2.対応策に関する論点整理

2−1.現行法下での解釈による対応の可能性と論点

 検索エンジンにおける著作物の利用行為に関しては、現行の著作権法では、明文の規定は存在しないため、その取り扱いは解釈に委ねられる。したがって、まずは法目的に照らしつつ、現行制度における解釈による対応の可能性を模索し、その適否を踏まえた上で、権利制限規定等の新たな立法措置について考察するという順序で進めることとする。

(1)検索エンジンにおいて行われる行為の著作権法上の位置づけについて

 検索エンジンにおいて行われる行為に関して著作権法上の取り扱いが問題となるのは、そのような行為が著作物の利用に該当する場合であるが、これに該当するか否かについては、行為類型毎の検討が必要である。

[ソフトウェアによるウェブサイト情報の収集・格納(クローリング)]

 この工程では、検索ロボット(クローラー)が、ウェブサイトにアップロードされたデータを収集し、ストレージサーバへ格納している。ストレージサーバへのウェブサイト情報のデータの格納は、機器利用時・通信過程における瞬間的・過渡的な一時固定であるとはいえず(注1)、当該データが文章や画像等の著作物である場合には、そのまま蓄積するものであるから、著作物の複製に該当するものと考えられる。

[検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積]

 ストレージサーバに蓄積されたデータは、検索効率向上のため、予めデータ解析が施され、検索用インデックス及び検索結果表示用データ(スニペット、サムネイル、プレビュー、キャッシュ・リンク等)として蓄積される。
 検索用インデックスは、単なる文字列、変換された数値データであり、オリジナルのデータが著作物であるとしても、その著作物性のない部分だけを用いているに過ぎないものと考えられる。したがって、検索用インデックスの作成・蓄積は、著作物の利用には該当せず、著作権法上の問題を生じないと思われる。
 これに対して、検索結果表示用データについては、オリジナルのデータが著作物である場合に、当該データが有する著作物性のある部分を含むものであって、その作成・蓄積が著作物の利用に該当するか否かは、一律に断ずることはできない。具体的には、スニペットについては、一般に利用者が用いた検索用語を中心にオリジナルの文章から前後数行の長さの文章をそのまま抜き取るものであり、オリジナルの文章が有する著作物性が再現されている場合がありうるが、再現されていない場合も考えられる。また、サムネイル及びプレビューについては、オリジナルの画像の解像度、動画の質及びサイズを落とすことによってもなお、当該画像が有する著作物性が再現されているか否か、さらに進んで、翻案に当たるまでの改変が施されているか否かは、ケース・バイ・ケースである。結局のところ、これらの作成・蓄積が著作物の利用に該当するか否かは、個別具体的に検討されなければならない。これに対して、キャッシュ・リンクは、オリジナルのウェブページをそのまま用いるものであることから、当該ウェブページが著作物であれば、その著作物性が再現されており、キャッシュ・リンクの作成・蓄積は著作物の利用に該当すると考えられる。

[検索結果の表示(送信)]

 検索結果表示用データは、ウェブサイトを紹介する手段として複数に組み合わせられた上で、ウェブサイトの所在情報とともに検索結果として、送信可能化の状態に置かれ、利用者からの検索要求に従って、自動公衆送信される。上述のように、検索結果表示データがオリジナルのデータの著作物性のある部分を含むものであって、その作成・蓄積が著作物の利用に該当する場合があるが、その場合には、検索結果の表示に際しては、著作物の送信可能化及び自動公衆送信が行われることとなる。

(2)現行の権利制限規定(引用)による対応の可能性

 現行の権利制限規定の中で、検索エンジンにおける著作物の利用行為に適用される可能性があるのは、引用に関する第32条第1項である。
 検索結果表示用データとして作成されるスニペットやサムネイルを検索結果として表示する行為については、学説において、引用としての利用に該当しうるとの見解がある(注2)。しかしながら、これらの表示方法は、検索エンジンサービスの改善の観点から様々な態様が追求されるとともに、検索技術やサービスの発展とともに刻々と変化していくものと考えられる。したがって、検索結果の表示の態様によっては、引用の範囲を超える場合もありうる。
 また、キャッシュ・リンクについては、「引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であると評価することは困難であるとの指摘があるとともに、未公表の著作物(注3)が著作権者に無断でアップロードされた場合においては、「公表された著作物」の利用に当たらないと解されることから、第32条第1項が適用されると解釈することは困難であると考えられる。
 以上のように、第32条第1項が適用される場合があるとしても、同項によって、検索エンジンにおける著作物の利用行為が網羅的に許容されるという保証はないことから、検索エンジンサービス提供者が負う法的リスクを払拭するものとはならないといえる。

