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資料4−2

「権利制限に係る質問事項」への回答

 整理の都合上17の番号を、障害者放送協議会著作権委員会で付記した。

1  聴覚障害者情報提供施設において,専ら聴覚障害者向けの貸出しの用に供するため,公表された著作物、放送等に手話や字幕を挿入(翻案)して行う録画について

(1) 法改正の必要性について
  著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
<回答>
 過去の著作物について、アーカイブスの公開やDVD化する際の許諾を取る困難さは著作権者の補足が困難なことは良く伝えられるところである。

  福祉行政により対応すべき範囲との区別について。
<回答>
 放送事業者における字幕番組の制作については、努力義務として「放送法」に定められているところである。また、その制作費の助成については、「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律」において示されているところであり、映像ソフト・放送番組に字幕・手話を挿入するコストを、福祉施策において補助することは馴染まないと考える。
 また、身体障害者福祉法上の聴覚障害者は、聞えに支障を持つものの一部であり、実際の日常生活でテレビの視聴に困難があるものはもっと多く、貸し出し対象者を限定し過ぎている。厚生労働省の実態調査は、聴覚障害者は30万5千人としているが、聴力レベルが高く、補聴器メーカーの社長が難聴者人口は1,500万人に上ると紹介しており、高齢者人口が2,300万人に上ることから、実態に合わない。

  コンテンツの提供者に手話や字幕をつけて提供するように交渉することでの対応の可否について。
<回答>
 ビデオ、DVDに字幕等を義務付ける法制化は本年、全難聴等が経済産業大臣に要望したところであるが、根拠となる法律がなく、早急な実現は難しい。

  参考となるデータとして、日本図書館協会が頒布事業として行っている映像資料について、日本で製作された日本語によるもののうち、日本語字幕付きのタイトル数を以下に示す。

(1) 日本語字幕付VHS(製作国:日本)139タイトル(全タイトル20,956)→0.66パーセント
(2) 日本語字幕付DVD(製作国:日本)約1,000タイトル(全タイトル約14,000)→7.1パーセント
(3) 障害者向け字幕付・音声ガイド付などのDVD 約10タイトル
  データ上に明記されているもの。いずれも製造中止のものは含まない数値。

 以上、字幕の付与された映像資料は、ごく一部であることが伺える。

(2) 制限すべき著作権法上の権利について
  著作物の「複製」以外に、例えば「貸与」「譲渡」についても権利を制限する必要があるか。

(3) 対象者・実施主体・対象著作物を限定するか否かについて
  想定している対象者は聴覚障害者でよいか。
<回答>
 聴覚障害者情報提供施設の字幕付きビデオ、DVDの貸し出し対象者は身体障害者福祉法の聴覚障害者に限定されている。このため、実際の視聴に困難を感じるものが利用出来ない。広く、テレビやビデオ・DVDの視聴に困難を感じるものとして欲しい。聴覚障害者を対象にした字幕放送は、広くテレビの視聴に困難を感じる人が対象に実施されている。

  想定している実施主体はどのようなものか(非営利のボランティア、NPO、営利事業者、等)。また、想定している主体は健常者に流用しない手当てとしてどのようなものが考えられるか。
<回答>
 聴覚障害者情報提供施設のほか、聴覚障害者のために情報を提供する事業を行う法人、及び公共図書館を含む公的な教育機関等が、貸し出しや公衆送信、ならびに、映像による著作物への手話や字幕を挿入する機関として考えられる。
 法律の中に、「専ら聴覚障害者の用に供するために」などの文言が書かれているかぎり、それ以外の用途に充てることは法律に反することとなり、それ自体で「流用」が防止されると考える。

