専門書出版は少部数の出版が多いが、今回の権利制限は、その読者をさらに減少させ、医学系の専門的な書籍・雑誌そのものの存立基盤を危うくする。医学研究の発表の場も失われ、結果として、国民の医療水準にも影響を及ぼすことになる。(社団法人自然科学書協会、株式会社医歯薬出版、個人)(同旨 American Chemical Society Publications Division)
通常、製薬企業は自社の医薬品の分析に必要な文献としてどのようなものか把握可能であり、医療関係者から依頼があれば即座に頒布ができるよう前もって出版物のコピーの発注をしておくことは可能であり、実際それが実行されている。また、リクエストのあった文献や書籍を、オンラインで、許諾を得た適法な形で、簡易かつ即時に手に入れることが可能となっている。(Springer ScienceBusiness Media、American Chemical Society Publications Division)
薬事法第77条の3が製薬企業に課している努力義務は、他者の権利を侵害してまでも情報提供すべきとはされていない。医薬品の安全等に関する情報提供は、製造者責任の範疇にある事柄であって、営利企業である製薬企業の当然の責務である。薬事法第77条の3の規定はその製造者としての当然の義務を明記したものであり、それを理由として医薬品の安全等のための情報複製を権利制限とする必然性はない。(日本医書出版協会)(同旨 株式会社日本著作出版権管理システム、株式会社文光堂、株式会社日本臨牀社、株式会社中山書店、株式会社シュプリンガー・ジャパン、American Chemical Society Publications Division、Elsevier BV(and on behalf of its affiliates Elsevier Ltd and Elsevier Inc.(以下「Elsevier BV」)、個人)
権利制限の対象は、著作権管理団体に権利委託されていないものに限定することが適当。既に権利委託されているものは、管理団体において容易に許諾を受けることが可能であり、事後的な権利処理も認めているので、緊急性のある情報提供の必要があったとしても、その提供が許諾を得られないために妨げられることはなく、権利制限を行う必要性はない。(社団法人日本書籍出版協会)(同旨 株式会社文光堂、株式会社南江堂、Association of American Publishers,Inc.、International Publishers Association、Springer ScienceBusiness Media、Springer ScienceBusiness Media)
事前許諾が難しい場合があることを理由としているのであれば、権利制限の要件には、緊急性の要素が明示的に定義される必要がある。(国際科学工学医学出版社協会)(同旨 Association of American Publishers,Inc.、)
権利制限は拡大運用される可能性が高い。「薬事法77条の3に基づく情報提供」には製薬企業の製品である医薬品の情報やその医薬品の臨床応用例、効果等、緊急性のない一般的な医学情報も含まれ、医療関係者が情報を求めさえすれば薬事法上の要件を事実上満たしてしまうことは明らかに権利制限の拡大運用となる。「患者の生命、身体に対して迅速な対応が求められる場合」を明確化し、購入の代替とならない範囲に限定する必要がある。(株式会社シュプリンガー・ジャパン、社団法人日本書籍出版協会、日本医書出版協会、株式会社日本著作出版件管理システム、Association of American Publishers,Inc.、International Publishers Association、Springer ScienceBusiness Media、THE PUBLISHERS ASSOCIATION、個人)
例示されたケースの他、今回の立法措置によって保護のレベルが後退する事態を避けるためには、「2ちゃんねる小学館事件」(東京高判平成17年3月3日)の類型も差止請求の対象範囲に含まれることが明確になるようにすべき。また、P2Pソフトウェアの配付者の著作権侵害責任を認めた「MGM Studios Inc. v. Grokster、Ltd.事件」(米国連邦最高裁判決)やハイパーリンクを提供するウェブサイト運営者の著作権侵害責任を認めた「Cooper v. Universal Music Australia Pty. Ltd.事件」(オーストラリア連邦控訴審判決)の類型も念頭に置く必要がある。(社団法人日本音楽著作権協会)