(3)黙示の許諾論による対応の可能性

[黙示の許諾に関する解釈の可能性]

 現在、インターネット上の情報を検索するために、検索エンジンが広く利用されている。こうした状況の下で、インターネット上に開設されたウェブサイトにアップロードされた著作物の著作権者は、通常、当該著作物が検索エンジンの検索対象となることを予見しており、また、それによって当該著作物へのアクセスが増加することを期待していると思われる。また、ウェブサイト開設者は、自己のウェブサイトにアップロードした自らが著作権を有する著作物や別の権利者からアップロードの許諾を得ている著作物がクローリングされないようにするための標準プロトコル(以下、「技術的回避手段」という)を設定することによって、当該著作物が検索エンジンにおいて利用されることを回避することが可能である。すなわち、ウェブサイトにアップロードした著作物が検索対象となることを望まない場合は、ウェブサイト開設者が技術的回避手段を行使することによって、容易にそれを実現することができる。
 以上の事情を勘案すれば、技術的回避手段が行使されなかったことをもって、検索エンジンにおける著作物の利用が黙示的に許諾されたと推認することができるとの考え方がありえよう。

[黙示の許諾論による対応における課題]

 しかしながら、このような解釈自体は、著作物の利用に際して予め適法性を保証するものではないことから、検索エンジンサービス提供者が法的リスクを負うおそれを払拭するものとはならない。例えば、著作権者が技術的回避手段の存在を知らなかった場合や、著作権者の許諾なく著作物がアップロードされたウェブサイトが検索対象となってしまった場合においては、著作権者は技術的回避手段を用いることにより事前にその著作物が検索対象となることを回避することができず、このため黙示の許諾があったと推認することは困難である。
 なお、検索エンジンサービス提供者のリスクは、法制度の運用面での工夫やサービス提供者の未然防止策の充実によって、一定程度低減させることが可能との指摘もある。例えば、合理的な差止範囲の設定のあり方(注4)や故意及び過失の判断基準等に関して、一定の見解を提示することによって予見性を高める、あるいは技術的回避手段の普及や違法サイトの自動検知システムの開発等を通じてリスクの低減を図るというものである。しかし、法的リスクを完全に解消することは困難であり、検索エンジンサービス提供者側のリスク評価によっては、事業遂行上の安定性を保証しうるとは限らない。

(4)権利濫用の法理による対応の可能性

 検索エンジンにおいて著作物の利用があっても、これに対する権利者の権利行使が、社会妥当性を超えたものであり権利濫用として許されないと判断される場合が考えられる。しかしながら、権利濫用の法理の適用は、権利行使による権利者の利益と検索エンジンサービス提供者の受ける損害もしくは検索エンジンが有する公益との利益衡量の問題となり、そもそも、著作物の利用に際して予め適法性を保証するものではないことから、その法的リスクを払拭するものとはならない。

2−2.立法措置による対応の可能性と論点

(1)権利制限規定の立法による対応の可能性

 権利制限は、公益性等特別の観点から設けられるものであり、権利者の私権との調和を図りつつ検討することが必要である。また、ベルヌ条約第9条(2)や著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)第10条に規定されているスリー・ステップ・テストの要件を満たす必要があることは言うまでもない。