  どのような著作物を対象として想定しているのか。
<回答>
 テレビ番組の録画物、市場で販売、レンタルされているビデオ、DVD

2  専ら聴覚障害者の用に供するために、手話や字幕が挿入(翻案)された、公表された著作物、放送等の録画物を公衆送信することについて

(1) 法改正の必要性について
  著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
1の回答と同様

  放送行政により対応すべき範囲との区別について。
<回答>
 放送行政は、放送法に基づく放送が対象であり、「公衆送信」は対象でない。

  コンテンツの提供者に手話や字幕をつけて提供するように交渉することでの対応の可否について。
<回答>
 障害者放送協議会では、平成17年9月1日付けで、総務大臣宛に、「障害者に配慮した新たな放送の指針の策定について(要望)」を送付しており、(1)2007年までに達成する字幕放送普及の指針の到達状況を踏まえ、すべての障害者に配慮した新たな障害者向け放送の指針を策定されたいこと。(2)指針の策定に当たっては、当事者団体を含めた委員会を設けることを要望している。
 また今年度は、総務省により「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」が開催され、障害者団体の代表が参加し、活発に意見を述べて要望した。また、毎年放送バリアフリーシンポジウムを開催し、総務省、放送事業者も含めて討議を重ねている。

  現在の字幕放送の実施割合
 総務省の報道発表によれば、平成18年の字幕放送の実施割合は、総放送時間に対してNHK総合で43.1パーセント、民放キー5局で32.9パーセントである。手話はNHK教育が2.4パーセント、民放(在京)0.1パーセントである。
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070629_9.html
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/pdf/070629_9_bt.pdf

(2) 制限すべき著作権法上の権利について
  「公衆送信」すべてを対象にするのか(録画物を流す手段として、放送、有線放送以外に、自動公衆送信も考えているのか)
<回答>
 自動公衆送信は、限定された事業者により字幕配信の実施が現在認められているが、これを公衆送信一般に拡大を求める。

(3) 対象者・実施主体・対象著作物を限定するか否かについて
  想定している対象者は聴覚障害者でよいか。
1の回答と同様

  想定している実施主体はどのようなものか(非営利のボランティア、NPO、営利事業者、等)。また、想定している主体は健常者に流用しない手当てとしてどのようなものが考えられるか。
1の回答と同様

  どのような著作物を対象として想定しているのか。また、手話や字幕を挿入することは、技術的に可能か(例えば、生放送について手話や字幕をつけることはできるのか)。
<回答>
 生放送に字幕を付けることは現在も行われているが、その字幕が理解したり、干渉するには不十分な場合がある。字幕や手話、音声解説について、音声や情景をすべて字幕や手話に置き替えたり、音声で説明することは困難である。また、それを受け取る側からしても、全てを見ることは困難で、理解を進めるものではない。

(4) その他
  営利目的でこのような取組・事業を行っている実態について。

3  私的使用のための著作物の複製は,当該使用する者が複製できることとされているが,視覚障害者等の者は自ら複製することが不可能であるから,一定の条件を満たす第三者が録音等による形式で複製することについて

(1) 法改正の必要性について
1 第三者による複製のニーズがどの程度あるか。
<回答>
点字図書館、NPOやボランティアグループ、個人に対し、プライベートな録音、DAISY制作、拡大写本の依頼が、視覚障害者はもとより、入院患者、聴覚障害者(難聴の子どもの言葉の学習)、発達障害者、知的障害者や精神障害者等から寄せられ、実際に幅広く行われている。ボランティアグループなどニーズがあるところでは草の根的に行われるものなので実態の把握は難しいが、インターネット上での広報など、その具体的な例の一部を資料として以下に示す。

a. 点字図書館のプライベートサービス
2005年プライベートサービス
録音(カセット)
実施 未実施 件数 実績数(時間)
78施設 6施設 3,133件
(但し74施設分)
15,808時間
(但し67施設分)
録音(デイジー)
実施 未実施 件数 実績数(時間)
48施設 37施設 292件
(但し29施設分)
2,519時間
(但し26施設分)
拡大写本
実施 未実施 件数 実績数(ページ)
12施設 73施設 154タイトル
(但し8施設分)
11,501頁
(但し7施設分)

点字図書館の蔵書年間製作数(2005年度)
  カセットテープ デイジー
全国合計 11,109タイトル(83施設分) 11,686タイトル(80施設分)
1施設平均 134タイトル 146タイトル
複数の施設で同じ本を録音した、10年20年前にカセットテープで作った物を改めてデイジーに編集しなおしたものを含む。
【全国視覚障害者情報提供施設協会サービス委員会平成16年度全国点字図書館実態調査より】

b. インターネット上で紹介されているボランティアグループ等によるプライベートサービス録音の例
WAM社会福祉医療事業団平成15年度助成金「音声配信・バリアフリー事業」早耳ネット「無料朗読サービス」
http://hayamimi.net/~hayamimi/roudoku/#sitemap

