい。

○借地借家の場合には、対抗できると書いてあるが契約上の地位が承継されるとは書いていない。しかし最高裁は、そういう場合には契約内容全てについて承継されると判断している。従前の契約は承継されるということから出発すると、著作権や特許の場合、全て承継されるという考え方ではうまくいかない部分がでてくる。それをどう修正するかという形で問題を整理する方法があり得る。
   それから、そうではなくて、法律上、著作権の譲渡人AとライセンサーC間のライセンス契約に関するある部分について、著作権の譲受人Bが権利行使できないという著作権法上の制限という形で整理するという方法も部分的には考えられるが、これは説明が難しいし、実際に問題が生じた時に処理が難しくなる。契約が承継されるということから出発して、それをどう修正するかという議論をしていく方が現実的である。
   処理が難しいと言ったのは、AC間のライセンス契約が残るとしても、それがそのまま存続し得るのだろうか。履行不能になって契約が消えてしまえば、制限も当然なくなるから、結局Bは完全な著作権を取得することになるので、CはBに対して保護されない。AC間の契約が存続する限りはCが保護されるという構成で行くと、契約が履行不能になった場合、或いはAが法人でそもそも消滅してしまった場合には、保護がなくなってしまう。やはり著作権の所在と契約関係の所在を、ある範囲で一致させないと、ライセンシーの保護にはならないのではないか。

○どの範囲までを一つの契約と見るかということが論点としてある。クロスライセンス契約を一つの契約と見るか、二つの契約と見るのかによっても制度の作り方が違ってくる。保守保証やサブライセンスについても、別の合意が付加されていると見るのか、一体としてみるのか、これは対価の問題とも関係してくる。

○実務的には、例えば、利用許諾を情報財について得るといった場合、日本だけのライセンスを受けるということは稀であって、各国の著作権制度に基づく許諾を受ける。
   著作権の譲渡が全てワールドワイドで一括して行われるかというと、それはまた別でして、特許の例で申し訳ないが、我々も多数の特許を持っていて、様々な所に売っているが、全世界ベースでの取引ということではなくて、日本の特許は売るが、米国の特許は引続き保持する、というのが現実である。この場合、契約の準拠法は外国法ということが多いので、日本の著作権の移転に伴う効果として契約関係が承継されるという理屈は、外国の準拠法との整合性について、実務的に頭を悩ませている。

○米国の著作権法にはライセンシー保護の条文があって、米国法が適用になると契約に書いてあれば、米国法を適用すると契約書に書いているのだから、日本の企業がそのような契約の当事者だとしても米国法が適用される外ないのではないか。日本法を適用できる法律関係であって、かつ今後ライセンシー保護の法制が出来た場合には、日本法によって保護されるということになるのではないか。
   どの国の法律が適用されるか実に難しい。沢山の論点を含んでいるので一概には言えない。契約の中でそのように適用について規定しているのであれば、割切って考えればよいではないか。

○契約で定めていればそれに拠る。そうでない限りは保護国法主義が一般的な考え方である。

○契約を承継させたい場合に、AC間のライセンス契約で準拠法を当事者で決めておいたとしても、今の議論は、その契約の当事者ではない譲受人Bとの関係で契約関係を承継させるのかさせないのかという議論であって、譲受人BとCの関係なので、AC間であらかじめ決めていた契約の条項が、譲受人Bに対していかなる意味があるのかという問題意識を持っている。

○その場合には、保護国法主義に戻ってくるのだろう。

○問題の整理の仕方として、対抗力を付与するけども公示不要と、公示必要という二つ考え方があるという整理だが、従来対抗力というのは、登記、登録、その他の公示する手段のことを言っていると思う。公示がないということと対抗力を付与するということが、法制的に可能であるということを説明することは、かなり難しい。
   D案は   公示不要に入っているが、事業化の事実は外形的に確認できるから、外形的な事実として事業化を対抗要件にするというものである。これは、借家の場合にそこに住んでいるという事実を要件とすることに似ているので公示必要に分類してもよいのではないか。
   書面による契約について、当事者間で作った書面が公示手段となりうるか疑問である。公示手段がないのに対抗要件があるということは法制的にありえないのではないか。契約内容を第三者に知られたくないという点がネックになっているとすれば、債権譲渡登記などの例もあるので、公示制度を工夫すればよいのではないか。

○著作権の譲渡があった場合におけるライセンシーの保護について、例えば、著作権法の権利制限のところに規定して一定の者に対して権利行使が出来なくする場合、その行使が出来ない権利を何にするか、そしてライセンス料に関しては相当な対価の規定で調整するということも考えられるが、そのやり方は難しいと思う。著作権が譲渡された場合は、やはりライセンサーの地位も基本的に移転をするということを前提として、その前提でどうするかについては、著作物の流通の促進などの知的財産推進計画も踏まえた上で考えていけばよい。ライセンス契約の承継については、基本的には承継されるという前提で、この議論が始まった主旨からして、実態とあまり遊離しないところを探していく必要がある。