1権利制限の対象とする合理的根拠

 検索エンジンにおける著作物の利用行為については、以下の(ア)、(イ)、(ウ)及び(エ)の観点から、権利制限を設ける合理的根拠は存在するものと考えられる。
 まず、(ア)検索エンジンは、インターネット上に存在する著作物の所在情報を効率的に提供することを可能とし、著作物の流通を促進する、いわば社会インフラ的な役割を果たすものということができる。また、(イ)検索エンジンにおける利用行為は、著作物の提示や提供自体を目的としているものではなく、たいていの場合、著作権者の著作物利用市場と衝突するものではない。したがって、これらの行為は、著作権者の利益に悪影響を及ぼさないことが通常であり、むしろ著作物を広く周知したい著作権者の利益ともなるものであり、著作物の流通促進に資することで、文化の発展に寄与するものであると考えられる。そして、(ウ)インターネット上に存在する無数の著作物が検索対象となるため、検索エンジンサービス提供者が、著作権者から事前に利用許諾を得ることは事実上不可能であることから、権利制限を設ける必要性は高い。これらに加えて、(エ)実際上、インターネット上に開設されたウェブサイトにアップロードされた著作物の(全てではないとしても)多くについては、その著作権者は、検索対象となることを予見し、検索エンジンにおいて利用されることを黙示的に許諾していると考えられる。
 スリー・ステップ・テストとの関係では、検索エンジンにおける利用行為という「特別な場合」であり、専ら検索を目的とし、著作物の提示や提供自体を目的とするものでないのであれば、原則として、「著作物の通常の利用」を妨げず、また「著作者の正当な利益を不当に害しない」ものということができるから、この要件は満たされると考えられる。

2権利制限上の課題

 権利制限の制度設計に当たっては、検索エンジンに期待される著作物の流通促進機能が十分に確保されるよう留意しつつ、その一方で、検索エンジンにおける著作物の利用行為に伴って権利者が受ける損害の程度と利益との比較衡量についても勘案する必要がある。
 この場合、第一に、権利制限の対象範囲をどのように画定するのか、第二に、権利者の保護のために、権利者が事前及び事後において検索対象として利用されることを拒否する旨の意思を有している場合や、著作権者の許諾なくアップロードされた違法複製物が検索対象となってしまった場合、さらには著作者人格権に関する問題にどのように対応するのかが論点となる。

[権利制限の対象範囲](注5)

 権利制限の対象範囲については、原則として、(ア)検索エンジンの「目的」という主観面と、(イ)検索エンジンにおいて行われる「行為」という客観面の組合せで規定するのが適切であると考えられる。さらに、権利制限規定の制度運用上の安定性を確保する観点から、(ウ)検索エンジンサービスの「属性・機能」に関しても規定すべきかどうかについて検討する必要がある。

(ア)検索エンジンの目的

 権利制限の対象とすべき検索エンジンは、利用者の求めに応じ著作物の所在情報を提供し、著作物の内容の紹介を通じて、その著作物が存在するオリジナルのウェブサイトへの誘導を専ら目的とするものであると定義するのが適当と考えられる。これは、検索エンジンが、この目的を超えて、オリジナルのウェブサイトに取って代わるものとなれば、権利者の利益に悪影響が及ぼされるおそれがあるからである。

(イ)検索エンジンにおける行為

 検索エンジンにおける行為については、その行為の性質上、a)ウェブサイト情報の収集・格納、b)検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積、c)検索結果の表示(送信)、の3つの工程に区分した検討が必要である。

a)ウェブサイト情報の収集・格納

 ウェブサイト情報の収集・格納の工程中、著作物の利用に該当する行為については、検索エンジンサービスを提供する上で不可欠な技術的工程で行われるものであり、かつ、この時点では、行為自体はシステム内でのみ行われ、公衆の目に触れることはないことから、権利者への影響は限定的なものに止まる。したがって、権利制限の対象とする妥当性は認められるものと考えられる。また、問題となる行為は、ウェブサイトにアップロードされた著作物をそのままの形で蓄積(複製)するものであり、権利制限対象範囲についても容易に画定することができる。

b)検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積

 検索インデックス及び検索結果表示データの作成・蓄積の工程中、検索インデックスの作成・蓄積は著作物の利用には該当しないのに対し、検索結果表示用データの作成・蓄積は著作物の利用に該当する場合があると考えられるが、その場合の行為についても、a)と同様に、検索エンジンサービスを提供する上で不可欠な技術的工程で行われるものであり、かつ、この時点では、行為自体はシステム内でのみ行われ、公衆の目に触れることはないことから、権利者への影響は限定的なものに止まる。そのため、この行為についても、権利制限の対象とすることは問題ないであろう。
 他方、検索結果表示用データの態様は、提供される検索サービスによって決定されるものであるため、a)とは異なり、著作物の利用としての検索結果表示用データの作成・蓄積は多様であると考えられる。例えば、検索エンジンサービス提供者の表示方法如何によっては、スニペットのみを作成・蓄積の対象とする場合から、サムネイルやキャッシュ等をも用いる場合など、著作物の利用形態は大きく異なるといえる。したがって、権利制限対象範囲については、ある程度包括的に規定することが望ましいと考えられる。

c)検索結果の表示(送信)