経済産業省「平成14年度障害者等用情報通信機器等開発事業」こえたばパーソナル
http://www.koetaba.net/

《音訳ボランティア風の会》プライベートに頼まれた本雑誌、取扱説明書など
http://www.vc.city.edogawa.tokyo.jp/a/02_dan/group/010.html

《銀河の会》要望に応じて、機器の取り扱い説明書、小冊子類などをカセットテープに音訳
http://www.hm8.aitai.ne.jp/~rei-taka/setumei.html

《音訳ボランティアRSの会》個人依頼者からの音訳
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Studio/4266/rs.html

《清瀬市・声のボランティア》視覚障害者個人へのサポート、対面朗読などの個人へのサポートは、のぞみ園や療護園の本を持って読むことができない方々へと、視覚障害者以外にも広がっている。
http://vvkiyo.at.webry.info/

《音訳グループ やまばと》障害者個々の方からの依頼に応じて文芸書・専門書・紀行文など図書の音訳テープ(私的使用)を作っています。毎月、多くの注文に応えている。
http://tokyo.town-info.com/cgi/units/index.cgi?siteid=vskc-kokubunji&areaid=36238&unitid=yamabato

《安城ひびきの会》個人的に要望のあった本など
http://www.katch.ne.jp/~syakyo/v_syoukai/group/hibiki/hibikinokai.htm

c. DAISY製作
 視覚障害者、失語症者やその家族などが、自らDAISY制作を行っているケースはあるが、前述のように、必要な情報を、必要な分量、早く入手するという観点から、ボランティアやNPOに作成を依頼する場合がほとんどである。現状では確たる件数などは把握していないが、日本障害者リハビリテーション協会で把握している範囲では、同協会が提供している視覚障害者向けDAISY製作ソフトを個人申請(視覚障害当事者もしくは家族・友人等)した人の数は、全体で2,142ライセンス中、73ライセンスである。(1ライセンスで1台のPCにインストールできる。)
 同じくマルチメディアDAISY製作ソフトを個人申請(障害者の家族等)した人の数は、全体で1,971ライセンス中、12ライセンスである。

2 現行法(30条、37条)で対処することの可否について。
<回答>
 37条は対象が視覚障害者のみであり、何より「貸出し」に限定されている。障害者も自分の本を所有し、返却期限を気にせず必要なときにいつでも読みたい。
 しかし購入可能な録音資料は著名な文芸作品などごくわずかしかない。また、点字図書館での製作力量には限りがあり、貸出しの対象となるものは書籍・雑誌に限られ、各種受験参考書類のように毎年更新されるものはなかなか作られない。そのような状況にあってプライベートなニーズ、勉学や就労等に必要でかつ緊急性に応えるサービスが求められている。
 障害のない人は著作物を購入して所有することに加えて、著作権法上で30条における複製が認められている。障害者も30条が活用できると思われるだろうが、現実には自分でアクセスできる著作物が数少ない以上、“家庭内”という枠の中では30条そのものの行使が難しい。
 家庭内にのみ頼って読める媒体に変換できる障害者は滅多にいない。障害者の家庭においては、生活の様々な場面で障害者を支援している。その上に読書や学習の支援まで委ねるのは大変なことで、知識と多くの時間を必要とすることでもあり、当事者が求めているもの全てを家庭内で行うのは現実には不可能と言える。また当事者も頼みづらいうえ、1人暮らしや障害を持つ者同士の家庭も多い。
 障害者が自ら購入したものを、専門の技術を持った点字図書館、NPOやボランティアグループ等の様々な社会資源を使って自分自身で読める形に変換することは、まさに他者を自分の手足として使うことであり、このような方法をも30条の範疇とすることは不可能なのであろうか。複製された物の使用の目的が障害者自身の私的な範囲に限り、家庭外の第三者に、それもできるだけプライバシーが守られる機関に依頼して変換できるようにすることで、30条の行使において障害者が差別されることが無くなる事を望む。

3 著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
<回答>
  著者の連絡先がなかなかわからない。
返事が来ないことがある。
海外の著作者に依頼できい。
複数著者の著作物であることが多いが、1人でも連絡先がわからなかったり返事がもらえなければ、許諾を下さったかたの意志も無駄になる。

