|
 |
アメリカ特許法
|
|
アメリカ特許法は,271条(a)において,直接侵害(direct infringement)について規定し,続く(b)及び(c)において,いわゆる間接侵害(indirect infringement)に相当する規定を設けている。
271条(c)は,「何人も,特許された機械,製造物,組み合わせ,もしくは混合物の構成部分,または特許された方法を実施するために使用する物質もしくは装置であって当該発明の不可欠な部分を構成するものを,それが当該特許を侵害して使用するための特別に製造されたものであること,又は,特別に変形されたものであって実質的な非侵害の用途に適した汎用品または流通商品でないことを知りながら,合衆国内で販売の申込みをし,もしくは販売し,又は合衆国内にこれらを輸入する者は,寄与侵害者としての責任を負う」と規定する。同条は,物品の供給業者の行為を規制する条項であり,一般に「寄与侵害(contributory infringement)と呼ばれている類型である。寄与侵害の成立要件は,( )当該物品が発明の主要な要素(a material part of the invention)であること,( )実質的に非侵害用途に用いるための汎用品(staple article or commodity of commerce for substantial noninfringing use)でないこと,( )( )( )の点について行為者が悪意であること(knowing)である。寄与侵害の規定は,我が国の特許法101条2号・4号の中性品の間接侵害規定と基本的に同種の行為を規制することを目的としたものということができよう。
次に,271条(b)は,「特許の侵害を積極的に誘引する(actively induce)者は侵害者としての責任を負う」と規定する。同条は,他者に侵害行為を勧めたり,説得したりする行為を規制対象とするものであり,一般に積極的誘引(active inducement)と呼ばれている類型である。具体的には,特許発明の実施方法を教示するといったものがあるとされる(注202)。
271条(b)(c)は,現行1952年法制定時に初めて制定されたが,これは従来の判例法を確認的に規定したものである。従来の判例法では,寄与侵害と積極的誘引とを分けることなく,いずれも広義の寄与侵害に関する法理として,位置付けられてきた(注203)。広義の寄与侵害の法理は,不法行為(tort)の直接の行為者のみならず,当該行為に加担した者も責任を負うものとするコモンロー上の法理から導かれたものとされる(注204)。
アメリカ法では,寄与侵害が成立するためには,直接侵害が存在していることが必要である(注205)。但し,現実に侵害が生じたことまで必要ではなく,直接侵害のおそれが存在することをもって,足りるとされているようである。
271条(b)(c)は,いずれも行為者の主観的意図を問題としているが,その内容は異なっている。271条(c)の寄与侵害では,自らの行為によって侵害行為が引き起こされるということについての認識(knowledge)があれば足り,それを意欲することまで必要ないが(注206),271条(b)の積極的誘引では,単なる侵害の認識では足りず,侵害行為を引き起こさせる意図(intent)が必要であるとされる(注207)。
なお,特許法には,代位責任に関する規定は存在しないが,著作権法と同様に,判例法上,代位責任の成立が認められている(注208)。
(注202) |
Donald S.Chisum, Pauline Newman, et al, Principles of Patent Law, third edition(2004)968. |
(注203) |
判例法上、汎用品の提供について責任除外するという法理が形成される一方で、汎用品の提供業者が侵害行為の説得・助長を積極的に行っている場合にはやはり寄与侵害を認めるべきであることから、そのための理屈として別途、積極的誘引の考え方が形成されたという経緯があるようである(Mark A. Lemley, Inducing Patent Infringement,39 U.C.Davis L.Rev.225(2005))。 |
(注204) |
Donald S. Chisum, Chisum on Patents (2006), Chapter5, 17.02. |
(注205) |
Aro Mfg. Co. v. Convertible Top Replacement Co.,365 U.S.336(1961). |
(注206) |
Hewlett-Packard Co. v Bausch&Lomb Inc., 909 F.2d 1464. |
(注207) |
Manville Sales Corp. v. Paramount Systems Inc., 917 F.2d 544(Fed.Cir.1990). |
(注208) |
Baut v. Pethick Const. Co., 262 F.Supp. 350(D.C. Pa. 1966); Crowell v. Baker Oil Tools, 143 F.2d 1003 (9th Cir. 1944), cert. denied 323 U.S. 760. |
|
 |
イギリス法
|
|
イギリス特許法は,60条1項で,直接侵害について規定し,2項及び3項で,いわゆる間接侵害に相当する行為を規定している。すなわち,侵害者に対して,( )『特許発明を実施するための手段であって,当該発明の本質的要素に係るもの(relating to an essential element of the invention)』を,( )『当該手段が連合王国内において当該発明を実施する(put the invention into effect)ことに適したものであり,当該発明を実施することが意図されたものであることを知り,又は当該事情の下で合理人であればそのことが明らかである場合において(when he knows, or it is obvious to a reasonable person in the circumstances)』,( )『連合王国内において,供給し,又は供給の申出をする』ことは,侵害となる(2項)。但し,( )『通常の商業的製品(staple commercial product)』の供給又は申出は,それが( )『被供給者又は被申出者による侵害を誘引(induce)する』ものでない限り,侵害としない(3項)。