 検索結果の表示(送信)の工程中、著作物の利用に該当する行為は、公衆の目に触れるものであり、検索エンジンサービス提供者は著作物の提示や提供自体を目的としていなくとも、その表示方法の態様によっては、利用者に対して著作物の提示や提供と同等のものとして作用し、結果として権利者の利益に悪影響を及ぼすこととなる可能性を含んでいる。
 その一方で、上述したように、検索結果用表示データの態様は提供される検索サービスによって決定されるものであって、検索結果の表示方法は、検索エンジンサービス提供者にとっては、そのサービスの差別化を図る上で不可欠な部分であると考えられる。したがって、その表示方法については、サービス向上の観点から様々な態様が追求されるとともに、検索技術やサービスの発展とともに刻々と変化していくものと考えられる。このため、著作物の利用形態は多様かつ変動する可能性が高く、予めその外縁を画定することは困難である。
 以上を踏まえれば、利用者に対して著作物の提示や提供と同等のものとして作用しない場合に権利制限の対象とすることに問題はないであろうが、そのように作用する場合がありうることを考慮すると、権利制限対象範囲をどのように規定すべきか、すなわち、包括的に規定する方法と個別列挙によって限定的に規定する方法の何れが適切であるか、が論点となる。
 仮に、権利制限対象範囲を包括的に規定するとした場合、新たな利用形態が発生する度に権利制限の対象とするか否かを検討する必要はなくなる反面、権利者の利益に悪影響を及ぼすおそれのある利用形態まで包含してしまう可能性が高まるものといえる(注6)。他方、個別列挙方式によって限定的に規定するとした場合、権利制限対象範囲に含まれない行為が直ちに侵害と解されることによって、検索エンジンのサービス形態が法制度によって限定されてしまい、却って検索エンジンの健全な発展を阻害するおそれがあるとの指摘もある。
 したがって、権利制限対象範囲の画定に当たっては、検索エンジンの公共的な役割と権利者の私権との調和が十分に図られるよう、慎重に検討を進めていくことが必要不可欠である。

(ウ)検索エンジンサービスの属性・機能

 前述のとおり、検索エンジンにおいては、ロボット型とディレクトリ型が存在するが、現在では、ロボット型がその大勢を占めるに至っていること、また、ディレクトリ型の場合、ウェブサイト情報の収集が人手によって行われることから、事前に許諾を受けることも可能であることを踏まえれば、権利制限の対象とすべき検索エンジンサービスは、ロボット型とすることで十分ではないかと考えられる。
 また、検索対象の網羅性、検索結果表示における公平性、検索エンジンサービス提供者の規模や信頼性については、利用者側のニーズによって市場原理の下で決定されていく属性・機能であることから、権利制限の要件に含めるべきではないと考えられる。これに対して、これらが権利制限に係る制度運用の安定性の確保にとって重要なものであるならば、要件として規定することも検討すべきとの指摘があった。

[権利者保護への対応]

 検索エンジンに期待される流通促進機能の信頼性を高めるという視点に立てば、検索の対象となるウェブサイト上の情報は可能な限り例外なく収集できることが重要であり、前述の権利制限対象範囲に含まれる著作物の利用は、例外なく許容されることが望ましいといえる。しかしながら、権利制限対象範囲に含まれる利用行為であっても、著作権者が、(ア)事前及び(イ)事後に検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示をしている場合には、権利者の私権との調和の観点から、このような意思に基づく何らかの措置を講ずるべきであると思われる。