 プライベートサービスとして求められるケースは、学習や就労等で緊急性のあるものが多い。音声化など変換作業そのものにも一定の時間が必要である。視覚等の機能障害ゆえに、読むという情報社会への参加に対する2次的障害が発生している。権利者の所在調査や許諾のために費やす時間は、この社会参加への障害をさらに大きなものにする。1人でも連絡が取れなかったり許諾しない著者がいれば複製することができず、読むことそのものが拒否されたことになる。自分で購入したものを自分で読むために、何ゆえ著作者に再度許可を得ることが強いられるのだろうか。

4 コンテンツの提供者に対応を求めることでの対応の可否について。
<回答>
 緊急性の或る現実において出版社等にテキストデータの提供を求めて認められるケースもあるが、不可能な場合が多い。また職業上の資料は職場の協力が得られることが望ましいが、雇用側の負担も大きいため、障害者自身の雇用の継続そのものを不安にさせる要因にもなりかねないのが現実である。
 「障害者基本法」は、第6条において障害者が差別されることなく文化活動に参加できる社会の実現に寄与するよう努めることを国民の責務としている。そして国および地方公共団体に施策を求めている。コンテンツ提供者に対応を求めることを社会的に制度化できるのか検討いただきたい。

5 読み上げソフト等の機器の利用等で対処することでの対応の可否について。
<回答>
「印刷物読み上げソフト」などを利用しての複製の事例はあるが、書籍類よりも家電等の商品カタログや役所からの通知など、数枚の紙の文字にざっと目を通すなど、日常生活の助けに使われている。印刷フォーマットが段組であったり表やグラフ、挿絵、ルビ等があると正確な読みができなくなり、目で確認できない視覚障害者は全体の中で推測したり、時にはわけがわからないままあきらめざるを得ない場合もある。あくまでも緊急避難的、下読みとして利用するものであろう。
「印刷物読み上げソフト」の個人向け普及状況(発行元確認)
  MYREAD5(92,000円) 2006年6月末までに2,500件ほど
よみとも(81,900円) 団体含め4,200件ほど
らくらくリーダー(72,450円) MYREADと同じくらいか?

(2) 制限すべき著作権法上の権利について
1 複製権以外に権利を制限する必要はあるか。
<回答>
 障害者が私的使用の目的で第三者をして自らが読める形に複製することを30条の複製とする場合は基本的に30条で認められている全ての範囲と考えられる。

 30条とならない場合は、自ら所有する物のうち自らが必要とする部分だけを録音するなどの変形と、翻案、翻訳。自ら所有する本を複製者に一次的に貸与し録音物等にした場合に、その複製物が依頼者である障害者自身のものと考えられないならば譲渡権の制限も必要となる。

(3) 対象者・実施主体・対象著作物を限定するか否かについて
1 本件権利制限の対象者として視覚障害者以外に具体的に想定している障害者はいるのか。
<回答>
重度身体障害者、寝たきり高齢者、発達障害や読みの学習障害、知的障害者や精神障害者、疾病等により読書に困難を持つ者、聴覚障害者(難聴の子どもの言葉の学習)

2 想定している複製の主体はどのようなものか(非営利のボランティア、NPO、営利事業者、等)。また、想定している主体は健常者に流用しない手当てとしてどのようなものが考えられるか。
<回答>
【障害当事者に代わって複製を行えるもの】
公的な社会福祉施設(点字図書館、障害者福祉センター等)、公私立図書館、学校図書館、大学図書館、地区社会福祉協議会等ボランティア団体の責任を持つ窓口

【健常者流用防止の手立て】
そもそも自ら所有するものをそのままで読める人が、敢えてその他の媒体に変換することを依頼することは考えにくい。上記責任を持った窓口で確認できるよう利用登録制を導入。

3 どのような著作物を対象として想定しているのか(取扱説明書等の生活必需品以外の一般図書などもありうるのか)。
<回答>
学習のため、就労のために必要な専門書や受験参考書、宗教書や組織文書や研修資料、辞書類、そして生活に必要な家電製品等のマニュアルやパンフレットなど、公表されたあらゆる活字資料や視覚的情報資料がある。