○対抗要件を付与する方法又は対抗要件を付与しない方法によって、ライセンシーをいかに保護するかという議論は、著作権法だけの問題として考えることは出来ない。既に特許法等の工業所有権については、公示制度を設けて対抗要件を取得させるという方法を通常実施権等で認めているが、著作権について単に書面による契約によって対抗力が取得できるとすることについては、特許法等との整合性を考えなければならないのではないか。公示制度を採るというのであれば、特許法と横並びの制度とし、通常のライセンス契約について対抗要件を取得させるという制度にならざるを得ないと思う。

○産業界の実態を説明させて頂くと、まずは外国契約が多い。各国の著作権法に基づいて包括的に許諾がされるという実態が多い。ここは著作権法の議論の場ですが、知的財産法一般との整合性の問題もあろうかと思う。情報財のライセンス契約では、著作権の許諾という言い方はしない。ある特定のコンピュータプログラムを複製・頒布してよい、という書き方になっていて、相手が持っている無体財産権を、著作権であろうと、特許権であろうと、かつ相手方がソースコードを提供することであれば、営業秘密と言いうか、トレードシークレットも併せて許諾されている。無体財産権の束が一括して許諾されているという実態がある。
   特許のアナロジーで申し訳ないが、業界の大手企業のクロスライセンスの許諾は、フィールド・オブ・ユースという考え方をとっている。そして数万件許諾した中の百件を切売りするし、相手も同じように切売りするという実態が日常である。そういう契約にどのように対抗力を持たせるかという問題がある。仮に保護されるとして、契約関係はどのように承継され存続することになるのか。情報財のライセンスは、何も典型的なライセンス契約だけではなく、様々な契約で行われているということを前提に検討頂きたい。

○著作権の利用を、著作物のライセンス契約ではなくて、知財全般をまとめた形で、特許であろうが、不正競争防止法上の権利であろうが、使用を認めるという実態があるから、著作権の問題としてだけではなく、知財全般に通じるルールを作らなければならないのではないか。そういう契約で許諾されたライセンシーを保護するためには、特許法上も、不正競争防止法上も、著作権法上も保護されるライセンシーの立場を作らなければならないのではないか。著作権法だけ特殊な対抗要件を作るなどということはむしろ馴染まない。
   クロスライセンスをしていて、クロスライセンスの対象の一部の権利を第三者に譲渡した場合、譲受人が従来のライセンシーに対して訴えを起こすことはしょうがない。むしろ、それを回避するためには、一部譲渡時に、クロスライセンスの対象になっている権利であることを明記し、ライセンシーが存在することを承継させなければ、単純に訴えられる可能性ある。

○クロスライセンスの対象になっている特許の一部が第三者に譲渡された場合にどうなるかということですが、特許法の話になるが、登録して対抗力を備えていれば当然保護されると思う。ただし、お互い何万件もの許諾対象がある時に、選んで登録することはできないので、従って、現状では特許が譲渡された場合に新たな権利者から権利行使を受ける可能性があるという指摘は、その通りであると思う。

○営業秘密の話があったが、営業秘密については第三者に対抗できるということになっていないので、営業秘密まで含めて保護しようというのはそもそも出来ない。破産法の要綱案を前提に保護を考えるとその前提から外れる。その議論をするのであれば、そういう問題に対応できるような破産法の要綱案をまとめなくてはならなかった。知的財産の一部、少なくとも第三者の対抗という論議が適用できる部分についてだけ、ここで議論するということにならざるを得ないのではないか。
   クロスライセンスの場合に、第三者に対抗できる権利が契約の一部をなしている時にどうなるか、そういう場合に一部だけ移転するというのはおかしいので、このまま全部残るという処理はあり得ると思う。そのような場合と単純なケースとをどう切り分けていくのかという問題が難しい。対抗できる場合は原則契約上の地位が承継されるとしても、様々な権利が束になっていて対抗できるものがその一部である場合には、解約できる・契約が承継されない等様々な選択肢が考案できるのだろう。そこの切り分けをどうするかという議論が必要であって、クロスライセンスを念頭において、そこからまた原則論の方に戻ってくると、却ってややこしくなる。指摘された問題点を踏まえて、専門的に組める案ができないかどうかを検討する必要がある。

○この問題は著作権について議論しているが、特許についても同じような検討の必要が、有るか無いかも含めて、なされるべき。ここでの議論の過程で、特許等の動きがあったら、どういう検討が進んでいてどういう方向で手当てをしようとしているのかについてフィードバックしてほしい。

以上



(文化庁著作権課著作物流通推進室)

ページの先頭へ