(ア)事前の意思表示

 前述したように、検索エンジンにおける著作物の利用は、著作権者の利益に悪影響を及ぼさないことが通常であり、むしろ著作物を広く周知したい著作権者の利益ともなるものであるが、権利者や著作物等をめぐる個別的な事情によって、権利者の利益に悪影響が及ぼされる場合がありえよう。そのような場合には、当該著作物を検索対象から除外することができるような措置を講ずることが適当であると考えられる。しかしながら、検索エンジンにおける著作物の利用は自動的に行われるものであるため、検索エンジンサービス提供者が、権利者や著作物等をめぐる個別的な事情を考慮することは現実的に不可能である。この点、検索エンジンサービス提供者は、ウェブサイトに標準プロトコルが設定されていれば、クローラーが当該ウェブサイトの情報を収集しないという「技術的回避手段」を用意していることが通常である。そのため、権利者は、当該著作物が検索対象として利用されると自己の利益に悪影響が及ぼされると考える場合には、「技術的回避手段」を行使することで、容易にこれを回避することができる。また、検索エンジンサービス提供者も、「技術的回避手段」を準備しておけば、それ以上に何らの負担なしに、当該著作物を検索対象に含めないことができる。そこで、権利者が、「技術的回避手段」の行使により、事前に検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示をした場合には、当該著作物は権利制限の対象外とすることが考えられる(注7)。
 ただし、技術的回避手段は、全ての権利者に行使できる機会が与えられているわけではないこと(注8)、また、そもそもそのような手段があること自体、権利者に十分周知されていないという指摘もあることから(注9)、事前の意思表示の機会を十分に確保するために、今後は検索エンジンサービス提供者において、当該手段の周知普及に努めることが求められる(注10)。

(イ)事後の意思表示

 検索エンジンによる検索対象として利用されている著作物であっても、基本的には、権利者が事後的に技術的回避手段を行使すれば、その行使時点と実際にクローラーが判別してウェブサイト情報の収集を中止する時点の間にタイムラグが存在するものの、最終的には検索対象となることを回避することは可能である。しかしながら、インターネット上における情報の拡散速度をかんがみれば、クローラーによる判別を待てず、緊急的に検索対象から回避したいという要望もあると考えられる。もっとも、権利制限対象範囲に含まれる著作物の利用は権利侵害とならないため、権利者は検索エンジンによって一旦適法に収集された著作物の利用停止又は削除を請求する手立てがない。このため、上記のような要望への対応が必要であるとすれば、権利者が事後的に利用停止又は削除を請求できるような措置を講ずることとなろう(注11)。
 この利用停止・削除請求が認められるためには、権利者が請求を行う正当な理由を有することが必要であると考えられる。なぜなら、単に権利者による検索回避の意思表示のみをもって権利制限の効力が制限されるとすれば、そもそも権利制限を設けること自体の正当性や権利制限の安定性(検索エンジンの流通促進機能としての安定性)が問われることになりかねないからである。利用停止・削除請求を行う正当な理由の例としては、権利者が他人の権利を侵害していることを挙げることができる(注12)。その他にどのようなものがあるか、例えば、権利者自らの利益が悪影響を受けている又は受けるおそれがあると事後的に判断した場合に正当な理由が認められるかどうかについては、権利制限の正当性・安定性との関係で慎重な検討を要する。なお、著作権のみならず、肖像権やプライバシーの権利に関して、様々な利用停止・削除の要請があると考えられるにもかかわらず、著作権者のみにこのような権利を付与すること自体の妥当性も論点となるのではないかとの意見もあった。

[違法複製物への対応]

 著作権者の許諾なくアップロードされた著作物(以下、「違法複製物」という)を、検索エンジンが検索対象としてしまう場合がある。この場合は、著作権侵害の拡大を防止する観点から、本来は権利制限の対象外とすることが望ましいが、検索エンジンは、ウェブサイトから自動的に情報を収集するため、違法複製物を蓄積したり、表示したりすることを事前に回避することは、技術的に不可能である。したがって、違法複製物を権利制限の対象外とする場合には、検索エンジンの本来の機能が損なわれることになる。
 以上を踏まえれば、違法複製物であっても、一旦権利制限の対象としつつも、検索エンジンサービス提供者に対して、事後的に違法複製物の利用停止又は削除の措置を講ずるよう義務づけることで、実質的に権利者の利益が不当に害される事態が生じないようにすることが適切である。なお、当該利用停止又は削除義務については、検索エンジンサービス提供者の責任範囲を明確にするよう、プロバイダ責任制限法第3条の規定も参考にしつつ、他人の著作権が侵害されていることを知った場合、または、他者の著作権を侵害するものであることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があった場合に限るものとすることが考えられる。

[著作者人格権に関する問題]