(4) その他
1 営利目的でこのような取組・事業を行っている実態について。
<回答>
 費用が高いと利用がありえないため営利事業にはなりにくいが、製作にかかる対価を有償としている所はある。

  こえたばパーソナルhttp://www.koetaba.net/
月額500円[税込](年額6,000円[税込])

4  聴覚障害者向けの字幕に関する翻案権の制限について、知的障害者や発達障害者等にもわかるように、翻案(要約等)をすること

(1) 法改正の必要性について
  知的障害者、発達障害者等のための翻案等の実態・要望がどのくらいあるのか。
著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。

(2) 制限すべき著作権法上の権利について
  複製権、翻案権以外に権利を制限する必要はあるか。

(3) 対象者・翻案等の主体・対象著作物を限定するか否かについて
  対象者は知的障害者、発達障害者だけで良いのか。また、知的障害者、発達障害者については、障害の程度も軽重の差が大きく、明確に定義されていないが、具体的に定義することの可否について。
<回答>
ご指摘のとおり、読み書きに対する困難やニーズは、障害が重い軽いといったいわゆる障害程度や等級から単純に判断することができない。
特に学校教育や生活支援、就労支援等の場面においては、翻案された文字情報や、さらに録音図書のような情報保障の必要性が高いと考えられるが、このような場合にはご本人又は保護者の申し出や、実際の指導に当たっている専門家(教員、指導員等)の判断に基づき範囲を限定する方法が考えられる。この際の判断基準として明確な数値的なものは作成困難と思われるが、専門家による具体的な調書により決定すれば良いものと考える。このことによって権利者の権利が不当に侵害されるとは考えにくい。
具体的には、次のような限定方法が考えられる。(1)特別支援教育の対象となっている児童・生徒のうち、視覚は正常であるにもかかわらず発達障害・知的障害(その他上肢障害等の身体上の理由も想定される)により通常の印刷物による読書が困難な者。(2)生活支援、就労支援等を受けている人のうち、前述のような理由により通常の印刷物による読書が困難な者。なおこの際には、実際の指導に当たっている専門家(教員、指導員等)の判断に基づき範囲を限定する。

  想定している翻案等の主体はどのようなものか(非営利のボランティア、NPO、学校、等)。また、想定している主体は健常者に流用しない手当てとしてどのようなものが考えられるか。
想定している対象著作物は「映画の著作物」だけでよいのか。

(4) その他
  営利目的でこのような取組・事業を行っている実態について。

5  学習障害者のための図書のデイジー化について

(1) 法改正の必要性について
  学習障害者のための図書のデイジー化に対する実態・要望・有効性について。
<回答>
実態
現在、奈良デイジーの会、NPO法人かかわり教室、NPO法人デジタル編集協議会 ひなぎく、NPO法人ファーム、研究機関である富山大学人間発達科学部などがデイジー化した教科書、教材、あるいは図書により読みに障害を持つ児童などの支援をおこなっている。また読みに障害がある人たちを対象に緊急時における災害マニュアルなどのデイジー化およびデイジー化に関わるツールの開発が河村宏氏を中心とするNPO法人支援技術開発機構で行なわれている。財団法人日本障害者リハビリテーション協会においては、デイジー化をする非営利団体に対して必要な製作ツールおよびツールの無料配付、技術支援などを行ない、学習障害者及び知的障害者向けのデイジー化した図書を配付している。

奈良デイジーの会が2007年度マルチメディアデイジー化した教科書を使っている
 例
1 中学3年(ディスレクシア)国語・公民
2 中学3年(広汎性発達障害)国語・公民
3 中学2年(聴覚障害)国語・歴史・地理
4 小学5年(自閉症)国語
5 小学3年(ディスレクシア)国語
6 小学3年(LD)国語

要望
上記以外にも2名の生徒が要望していたが、担当教諭の移動により実現していない。
また、本人、保護者、担任教諭が要望したにもかかわらず、校長が許可しなかった例もある。
今後ことばの教室の先生が小学6年生のために使用する予定がある。
その他、問い合わせが数件あり、デイジー化の依頼は増えてくるものと思われる。