( )の「発明の本質的要素」とは,一般に「当該要素がなければ,発明を実施することができないかどうか(whether , without the element, the invention could be put into effect)」で判断するとされる(注209)。我が国の101条2号,4号と同種の規定と解される。
( )の主観的要件は,現実の認識(actual knowledge)又は,合理的一般人の客観的認識(objective knowledge of a reasonable man)のことをいう。認識の対象は,当該物品が当該発明に適したものであることと,それが当該発明を実施するために用いられるものであることである。当該発明が特許でカバーされていることの認識までは必要ない(注210)。
( )の侵害行為の対象は,供給と供給の申出のみであって,輸入や所持は侵害とならない。
( )の通常の商業的製品とは,普通に入手でき,様々な方法での利用が可能な原材料や他の基本的な製品を指すと解されている(注211)。通常の商業的製品の提供者は,提供先が侵害行為を行うことを認識しているだけでは,間接侵害に問われることはない。
ただし,( )誘引(inducement)の意図を有する場合は,汎用品の提供も間接侵害を構成する。ここでいう誘引は,口頭でも,書面でも,明示的なものでも,黙示的なものでもよいとされる。
なお,著作権法とは異なり,特許法には,許諾(authorisation)責任に関する規定は存在しない。
(注209) |
Terrell on the Law of Patent 8-33 p.315. |
(注210) |
Id. 8-34. |
(注211) |
Id. 8-37. |
|
 |
ドイツ法
|
|
ドイツ特許法(1981年法)は,10条1項において,いわゆる間接侵害の成立要件について規定する。すなわち,「特許権は,いかなる第三者にも,本法施行の地域内において,特許権者の同意を得ずに,特許発明を実施する権限を有しない者に対して,本法施行の地域内における発明の実施のために,( )『特許発明の本質的要素に関する手段(Mittel, die sich auf ein wesentliches Element der Erfindung beziehen)』を,( )『その手段が特許発明の実施に適しておりかつ実施のために用いられることを,現に知っている場合もしくそのことが周囲の状況から明らかである場合に(wenn der Dritte weiß oder es auf Grund der Umstände offensichtlich ist , dass diese Mittel dazu geeignet und bestimmt sind, für die Benutzung der Erfindung verwendet zu werden)』,( )『供給し,又は提供すること』を,禁止する効力を有する」。
続いて,2項において,「1項の規定は,( )『一般に市場で入手可能な製品(allgemein im Handel erhältliche Erzeugnisse)である場合においては適用されない』。ただし,( )当該第三者が『被供給者をして,第9条第2文によって禁止された態様で行為すること(特許権の直接侵害のこと)を故意に促して行わしめる(den Belieferten bewußt veranlaßt)場合はこの限りでない。』」とする。
( )の『発明の本質的要素に関する手段』とは,近時の最高裁判決(注212)によれば,「クレームの構成要件の一つ又は複数のものと共に,保護される発明思想の実現にあたって機能的に共同作用するのに適しているもの(mit einem oder mehreren Merkmalen des Patentanspruchs bei der Verwirklichung des geschützten Erfindungsgedankens functional zusammenzuwirken)」と定義されている。本条の対象となる手段は,発明の実施のために使用される蓋然性が存在するものである。ゆえに,専用品のみならず,中性品も含まれる。
( )の主観的要件について,認識の対象は,当該手段が発明の実施に適していることと,それが発明の実施に用いることが決定されていることを知っていることであり,その実施が権利侵害となることまで知る必要はない(ただし,2項但し書きの誘引行為は,直接侵害行為の行われることを認識して行われるものであることを要する。)。
( )の侵害行為の対象は,提供(anbieten)と供給(liefern)のみであり(注213),製造行為,使用行為および所持行為には適用されない(注214)。供給行為の相手方が発明の直接の実施者であることを要しない。その相手方から受け取った者が手段を発明の実施に用いれば足りる。なお,ドイツでは,直接侵害行為が行われることは要しない。
( )の『一般に市場で入手可能な製品』の例としては,ねじ,ボルト,針金,歯車,トランジスタなどが挙げられる。『一般に市場で入手可能な製品』の提供者には,原則として間接侵害は成立しない。
但し,供給者が供給先の直接侵害行為を誘引した場合には,間接侵害が成立する。誘引があったというためには,誘引行為により供給先が侵害行為を行うことを決定したということが必要であり,提供・供給行為の時点で,既に供給先が侵害行為を行うことを決定していた場合には,誘引は成立しない。
なお,ドイツ特許法では,( )非営業的な目的のためにする私的行為,( )実験目的の行為,( )医師の処方に基づく医薬の調合及び調合した医薬に関する行為については,特許権の効力が及ばないものとされているが(11条1号〜3号),これら( )〜( )の制限規定により実施行為を行う者は,10条1項における「実施権限を有する者」とはみなされない(10条3項)。これに対し,10条2項但し書きの適用にあたっては,11条1号〜3号の適用は排除されない。
(注212) |
BGH 4.5. 2004-Flügelradzähler-. |
(注213) |
提供(Anbieten)と供給(Liefern)の意味であるが、一般に供給は、市場に持ち込む行為ないし流通に置く行為一般を指し、提供は、その前段階の申出行為一般を指すと理解されている。 |
(注214) |
輸入行為は、供給行為に含まれるものと解される(Schulte, Patentgesetz 4. Auflage. 10 Rn) |
|
|