 これまでの検討は、著作権との関係に関するものであったが、検索エンジンにおける著作物の利用は著作者人格権との関係でも問題を生じうる。
 公表権との関係では、検索対象が未公表著作物であり、検索結果として当該著作物が表示される場合には、公表権が侵害されることとなるが、検索エンジンでは、この侵害を事前に回避することは技術的に不可能である。しかしながら、実際上、検索エンジンサービス提供の過程において膨大に発生する複製や自動公衆送信といった著作物の利用により問題となる著作権の侵害と比較すると、未公表著作物が検索対象となることにより公表権の侵害が問題となるケースは少なく、公表権の侵害が成立するとしても、それが検索エンジンの流通促進機能に与える影響も小さいと考えられる。したがって、本件は、個別具体的に対応すべきであって、公表権の制限を行う必要性は必ずしも高いとはいえないが、重大な問題が発生しうるケースが想定される場合においては、改めてその可否について検討することが必要である。
 次に、氏名表示権との関係では、検索結果として著作者名が表示されなくても、オリジナルのウェブサイトの所在情報が一緒に表示されていれば、第19条第2項により、氏名表示権の侵害とならないと解することができると考えられるが、検索対象となった著作物が氏名表示権を侵害している場合には、検索結果の表示においても侵害が成立することになる可能性がある。しかしながら、このような氏名表示権の侵害が問題となるケースは、実際上、公表権の場合と同様に少ないと考えられることから、その対応についても、同様のものとなろう。
 最後に、同一性保持権との関係では、まず、スニペットがオリジナルの文章を抜き出したものであり、サムネイルがオリジナルの画像の解像度を落としているなど、検索対象となった著作物が変更されることが問題となる。もっとも、これらの変更は、利用者にとって明らかなものであり、よって、著作者の人格的利益を害することにはならず、同一性保持権の侵害は成立しないと解することができると思われる。あるいは、検索エンジンにおける利用の目的及び態様に照らし、第20条第2項第4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるとも考えられよう。次に、検索対象となった著作物が同一性保持権を侵害して作成されたものである場合についても、検索エンジンにおいて変更が行われていないならば、第20条第1項は「改変」のみを対象としていることを理由に、同一性保持権の侵害が成立しないと解するか、あるいは変更が行われているとされても、「やむを得ないと認められる改変」に当たると考えられよう。

(2)利用許諾の推定(又は擬制)規定の立法による対応の可能性

 立法措置による対応として、2−1.(3)の「黙示の許諾論」における考え方を、法制的に明確化する方法も考えられる。すなわち、技術的回避手段の行使によって検索対象として利用されることを拒否する旨の意思表示がなされていない場合、利用の許諾が行われたものと推定する(又は擬制する(注13))旨を明文化することで、法的な予見性を高めるものである。
 ただし、著作権者の許諾なくアップロードされた違法複製物を検索対象としてしまう場合においては、検索エンジンサービス提供者は、法的責任を負うおそれがあることから、事業遂行上の不安定性を払拭することは困難である。したがって、権利侵害を停止する一定の措置が講じられる限りにおいて、検索エンジンサービス提供者の責任制限が認められるようにすることが必要となろう。

(3)プロバイダ責任制限法類似の特別立法による対応の可能性

 検索エンジンサービス提供者に関して、事業遂行上のリスクとなりうる損害賠償責任を制限する観点から、プロバイダ責任制限法に類似した特別立法を講ずる方策も考えられる。
 この場合、著作権法上の侵害責任のみならず、プライバシー侵害責任等も含め、包括的に責任制限することが可能となり、検索エンジンサービス提供者に一層の安定的な地位を保証することが可能となる。他方、刑事責任は免責されないことに加え、差止請求に対する免責がなされないため、差止請求の態様によっては、検索エンジンサービスの円滑な事業遂行を困難にする可能性が考えられる。

2−3.その他の論点

[準拠法の問題]

 検索エンジンサービスにおいては、侵害問題に関して、どの国の著作権法が適用されるのかについても問題となる。民事の場合、不法行為については「結果発生地原則」(「法の適用に関する通則法第17条」)により、日本国内で複製が行われているとすれば当該複製については日本法が適用されることとなる(注14)。しかしながら、インターネット上での著作物の公衆送信については、「結果発生地」は、発信国、すなわち、著作物が発信されるサーバの所在地であるか、受信地、すなわち、サーバにアクセスして著作物を受信した者が所在する地であるかの争いがある。したがって、法制度の検討に際しては、かかる点についても留意することが必要である。

[検索エンジン以外の利用行為との整合性]

 また、インターネット上の利用行為については、検索エンジンサービスに類似するようなサービスが存在しており、それらに対して与える影響についても、留意して検討すべきとの意見があった。

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