有効性
1の生徒は中2より使用しており、本人の希望で今年も引き続き使用している。積極的な面がみられるようになり、自立心も芽生えてきたように観察される。
2の生徒は成績の面でも成果がみられた。
3の生徒は繰り返しデイジー図書を聞いて勉強に励んでいる。
5の生徒はデイジー図書を使いはじめて音読力、内容理解力が増し、変化は著しい。
6の生徒も音読力がついてきている。

NPOファームの2007年の例
2007年度は小3男子(読み書き障害)、小3男子(ADHD)、小5(自閉症プラス知的障害者)を教材のDAISY化によりサポートしていて効果が上がっている。また言葉に片言の自閉症の幼児が絵本のDAISY図書で効果があがっている。

NPOデイジタル編集ひなぎくの2007年の例
小3女子、4年女子 中学2年男子、3年男子の読みの障害を持つ者に国語、社会、理科、英語、道徳などの教科書のDAISY化により学習支援を行ない効果がある。ディスレクシアの児童を持つ親からの問い合わせがある。

  現行法(第35条)での対応の可否について。
<回答>
教科書については第35条と第43条で対応できると考えるが、学校での教育目的以外の図書については対応できない。

教科書に関しては、教員からの要望があればすぐにデイジー版の教科書を配付できるようなセンターの設立が必要と考える。異なるグループが作成したデイジー教科書をこのようなセンターを通しての共同利用が可能になる法律の整備が必要である。米国のNIMAC(National Instructional Materials Accessibility Center)のようなシステムを可能にする法整備とシステム構築が必要である。現状では各グループがデイジー化した教科書のリストの相互交換さえ制限されており、同じ教科書が別のグループで複数同時に作成されるというリソースの無駄が生じている。

第35条があるのにも関わらず教育現場での理解がなく活用できていない現状がある。
 DAISYの関連グループが、今年の5月に関西の小学校に対し支援対象児の保護者の希望による支援教材「デイジー図書」の学校での活用希望を伝え、実際に見て検討して頂くことと支援に当たっては、Zボランティアグループが製作に関して無償でこれを支援する事を伝えたときの報告書を資料として添付する。

  著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
<回答>
著作者にそのたびに許諾を得るのは大変な手間がかかる。手間をかけて手続きをしても必ずしも許諾を得られるとは限らない。また、1冊の本でも、著作者が複数で、文と絵と出版社というふうに複数の許諾を得なければならない場合が多く、大変困難である。例えば「ごんぎつね」の場合、文は著作権が消失しているが、絵が新しく挿入されたため、絵について許諾を得る作業が必要となる。(奈良デイジーの会)

教科書は4月末でなければ、個人で購入することができない。編集に入るには許諾の申請をしなければならないが相当の時間がかかり、その間、支援を必要としている子供は待たなければならない。(デジタル編集協議会”ひなぎく)

著作者の許可と共同著作者そして出版社と、別々に対応しなければならないこと、また、著作者の許諾をいただいても出版社しだいという現実がある。(かかわり教室)

  学習障害者その他、本件権利制限が必要な障害者の実数

文部省の発表では学習障害の数6パーセントと言われているが、現在札幌市の3歳児検診では2割の幼児がひっかかっていて療育の場が間に合わない現実がある。(NPO法人かかわり教室)

学習障害者等に対して、デイジー化している作品数(年間)

奈良デイジーの会、
2006年度:教科書中学用3冊・小学用国語の一部分・高校用英語の一部分
絵本4冊・絵本やカルタやカードの一部分(許諾を得ていない)
ディスレクシア啓発冊子「キミはキミのままでいい」(許諾を得ている)

デジタル編集協議会”ひなぎく
 2002年度から2006年度で教科書・図書を含め100を製作
2007年度:教科書変換10タイトル(国語・社会・理科・道徳・英語)
 図書変換 10タイトル

NPO法人かかわり教室
2007年度 委託事業3件、個別対応7件

(2) 制限すべき著作権法上の権利について
  複製権以外に権利を制限する必要はあるか(そもそも、デイジー化とは具体的にはどういう行為を指すのか定義を明確にしていただきたい)。
<回答>
 37条に規定される範囲内と考えるので複製権の権利制限でよいと考える。複数権の制限だけでデイジー化ができると考える。

 デイジーとは定められた仕様がある国際標準規格で、その規格に沿って製作することがデイジー化という。すなわち、「デイジーコンソーシアムが管理するDAISY仕様の電子ファイル化すること。」と定義できる。
 DAISY仕様には、2.0、2.01、2.02、3の4種類があり、3は更に2002年版と2005年版とがある。
 すべて無償で公開されており、デイジーコンソーシアムWebサイト(http://www.daisy.org/)から入手できる。
 製作ツールと再生ツールは複数あり、デイジーコンソーシアムWebサイトからそれぞれの詳細を知ることができる。

(3) 対象者・複製等の主体・対象著作物を限定するか否かについて
  対象者は学習障害者だけで良いのか。また、学習障害者については、障害の程度も軽重の差が大きく、明確に定義されていないが、具体的に定義することの可否について。
<回答>
 対象者は学習障害者のみならず、ADHD、自閉症、アスペルガー、視覚障害、聴覚障害、精神障害、知的障害、言語障害、高齢者等、読みに困難をもつ人。外国では上述の人についてはPrint Disabilityと呼ばれる分類に入れられている。

  想定している複製等の主体はどのようなものか(非営利のボランティア、NPO、学校、等)。また、想定している主体は健常者に流用しない手当てとしてどのようなものが考えられるか。
<回答>
 複製等の主体は教科書については国、その他の図書については公共図書館、出版社、NPO、学校等が考えられる。
 健常者、非健常者の線引き自体が特別支援教育にそぐわない。教育に携わる者や保護者や本人が必要とする読みに困難がある人すべてに手渡されるものと考える。

  想定している対象著作物として何を想定しているのか(教科書を対照とすれば足りるのか)。
<回答>
 教科書は人権からみても、早急にデイジー化が必要である。更に教科書のみならず、すべての出版物について、本を買うと同時に必要とする人にはデイジー図書が手渡されるべきと考える。

(4) その他
  営利目的でこのような取組・事業を行っている実態はあるのか。
<回答>
 法的な整備ができていないために、営利目的の出版会社などが参入できない状態であるが、法的な整備ができれば事業をおこなうNPO法人及び出版会社がでてくると考えられる。

6  拡大教科書及び録音図書の利用者の範囲拡大について

(1) 法改正の必要性について
  現行法では、拡大教科書及び録音図書の利用者については、視覚障害者に限られているが、それによって生じている問題点としてどのようなことがあるのか。
著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
<回答>
視覚障害者以外の録音図書利用の例や現状は次のようなものがある。
神経症で活字の読書に対してドクターストップがかかった人が、点字図書館に利用を希望して来館。著作権法を理由に断らざるをえなかった。
養護学校の先生から録音図書利用の問い合わせが全国あちらこちらの点字図書館に寄せられるようだが、改めて著作権許諾を取ることは困難であるため、ほとんど利用を断っている。

(2) 利用の対象者を限定するか否かについて
  利用の対象者として、どのような者を想定しているのか。
<回答>
録音図書の利用として公共図書館利用障害者の例には次のようなものがある。
1 ベット上で本が重くて持てなくなり、1枚ずつ破っては読み、破っては読みという読書をしていた方が、「視覚障害など活字のままでは本が読めない人」という条件で許諾を得た録音図書を利用。
2 筋ジストロフィーの寝たきりの人。入院が長く、配偶者とは瞬きでしか意志の疎通ができなくなっている重度の方。「録音図書を聞くようになって、少し反応がわかるようになった」「喜んでいる様子が伺える」と、ご家族もうれしそうで明るくなってきた。
3 鬱病の方。調子が悪いときは録音図書も聴けなくなるが、比較的落ち着いているとき、活字を読むことに集中はできなくても録音図書ならば聞いて理解することができる。
聾学校で難聴の子どもに録音図書を使って言葉指導を行った。

(3) その他
  営利目的でこのような取組・事業を行っている実態について。

7  著作権法第37条第3項について,対象施設を視覚障害者情報提供施設等に限定しないこと

【報告の際に留意してもらいたい事項】

(1) 法改正の必要性について
  現行法では視覚情報提供施設に限定しているが、それによって生じている問題点としてどのようなことがあるのか。
視覚障害者情報提供施設以外の施設で録音図書を作成等をする場合の、著作者に許諾をとることでの対応の可否について。また、許諾をとる際に、苦労した点、困難な点としてどのような点があるか。
<回答>
(現行制度の問題点、公共図書館による複製(録音資料製作)の必要性)
 公共図書館から録音資料を利用している視覚障害者等はかなりの数になっている。(視覚障害利用者17,914人*「日本図書館協会障害者サービス実態調査2005」より)また、その製作数も、視覚障害者情報提供施設7に対し公共図書館が3程度であり、両者で協力して情報提供を行っている。さらに両者の製作量を合わせても図書の全出版量の1割程度と予想され、障害者への情報提供としてははなはだ不十分である。
 また、公共図書館ではリクエストされたものの内どこの館でも所蔵していないものを製作するのが基本で、結果的に幅広くいろいろなジャンルのものを製作している。さらに、豊富なレファレンス資料を活用して、専門書や難しい資料の製作に重点を置いている館もある。(国立国会図書館、都立中央図書館等)

(許諾の問題点)
 公共図書館では許諾を得るためにそれなりの時間をかけ著作権者の連絡先を調べているが、住所が判明しない・許諾依頼を出しても返事が返ってこない等、許諾が得られないケースがある。特に、外国人著者の場合ほとんど許諾を得ることができない。また、雑誌の場合、許諾までに時間がかかると、その後の資料提供では内容的に価値のなくなってしまうものも多い。著作権が遺族等に移転されている場合、許諾そのものがとりにくくなる。
 1冊の雑誌で68人もの許諾を必要とするものがあった。(「からだの科学」253号・埼玉県立久喜図書館)
 「著作権者の住所を調べるための最も重要なツールである「文化人名録(著作権台帳)」は2001年10月のものを最後に新たな刊行予定はない。どうしても連絡先が分からない場合、出版社や著作権者の職場等に問い合わせることになるが、連絡先を教えてもらえる保障はない。個人情報保護の観点からも今後ますます連絡先を調べるのが難しくなるものと思われる。

(公共図書館の録音資料製作館)
 公共図書館の録音資料製作館数204(日本図書館協会「障害者サービス全国実態調査2005」より)
「録音資料を製作している主な公共図書館」(別紙資料

(2) 実施主体を限定するか否かについて
  想定している実施主体はどのようなものか。また、想定している主体は健常者に流用しない手当てや、録音図書を作成等をするインフラが整備されているのか。
<回答>
(実施主体)公共図書館、大学図書館

(障害者のみの利用)
 公共図書館ではこのサービスを利用するための特別な登録を行っている。登録にさいし、このサービスを必要とするかどうかを障害者手帳の提示や面談などにより職員が判断している。製作した資料は、ほとんどが郵送による貸し出しであるため、書庫等に別置され、さらに健常者は利用できないことを明記している。
そもそも録音資料は目で読むより大変不便なものであるため、目で読むことのできる人は利用しない。(著名な役者による朗読劇とは違う)本当に録音でしか利用できない人が利用するものである。
 以上のことから、対象者以外の利用はありえない。

(製作体制の確保)
 製作を行っている図書館では、音訳者等に協力してもらい、職員と連携して製作(校正を含む)を行っている。よりよい録音資料を作れるよう、音訳者等への研修を行うなど、質の向上に勤めている。

(利用対象者の拡大とその担保)
 従来、録音資料は視覚障害者のためのものであったが、手の不自由な人・いわゆる寝たきりの人・学習障害者等様々な人が利用できることが分かってきた。そこであくまでも録音資料でなければ利用できない人を対象にこのサービスの拡大が必要である。
 具体的には、日本文芸家協会と日本図書館協会が実施している「障害者用音訳資料利用ガイドライン」の中に明示している対象となる利用者が相応しい。なお、公共図書館ではこのガイドラインにより円滑に運営されている。ただし、このガイドラインは文芸家協会に参加されている文芸作家のみが対象であり、しかも事前に全会員に許諾依頼状のようなものを送って同意するもののリストを作成するものであり、すべての著作権者にこの方法で行えるものではない。
「障害者用音訳資料利用ガイドライン」(別紙資料

(3) その他
  営利目的でこのような取組・事業を行っている実態について。
<回答>
 営利目的で販売を行っている業者は、全国で数社しかなく、しかもそれぞれの販売タイトルは大変少ない。すでに販売されているものについては、なるべくそれを購入するようにしている。


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